表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/188

第六十二話 理想のルグニアにするために

直哉が休憩していると、みんな練習を止めて、直哉の周りに集まってきた。

「むぅ、今度はこっちで勝負するの!」

リリは拳を握ってジャブを繰り出した。

「まぁ、そうだね。二人居るのに二人とも魔法の詠唱を始めちゃうから、俺は自由に盾を造れたよ」

「やはり、どちらかが前に出るべきでしたね」

汗を拭いながらフィリアに言った。

「そういうこと、せっかくの数の優位が余り感じられなかったよ。でも、フィリアのガードには驚いたよ。まさか、詠唱しながらガードできるようになっていたとは思わなかった」


「直哉殿、わらわも、接近戦の鍛練をしたいのじゃ」

エリザの願いに、

「それでは新しい弓には、近接様のギミックを入れましょう」

直哉はスキルを発動して、今の弓を基本として弓の両端を仕込み刃にした。

「ここに隠してあるギミックを作動させると、両端の刃が出現します」

エリザは言われたとおりに作動させると、

「おぉ! これは凄い!」

「後は、エリザの努力次第ですね」

エリザは大事そうに弓を抱え込んだ。


「あー、ずるいの! リリも何か欲しいの!」

リリがフンワリとしたオネダリをしてきた。

「何かって、言われてもね。この前の盾でも本格的に造るかい?」

「この前の?」

「そう、敵に突撃するときに使ったやつ」

直哉が四角錐の盾を取り出すと、

「あぁ、これかぁ。これ、前が見えないから使えないの」

「まぁ、そうだよね。改良できたらあげるね」

「楽しみなの!」


「フィリアとラリーナも、俺の鍛冶スキルが上がるまで待ってもらえるかな。技術が向上すればもっと造れるようになると思うから」

「もちろん、お任せいたします」

「あぁ、私もそれで構わんぞ」

「あとは、マーリカか」


直哉はすっかり怯えていたマーリカを見て、ラリーナに聞いてみた。

「マーリカはどうだった?」

「お世辞にも、使い物になるとは言えないな。殺気を浴びると竦み上がるのは致命的だよ」

ラリーナの返事に、

「そうか。それでも、殺気に慣れてくれば戦えるのでしょ?」

「それは間違いないな。だが、もう一度、殺気を浴びせなおすと、また竦み上がるから、結局戦う余裕は無さそうだぞ」

直哉は今後、マーリカかどうするか考えていた。

「わかった。ありがとう」

直哉はラリーナに礼を言ってから、マーリカの元へやって来た。



「お疲れさん。大丈夫かい?」

震えていたマーリカは、直哉の姿を見ると、胸に飛び込んできた。

「ご主人様、申し訳ございません。ですが、今はこのままでお願いします」

そのまま、直哉の胸に顔を埋めた。


「あー、ずるいの! リリも! リリもやるの!」

その光景を目ざとく見つけたリリが、直哉の元へ飛んできた。

「えいなの!」

リリは、マーリカの邪魔にならない場所へ飛びついた。

「おっと、危ない」

直哉はリリをしっかりと受け止めた。



リリはしばらくスリスリした後で、満足したのか鍛練をしに戻った。

今は、ラリーナと近接攻撃の応酬を繰り出していた。

(あの攻撃で来られたら、流石に勝てないよな)

そんな事を考えていると、マーリカが落ち着いてきた。


「本当に申し訳ございませんでした」

マーリカは落ち着きを取り戻してから、直哉に頭を下げた。

「いや、鍛練で克服できるかどうか試して見たけど、これは厳しそうだね。これから、どうする? きっと、今まで以上に厳しい戦いになると思うけど、付いて来られる?」

マーリカは少し考えて、

「できるだけのことはいたします。ですから、お見捨てにならないでください」

懇願した。



「フィリア、どう思う?」

「私は、連れて行きたいと思います」

フィリアは力強く答えた。

「わかった。連れて行こう」

直哉の決断に、フィリアとマーリカは喜んだ。


「でも、当分は戦闘をするべきでは無いね」

「はい。それは承知しております」

マーリカは膝を折った。

(あとは、マーリカの身を守る防具を造るか)


直哉がマーリカとエリザの防具を造り出していた。

エリザは、薄緑を基調とする軽装で、マーリカは黒の忍び装束であった。

皆の鍛練が終わり、直哉達は風呂で汗を流した後、それぞれの寝室へ向かった。



(マーリカの恐怖は一体何が原因なのだろう? 今は、まだ、情報が少なすぎるよな。それと、ルグニア様との会話も有意義だったな、いつでも尋ねて行けそうだから、どんどん情報が欲しいな。元の世界に帰るための情報がそろそろ欲しいな。結構長い間こっちの世界に落ち着いちゃったけど、父さんも母さんも元気にしているのかな)

