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第五十七話 見えてきた謎

◆直哉伯爵邸


直哉達が屋敷に到着すると周囲は歓喜に包まれた!

「勇者様だ! 勇者様が帰ってきた!」

「これは、また、随分集まりましたね」

総勢五十名程の人が待っていた。中には乳飲み子を抱えている女性がいたり、浮浪者のような恰好の人も居た。

「みなさん、お集まりありがとうございます。確認ですが、我が屋敷で働くには、まず、お城で登録して頂く必要があります。登録がまだでしたら、お城へ行って我が屋敷で働く為の、登録証を貰ってきて下さい」


「えー」

「なんだよ。炊き出しじゃないのかよ!」

「詐欺だ!」

「良くわからないで並んでいたけど、働くなんてワシ向きではないの」

と口々に色々なことを言うと、殆どの人が解散していった。


正規の手続きをしていて、その場に残ったのは四名。

「では、中へお入り下さい。リリとラリーナは先に休んで回復して、フィリアはマーリカを部屋に案内した後、この屋敷の設備の案内をお願い、エリザは俺と一緒に屋敷で働きたい人の管理だね」

直哉達一行と、残った四名が屋敷へ入り、直哉とエリザは面接を開始した。


リリとラリーナは風呂へ直行し、フィリアはマーリカを連れ、三階部分の一室をマーリカの部屋とした。

その後、部屋の設備の使い方を教え、マーリカを伴って上の風呂場へ向かった。

直哉とエリザは面接をして、四名とも使用人として雇う事にした。賃金はお城から出るので、直哉が提供する物は無いのだが、住まいと食事は別途で保障した。

「では、皆さんは上の二階フロアの部屋が四部屋あるので、一部屋ずつお使い下さい。部屋が決まったらここに集合して下さい。あと、お子様は部屋に置かずに連れてきて下さい」

四人を二階へ案内し、一階へ戻ってくるとエリザは直哉へ聞いていた。


「本当によいのか?」

「何がですか?」

「一人を除いて、全員素人じゃぞ?」

「だから四人とも雇ったのですよ」

エリザはため息をつきながら、

「それなら、熟練者を雇った方が効率的なのじゃ」

「確かに、効率を求めたらそうだろうけど、俺が求めるのは今後なのだよ」

「今後?」

「俺はこのルグニアに、大規模な鍛冶場を造ろうと考えているんだ。そこで働くのは鍛冶職人だけでなく、使用人も必要になってくる。だから今の内に使用人を育てられる人材を確保しておきたいのだよ」

直哉の言葉に、

「それなら、なおのこと熟練者を雇う方が効率が良いと思うのじゃが」

「新しいことを覚えるのに、今までの知識が邪魔になることがあるのですよ。現状でルグニアの建物に比べて俺の造る建物は規格外だから、一から吸収してくれる人が欲しかったのですよ」


エリザはまだ、納得できないようだったが、皆が降りてきたので口をつぐんだ。

降りてきた使用人達は直哉の前に整列して、平伏した。

「俺には、過度の礼は不要だと言ったはずですよ、イザベラさん」

イザベラは驚いた顔で直哉を見た。

「覚えていらっしゃったのですか?」

「もちろんです。先ほどは面接だったので、皆さんと同じに話しましたが、今は俺のコテージを唯一知る者として話しをさせて貰いますよ。と、言う訳で、皆さんも顔を上げて椅子に座ってください」

直哉の言葉を聞いて、四人はそれぞれ顔を見て様子をうかがっていたが、イザベラを筆頭に椅子に座った。


「まずは、俺は直哉。このルグニアでは勇者、そして伯爵の称号を得た、冒険者で鍛冶職人です。これから、よろしくお願いします。次はエリザ、挨拶して」

直哉に促されて、

「わらわはエリザ、直哉の仲間として共に過ごしておるのじゃ。よろしくなのじゃ」

二人に頭を下げられアタフタしていた四人に、

「では、次はイラベラさんから順に自己紹介をお願いします」

イザベラは畏まって、


「私は、イザベラと申します。以前街の宿屋で、直哉様にご奉公する機会を得まして、その時から、働くならこの方の元だと決めておりました。部屋の支度などが得意です。これから、なにとぞよろしくお願いいたします」

