第五話 オークの森
◆オークの森
「おー、横から見ると鬱蒼として薄暗いな、しかも広いし大きいな」
ゲームでは上から見ているため周辺がわかりやすかったのだが、実際に訪れてみると見通しが悪くなかなか骨が折れそうだった。
「よし! 気合い入ってきた! お兄ちゃん! いくよ!」
元気いっぱいにズンズン進むリリを慌てて追いかけていった。
リリは直哉から、回復薬やMP回復薬を数本ずつプレゼントしてもらい、上機嫌であった。
しばらく森を彷徨っていると、大きな木の下で三体のオークが昼寝をしていた。
リリは直哉に目で合図すると、オークに向けて突進していった。
「えい、やー」
冒険者の格闘スキルが炸裂し、一体目のオークは頭・顔・喉・胸・顎への五コンボで昏倒し、残りの二体は起き上がろうとしたところに。
「氷を司る精霊達よ、我が魔力に呼応し敵を討て!」
殴りながら詠唱し、魔力を発動体に溜め一気に放出する。
「アイスニードル!」
リリから氷結魔法が飛び出し、足を貫かれ動きを止められた。
「おりゃ」
直哉は動けなくなったオークに横斬りを数回放ち無事に仕留めることが出来た
昏倒したオークを含め、残りの二体はリリがキッチリと仕留め、初戦は完勝であった。
「ありゃ、お兄ちゃん意外と強いね。オークを数回斬っただけ倒せるなんて」
「いや、まぁ、このぐらいなら何とかね」
尊敬の眼差しで見るリリに対して、(剣のお陰なんだけどね)と罪悪感に苛まれながらも、オークの牙、オーク討伐証を回収していた。
「それに、このナックルもスゴい! 普通の攻撃はちゃんと出るし、魔法も杖の時より強い気がする!」
ないない。直哉はそう思いながらも、リリの特殊性に気がついた。
「そういえば、魔法を使ったとき殴りながら詠唱していたね?」
「うん、リリねお父さんに教えてもらったんだけど、その場に留まるより動きながら詠唱すれば魔術師でも強くなれるって」
何と言うことを教えるんだと思ったが、直哉は少し考えた後、
「リリちゃん! 魔法なんだけど、物理攻撃が当たると同時に発動する事って出来ない?」
リリは拳を振りながら、
「次試してみる」
頼もしい答えが帰ってきた。
次のオークは四匹が待ち構えていた。
三匹は戦士風、一匹は弓兵風の装備だった。
「三匹の足止めよろしくー」
リリはそう言いながら、突っ込んでいった。
「まじすか!」
直哉はリリを追っていったオークへ後ろから斬りかかった。
「よっ! ほっ! うりゃ!」
横斬りの連続でオークの注目を集めるのに成功し、三匹のオークが唸りながらにじり寄って来た。
「ちぇっすとー」
走り抜けたリリは弓を回避しつつ、弓兵オークに殴りかかった。
頭・鼻・顎と的確に攻撃を当てられたオークは、意識が朦朧としていた。
「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」
魔力を発動体に溜め一気に放出する。
「クールブリザード!」
顔面パンチと共に、氷系中級魔法を叩き込んだ。
オークの頭は凍りついた瞬間、パンチにより粉砕された。
この攻撃により、リリを強敵とみなしたオーク三匹は再びリリのほうへ走り出そうとした。
しかし、そんな隙を直哉は見逃さず、
「ほいっと」
横斬りで攻撃をヒットさせていく、武器は四属性の剣である。オークは火属性が弱点でその他は普通であるがゆえに、直哉の攻撃でも十分にダメージがあるのであった。
三匹中二匹はこの剣により倒され、残り一匹も瀕死であった。
「最後はイタダキ!」
MP回復薬を飲んだリリが走ってきて、氷結クラッシュ(直哉命名)で頭部を粉砕した。
「むごいな」
直哉は自分で考えた戦法が、予想以上の結果に恐れ戦いていた。
「おにーちゃん! リリ出来たよ!」
喜びながら走ってくるリリを出迎えようとしたとき、何かがわき腹を抉っていった。
「うぐっ」
その場で方膝をつきながら周囲を見渡すと、後ろにもう一匹弓兵が隠れていたらしく、ワタワタと弓を装填しているオークが目に入った。
「おにーちゃん!」
リリは、そのまま直哉の横をすり抜け、オークの方へ走っていった。
「こんちきしょー、よくもお兄ちゃんを!」
途中でオークからの弓攻撃をかわし、そのままの勢いで氷結クラッシュを放った!
