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第五十二話 ルグニアの復興

◆ルグニア城


直哉が目を覚ますと綺麗な石造りのベッドに寝かされていて、同じベッドにリリとフィリアとラリーナ、そしてエリザが眠っていた。

「くっ、頭の奥が痛いな」

そう言いながら頭を押さえた。

「お目覚めですかな?」

部屋の奥からダライアスキーの声が聞こえてきた。

「あ、おはようございます。ここは一体?」

「昨日の戦闘で直哉伯爵は、自らの身体を削りながらルグニアの民を守って下さいました」


その言葉に、戦闘の記憶が蘇ってきた。

「うぅぅ。俺、無事ですか?」

「目立った外傷は意識を手放す前に、黄金色に輝く身体、おそらくリジェネを発動させていたのだと思いますが、その力で回復していました。ですが、頭の中、脳のダメージがどうなっていたかはわからないので、この様な場所で安静にして貰っていました」

直哉は周囲を見渡して、


「そういえば、ここは何処ですか? かなり豪華な造りのようですが?」

「ここは、王族専用の診療所です。これだけ応答できるのであれば、とりあえず記憶の方は問題無さそうですね」

ダライアスキーはそう言いながら外を見た。直哉もつられて見ると、街では復興の作業が進んでいた。

「被害はどのくらい出ましたか?」

「死者五十五名、負傷者六百名、行方不明者二百五十名、全壊した建物及び住めなくなった建物二十棟、半壊した建物及び修理が必要な建物百二十棟と被害は甚大です」

直哉は沈痛な面持ちで、

「お悔やみ申し上げます」

「そのお心、痛み入ります」


直哉は、今の自分に出来る事を考えて、

「建物の建て直しの目処は立っているのですか?」

「現状で、鍛冶ギルドの者達も多く傷ついていて、建て直す目処は立っておりません」

「それならば、俺が代わりに建てましょうか?」

ダライアスキーは目を見開いて、

「お願いしてもよろしいでしょうか?」

「俺に出来る事があれば、何でもやります!」

「では、お連れの方々が目を覚まし次第、アシュリー様の元へ行きましょう」

直哉は皆が目を覚ますまで、スキルを使用したりして自分の身体が問題無い事を確認していた。



「そうでした、直哉伯爵に確認しておこうと思ったことがあったのでした」

「なんでしょうか?」

ダライアスキーはいまだ眠っているラリーナをチラッと見てから、

「お連れしている、銀狼族の方のお話です」

「どのようなことでしょうか?」

「眷属をお連れではないのですか?」

「眷属とは何ですか?」

ダライアスキーは手元においてあった本を二冊直哉に手渡した。

「これらの本は、以前ルグニアに居た研究者が書いた書物です。一つ目の本は研究者のメモです、もう一つの本は研究していた銀狼の事をまとめていた本です」

そこには、銀狼に関する事が細かく書いてあった。




~研究者のメモ~


そもそも銀狼とは

銀狼族の中でも、銀狼になれる者となれない者が居るのはご存知であろう。

ここに、一つの仮定を立ててみた。

銀狼になるには、銀狼の血と真名と言霊が必要なのではないのかと。

そして、試して見ることにした。

銀狼から採取した血を取り込んでみた。そして自らの名を叫んでみた。

始めは体が熱くなり、後に頭の中に声が聞こえてくる様になった。

そしてその声は私の欲望を刺激するようになっていった。

だが、銀狼になる気配はない。なぜだろう? 

真名とは自分の名前ではないのか? 

もっと研究をしなくては。だが、私には時間が無い。私はもう駄目かもしれない。

心の内に入り込んだ銀狼の力によって、理性を失いそうである。



~研究資料~


私の研究によると、銀狼になるにはある条件が必要なのだと思う。

恐らく血が必要なのであろう、だが、それだけでは足らない。

他の条件は何なのだろう?

