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第四十七話 アシュリー捜索

◆ルグニア北部の山道


直哉達は返してもらった馬車に乗り、山道を洞窟へ向けて移動していた。

場所はダライアスキーに教えてもらっていたので、出発前に入力して近くまでは馬車で行くことにした。


「このコタツとやらは良いのぅ。是非わらわの部屋にも欲しいぞえ」

すっかりコタツの虜になったエリザが、コタツの中でゴロゴロとしていた。

直哉達は、先ほどの戦闘の疲れを癒すため、眠っていた。


暫く走っていると、ガタッとメインストリートを外れる振動で直哉達は目を覚ました。

直哉は装備を整え出かけ際にダライアスキーに言われた事を思い出した。

「直哉伯爵をバルグフルの伯爵として信用し、エリザ様をお任せいたします」

(これで、エリザさんに何かあったら、リカード達に迷惑がかかるな。まぁ、今は眠っているみたいだしそっとしておこう。さて、表に出て周囲の警戒をしますか)

直哉は御者スペースに移り警戒していると、リリとフィリアが隣にやってきた。そして、狭いながらも後ろにラリーナが控えていた。


「しかし、慌ただしくなっちゃったね。ルグニアではもっとゆっくりと過ごせると思っていたのだけど、残念だったね」

「違いますよ直哉様。これは必要な事だったのです。コレを終わらせて、四人でゆっくりと羽根を伸ばしましょう」

「おう!」

直哉はまだ見ぬフィールドを考え楽しんでいた。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん!」

「ん? なんだい?」

「水の神って何なの?」

「んー、何だろう。ゲームでは鍾乳洞の中に何か居たかな?」


(ぶっちゃけ、ルグニアのクエストなんて覚えてないよ。氷の魔法と武具の調達くらいでしか寄ってないし。ここで稼ぐより、火山の迷宮とか西の大草原ソラティアにある塔とか遺跡なんかが美味しかったから良く覚えているんだけどな)


「気を引き締めていこう」

「はい!」

そう言いながら、直哉にべったりな三人であった。



鍾乳洞へ続く小道の前で馬車は止まった。直哉達は馬車を道から外し、他の馬車が通れるようにしてから鍾乳洞の入り口へ向かうためエリザを起こし装備の確認を始めた。皆の装備を整えている時、エリザの持っている弓が目に入った。

「凄い弓ですね、物凄い魔力を秘めている」

エリザは弓を見つめ、

「そうなのじゃ、この弓はお父様が残してくれた大切な物なのじゃ」


「へぇ、お父さんが・・・って、お父さんってエルムンドの事? 会った事があるの?」

直哉は驚いて聞き返した。

「そういえば、会ったことは無いのじゃ。でも、何でわらわはこの弓がお父様の物って知っているのじゃ?」

エリザが悩み始めると、弓から黒い霧があふれ出してエリザを包み始めた。


「うぅぅぅぅあぁぁぁぁ」

エリザは苦しみだした。

「何だ?」

「お兄ちゃん!」

「直哉様!」

「直哉!」

四人は臨戦態勢を取った。



「うぐあぁぁぁぁぁぁぁ」

黒い霧はエリザの中へ染み込んだ。そして収まった時、エリザの様子は一変した。自分の身体を触りながら、

「ふぅ、他人の身体は居心地が悪いな」

「!」


直哉達は驚いた。

「お前は誰だ!」


その言葉に、エリザに取り付いた何かは、

「ふはははははははは! お前には何に見えているのだ? それが真実だ!」

エリザの顔と声で高笑いする謎の人物。直哉は注意深く観察した。


(乗り移った様に見えたけど、よく見ると弓から力が溢れていて、エリザの身体に入り込んでいるな。きっとあの弓が鍵だな)

直哉がリリ達を見ると頷いてくれた。

(よし、武器破壊用の武器を造ってと)


「みんな! 援護を! くれぐれも殺さないように!」

「直哉は、難しいことを言ってくれる」

「リリ、頑張るの!」

「直哉様、お任せを!」


「ふははははははは! この私と一戦交えるというのですか! 愚かな者共よ、死になさい!」

そう言うと、エリザは無造作に矢を撃った。

「こんな攻撃に当たるわけが」

ラリーナはかわすまでも無く突撃していたが、途中で矢の軌道がラリーナの方へ変わり飛んできた。


「くっ」

ラリーナはギリギリでかわしていたが、攻撃をすることが出来なくなっていた。

「ラリーナ!」

直哉はラリーナを守ろうと盾を飛ばして矢を弾き飛ばした。だが、弾かれた矢は弾かれながら、更にラリーナへ向かって飛んできた。

「なんだと!」

ラリーナは虚をつかれ、とっさに出した左腕を貫かれた。

「くっ」

ラリーナは苦痛に顔を歪め、それを見たリリは、


「こんのーなの!」

物凄い勢いでエリザへ向かって突進していた。

エリザはそれを見て、今度はリリに向かって弓を構え、矢を放った。


直哉はその攻撃を見ていたとき、矢を放つ前にリリへ向かって何かが出ていたことに気がついた。

ラリーナの左腕を貫いた矢は、依然ラリーナを追い続けていて、直哉はそれを凝視すると、矢とラリーナの間に黒い糸のような物が見えた。


「それだ!」

直哉はマリオネットを使い、ラリーナの身体から出ている黒い糸のような物を切断した。

その後、矢はあさっての方向へ飛んで行った。


「ほぅ。この弓の特性を見破るものがおるとはな。くっ」

その時エリザは戦っていた。得体の知れない者が自分の身体を使い、一緒に姉を探してくれている人達に刃を向けている事を止めさせるため、自らの身体を取り戻そうとしていた。

