第六十二話 理想のルグニアにするために
直哉が休憩していると、みんな練習を止めて、直哉の周りに集まってきた。
「むぅ、今度はこっちで勝負するの!」
リリは拳を握ってジャブを繰り出した。
「まぁ、そうだね。二人居るのに二人とも魔法の詠唱を始めちゃうから、俺は自由に盾を造れたよ」
「やはり、どちらかが前に出るべきでしたね」
汗を拭いながらフィリアに言った。
「そういうこと、せっかくの数の優位が余り感じられなかったよ。でも、フィリアのガードには驚いたよ。まさか、詠唱しながらガードできるようになっていたとは思わなかった」
「直哉殿、わらわも、接近戦の鍛練をしたいのじゃ」
エリザの願いに、
「それでは新しい弓には、近接様のギミックを入れましょう」
直哉はスキルを発動して、今の弓を基本として弓の両端を仕込み刃にした。
「ここに隠してあるギミックを作動させると、両端の刃が出現します」
エリザは言われたとおりに作動させると、
「おぉ! これは凄い!」
「後は、エリザの努力次第ですね」
エリザは大事そうに弓を抱え込んだ。
「あー、ずるいの! リリも何か欲しいの!」
リリがフンワリとしたオネダリをしてきた。
「何かって、言われてもね。この前の盾でも本格的に造るかい?」
「この前の?」
「そう、敵に突撃するときに使ったやつ」
直哉が四角錐の盾を取り出すと、
「あぁ、これかぁ。これ、前が見えないから使えないの」
「まぁ、そうだよね。改良できたらあげるね」
「楽しみなの!」
「フィリアとラリーナも、俺の鍛冶スキルが上がるまで待ってもらえるかな。技術が向上すればもっと造れるようになると思うから」
「もちろん、お任せいたします」
「あぁ、私もそれで構わんぞ」
「あとは、マーリカか」
直哉はすっかり怯えていたマーリカを見て、ラリーナに聞いてみた。
「マーリカはどうだった?」
「お世辞にも、使い物になるとは言えないな。殺気を浴びると竦み上がるのは致命的だよ」
ラリーナの返事に、
「そうか。それでも、殺気に慣れてくれば戦えるのでしょ?」
「それは間違いないな。だが、もう一度、殺気を浴びせなおすと、また竦み上がるから、結局戦う余裕は無さそうだぞ」
直哉は今後、マーリカかどうするか考えていた。
「わかった。ありがとう」
直哉はラリーナに礼を言ってから、マーリカの元へやって来た。
「お疲れさん。大丈夫かい?」
震えていたマーリカは、直哉の姿を見ると、胸に飛び込んできた。
「ご主人様、申し訳ございません。ですが、今はこのままでお願いします」
そのまま、直哉の胸に顔を埋めた。
「あー、ずるいの! リリも! リリもやるの!」
その光景を目ざとく見つけたリリが、直哉の元へ飛んできた。
「えいなの!」
リリは、マーリカの邪魔にならない場所へ飛びついた。
「おっと、危ない」
直哉はリリをしっかりと受け止めた。
リリはしばらくスリスリした後で、満足したのか鍛練をしに戻った。
今は、ラリーナと近接攻撃の応酬を繰り出していた。
(あの攻撃で来られたら、流石に勝てないよな)
そんな事を考えていると、マーリカが落ち着いてきた。
「本当に申し訳ございませんでした」
マーリカは落ち着きを取り戻してから、直哉に頭を下げた。
「いや、鍛練で克服できるかどうか試して見たけど、これは厳しそうだね。これから、どうする? きっと、今まで以上に厳しい戦いになると思うけど、付いて来られる?」
マーリカは少し考えて、
「できるだけのことはいたします。ですから、お見捨てにならないでください」
懇願した。
「フィリア、どう思う?」
「私は、連れて行きたいと思います」
フィリアは力強く答えた。
「わかった。連れて行こう」
直哉の決断に、フィリアとマーリカは喜んだ。
「でも、当分は戦闘をするべきでは無いね」
「はい。それは承知しております」
マーリカは膝を折った。
(あとは、マーリカの身を守る防具を造るか)
直哉がマーリカとエリザの防具を造り出していた。
エリザは、薄緑を基調とする軽装で、マーリカは黒の忍び装束であった。
皆の鍛練が終わり、直哉達は風呂で汗を流した後、それぞれの寝室へ向かった。
(マーリカの恐怖は一体何が原因なのだろう? 今は、まだ、情報が少なすぎるよな。それと、ルグニア様との会話も有意義だったな、いつでも尋ねて行けそうだから、どんどん情報が欲しいな。元の世界に帰るための情報がそろそろ欲しいな。結構長い間こっちの世界に落ち着いちゃったけど、父さんも母さんも元気にしているのかな)