イザベラは頭を下げた。次に隣に居た酒樽が声を上げた。


「次はおいどんの番ですね。おいはジンゴロウ、見ての通りドワーフだ。力仕事は任せてくれ」

ジンゴロウの隣に居た子連れの女が手を上げた。


「私はサラサ、この子はユー。働いた経験はありません。今は、実家で両親に頼って生きています」

直哉は気になったので、聞いてみた。

「失礼ですが、ご主人はどうなさったのですか?」

「夫は私が身籠ったと知ると、出稼ぎに行くといって出かけたまま、行方がわからなくなりました」

「そうでしたか、話しづらい事を話してもらい、申しわけない」

直哉が謝罪してその場を納めた。

最後にジンゴロウと同じ酒樽が立ち上がった。


「それじゃ、僕の番ですね。僕はドワーフのドラキニガル。将来は自分の店を持つことが夢です! 料理は任せてください」



この場にいた全員の自己紹介が終わったので、

「それでは、皆さんが働くこの屋敷を紹介します」

ますば、リフトの使い方から始め、地下の鍛練場を見て、最上階の風呂へ行き、残りは階段で降りて各フロアを見て回った。

「これで、全部です。今後人数が増えたら、二階と三階の間にフロアを増やす予定です。ここまでで、何か質問がありますか?」


サラサが手を挙げた。

「サラサさんどうぞ」

「勝手な相談ですが、私の部屋に子供用の家具を増やしてもよろしいですか? 実家で使っていた物があるのですが」

「もちろん、構いませんよ。ただ、持ち込む時に俺を立ち会わせてください。それと、欲しい家具があれば造れる物であれば造りますよ? 基本的に最初からある備品や俺が造る家具は、俺に権限があるためこの屋敷から持ち出せません。ですが、持ち込んだ物に関してはそれぞれに権限があるので自由に出し入れできます」