ほんの少し身をかわしたが、頭の半分を粉砕されその場で倒された。
オークの身体を使って反転し直哉のもとへ帰ってきた。
「お腹大丈夫?」
リリは直哉のお腹を覗き込んだ。
そこは、リジェネの効果で金色に輝きつつ、修復している最中のお腹があった。
「おぅ、黄金色に輝いてる!」
「てい!」
直哉はお腹を覗き込んでいるリリの頭に垂直チョップを食らわせた。
「あうち、さすがに不意打ちは痛いよー」
涙目になって頭を押さえながら文句を言ってきた。
「あのね、心配してくれるのは嬉しいけど、いきなり人の服の中をめくって覗くのは失礼だと思うのだけど?」
「リリは平気だよ!」
きょとんとしながら言うリリに頭を抱える直哉であった。
「まぁ、回復薬も飲んだし、リジェネが発動しているからもうじき治ると思う」
「やだよ。お兄ちゃんまで死んじゃうなんて」
回復中のお腹に抱きつかれ、微妙にダメージを受けながらも、
「大丈夫、お兄ちゃんには不思議な力があるからこの程度じゃ死なないよ」
あやすように言い聞かせながら、小さな頭を撫でていた。
「くー」
そのまま寝てしまったリリを背負いながら、森の入り口方向へ進んでいく直哉であったが、その行く手をオーク達が取り囲んでいた。
(まいったな。リリを背負いながらオーク六匹はまずいな)
「グオオオォォォーーー」
ひときわ大きいオーク(バトルオーク)が叫び声を上げた。
戦闘開始の合図と共に、二匹の剣士型オークが飛びかかってきた。
「くっそ」
とっさに四属性の剣を横になぎ払い、ダメージを与え後ろに下がらせた。
「グルルルルルル」
オーク達はまとまって警戒していた。
直哉は指輪に魔力を注ぎ込み、一気に解き放った。
「喰らいやがれ! エクスプロージョン!」
もの凄い轟音と共に、オーク達の中心で爆発が起きた。
「はにゃ」
さすがにリリは目を覚ました。
「グオオオォォォーーー」
もの凄い熱量にさらされながらも、耐えたバトルオークがコチラに敵意を向けていた。残りの五匹は完全に消滅していた。
「リリ、戦闘態勢!」
直哉はそう叫んでリリの前に立ったが、一気に体内のMPを殆ど消耗した反動で立っているのがやっとであった。
「うぐぐぐぐ」
バトルオークの猛攻を四属性の剣でどうにか防いでいる直哉はジリジリと押されていた。
(このままでは、リリの所まで押し出される、というかその前に俺が死ぬな)
不吉なことを考えていた直哉であったが、エクスプロージョンの直撃を喰らったバトルオークは本来の動きの一割にも満たない攻撃だったので、なんとか防ぎきっていた。
そのとき、目を覚ましていたリリの詠唱が終わり、バトルオーク真横から飛びかかった。
「ちぇすとー」
バトルオークは慌ててガードしようと腕を上げたが、その腕を直哉が攻撃した。
「せぃ! 横斬り!」
完全に不意打ちになった直哉の攻撃は見事に腕に命中、度重なるダメージを負っていたバトルオークの腕を吹き飛ばし、そこへリリの氷結クラッシュが炸裂した。
「グオオオォォォー・・・」
バトルオークはその場でキラメキながら消滅した。
「つ、疲れた」
直哉はリリと共に、その場に座り込んだ。
しばらく粗い呼吸をしていた二人だったが、どちらともなく笑い出した。
「あははははは」
「わははははは」
「あー死ぬかと思った」
ひとしきり笑い合い生きていることを実感した後ドロップアイテムを拾いに行った。
「何コレ?」
リリは五匹が消滅した場所で、オークの牙、オーク討伐証の他に見慣れぬアイテムが落ちていた『シルバーリング』オークがごく希に落とす貴重品、装飾品として売る以外に使い道はないが高値で売れる。相場10G。