直哉は考えている間に、いつの間にかに眠りについた。




◆次の日


直哉は目を覚まして、朝の鍛練の後、朝食を楽しんでいると、城からの使者がやって来た。

「直哉伯爵、アシュリー様がお呼びです。お城へ来てください」

使者が帰った後で、直哉達は支度をして城へ向かった。

「それでは、行って来ます」

「行ってらっしゃいませ」

使用人たちに見送られて出発した。




◆ルグニア城


直哉達が到着すると、門番には通達が行っていたようで、すんなりと場内へ通された。


「良く来てくれました」

謁見の間には、ダライアスキーとエバーズを始め、多くの人が詰めかけていた。

「お招き頂きありがとうございます」

直哉は丁寧に挨拶をして、指定された場所へ移動した。


「さて、本日足を運んで貰ったのは、他でもない直哉伯爵への報酬の件だ」

アシュリーの合図で、ダライアスキーが立ち上がって、書類を手渡した。

「先日のこの城にあると言われていた、地下迷宮について、そこは、我が国の宝物庫であり、鍛冶職人の聖地であった」

一部の間からどよめきがおこった。

「そこで、宝物庫として使用するのではなく、新しい鍛冶ギルドとして使用する事になった。そして、新しいギルドマスターは置かず、城の直轄とする」


アシュリーはエバーズに命じて素材を持ってこさせた。

「直哉よ、褒美の強化ポリカーボネートという素材だ」

「ありがとうございます!」

(これで、新しい防具が出来るな)


「直哉よ、もし良ければ、そこの鍛冶職人達にお主の力を見せてやってはくれないか?」

「えっ?」

「大半の者は、先の戦いで見ておるが、やはり目の前で見てみたいという要望が多いのだ」

直哉は迷ったが、

「わかりました、今頂いた強化ポリカーボネートを使って、防具を造ってみましょう」



直哉は、素材を取り出し始めた。

強化ポリカーボネート、鉄、鋼、土、木、ジュラルミン、魔法に強い素材、等を並べて、スキルを発動した。

直哉がスキルで、素材を選択していくと、置いてあった素材が順番に消えていった。

「おぉー」

そして、実行を押すと、大型の透明な盾が現れた。


「・・・・・・・・」

はじめて見た者は絶句して立ち尽くした。

「さすが、勇者様だ!」

一度見た者も大興奮で、その場が盛り上がった。


「あとは、その盾の強度だな」

エバーズがそう言って、直哉の前に出てきた。

「誰か! この盾を粉砕してやるという強者はおるか!」

と、呼びかけると、我先にと鍛冶職人達や近衛騎士達が集合してきた。

「結構な数になったが、問題無いか?」

「恐らくは」

直哉は少し自信がなかった。

「それでは、アシュリー様、強度を確かめてまいります」

「うむ、エバーズよ任せる。私は、他の訪問者の相手をしているので、終わったら戻ってまいれ」

「はっ」

エバーズは、肩膝をつき、頭を垂れた。



皆で、中庭の鍛練場へ行き、順番に直哉の造った盾を攻撃していった。

「まずは、儂じゃ!」

髭酒樽が自分の身体より大きいバトルアックスを取りだして、ブンブン振り回した。

「うぉりゃ!」

マネキンに着けられた盾に向かって攻撃を開始した。

バキ!

「なんと!」

もの凄く大きな音がして、バトルアックスの刃の部分は砕け散り、柄の部分がグニャリと曲がった。

「盾の方には傷一つ突いておらん」

驚愕の表情を浮かべた後、持っていた変わり果ててしまった武器を見て、悲しい顔で帰ろうとしていた。


「ふぅ、持ちこたえそうですね」

直哉の言葉通り、次から次へと挑戦者が自分の武器を破壊していった。

途中で魔術師も加わり、魔法を浴びせるも、表面を変色させる事すら出来なかった。

「むむむ。まいりました」

挑戦者を退けた後で、謁見の間へ戻って来た。



「どうでしたか?」

「想像以上です。あれなら、任せられます」

皆の口々から直哉を賞賛する声が聞こえてきた。

「それでは、直哉伯爵から要請があった、新しい鍛冶場建設について、条件付きで許可いたします」

「ありがとうござ・・・条件ですか?」

直哉は訝しげに聞き返した。

「はい。建てて貰う場所は、西門から直哉伯爵の屋敷がある森の間の更地にお願いします。その鍛冶場で働くのは、先日忍びの里で活躍した、鍛冶職人見習いたちです。それと、西門から山越えで入ってくる者達を検閲する為の施設を、西門の傍に設置して貰いたい」


