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第五十四話 忍びの里

◆直哉の屋敷


次の日の早朝、エバーズ達は城へ直哉伯爵の事を報告しに帰っていった。



エリザはまだ寝ていたが、直哉達は朝飯前の鍛練を森でやろうとしていた。その時、森の北側に違和感があることに気がついた。


「お兄ちゃん、あっちに誰か居るの」

「直哉様、何者かが」

直哉は、リリ達と周囲を確認していった。

「ここが、何か変だな」

直哉は、背の小さな木々の中に人為的に作られた空間があることに気がついた。

中を確認すると、真っ黒な服を着た少女が血まみれで倒れていた。


「これは、まずい」

そう言って、回復薬を取り出して少女に振りかけた。

「お兄ちゃん、リリはラリーナお姉ちゃんと周囲の警戒に行ってくるの」

「あぁ。気をつけて。ラリーナ、何かあったらすぐに呼んでくれ」

「了解した。直哉とフィリアにその子は任せるぞ」

「任されました」

応急処置を済ませ、屋敷へ運び込んだ。


「フィリア、すまないがこの子を頼む。血だらけで服も酷い状況だから」

「承知いたしました。身体を確認して、着替えさせておきます」

直哉の言いたい事を理解して、少女を介抱していた。

その様子を見て、直哉は一階へ降りて朝食の準備を始めていた。



(昨日から漬けておいた鳥肉を唐揚げに、イモをふかして冷ましておく。フルパワーですりつぶしたら、昨日のブーブー大王のみじん切りを投入して、小麦粉、卵、パンを付けて揚げる)

「昨晩から揚げ物だらけだな。魚を煮るか焼くか。よし、焼いて一緒にモーモーキングの串焼きも作ってしまおう」


直哉は、魚を取りだし、ウロコをとった。次にエラと内臓を綺麗に取り出す。塩を振りなじませておく。

次に肉を取りだし、大きく斬ったネギを用意する。串を取りだし、肉ネギ肉ネギ肉となるように刺しておく。最後に塩を振りかけてなじませておく。

その時屋敷にリリ達が帰って来た。



「ただいまなのー!」

「今、戻ったぞ」

「どうだった?」

「特に魔物の姿は無かった、ただ、塀の向こうにこれが落ちていた」

ラリーナはそう言って、黒い塊を取り出した。

「これは、ぬいぐるみの一部? これは、何のぬいぐるみだろう?」

「きっと、ドラゴンの手の一部なの。そんな気がするの」

リリの言葉に、

「そっか、それも含めてお城に報告だな」

「わかったの」


「とりあえず、朝食にしよう。手伝ってくれる?」

「お肉! おっ肉!」

リリとラリーナは直哉と共に朝食の準備を始めた。


そこへ、深刻な顔をしたエリザが降りてきた。

「おはよう、エリザさん」

「おはようなのじゃ」

「どうかしましたか?」

エリザが何かを考えていたようだったので、聞いてみた。

「先ほど、フィリアのところで手当てをされていた娘の事じゃが、どこかで見たことがあるようなのじゃが、思いだせんのじゃ」


「そうですか、食事の用意は出来ますか? 俺も一度様子を伺ってこようと思います」

「わかったのじゃ、まかせるのじゃ」

「よろしくお願いします」

直哉は、朝食の準備をリリ・ラリーナ・エリザに任せてフィリアの元へ向かった。


「フィリア入るよ?」

部屋の扉を叩いてから、声をかけた。

「直哉様? どうぞ、お入りください」

直哉が中に入ると、両手両脚に痛々しいほどの包帯を巻いていて、苦々しい表情で寝かされていた。

「あれ? 俺の回復薬じゃ回復しなかった?」


「体中の切り傷から冷気が入り込み、傷口が凍傷になりかけておりました。それで、傷が上手く回復できませんでしたので、現在は凍傷に対する治療方法を探しているところです」