それに、銀狼は常に眷族と呼ばれる、分身を傍に連れている事がわかった。

恐らく、自分の身体の中から排出した姿なのだろうと仮定する。

古い文献の中に、真名と言霊という言葉が出てきた。

真名とは真の名前、つまり自分の名前であるだろう。

言霊と言うことは、それを発すればよいと言うことではないのか?



「これで、終わりですか?」

「はい。そしてその次の日、研究者の姿は見当たりませんでした」

ダライアスキーは目を伏せた。

「ラリーナもその危険性があると言うことですね」

「ええ、そうです」

直哉はラリーナと出会ってからの事を思い返し、


「それなら、問題は無いですね。ただ、眷属と言うのは初耳なので、本人に聞いて見ましょう」

そう言って、ラリーナの方を向いて、

「ラリーナ、どうなの? 狸寝入りは良いから答えてくれる?」


ダライアスキーは驚いた顔で、

「起きていたのですか?」

「さすが、直哉だな。よく気がついたな」

「まぁね。それで、どうなんだい?」

ラリーナは直哉の傍に来て、


「確かに、私の心の奥に私でも制御しきれない、どす黒い気持ちがある。銀狼化を使用するとその気持ちが押し出され、自分の欲望の赴くままに体が動いてしまう」

「身体の外に出すことは出来ないの?」

「やり方がわからんのだ。お母様も教えてはくれなかった。いや、知らなかったのだろう」

「その可能性は十分にあるね。そうなると里に戻ってから長老クラスに聞くしかないのか?」

ラリーナは少し躊躇った後、

「直哉は私がどんな姿になっても支えてくれるか?」

直哉は驚いた顔で、

「当たり前だよ」

ラリーナはフっと笑ってから、

「ならば、直接聞いてみるよ。もう一人の私に」

直哉はラリーナの覚悟を尊重して、

「わかった。俺はいつでも傍に居るからね」

「任せる」

ラリーナはそう言って銀狼化して瞑想し始めた。



◆ラリーナの意識中


(さて、大見得を切って来たが、上手くいくかどうかはわからんな)

ラリーナの心の底に居る大きな銀狼が話しかけてきた。

「お前のほうから来るとは、どういう心境の変化かな? この私に身体を譲りに来たのかな?」

「そんな訳がなかろう」

「だろうな。して、何の様だ銀狼の娘よ」

「我が身体より出て行くことは出来ぬのか?」


銀狼はニヤリと笑い。

「その必要を感じ得ないな。このまま居ても、この身体が我の物になる日は近い」

「なるほど。やはり、分離する方法があるのだな」

銀狼は目を細め、

「ふん。カマをかけたのか。意外と喰えん奴だな」

「元が私なら、お前もかわらんだろうに」

「ふふふ。確かにな」

銀狼は目を閉じて、

「さぁ、身体を渡す気がないのであれば、帰りなさい」

話は終わったとばかり銀狼は眠りについた。



(ラリーナちょっと良いかい?)

(ん? 直哉? どうやって?)

(俺たちは繋がっているのだろう)

(そういえば、そうだったな。それで、何か用か?)

(銀狼と話せる?)

(目の前で寝ているが)

(銀狼! 聞こえていたら返事をしてくれると助かるのだが!)

「ん? ラリーナ以外に気配を感じるぞ、何者だ?」

(俺は直哉、貴方は銀狼で良いのかな?)

「ふん。好きにしろ。それで何の用だ。小僧」

(その呼び名は。あはは。銀狼の人たちから見ると俺は小僧なんだな。って姿も見えるのか)

「姿を見ようと目を開けば見えるさ」

(うーん。こうかな?)



直哉が目を開けると、目の前に大きな銀狼が眠たそうに横たわっていた。

「それで、何の用だ」

(あ、いや、銀狼は何がしたいのかなって)

「どういうことだ?」

(自由になりたいのであれば、今すぐ出て行けば良いのに、ラリーナの身体に執着している様に振舞っている。それなのに、強制的に乗っ取るわけでもない)

「ふふふふはは。はーっはっはっは。小僧! 面白いな。話を続けてみよ」


(それで、考えてみたのですが、貴方はラリーナを試している。俺はそう感じました)

「試すだと?」

(ラリーナは銀狼化している時は、どのような感じなの?)

