第六話 直哉の決意
◆蛇神の湖へ向かう途中
「はぁ」
リリは憂鬱であった。直哉と一緒に居るのは楽しいのだけど、この楽しい時間が終わってしまうかもしれないという恐怖が憂鬱にさせている大きな原因であった。
直哉は周りの空気が変わったことに反応して声を上げた。
「敵襲! リリ、戦闘準備!」
剣を抜き前に踏み出した直哉の後ろから数匹、前から十数匹のゴブリンが襲いかかってきた。
「きゃぁ」
今まで聞いたこと無い悲鳴が聞こえてきたので、慌てて振り返るとリリがしりもちをついていてワタワタしているところに、ゴブリン達が襲いかかっていた。
「こんの」
直哉は慌ててリリに襲いかかるゴブリンに四属性の剣を当て一撃で全てを倒し、前から来ていたゴブリンにも容赦ない横斬りが炸裂して、わずか数秒で片がついた。
その場にうずくまるリリに声を掛け、
「大丈夫? 怪我はない?」
無言でうなずくリリをみて、安全を確保しに近くの休憩所へリリを連れて行った。
直哉は、蛇神の湖に向かう時からリリの様子がおかしいことに気がついてはいたが、理由がサッパリわからないため、とりあえず後回しにしていたのだが、流石に放置して置くわけにも行かず理由を聞いてみた。
「いつものリリらしくないけどどうしたの?」
リリは少し悩んだものの、意を決して話し出した。
「お兄ちゃんとの冒険もそろそろ終わるし、帰ったら最後だって思ったら、急に悲しくなったの」
「どうして最後だと思ったの?」
「だって、いつもパーティを組んでくれる人とは、冒険者ギルドまでは一応一緒にいてくれるけど、その後は一度も会ったことが無いんだもん、だからお兄ちゃんもきっとそうなんだろうなって思った。ら・・・・ひっく」
「うわーん」
話している時はこらえていたのだが、ついに泣き出してしまった。
(そっか、そんな風に思っていたのか)
直哉はイリーナに相談してから話そうと思っていたことを今話すことにした。
「落ち着いた?」
リリは半分泣きながらうなずいた。
「本当は冒険者ギルドに帰って、イリーナさんに相談してから言おうと思ったのだけど」
リリの顔をしっかりと覗き込んで、やさしく話した。
「リリちゃんが良ければ、これから作る家に一緒に暮らさない?」
リリは目をパチクリとして、
「いいの? リリは両親がいなくて、一人っ子で、甘えん坊で、しかも魔術師っぽくない魔術師だよ?」
直哉は照れながら、
「でも、リリはリリでしょ? 俺はリリと一緒に居たいって思ったんだ」
リリは涙を流しながら飛びついた。
「お兄ちゃん大好きなの!」
直哉はリリを受け止めつつ、続きを話した。
「あと、俺の事を話しておかないとダメだよな」
飛びついたリリを引きはがし、
「俺はこの世界の人間ではない、この世界では両親はおろか身よりもない、元の世界に帰る方法を探しだして元の世界に帰るだろう、それでも一緒に居るかい?」
リリは直哉が何を言っているのかイマイチわからなかったが、真剣な表情の直哉に一つだけ聞いた。
「その、元の世界に帰る時もリリは一緒?」
直哉は驚いた表情を見せて、
「元の世界に帰る時も着いてきてくれるのかい?」
「お兄ちゃんの迷惑でないのなら、どこまででもついて行きたい」
目を潤ませながら見上げるリリに、
「わかった。それならどこまでも一緒に行こう」
「はいなの!」
直哉が宣言するとリリは元気よく返事した。
リリの不安が取り除かれたので改めて聞いてみた。
「改めて聞くけど、このまま帰るか蛇神の湖の状態を確認しに行くか、どうする?」
リリは迷わず
「お兄ちゃん的にはどっちが良いの?」
と、聞いてきた。
「俺的には、一度帰って戦力を増強してからの方が良いな、特に僧侶職が居るとの居ないのでは、難易度が違いすぎるから」
直哉は過去三回の人生で僧侶職の重要さが身にしみてわかっていた。
「じゃぁ、一度戻ってイリーナさんに会いに行こうよ」
こうして、リリとの初めての冒険は幕を閉じた。