「凍傷? そっか、外は雪が積もるほどの極寒の地か。さて、どうするか」

直哉はスキルを発動させ、凍傷に効果がかるアイテムを造れるかどうか確認すると、

「おっ? これなんて良さそうだな、ほいっと」

直哉は塗り薬を造り出した。

「この薬を塗れば、凍傷の症状を緩和できるはずだ」

そう言って、フィリアに手渡した。

「承りました」

フィリアは薬を塗ろうとしたので、


「待った、俺は部屋の外に居るよ。塗り終わったら呼んでくれ」

「えっ? あ、はい。承知いたしました」

直哉が外に出て待っていると、中からフィリアの声が聞こえてきた。

「どうぞ、お入りください」

直哉が部屋に入ると、先ほどより穏やかな表情になった少女が眠っていた。

「よし、大丈夫そうだね」

その寝顔を見て、直哉は安堵した。


「フィリアは、下でご飯の準備を手伝って来てくれる? 俺がこの子を見ておくよ」

「承知いたしましたわ。きっと、リリさん達が暴走するのを抑えろって事ですね」

フィリアは直哉の言葉に従い一階に降りていった。

「さて、飯が出来るまで武具の手入れでもしておくか。新しい武具でも造るかな」

直哉がスキルを発動させ、新しい武具を造ろうとしていたとき、少女が目を覚ました。


「こ、ここは?」

「おっ? 目を覚ましたかい?」

直哉は少女に声をかけた。

「はっ!」

少女は懐から武器を出そうとして、今まで着ていた服ではないことに気がついた。

「くっ!」

「あっ、そんなに怯えなくても良いですよ。ここはルグニアの領地ですよ。そして、俺は直哉。ルグニアで伯爵の地位を頂いております。貴方は?」


少女は震えていたが、ルグニアの名を聞いたとたん安堵し、その後涙を流し始めた。

「ひっく、ひっく」

直哉は、少女を落ち着かせるべく頭を撫でていた。その優しい手つきにさらに安心した少女は、そのまま直哉の胸に静かに顔を埋めて泣き始めた。

(とと)様。父様をお助け下さい!」


「直哉様。お食事の用意が出来まし・・・、何をなさっているのですか?」

朝食が出来て呼びに来たフィリアは、直哉と少女が抱き合っているのを見て、怒りゲージが溜まっていった。

「目を覚まして、ルグニアに居ることを伝えたら、泣き始めちゃって」

「そして、頭を撫でたら抱きつかれた、という事ですか?」

「はい、その通りです」

フィリアはため息をついてから、

「それは、仕方ありませんね。その子の事何かわかりましたか?」

「お父さんを助けて欲しいらしいのだが、ずっと泣いているので、さっぱりだ」

「そういうことなら、私が話を聞いておきます、直哉様は先に食事をしてきてください」

「わかったよ。それではよろしく」

直哉は泣いている少女をフィリアに託し、一階へ降りて食事を始めた。


「何かわかったのかえ?」

エリザは何かを気にしているのか、聞いてきた。

「ここが、ルグニアの領地と伝えたら、安堵していたようでした」

「ふむ、我がルグニアを知っておるのかの?」

「そんな感じでした」

「ふむ。後で話をしてみるのじゃ」

「よろしくお願いします」

直哉達は、朝食を食べ始めた。しばらくすると、少女を連れたフィリアが降りてきた。


「直哉様、よろしいでしょうか?」

「ん? フィリア? どうだった? と、女の子も一緒か」

少女は直哉の前に来ると平伏した。

「ルグニアの御貴族、直哉様にお願いがあります」

「ま、待って、まずは顔を上げて、と言うか、こちらの椅子に座ってから話し始めてください」

「ですが!」

「構いませんよ。俺にはそういうことは不要ですよ」


少女は不安げにフィリアを見ていたが、フィリアが頷いたのを見て直哉の言葉に従った。

「私は、ルグニアの北にある忍びの里のマーリカと申します」

「忍び?」


(忍者なんて職業無かったよな? 今回のアップデートで追加になった職業だな)