直哉の提案に、

「ありがたい提案ですが、そこまでして頂く訳には」

「今すぐでなくても、欲しい家具が出来たら相談してください」

「わかりました」

サラサは納得したようだったので、

「他には何かありますか?」


ジンゴロウが口を開いた。

「おいどん達も、あの風呂とやらは使って良いのかな?」

「えぇ、もちろんです。男性用、女性用と別れていますのでそれを守って頂ければ、問題ありませんよ」

サラサが、

「うちの子は男の子なのですが、私と一緒に女性用で構いませんか?」

「当たり前ですよ。サラサさんと共に女性用をお使いください。あっ、子供用の小さい風呂とか必要ですか?」

「それも、実家にあるので、後で取りに行きます」

「それならば、おいどんが荷物運びを手伝おう。同期のよしみでな」

「ありがとうございます」


サラサとジンゴロウの間で約束が交わされた後、ドラキニガルが手を挙げた、

「僕は調理担当で良いのですか?」

「では、担当を話しましょうか。ドラキニガルさんは、このフロアを担当してもらいます。調理とこのフロアの清掃、そして、食材の買い出しです」

「わかりました」

ドラキニガルは返事をして厨房の中を確認し始めた。


「そして、ジンゴロウさんは最上階の男性用風呂場と地下の鍛練場を担当して貰います」

「わかった」

「サラサさんは、各階の部屋を担当して貰います」

「やってみます」

ジンゴロウとサラサは肯いた。

「そして、イザベラさんには女性用の風呂と統括をやって貰います」

「はい、わかり、えっ? 統括とは何ですか?」

イザベラは直哉の言葉の意味がわからず、聞き返していた。

「この屋敷の使用人達の長ということです。すべてのフロアのチェックをお願いします」

「私で大丈夫でしょうか?」

「やってみて厳しいようなら、他の方法を考えてみますよ。まずは、気楽にやってみてください」

不安そうなイザベラの背中を押した。

「わかりました。出来る限りやってみます」

「よろしくです」


直哉はエリザにドラキニガルを任せて、他の三人を連れて、風呂場の清掃方法、洗濯機等の機器の使い方、各部屋の清掃方法、地下鍛練場の補修作業の方法などを教えていった。

最上階のリラクゼーションスペースでは、ジンゴロウが目を輝かせ、

「このような機械は見た事が無い! 素晴らしい! おいどんの職人魂が揺さぶられるぜ!」

と、興奮していた。

「風の魔法石のおかげで、チリや砂、綿埃等は溜まりにくいのですね」

イザベラは屋敷の機能を見抜き感嘆していた。

「そうですね。完全に除去できないので、手作業が必要になってしまうのですが」

「それでも、宿屋の時に比べたら、遥かに楽ですよ」

サラサも子供を抱えながら、部屋の掃除やベッドメイキングなどを実践してみて、

「イザベラさんが居てくれるなら、私にも出来そうですね」

「最終的には、一人で出来るようになっていただきますよ?」

直哉の言葉に、

「出来る限り努力します」

と、前向きな姿勢を示してくれた。


「それでは、皆さんの作業は明日の朝からと言うことで、本日はお休みしてください。明日は、フィリアがそれぞれの仕事を、本格的に教えてくれると思いますので」

「失礼します」

「それでは直哉様、私たちは荷物を取りに行ってきます。三十分程で戻ってまいりますので、その時はお手数ですが立ち会いをお願いいたします」

「わかりました。気をつけて行ってきてください。ジンゴロウさんもお気を付けて」

「ありがたい」

二人は直哉に礼をしてサラサの家へ向かった。イザベラは各フロアのチェックをするようだった。


一階に戻ると、エリザの話は終わっていたようで、魂の抜けたドラキニガルが厨房に佇んでいた。

「どうしたのですか?」

エリザに聞いてみると、

「わらわが、リリの一食分を教えたら、あの状態になったのじゃ」

「あー、それは仕方ないね。こっちの世界に戻ってきたら、休ませてあげて。明日から頑張ってもらうので」

「わかったのじゃ。それで、直哉殿は何処へ行くのかえ?」

エリザの鋭い指摘を受けて、

「流石だね。俺は忍の里を見てこようと思う」

「何故なのじゃ?」

「建物を建ててこようと思ってさ。残してきた者達では、厳しい様な気がするからさ」

直哉の懸念に、

「その必要は無いと思うのじゃが、百聞は一見に如かずとも言うからの、直哉殿の目で見て判断するのが良いじゃろう」



◆忍びの里へ続く森


エリザに送り出され、忍びの里へ向けて歩き始め、少したった時、

(何かに見られている感じがするな。何だろう? 敵意を向けられているような感じではないし、何だろう?)

と、周囲を警戒していると、森の中に男が立っているのが見えた。


(あれは、仮面の男? でも、雰囲気が違うな。っと、こっちに来るぞ)

「待っていたよ。勇者と呼ばれる男よ」

直哉は武器を抜こうとした。


「ぐっ、待て。殺意を向けないでくれ。今は魔物を完全に押さえ込んでいる」

「どういう事ですか?」

「俺は、お前に頼みたいことがあってここに来た」

戦闘の意志は無さそうなので、警戒を解いた。

「下半身は浄化したはずなのに、完全に復活していますね」

「エルムンドの野郎が復活というか、魔物を混ぜてくれたのでな以前より強化されている」

「エルムンドは魔族なのか?」

「ぐうっ。その質問には答えられないようだ。何かの封印がされているらしい」

嘘はついてなさそうなので、


「それで、頼みたいこととは何ですか? というか、貴方は何者ですか?」

「私はレンをベースに造られたキメラだよ。とは言っても、無理矢理合成させられたので意思の疎通が出来なくて大変だけどね」

レンと名乗った男はおどけて見せた。

「それで、どのような要件ですか? あなたはルグニアの民を殺しているので、容赦は出来ませんが」


「ぐっ、あまり敵対心を向けないでくれ、合成された魔物が目を覚ましてしまう。っと、コレを」

そう言って、写真の入ったペンダントを投げて寄こしてきた。

「これを、アンナに渡してくれないか? 兄は死んだと伝えて欲しい」

「アンナさん? そうか、何処かで見たことがあると思ったが、エリザを襲っていたレッドムーンのメンバーだ!」

「なんの事だ?」


「エリザを建物に閉じ込め、焼き殺そうとしていたでは無いですか?」

「あの時は、レッドムーンの下っぱにはエリザ様を確保しろと命令が出ていたんだ。ただ、一部の過激派が暴走してしまい、あのような事態になってしまった、俺はエリザ様を助けに行ったんだ。だが、上手くいかなかった。その責任を取らされて、俺たちはこんな姿になってしまった。あの時の実行班はキメラとなって、君たちに襲いかかって行った」