直哉は考えている間に、いつの間にかに眠りについた。
◆次の日
直哉は目を覚まして、朝の鍛練の後、朝食を楽しんでいると、城からの使者がやって来た。
「直哉伯爵、アシュリー様がお呼びです。お城へ来てください」
使者が帰った後で、直哉達は支度をして城へ向かった。
「それでは、行って来ます」
「行ってらっしゃいませ」
使用人たちに見送られて出発した。
◆ルグニア城
直哉達が到着すると、門番には通達が行っていたようで、すんなりと場内へ通された。
「良く来てくれました」
謁見の間には、ダライアスキーとエバーズを始め、多くの人が詰めかけていた。
「お招き頂きありがとうございます」
直哉は丁寧に挨拶をして、指定された場所へ移動した。
「さて、本日足を運んで貰ったのは、他でもない直哉伯爵への報酬の件だ」
アシュリーの合図で、ダライアスキーが立ち上がって、書類を手渡した。
「先日のこの城にあると言われていた、地下迷宮について、そこは、我が国の宝物庫であり、鍛冶職人の聖地であった」
一部の間からどよめきがおこった。
「そこで、宝物庫として使用するのではなく、新しい鍛冶ギルドとして使用する事になった。そして、新しいギルドマスターは置かず、城の直轄とする」
アシュリーはエバーズに命じて素材を持ってこさせた。
「直哉よ、褒美の強化ポリカーボネートという素材だ」
「ありがとうございます!」
(これで、新しい防具が出来るな)
「直哉よ、もし良ければ、そこの鍛冶職人達にお主の力を見せてやってはくれないか?」
「えっ?」
「大半の者は、先の戦いで見ておるが、やはり目の前で見てみたいという要望が多いのだ」
直哉は迷ったが、
「わかりました、今頂いた強化ポリカーボネートを使って、防具を造ってみましょう」
直哉は、素材を取り出し始めた。
強化ポリカーボネート、鉄、鋼、土、木、ジュラルミン、魔法に強い素材、等を並べて、スキルを発動した。
直哉がスキルで、素材を選択していくと、置いてあった素材が順番に消えていった。
「おぉー」
そして、実行を押すと、大型の透明な盾が現れた。
「・・・・・・・・」
はじめて見た者は絶句して立ち尽くした。
「さすが、勇者様だ!」
一度見た者も大興奮で、その場が盛り上がった。
「あとは、その盾の強度だな」
エバーズがそう言って、直哉の前に出てきた。
「誰か! この盾を粉砕してやるという強者はおるか!」
と、呼びかけると、我先にと鍛冶職人達や近衛騎士達が集合してきた。
「結構な数になったが、問題無いか?」
「恐らくは」
直哉は少し自信がなかった。
「それでは、アシュリー様、強度を確かめてまいります」
「うむ、エバーズよ任せる。私は、他の訪問者の相手をしているので、終わったら戻ってまいれ」
「はっ」
エバーズは、肩膝をつき、頭を垂れた。
皆で、中庭の鍛練場へ行き、順番に直哉の造った盾を攻撃していった。
「まずは、儂じゃ!」
髭酒樽が自分の身体より大きいバトルアックスを取りだして、ブンブン振り回した。
「うぉりゃ!」
マネキンに着けられた盾に向かって攻撃を開始した。
バキ!
「なんと!」
もの凄く大きな音がして、バトルアックスの刃の部分は砕け散り、柄の部分がグニャリと曲がった。
「盾の方には傷一つ突いておらん」
驚愕の表情を浮かべた後、持っていた変わり果ててしまった武器を見て、悲しい顔で帰ろうとしていた。
「ふぅ、持ちこたえそうですね」
直哉の言葉通り、次から次へと挑戦者が自分の武器を破壊していった。
途中で魔術師も加わり、魔法を浴びせるも、表面を変色させる事すら出来なかった。
「むむむ。まいりました」
挑戦者を退けた後で、謁見の間へ戻って来た。
「どうでしたか?」
「想像以上です。あれなら、任せられます」
皆の口々から直哉を賞賛する声が聞こえてきた。
「それでは、直哉伯爵から要請があった、新しい鍛冶場建設について、条件付きで許可いたします」
「ありがとうござ・・・条件ですか?」
直哉は訝しげに聞き返した。
「はい。建てて貰う場所は、西門から直哉伯爵の屋敷がある森の間の更地にお願いします。その鍛冶場で働くのは、先日忍びの里で活躍した、鍛冶職人見習いたちです。それと、西門から山越えで入ってくる者達を検閲する為の施設を、西門の傍に設置して貰いたい」
「なるほど。それでしたら、冒険者ギルド、酒場、宿屋が集合した建物にしますか。ちなみにどのように運営されるおつもりですか?」
直哉は、その施設の事を詳しく聞いてみた。
