第五十一話 ルグニア攻防戦
◆ルグニア城下町での戦い
「愚か者が! 私に啖呵をきったのは嘘なのか? その程度の事で揺らぐようなら、城の自室に篭っていなさい。直哉伯爵方の迷惑になります」
アシュリーはエリザを叱りつけた。
「それに、目視できるキメラは全て直哉伯爵が捕らえてくれました。後はサーベルタイガー達です。城はエバーズ達が食い止めているので問題ありませんが、民に被害が出ている可能性があります。民を守るのがエリザの仕事なのでしょう?」
エリザは目を見開いて周囲を確認した。
「直哉殿! 全部のサーベルタイガーの位置を確認出来るかえ?」
直哉は周囲を確認すると、全部で十体のサーベルタイガーが襲い掛かってきていた。
「俺のわかる範囲で、城に八体、街に二体です。街の一体にはラリーナが向かっていますが、もう一体には近衛騎士達が対応しているようですが、あまり機能していません。城の八体は、私が三体、リリが二体、エバーズが二体、アンナと近衛騎士が一体で全てです。これ以上は現状で確認しておりません」
エリザは状況を確認して、
「それなら、わらわは上からサーベルタイガーを撃とうぞ、近衛騎士達の援護に回るぞえ」
と、提案した。
「わかりました。お願いします。なるべく急いでください。防衛網が突破されたら民に被害が出ます」
直哉は近衛騎士達を対峙しているサーベルタイガーが民に攻撃をしないように、周囲に防衛網を飛ばして牽制して、近衛騎士達が倒されないように盾も飛ばして攻撃を受け止めていた。
「承知したのじゃ!」
エリザは城の穴の開いた部屋へ戻って行った。
直哉と対峙していたサーベルタイガーは、話し始めた直哉を見て、チャンスとばかりに連携攻撃を仕掛けてきた。
一体目(A)が前方からジグザクに跳ねながら突っ込んできて、二体目(B)が後方から同じタイミングになるように走りこんできていた。
(フム。さすが狩人ですね。的確に獲物を追い込もうと言うわけですね。ですが!)
直哉はそう思い、自分の後方に防衛網を厚く張り巡らして後方から攻撃を喰らわないようにして、前方のジグザグ移動に集中した。
(右! 左! 右! 左! 左! 右! 左! 右! 左! いまだ!)
「横斬り!」
Aが左側から右側へ飛び掛るのを横斬りで迎撃した。ところが、Aは空中で身をよじり回避した。
(なんだと! あれを避けるのか)
と、隙を見せたとたん、Aが走り抜けていった反対側のわき腹から強烈な痛みが走った。
「ぐはっ」
下を見ると、後ろから走りこんできていたBが防衛網を回り込んで、左のわき腹に鋭い牙で噛み付いていた。
「お兄ちゃん!」
リリは二体同時に攻撃を仕掛けてきたので、一体目のサーベルタイガーを魔神拳のカウンターで粉砕し、二体目のサーベルタイガーを氷の檻に閉じ込めたとき、直哉の悲鳴を聞いて声を上げていた。
直哉の傍にフィリアが来ていて、直哉に噛み付いたBの頭に、ハンマーを叩きつけていた。
「せいやぁ!」
サーベルタイガーもフィリアの攻撃の直撃は不味いと判断し、直哉を離し距離を取った。そこへ体勢を立て直したAが走りこんできた。
「戒めよ! エンジェルフェザー! 私と直哉様を守れ!」
「ぎゃうん、ぎゃうん、ぎゃうん」
フィリアと直哉の周囲に天使の羽根を展開させて、Aは体中を引き裂かれてキラメキながら消滅した。フィリアは直哉を守りながら回復をしていった。
「最近、直哉様は弛み過ぎですよ。いくら援護をしているとはいえ、攻撃を受けすぎです」
と、説教しながら回復薬で回復していった。リジェネの効果と回復薬の効果で瞬く間に直哉の傷が回復していった。
「ごめん。助かった」