「はい。私の父は代々続く忍びの棟梁でした、このルグニアとも親交を深めていたと聞いております。そこで、我が里を、父をお救いください」

頭を下げてお願いしてきた。

「わかりました。俺で良ければ力を貸します。ですが、お城へ寄ってから行くことになりますが、よろしいですね?」

「あ、ありがとうございます。我が里は忍びの里、早々落ちる事はないと思います」


「よし! ご飯食べてお城に行くよ!」

「おう!」

「そうじゃ! マーリカじゃ! わらわじゃぞ、エリザじゃ!」

マーリカは顔を上げて、

「エリザ様? あの、国王様の妹君! お久しゅうございます」

エリザに対して平伏した。

「わらわに対しても、そのような事は必要ないのじゃ。直哉殿の傍にいる時は、直哉殿と同じで構わんのじゃ」

マーリカは何かを考えた後、

「わかりました、エリザ様」

そう言って、座りなおした。


「二人は知り合いなの?」

「昔、姉と一緒に忍びの里へ行った時、何度か会った事があるのじゃ」

「そうですね、エリザ様とは、そこで知り合いました」

「そっか。それじゃぁ、ご飯食べながら話をしよう」

直哉の言葉に、食卓を囲んでそれぞれの話をして朝食を取った。

(ふぅ、忍びの里かどんな冒険が待っているのだろうか。鍛冶職人の事や火山の事、レッドムーンの事、色々問題が山積だな。でも、急いては事を仕損じるともいうし、一つずつ確実に物事を進めていこう)

朝食後、全員で城へ向かうことにした。




◆ルグニア城


門番が直哉を見つけると、

「ゆ、勇者様! 本日はお早いお付きですね。国王様はまだ朝食の最中です。会議の間でお待ちいただけますか?」

そう言って、誰かを呼んだ。


しばらくして、アンナがやって来た。

「おはようございます。今朝は恐ろしく早いのですね。時間になればお呼びしましたのに」

アンナは一同を見て、マーリカの所で止まった。

「こちらのお嬢さんはどなたですか?」


「私は、北の忍びの里の棟梁の娘、マーリカです」

「これは、始めまして。私はルグニアの近衛騎士団特別警護隊のアンナです」

アンナはそういった後で、

「えっ? 忍びの里? 何かあったのですか?」

直哉は今朝の出来事を掻い摘んで説明した。


「なるほど、わかりました。直哉様ご一行はこちらへ」

アンナの案内で会議の間へ通され、そこで、アシュリー達を待つことになった。

しばらくして、アシュリー達が慌ててやって来た。


「はっ? アシュリー様」

マーリカは平伏していた。

「おや? そちらの少女は?」

「私は、北の忍びの里の棟梁の娘、マーリカと申します。本日はお願いの儀がございます」

アシュリーは、

「なるほど、直哉伯爵が早かった理由はこの子の事ですね」

「はい」

直哉が頷くと、


「わかりました、面を上げなさい」

「はは」

マーリカは顔を上げた。

「それで、どのような事ですか?」

「私の里、忍びの里を救援していただきたい。こちらが我が父からの書状です」

アンナが書状を受け取り、アシュリーに渡した。

「これは? なんと、あの忍びの者達がここまで追い詰められるとは」

アシュリーは、エバーズとダライアスキーに状況を説明し、


「エバーズ、出撃できるメンバーはいるか?」

「殆どの近衛騎士達は経験不足で、忍びの里を救援できる程の実力はありませんので、私とアンナくらいですね」

「ダライアスキーの方は?」

「戦闘は無理ですが、救護活動や防衛活動等は何とかなると思います」

「おっ、それなら近衛騎士達でも何とかなるかな」

「直ぐに救援隊を組織せよ。直哉さん達は、どうなさるのですか?」

アシュリーは皆に指示を飛ばしながら、直哉に聞いてきた。


「俺も行きますよ。困っている人を放って置くのは性に合いません。それに、黒いぬいぐるみも気になりますから」

「直哉さんのやりたいことが遅れますがよろしいのですか?」

「正直な事を言えば、さっさと帰る方法を探して帰ろうと思っていた時期がありました。でも、今はやれる事を、すべてやってからでも遅くは無いのでは? と思うようになりました。ですので、どんな遠回りでもやれる事は全てやっておきたいのです」