「おー、高値で売れるアイテムだね」
ほかに、バトルオークからはバトルオークの牙、バトルオーク討伐証、バトルオークのやいばが手に入った。
バトルオークのやいばは精錬すれば、武具などの材料になるアイテムであった
ドロップアイテムを回収し、オークの森の入り口まで帰ってきた。
◆オークの森 入り口付近の休憩所
休憩所には魔除けの魔法が付与された宝石が使われており、周辺の魔物は寄りつけないようになっていた。
中には数部屋用意されており、各部屋のプライバシーは守られているようであった。
空いている部屋を使い二人で泊まることにした。
「今夜は二人の初クエスト終了のお祝いだ!」
直哉は、木で作っておいたお皿を取り出しその上に酒場で買ったJTステーキをのせた。
「うわー、美味しそうなお肉!」
優雅な夕食をすませた後、リリは眠いらしく、
「お風呂行ってくる」
リリは装備を脱ぎ捨てると、奥の風呂へ直行した。
直哉は散らかった装備を回収し、破損箇所を確認していった。
確認後、修復するには鍛冶スキルのレベル2にあたる、武具修復が必要でスキルポイントはあるものの、見習いである直哉には覚えることが出来ない仕組みになっていた。
ステータス画面
ナオヤ
鍛冶見習い
冒険者ランク1
Lv:8
最大HP:88+200
最大MP:128+200
力:10+20
体力:8+20
知力:8+40
素早さ:8
器用さ:8
運:8+10
ボーナス 12
スキルポイント 8
スキル
戦士系:1
○横斬りLv2
○リジェネLv1
魔術師系:0
○魔力吸収Lv1
商人系:0
○目利きLv1
鍛冶系:1
武具作成Lv2
大工Lv2
冶金Lv2
(さて、そろそろ本格的に大工スキルを上げておくかな)
見習いを解除すべく自分の鍛冶屋を作るため、大工スキルを高めようと決意していた。
とりあえず、部屋にあるものを複製すべく、スキルを発動し近い形状の家具を作っていった。
椅子や机、ベッドに布団、ランタン、壁の装飾品など、どんどん作っていった。
「お風呂行ってる間に、違う部屋に移動したのかと思ったよ」
リリがお風呂から出てきたときに、部屋を間違えたと言って出て行こうとしたくらい、部屋の様子が激変していた。
大工スキルも無事に3になり、建物一覧の中に『店』が出てくるようになった。
「よし、準備完了だな」
直哉は上機嫌でリリの方を確認すると、家具だらけの部屋で器用に身体を丸めて眠っているリリの姿を見つけ、これは失敗したと、アイテムボックスへ作成した家具をしまっていった。
次の日、目を覚ましたリリが混乱したことは言うまでもないが・・・。
◆次の日
「さて、二日ほど余裕が出来たのだが、まっすぐ帰るかジャイアントトードの発生地の状態を確認しに行くか、どうする?」
リリは、今回の冒険が終わったら直哉とのパーティは解散してまた一人になる可能性を考え、悲しい顔になりながら、
「一日でも長く一緒にいたい」
直哉は言葉通りの意味に捉え、
「じゃぁ、蛇神の湖に寄ってみるか」
コマンド内のマップを見ながら蛇神の湖にあるクエストの説明を見てみると、
オークの森からは一日分奥まった所にある山の中腹にある湖で、湖の中央には古くから蛇のように長い身体の神様を祀る社があり、その神様からジャイアントトードを分けてもらっていると言うのが蛇神伝説であった。その神が何者かによって衰弱させられている、その原因を取り除くか神を倒すか見捨てるか選択によって難易度が変化する。
クエスト開始は蛇神との会話
(湖に着く前に一度作戦を考えた方が良いな)
直哉はクエストについて考えを巡らせていたため、リリの不安にはこの時点では気付いていなかった。