「なるほど。それでしたら、冒険者ギルド、酒場、宿屋が集合した建物にしますか。ちなみにどのように運営されるおつもりですか?」

直哉は、その施設の事を詳しく聞いてみた。

「どのような建物にするかは、お任せします。その建物には、冒険者ギルドからギューサを支部長として常駐させ、他に十数名のギルド員を常駐させるようにします」

アシュリーの説明に、

「そう言う事でしたら、職員達の身の安全を確保出来るような頑丈な造りにしておきます」

「よろしくお願いします」



建物の話が終わって、直哉達は別室へと通された。

「さて、直哉伯爵には、ルグニア様の事を話して貰います」

アシュリーの会話に、

「あれ? アシュリー様は、話してなかったのですか?」

「はい。私はまだ、話しておりません」

直哉は自分が話して良いものか判断に困ったので、

「それでは、一緒に会いに行きませんか?」

と、誘ってみた。

「わかりました。ダライアスキー、行きますよ!」

直哉達と、アシュリー、ダライアスキーは宝物庫だった所へ向かった。


ルグニアの像の前にある壁画風スクリーンの前に到着すると、

「おや、上級鍛冶職人の直哉ではありませんか? 何か忘れ物でもあったのですか?」

「あ、いえ、俺は大丈夫です」

「では、ダライアスキーの方ですか?」

「私の方でもありません」

ルグニアは怪訝に思いながら、

「それでは、そちらの女性が、私に用が、・・・・私の血を受け継いでいるようですね」

アシュリーは前に出て、

「初めまして、ご先祖様。私が現国王のアシュリーです」

「ふむ、だいぶ薄まっているようだが、確かに私の力を感じるな」


アシュリーは直哉達のほうを見て、

「色々とルグニア様に聞きたい事があるのですが、皆さんはどうされますか?」

アシュリーの質問に、直哉は気を利かせて、

「俺達は、鍛冶場と冒険者ギルド支部の建設に行ってきます」

と言って、

「わかりました、よろしくお願いします。後ほど見学に行きます」

アシュリーの返事を聞いて、その場を後にした。

ダライアスキーも入り口までさがり、アシュリーとルグニアの対談が行われた。




◆建設予定地


一度家に戻り、フィリアとエリザ、ラリーナが屋敷に残り、リリとマーリカが直哉と共に西門へやってきた。


「うわー、おっきいの」

リリが門の上の方を見ながらつぶやいた。

「この様な、大きな門が破壊されたのですか?」

マーリカは先の先頭を見ていないため、情報を共有しようとしていた。

「うーん、そういえば、俺は壊れる前の西門を見てはいないな、前回壊された西門はどのくらいの大きさだったの?」

直哉はリリに聞いてみた。

「今の大きさの半分もなかったの。厚さもこれの半分以下だったと思うの」

直哉はリリがちゃんと説明できることに驚きながら、

「と、言う事は、前回と同程度の攻撃なら問題無いと言う事かな?」

「さぁ? そこまではわからないの」

「ですよね」


その後、冒険者ギルド支部の建設予定地と、鍛冶場の建設予定地を見て回っていた。

(さて、どのような建物にしようかな)

直哉が思案していると、


「あれ? 親方!」

忍びの里で消火活動を一緒にした鍛冶職人見習いがやってきた。

「おぉ! 君は! ・・・・。申し訳無い名前を聞いていなかった」

「おらですか? おらは、メントールです」

直哉はその名前を聞いて、

(何か、スッとしそうな名前だな)

と、思いながらも、

「わかりました、メントールさん、俺は直哉です、よろしくお願いします」

頭を下げた。


「や、止めてください。親方のような高貴なお方が、おらなんかに頭を下げないでください」

と、懇願してきた。

「メントールさん、俺はどんなに立場が上になったとしても、頼み事する時は頭を下げるし、感謝の気持ちを伝える時も下げる。そういう鍛冶場にしようと思っています。もし、俺の造った鍛冶場で働く気があるのであれば、そういう事を覚えておいてください」

メントールは心の中に言葉では言い表せない気持ちが吹き上がってきた。

「わ、わかりました。・・・・親方は不思議な方ですね」


メントールは感心しながら、

「それでは、新しく鍛冶場で働く見習い達を集合させますか?」

「要望を聞きたいので、お願いします」

直哉はMP回復薬を大量に造りつつ、見習達を待っていた。

見習い達で集まってきたのは、メントールを除き消火活動を手伝った者の内、五名が集まった。


「親方!」

「ゆ、勇者様!」

集まった見習達は、直哉を見て興奮していた。

「ささ、皆さん自己紹介を!」

メントールは皆を促した。

見習達は、メントールを含め全員ドワーフで、名前を、バーヴロヴナ、ミハイロヴィチ、ベドジフ、ダヴィット、オルドジフ、と言った。

最後に直哉とリリ、マーリカの自己紹介も終わり、本格的に鍛冶場の建設作業に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