直哉の言葉に、

「後悔は無いですか?」


「ありますよ! 俺の人生、後悔だらけです。きっと、どの様な選択をしても後悔するのでしょう。それなら、後悔しても納得できる選択を出来るようになりたいと、日々鍛練を続けています」


「直哉さんはお強いのですね」

「いいえ、俺一人では弱いままです。ですが、俺には心強い仲間が居ます。みんなが俺を支え、俺がみんなを支えます。それで、ようやく一人前に近づける。そんな気がします」

直哉は、リリ達を見ながら力強く言った。

「直哉さんの意思はわかりました。それでは、マーリカさん。直哉伯爵と共に先行してください。こちらも体勢が整い次第、随時向かいますので」

「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

「それでは、行きましょう」

「はい。直哉さんお願いします」

直哉は、


「そういえば、忍びの里って何処にあるのですか?」

「直哉様のお屋敷の北の森の中、約半日の距離のところにあります」

「そうですか、わかりました。一度、屋敷に帰って救援の支度をして出かけるよ」

「了解(なの、です、だ、なのじゃ)」

直哉達は、屋敷に戻り準備を整えて出発した。

途中は殆ど何事も無く忍びの里の近くに辿り着いた。そこは雪深い森の中であった。




◆忍びの里


里に続く隠し道に着いたマーリカは、道の封印が壊されていることに驚いた。

「まさか、ここの封印が破られるなんて! それにこの匂いは!」


「状況はヤバいって事だね。みんな周囲の警戒を最大に!」

直哉に言われる前に、周囲の警戒をしていたみなは里の方から、きな臭いにおいが充満していることに気がついていた。


「何か燃えてるの」

「確かに、火事のような匂いだな」

リリとラリーナが同じ感想にいたり、直哉も確信した。

「里で火災が起きているのでは? とにかく急ごう!」

「はっ!」

直哉達は里へ急いだ。


「あぁ! そんな、里が燃えている!」

正面に里の入り口が見えてきたとき、里が燃えているのが見えた。

そして、その入り口をあの仮面の男が守っていた。


「ほぅ、逃げ出した小娘が援軍を連れて帰ってきたか」

仮面の男は地面に手をかざし、魔力を込めた。


「まさか、あそこに魔物を召喚するつもりか! エリザ!」

「承知しているのじゃ!」

エリザは既に矢を放っていた。


仮面の男は魔力を込めていたので、避ける事が出来ず、仮面に直撃した。

そして、その場の全員が息をのんだ。その男の顔は中心で縦に二分割され、右側は人間、左側はウサギのぬいぐるみの顔をしていた。接合部分は強引につなげた跡が痛々しく残っていた。


(あの顔、どこかで見た事がある気がする)

直哉はそう考えていたが、

「気を抜いちゃ駄目なの!」

リリの言葉に全員が戦闘態勢を取った。


「ちぇっすとー」

「そりゃ!」

リリとラリーナが走って行き、エリザが矢を放った。


「ごるぁぁぁぁ」

仮面を付けていた男が叫ぶと、体中に毛が生えてきた。


(あれは、ヒツジの毛?)

直哉が不思議に思った時、エリザの放った矢が胸に直撃した。


「魔神拳!」

「リズファー流、月牙双輪!」

リリの頭部を狙った攻撃は身を反らされ右肩に命中し、ラリーナの攻撃も左肩に命中した。

「なに?」

しかし、身体を覆っていた毛によって、三人の攻撃は無効化されていた。


距離を取った二人との間に、大量の火トカゲを召喚した。

里を焼いているのも、この火トカゲらしく、里の中で徘徊している姿を確認する事が出来た。

(さて、どうしますかね。状況は芳しくないですね。敵との戦力差がありすぎるよ。とにかく仮面男の召喚術を止めるのが先決だな。それから後の事は、その時考えるか)

直哉は打開策を考えていた。

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