「あの時のキメラか」

直哉は思い出していた。

「くぅ。不味いな魔物が俺の拘束を破りそうだ。それでは、サラバだ」

仮面の男はフッと消えた。

(うーん。どう捉えるべきか。そして、アンナさんに伝えるべきかどうか。判断に困るな)

直哉は考えながら森を進んでいくと、里の入り口が見えてきた。




◆忍びの里


直哉の建てた診療所の近くに、大きな建物が数棟建っており、建物の入り口を近衛騎士達が守っていた。

「こんばんは。エバーズさんたちはどちらにおられますか?」

「これは勇者様、エバーズ様達は診療所の方に集まっております」

「そうですか、ありがとうございます」

直哉は礼を言って、診療所へ向かった。


「おぉ、直哉伯爵じゃないか! 使用人の方は、方が付いたのか?」

「えぇ、そちらは滞りなく」

「それなら、こっちに何をしに来たのだい?」

「こちらの家を作りに来たのですが、既に出来てましたね」


直哉は少し考えたが、ありのままを報告することにした。

「里に来る途中の森で、仮面の男に会いました」

「なんだと!」

「それは、本当ですか?」

エバーズとダライアスキーは直哉に詰め寄った。

「それで、倒したのですか? 逃げられたのですか?」

「結果的には逃げられました」

エバーズは眉をひそめ、

「回りくどい言い方だな、何かあったのか?」


「彼と話をしました」

「!!!」

エバーズは、驚きすぎて言葉にならなかった。

「このペンダントを、アンナさんに渡して欲しいと言ってきました」

そう言って、レンが投げてよこしたペンダントを取り出した。

「これは、ルグニアの勲章。彫ってある名前は、レン! まさか、あの男はレンなのですか?」

「仮面の男はそう名乗ってました。ただ、仮面の男が言っていただけなので、本当かどうかは裏付けておりません」

直哉は、まず間違いないと思いながらもそう答えていた。

「他に何か言ってなかったのか?」


「自分がキメラだという事、城を襲ったキメラはエリザを襲った実行犯たちという事、自分をキメラにしたのはエルムンドだという事ですね」

直哉の報告に顔色を変えたダライアスキーは、

「わかりました、直哉伯爵は屋敷へ戻り、明日の朝、城へ来てください。その時アンナにも話しましょう。私は城へ戻り、アシュリー様と今後を話し合おうと思います」

「俺も、城へ戻る、アンナが心配だからな」

エバーズの言葉に、

「そういえば、アンナさんは?」

「アンナは既に城へ帰った。今は疲れを取っているはずだ」

「そうでしたか。里は一先ず大丈夫なようですし、私も屋敷へ戻って休むことにします」

そう言って、忍びの里を後にした。



◆直哉の屋敷


屋敷の前では、サラサとジンゴロウが既に到着していて、

「お待ちしておりました」

と出迎えられてしまった。直哉は、サラサの持ってきた家具に以上が無いかチェックした後、屋敷へ登録した。

「これで、問題ないので運びこんでください」

「心得た!」

ジンゴロウが持ち前の力を発揮して、サラサの部屋へ運び込んでいた。

すべてが運び込まれたのを見て、屋敷に入ると、エリザとドラキニガルの姿は無く、静かな空間になっていた。

「さて、風呂に入って寝るか」



直哉は風呂に入りつつ、

(しかし、ルグニアで起きている事の元凶はエルムンドに間違いないだろうな。しかも、魔族になっている可能性が高いな。ゲームでルグニアに魔族が居た事は無かったよな。それ以前にルグニアにこれほど長く滞在したことが無かったな。もしかして、俺が来たからルグニアが襲われたのか? だとしたら、俺は疫病神なのかな。そう考えると、勇者と呼ばれるのは心苦しいな。バルグフルで大人しくしていれば良かったのかな)

深い後悔の念に、押しつぶされそうになっていた。

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