(心の奥から目に見えるもの全てを破壊しようとする衝動が心を揺さぶる感じがする)

(その根幹が貴方と言うのは、かなり無理があると思うのですが気のせいでしょうか?)

「人間風情が分かった風な口をきくな!」

銀狼が怒りの声を上げた。

(それだけ怒るという事は当たりという事ですね)

「ぐぬぬ」


(それに、貴方からはリズファーさんの気配を感じる)

「そ、れ、は」

(そうなのですか?)

「あっはっは。完敗だよ。そうさ、私はリズファーの生まれ変わりさ」

(やはりそうでしたか。それで、ラリーナを見守っていてくれたのですね)

「当たり前さね。可愛い娘を見ず知らずの男に託したんだ。心配にもなるさね」

(本当にお母様なのですね)

(でしたら、銀狼を眷属にする方法を教えてくれますか?)

「それは簡単だが、今はラリーナの心が弱すぎて無理さね」

(どうすれば、良いですか?)

「それは、お前たちで考えなさい。ラリーナの心が強くなって、問題ないと判断できれば、銀狼の眷属化を実行して見ましょう。それまでは私が見守っておこう」

(わかりました。俺は先に戻ります。ラリーナは話したいことがいっぱいありそうだから、ゆっくりしてね)

(直哉。ありがとう)