直哉はこの時、民のほうに行ったサーベルタイガーから民と近衛騎士を守るため、かなりの数の盾と防衛網を飛ばして援護していたため、目で見えない後方の注意が疎かになっていた。
アンナはサーベルタイガーと対峙していたが、かなり焦っていた。
(この敵、物凄く強い。私の力量では足止めも出来ない。せめて近衛騎士達と囲めば何とかなるかもしれないけど、一人では無理だ)
アンナが弱気になっていることに気がついたサーベルタイガーは吼えた。
「がおぉぉぉぉぉん!」
アンナは身が竦んでしまった。そこへ、サーベルタイガーが飛び掛り、
「きゃぁ」
ドゴン。と大きな音を立てて、城の塀に叩きつけられアンナは意識を失った。
その頃エバーズは二体のサーベルタイガーと互角の勝負をしていた。剣と盾を巧みに使い受け止めるだけでなく、カウンターで斬ったりしていた。そこへ、アンナと戦っていたもう一体がアンナを吹き飛ばしエバーズの元へやって来た。
「参ったな。このままではジリ貧だぞ」
エバーズは三体の猛攻を辛くも凌いでいた。
その時、エリザは城の先ほどの部屋に戻ってきていた。
「ここからだと、街が一望できるのじゃ。サーベルタイガーは何処におるのじゃ?」
市街地の中心付近で近衛騎士達が奮戦していたが、十五名いた兵士も五名ほどに数を減らしていた。
「まずいの、このままでは全滅してしまうのじゃ」
エリザは直哉が造った弓に矢をつがえて狙いを定めた。
「よしよし、良い子なのじゃ。そのまま動きを見せるのじゃ。てぃ!」
ピューという音と共に、物凄い速度の矢が近衛騎士に躍りかかっていたサーベルタイガーに吸い込まれていった。
「ぎゃん」
市街地で近衛騎士達が戦っていたサーベルタイガーはエリザの放った矢で跡形もなく吹き飛んでいた。その破壊力に近衛騎士達は震え上がり恐慌をきたした。
そこへ、新たな敵がやって来た。オークを中心としたゴブリン・コボルトの混成部隊が西門から数多く進入してた。
「エバーズ! 西門から新たな敵が来ている! 何とかしないと民への被害が大きくなる。今は鍛冶ギルドの者達がオークたちを民に近づかないように戦っているが、突破されるのは時間の問題だ!」
城の前で戦っていたエバーズ達に、ダライアスキーが見張りからの報告を伝えた。
「思った以上に近衛騎士達が貧弱すぎるな。俺の鍛え方じゃこれが限界なのか!」
エバーズは自分の不甲斐なさに怒りを感じていたが、善戦している近衛騎士達がいるので安心しようとした。
「あいつらは、先ほど直哉伯爵が鍛えたやつらじゃないか。あの短期間でここまで差が出てしまうのか。ぐぁ!」
周囲を気にしていたエバーズは、三体の連携による攻撃で、両脚を深くえぐられて回避どころか、立つ事さえ出来なくなっていた。
「こ、ここまでか」
そう思って、剣を正眼に構え最後の抵抗を試みようとしたところへ、
「いやっはー! 獣の分際でこのラリーナ様の前に立ちはだかるとは、いい度胸だな! みんな噛み砕いてやる!」
銀狼の姿をしたラリーナが、三体のサーベルタイガーへ踊りかかった。
エバーズへ飛び掛ろうとしていたサーベルタイガーは虚をつかれ、回避が遅れた所へラリーナが飛び掛った。
「おらぁ!」
喉笛に噛み付き、サーベルタイガーの牙をへし折り、腹を引き裂き内臓をぶちまけた所で、キラメキながら消滅した。
「次はどいつが死ぬんだ?」
残りのサーベルタイガーを睨み付けると、サーベルタイガーが恐怖で竦みあがっていた。
「おらおらおら!」
ラリーナは近い方のサーベルタイガーに飛び掛かった。
「ぎゃわん」
逃げようと背中を向けたとたん、その背中に噛みつかれて情けない泣き声を上げていた。
そのままツメでのど笛を引き裂かれて、キラメキながら消滅した。
もう一体は逃げ出していた。ラリーナは変身を解除してその場の警戒に入った。