「どのような建物にするかは、お任せします。その建物には、冒険者ギルドからギューサを支部長として常駐させ、他に十数名のギルド員を常駐させるようにします」
アシュリーの説明に、
「そう言う事でしたら、職員達の身の安全を確保出来るような頑丈な造りにしておきます」
「よろしくお願いします」
建物の話が終わって、直哉達は別室へと通された。
「さて、直哉伯爵には、ルグニア様の事を話して貰います」
アシュリーの会話に、
「あれ? アシュリー様は、話してなかったのですか?」
「はい。私はまだ、話しておりません」
直哉は自分が話して良いものか判断に困ったので、
「それでは、一緒に会いに行きませんか?」
と、誘ってみた。
「わかりました。ダライアスキー、行きますよ!」
直哉達と、アシュリー、ダライアスキーは宝物庫だった所へ向かった。
ルグニアの像の前にある壁画風スクリーンの前に到着すると、
「おや、上級鍛冶職人の直哉ではありませんか? 何か忘れ物でもあったのですか?」
「あ、いえ、俺は大丈夫です」
「では、ダライアスキーの方ですか?」
「私の方でもありません」
ルグニアは怪訝に思いながら、
「それでは、そちらの女性が、私に用が、・・・・私の血を受け継いでいるようですね」
アシュリーは前に出て、
「初めまして、ご先祖様。私が現国王のアシュリーです」
「ふむ、だいぶ薄まっているようだが、確かに私の力を感じるな」
アシュリーは直哉達のほうを見て、
「色々とルグニア様に聞きたい事があるのですが、皆さんはどうされますか?」
アシュリーの質問に、直哉は気を利かせて、
「俺達は、鍛冶場と冒険者ギルド支部の建設に行ってきます」
と言って、
「わかりました、よろしくお願いします。後ほど見学に行きます」
アシュリーの返事を聞いて、その場を後にした。
ダライアスキーも入り口までさがり、アシュリーとルグニアの対談が行われた。
◆建設予定地
一度家に戻り、フィリアとエリザ、ラリーナが屋敷に残り、リリとマーリカが直哉と共に西門へやってきた。
「うわー、おっきいの」
リリが門の上の方を見ながらつぶやいた。
「この様な、大きな門が破壊されたのですか?」
マーリカは先の先頭を見ていないため、情報を共有しようとしていた。
「うーん、そういえば、俺は壊れる前の西門を見てはいないな、前回壊された西門はどのくらいの大きさだったの?」
直哉はリリに聞いてみた。
「今の大きさの半分もなかったの。厚さもこれの半分以下だったと思うの」
直哉はリリがちゃんと説明できることに驚きながら、
「と、言う事は、前回と同程度の攻撃なら問題無いと言う事かな?」
「さぁ? そこまではわからないの」
「ですよね」
その後、冒険者ギルド支部の建設予定地と、鍛冶場の建設予定地を見て回っていた。
(さて、どのような建物にしようかな)
直哉が思案していると、
「あれ? 親方!」
忍びの里で消火活動を一緒にした鍛冶職人見習いがやってきた。
「おぉ! 君は! ・・・・。申し訳無い名前を聞いていなかった」
「おらですか? おらは、メントールです」
直哉はその名前を聞いて、
(何か、スッとしそうな名前だな)
と、思いながらも、
「わかりました、メントールさん、俺は直哉です、よろしくお願いします」
頭を下げた。
「や、止めてください。親方のような高貴なお方が、おらなんかに頭を下げないでください」
と、懇願してきた。
「メントールさん、俺はどんなに立場が上になったとしても、頼み事する時は頭を下げるし、感謝の気持ちを伝える時も下げる。そういう鍛冶場にしようと思っています。もし、俺の造った鍛冶場で働く気があるのであれば、そういう事を覚えておいてください」
メントールは心の中に言葉では言い表せない気持ちが吹き上がってきた。
「わ、わかりました。・・・・親方は不思議な方ですね」
メントールは感心しながら、
「それでは、新しく鍛冶場で働く見習い達を集合させますか?」
「要望を聞きたいので、お願いします」
直哉はMP回復薬を大量に造りつつ、見習達を待っていた。
見習い達で集まってきたのは、メントールを除き消火活動を手伝った者の内、五名が集まった。
「親方!」
「ゆ、勇者様!」
集まった見習達は、直哉を見て興奮していた。
「ささ、皆さん自己紹介を!」
メントールは皆を促した。
見習達は、メントールを含め全員ドワーフで、名前を、バーヴロヴナ、ミハイロヴィチ、ベドジフ、ダヴィット、オルドジフ、と言った。
最後に直哉とリリ、マーリカの自己紹介も終わり、本格的に鍛冶場の建設作業に入った。