直哉は目を閉じ、意識を現実世界に戻した。




◆ルグニア城


直哉が目を開けると、リリとフィリアが心配そうに覗き込んでいた。

「おはよう二人とも」

「お兄ちゃん!」

「直哉様!」

「心配かけたようだね」

二人は心底喜び直哉に抱きついた。直哉はそんな二人の頭を撫でながらラリーナの方を見た。

「幸せそうだね」

ラリーナは幸せそうな笑みを浮かべていた。


「さて、エリザやダライアスキーさんは何処へ行ったの?」

部屋の中に四人しか居ないので、何処へ向かったか聞いてみた。

「先ほど、アシュリー様から呼び出しがあって、お二人とも出て行かれました」

「なるほど」

「では直哉よ、後を追うことにするか?」

幸せな笑みを浮かべていたラリーナが、立ち上がり会話に参加していた。

「もう良いのかい?」

「会おうと思えばいつでも会えるからな」

「そっか。では、皆で行こう」

直哉達はアシュリーの元へ向かった。



謁見の間の入り口に到着すると、近衛騎士が慌てて呼び止めてきた。

「これは、勇者様御一行ではありませんか! アシュリー様は中でお待ちです。どうぞお入りください」

そう言って、直哉達が来たことを中に告げた。

扉が開くと、中にはアシュリーとシギノ、そして近衛騎士達が必要最低限配備されているだけであった。


直哉はアシュリーの前に出て、

「おはようございます」

「おはようございます。よく来てくれました。ルグニアの民を代表して感謝の意を表し、直哉伯爵にはこちらの証を授けましょう」

そう言って、先日渡してくれた王家の紋章をさらに豪華にした証、ルグニアの勇者の紋章を手渡された。

「中央のくぼみに、先日の王家の紋章を入れると完成します」

直哉は言われたとおり、紋章を組み合わせて胸に取り付けた。

「これで、冒険者と言うよりも勇者になりました。これならお母様も納得ですよね?」

そう言われて、シギノが話し出した。

「先日は大変失礼をいたしました。心よりお詫びを申し上げます」

そう言って頭を下げた。

「頭を上げてください。もともと俺はそこまで気にしておりませんので。前王女様の仰りたい事もわかる事ですから」

「そう言ってもらえると、助かります」


「それで、俺たちも街の復興に手を貸してもよろしいのでしょうか?」

「それは、もちろん嬉しいのですが、直哉伯爵としてはよろしいのですか? その、秘密なのですよね?」

アシュリーの言葉に、

「それはそうですが、困っているのは俺じゃなくて、一般の方々なのですよね。でしたら、そんな事を気にしている場合ではありません」

シギノは驚いた顔をして、


「秘密とはなんですか?」

「俺のスキルに関してです」

そう言って、鍛冶スキルを発動して、鉄鋼の盾を造り出した。

「これは?」

「今、この場で造った盾です」

「何と!? 炉や槌等は必要ないのですか?」

「スキルの中で選択されています」

シギノは、


「伝承の通りですね」

「伝承ですか?」

「はい。その内容は、我がルグニアから魔王を滅ぼしに行った冒険者が奪っていったと伝えられています」

「それは、バルグフルに伝わる生きている本ですか?」

「なんと、ご存知でしたか」

「ええ、見せてもらいました」

「まだあるのですか!」

「バルグフルの王家に伝わる本だと言ってましたが、奪ったものだったとは思いもよりませんでした」

直哉が沈痛な面持ちでいると、


「それで、冒険者を信じるなというのがルグニアの言い伝えにあったのだ」

「そうでしたか。あれ? でも、俺がこの世界に来たときに文字が浮かび上がったと聞いていますが」

その言葉にシギノは、

「私が聞いたのは、初代バルグフルの王がその名を轟かし始めた時に、文字が浮かび上がってきたと聞いています。直哉さんも同じなのですね」

「そうだったのですね」

直哉はその話を聞いて、

「バルグフルの初代王も漂流者なのかな?」


そう思いながらも現状に対する打開策を検討し始めた。

「建物や家具を造るのは任せてください。何がどの位必要なのかのリストをお願いします。それと資材の確保をお願いします」

「了解した」

アシュリーは近衛騎士に指示を出した。

直哉はそのリストを確認して、資材の量をアシュリーに伝えた。

「今すぐ用意出来たのはこれだけだが、どうすればよいか?」


「これは、家具用ですね、ここで造って運ぶのと、材料を運んでから造るのはどちらが楽ですか?」

「それは、運んでから造るほうが楽だな」

直哉は準備をして、

「では、家具を置く家に向かいましょう。また、他の資材はどんどん各場所へ運んでおいてください」

「了解した。近衛騎士! 直哉伯爵を案内いたせ!」

控えていた近衛騎士が出てきて、

「こちらです。ついて来てください」




◆ルグニアの街


直哉は各家の家具をどんどん造って行った。

「勇者様だ! 勇者様が失った家具を造ってくださったぞ! 勇者様万歳! ルグニア万歳!」

直哉はMP回復薬を飲みながら次の地点へ向かっていた。

「次は家か」

残りのMPを確認しつつ、家を建てていった。

「回復する量と建てる量を計算して建てないとな」

そう言いながら、次々と新しい家を建てていった。


その姿を見ていた鍛冶職人たちは、

「俺もやるぞ!」

と、腕を振るい始めてくれたので、直哉の負担が軽減されていった。


「ふぅ、これで何とかなるかな」

直哉が一息ついていると、リリ達が集まってきてくれた。

「お兄ちゃんお疲れ様なの!」

「直哉様、お飲み物です」

「直哉、タオルだ使え」

「みんなありがとう。みんなの方は終わったの?」


直哉が家具や家を建てている間に、りり達には怪我人の手当てや、崩れた建物の片付けの手伝いをしてくれていた。

「こちらも、市民の方々が手伝ってくださったので、思ったより早く終わりました」

「そっか。じゃあ、みんなで休憩しますか」

「はいなの!」

直哉達はひと段落した事を確認して、休憩に入ることを伝えて休憩に入った。

「これで、ひと段落ですね」

直哉はフィリアが用意してくれたお茶を飲んで、一息ついていた。

「ふぅ、MP的に結構厳しかったな」

直哉達はゆっくりと休憩を取っていた。そこへ、城からの使者がやって来た。

「街の復興は飛躍的に進みました。市民の皆からもお礼の言葉も続々と寄せられています。そこで、直哉伯爵達をお城へ招待し、晩餐会を開き一般市民にも開放するとの事です。是非お越しください」

直哉達はその招待を受けることにした。

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