その逃げていく一体はエリザが上から狙撃して、消滅させていた。
そんなラリーナの戦い方を見て、ダライアスキーは違和感を覚えていた。
(あれは、銀狼族か? しかし、銀狼の戦士は自分の半身である銀狼を体内より排出してお供として連れているはず。そうしないと自らが銀狼になってしまうと聞いていたのだが、直哉伯爵の連れは違うのかな? この戦いが終わったら聞いてみますか。今はルグニアを守るのが最優先ですね)
そこへ、物見から新たな報告が入った。
「申し上げます。西門を出たところに大きな穴が出来上がっています。その穴からゴブリンやオークなどが続々と出現しています!」
「転移系の力を使っているという事だな。その穴を破壊しないと物量で押し切られるぞ」
直哉の傍にいたサーベルタイガーは、リリの攻撃により消滅し、残りは氷の檻に閉じ込められている一体だけになっていた。
フィリアはエバーズを回復薬を多用して回復させていた。
ダライアスキーは愕然としていた。
(冒険者というのはここまで強いのか? 我がルグニアの精鋭達が苦戦する相手でも、倒せてしまうとは。このままでは、いずれこのルグニアは滅んでしまうな)
直哉は傷が塞がったので、エバーズの所に今後の対応を話し合いに来た。
「エバーズさん、次はどうしますか?」
「我等がルグニアの兵では押し返す事が出来そうにない。直哉伯爵の力で何とかならないか?」
「やってみましょう。リリとフィリアが先陣! サクラとエンジェルフェザーで切り刻め!」
「はい!」
「その後、撃ち漏らしをラリーナと俺で殲滅する!」
「おう!」
「わらわは何をするば良いのじゃ?」
エリザの言葉に、直哉は新しい弓を取りだし、
「こちらの弓で撃ち漏らしの迎撃にあたって下さい」
「これは?」
「前のより射程と威力を押さえた分、命中を重視した設計になっています。また、矢筒も矢を連続で取り出しやすい設計にしておきました」
エリザが新しい弓を引いてみると、もの凄く手になじんだ造りになっており、弓に照準機が付けられ、試しに撃ってみると正確に飛んでいく事から、
「後は、わらわの腕次第じゃな!」
「そうですね、そちらの弓で小型の敵に連射で対応して、大型の敵が来たら先ほどの弓でダメージを与えていく戦法で行きましょう」
「わかったのじゃ!」
「あとは、このアタッチメントを付けて、使わない弓を矢の取り出しの邪魔にならない場所に装着して、使用したい時に素早く装備を換えられるようにしておきます」
そう言って、新しい装備品をエリザに装着して、使い方を教えていった。
「コレなら、装備の変更も早くできるのじゃ。矢筒も換えられるのが使いやすいのじゃ」
エリザはアタッチメントを試していた。
「それでは、俺たちは先行します、反撃の体勢が整い次第、後詰めをお願いします」
直哉はリリとフィリアにMP回復薬系を中心に持たせて、
「魔力を切らさないように!」
「はいなの!」
回復薬をマリオネットで大量に運んで、傷ついた民を回復して行こうと考えていた。
リリとフィリアは、お互いに邪魔にならないようにサクラとエンジェルフェザーを飛ばしながら、敵のど真ん中を走り抜けていった。
「あちょちょちょちょ」
リリは走りながら奇声を上げ、ゴブリン・コボルトを蹴散らしていった。
「魔法? 火の羽根と水の羽根よ、魔法を防いで!」
火の魔法は火の羽根、水の魔法は水の羽根で攻撃を吸収して、リリに当たるのを防いでいた。
「そりゃ! そりゃ! そりゃ!」
魔法を撃ったゴブリンは、エリザの矢によって片っ端から射抜かれていった。
リリとフィリアで三百を超えるの雑魚を蹴散らし、エリザも百を超える敵を倒し、直哉とラリーナもそれぞれ百を超える敵を蹴散らし少しは押し返したものの、数の差は圧倒的で、徐々に民を守っていたドワーフたちが押されて行き、ついには瓦解した。
「きゃー」
「早く逃げなさい!」
「ままー! ままー!」
「子供たちを頼む!」
あちらこちらから民の悲鳴が聞こえてきた。
「今のマリオネット操作だけじゃ、助け切れないぞ」
「な、何とかならんのか? わらわの矢もなくなって来たぞ」
直哉は、矢を大量に造りエリザに渡しながら、
「これは、あまり使いたくはなかったけど、民の命を救うためだ!」
アイテムボックスからクマのぬいぐるみを五つ取り出した。
「疑似部位連携! そしてマリオネット!」
「まさか直哉! そんな事をしたら、脳をやられるぞ!」
ラリーナの警告に、
「限界までやって見る」
と答え、クマのぬいぐるみを疑似部位連携で直哉のスキルを使えるようにして、それぞれにマリオネットを使用させた。
「くぅぅぅぅ」
情報量が六倍に膨れ上がり、直哉の脳が悲鳴をあげ始めた。それを見たエリザは、
「直哉殿にだけ無理をさせられん!」
新しくもらった矢を次々と撃ち始め、前方の敵に加え民を襲おうとしていた敵も倒し始めていた。
直哉は大量に余っていた鉄を、武具作成で鉄の剣と鉄の盾を百セットを順に造りながら、マリオネットでどんどん飛ばしていった。
「んぐんぐんぐ」
MP回復薬をがぶ飲みし、どんどん武器を造っていく直哉を見て、ルグニアの鍛冶職人は度肝を抜かれていた。
「何という奴だ! あれほどの量を次々作り出すとは! さては、奇術師だな!」
そして、各クマが二十セットずつ持ったところで、それぞれの戦場へ飛ばしていった。
この、直哉のおかげで民への被害が小さくなっていった。
エリザは敵を倒しながら直哉を見て、愕然とした。目・鼻・耳・口と顔のすべての穴から血を流しながら操作し続ける直哉であった。脳がオーバーロードして傷つくと、リジェネの効果で傷は塞がる。そして直ぐに傷が開く。塞ぐ。を繰り返していた。
結果、流れた血は戻らないのでどんどん流れているように見え、直哉は治っては傷つけられるという痛みを与えられる苦しみを味わっていた。
「くっ!」
途中で貧血による眩暈でよろめいたが、傍に居たエリザが直哉を支えながら、敵に矢を撃っていた。
(もうそろそろ限界だ。次の手は・・・・・)
直哉の意識が朦朧とし始めた時、
「ルグニアの兵士たちよ! バルグフルの勇者に続け! 敵の半数を撃ち、さらに押し返している! この好機を逃すな! 民を守り敵を撃て!」
アシュリーの激に、近衛騎士はもちろん、鍛冶ギルドのドワーフ達や、民間の兵士たちも武器を持って敵を押し返し始めた。
「エバーズは近衛騎士を連れて前面の敵を押し返せ! ダライアスキーは魔法でエバーズの援護と、傷ついた者達の回復を! 鍛冶ギルドと民兵の皆さんは、民を救う事を最優先に!」
「承知!」
「了解!」
アシュリーの指揮の元、エバーズとダライアスキーの連携で前面の敵を押し返し、傷ついた民たちも癒されていった。前線をルグニアの兵士達に任せ、リリ達は下がってきた。
「お兄ちゃん!」
「直哉様!」
「直哉!」
「直哉殿!」
リリ達は、その場でぐったりとして動けなくなった直哉の元に集まって、治療を開始していた。
「大量の血液を失ってます。火山の時より深刻です」
「うわーん。お兄ちゃん。死んじゃやだよ」
「直哉。お前が居なくなったら、私はどうしたら」
「ルグニアの民のため、こんなになるまで尽力してくれるとは、わらわの心が暖かくなったのじゃ」
その様子を見ていたアシュリーは、
(はぁ、直哉殿の所にはエリザが行きそうですね。私が行きたかったな。女王じゃなかったら、私も直哉殿に思いを打ち明けられたのかな?)
そして、街の西門付近まで押し戻したとき、西門の穴の傍に仮面をつけた男が立っていた。
「まさかここまでやるとは、正直思っていなかった。あのお方に授けてもらった魔物もこれで最後!」
そういうと、穴に向かって魔力を込めた男はその穴の中へ消えた、その直後、
「がおぉぉぉぉぉん!」
今まで以上の大きな叫び声と共に、大気を揺るがす振動が襲ってきた。
「うわぁぁぁぁ」
近衛騎士達は恐慌をきたしていた。
そして、穴からは一つ目の巨人が出てこようとしていた。だが、穴が小さくもがきながら出てくると、魔物が出現していた穴が物理的に壊れ塞がってしまった。
だが、十メートルを超える巨人の出現に、大パニックになった。
そんな中、リリとラリーナは立ち上がり、
「フィリアお姉ちゃん、お兄ちゃんをお願いします!」
「直哉は任せる! あの巨人は任せな!」
「光の加護を!」
フィリアは二人に光の加護をかけて送り出した。
そんな光景を見ていたエリザは、直哉が言っていた事を思い出していた。
「わらわがあのでかいのを仕留めれば良いのじゃな?」
そう言って、アタッチメントで止めていた最初の弓を装備し、連射弓をアタッチメントで止め直した。
「エリザさんも行きますか?」
フィリアの問に、
「わらわも、直哉殿に守る力を授かっておるのでな」
「そうですか。それでは、光の加護を!」
フィリアに光の加護を掛けて貰い、
「では、行ってくるぞよ。直哉殿のことをお願いするのじゃ」
「えぇ。任されました。ご武運を!」
エリザはフィリアに見送られ、戦場を見渡せる物見櫓へ向かった。
西門前は大惨事になっていた。巨人の装備していた棍棒は八メートルを超える長さに最大で三メートルを超える太さがあり、それをもの凄い速度で振り回していた。
直撃した兵士はミンチになり、かすった兵士は、身体が引き裂かれていた。
巨人が棍棒で地面を叩くと、地震のような揺れで動けなくなりそこへ、大量の石つぶてが襲いかかった。
エバーズ達は盾で、ダライアスキー達は光の防御陣で対抗していたがその戦闘力はすさまじく、一方的な戦いであった。
「ちぇっすとー!」
そこへ、氷を拳に纏い、風の魔法に乗ったリリが巨人の頭に突撃していた。
巨人は慌てて持っていた棍棒を上に振り上げた。脚ががら空きになったので、その脚にラリーナが噛みついた。
「シルバーファング! からの、ローリングファング!」
鋭い牙で巨人の右足のアキレス腱を噛み千切った。
「ぐおぉぉぉぉぉ」
巨人は始めて味わう痛みに戸惑いながら右膝をついた。
そこへ、リリの氷結魔神拳が炸裂した。
「はぁー、氷結魔神拳!」
振り上げていた右腕に炸裂した。
「よし!」
エバーズ達は喜んだ。
「不味いの!」
リリは巨人の横をすり抜けながら、その目が赤く変わっていくのを見ていた。
「みんな下がるの!」
その叫びに反応できる者などおらず、巨人は右膝をついたままの体勢で、左腕を地面に叩き付けた。
棍棒で地面を殴った時よりも大きな衝撃が走り、エバーズやダライアスキーはおろか、ラリーナもその余波を受けて吹き飛んだ。
西門周辺の壁は殆どが壊され、機能しなくなっていた。
エリザは西門より遠く離れた物見櫓より巨人を見上げていた。丁度左腕を叩き付けた後であった。
「しゃがんでいるのにあれだけ大きければ当てやすい」
充分に弓を引き矢をつがえて、巨人へ向けて矢を放った。
巨人はもう一撃加えようと、左腕を振り上げた時、何かが飛んできている事に気がつき、咄嗟に左腕で防御した。
ずばっ!
肉が弾け飛ぶ音がして、巨人の左腕はミンチになって降り注いだ。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ」
更なる痛みに巨人は怒り狂い、エリザの方へ視線を向けた。
その目に写ったのは、二発目の矢であった。
巨人は頭を動かして避けようとした時、後頭部にリリが居る事に気がついた。
ニヤリと渡ったリリは、
「雷を司る精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵に裁きの雷を!」
「サンダーボルト!」
雷の魔法をゼロ距離で巨人の頭に打ち込み、
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア」
風の魔法でその場から逃げていった。
巨人は雷の魔法で身体が一瞬硬直して、その一瞬の硬直時間の間にエリザの一撃が頭に飛んできた。
どぐしゃ!
何かが飛び散る音がして、巨人はキラメキながら消滅していった。
周囲は静寂に包まれた後、誰とも無く雄叫びを上げ始めた。
「いやっっっっっったー!」
「倒したぞー!」
「ルグニア万歳!」
「勇者様万歳!」
「アシュリー様万歳!」
ルグニアは未だかつて無いほどの歓喜に包まれた。