「えぇい、大人しく身体を明け渡せ! この馬鹿娘が! この腕も、この胸も、我が血肉の一部で出来ておるのだ! この身体は私のものだ! ふははははははは」

エルムンドは乗っ取った身体を触りながら叫んでいた。エリザの抵抗もむなしく、父親の造った弓の力は強力で、自由を取り戻すことが出来なかった。



「この下種が!」

直哉が悪態をつくと、エリザはむっとした顔で、


「言うに事欠いて、この私を下種呼ばわりか。仕方ない、この矢は本来ならば、最初にあの忌々しいバルドズムの娘に放つ予定だったのだが、お前たちで性能を確かめられたと思えば良しとするか」

そう言って、無数の矢を取り出して直哉達に数本ずつ狙いをつけて放った。


「みんな! 糸を切るんだ!」

直哉は力の限り叫んだ。リリは矢をかわしながら直哉がやっていた事を思い出していた。


(あれは、見えない糸を切っていたの。前にもこんな事があったの。あの時はクマさんが空中に止まったから何かあるって分ったのだけど、今回はどうしよう・・・・)

と、悩んでいると、フィリアが、


「戒めよ! エンジェルフェザー!」

と、羽根を展開し、自分の全周囲を攻撃させた。


「そうか! 見えないのなら、全方位攻撃すればよいのか!」

リリはそう言って、


「舞い散れ! サクラ!」

リリは自分の周囲にサクラを展開させた。


「ふははははは。なかなか面白いではないか! それならば、これで・・・・。くっ。だから、お前は黙って・・・」

「皆のもの! 今じゃ! わらわを殺すのじゃ!」

「きさま、何を・・・」

エリザが自分の身体を少し取り戻し、懸命に動きを止めていた。

その隙にリリ、フィリア、ラリーナは自分に付けられた黒い糸を切断していた。


直哉は、造っておいた武器破壊用の剣を装備してエリザへ突撃した。

「エリザさん! そのまま頑張って!」

数秒でエリザの元へ辿り着き、武器を振るった。


「縦斬り!」

バキン!

直哉の攻撃はエリザの持っている弓を的確に捉え、武器破壊の効果が現れた。


「なっ! この私の造り上げた弓が壊れるだと! お前の持っている武器は私より魔力が強いとでも言うのか! くそぅ。この身体を維持することが出来ない」

エリザが震えているところへ、


「フィリア! 浄化の光を!」

「承知いたしました!」

フィリアは魔力を集中させて、

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力に呼応し穢れを祓い給え!」

「ピュアリフィケーション!」

浄化の光はエリザを包み込んだ。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

物凄い断末魔とともに、エリザから黒い霧が消滅した。その場に倒れそうになったエリザを直哉が支えた。


「とりあえず、大丈夫だな」

「恐ろしい武器でした」

エリザが意識を失い、直哉達もダメージを負ったため、休憩を入れることに。

(ミーファさん達はしっかりハーブを量産してくれているな、使ったら直ぐに足してもらえているのは物凄くありがたい)



みなの装備品と消耗品を整え終わった頃、エリザは目を覚ました。

「こ、ここは・・・」

エリザを看病していたフィリアは、

「目を覚ましました?」

と言って、エリザが起き上がるのを助けた。


「そうじゃった。わらわは取り返しの付かない事をしてしまったのじゃ」

そう言って、涙を流し始めた。

「お主達がいなければ、わらわは姉上を殺してしまっていたかもしれないのじゃ」

「操られていた時の事を覚えているのですか?」

「あぁ、全て覚えておる。それに、わらわの心の奥に潜む黒い思いも分ってしまったのじゃ」

「そうですか。では、これからどうします? 俺たちはこのままアシュリーを探しに行きますけど」

「今、姉上に会ってしまっては、わらわの黒い思いが噴出してしまう。それが恐ろしいのじゃ」

そう言って、自分の身体を抱きかかえてうずくまった。


「ふん。くだらん」

それを、ラリーナが一蹴した。

「なんじゃと!」

エリザはラリーナを睨みにつけようとした。


「そんなの、誰にだってある感情ではないか! 私にだってあるし、リリやフィリアにだってある。それに、おそらく直哉にだってあるさ。だが、それから逃げていても何にもならない事はみんな分っている。だからこそ、このように集まって行動している。いつか乗り越えることが出来る、その日まで間違いを犯しそうになれは、信頼する仲間がちゃんと受け止めてくれると。お前のやっていることは、ただの逃げだ。それをくだらんと言って何が悪い!」


「わらわの事も止めてくれるか?」

「俺たちを信頼してくれるのなら」

エリザはうつむき考えていた。

「ならば、ついて行くのじゃ。わらわも姉上に会いたいのじゃ」

「わかりました。それでは、行きましょう」



直哉達は鍾乳洞の前にたどり付いた。

「不気味ですね」

「確かに。ゲームでは出せない雰囲気が溢れ出てるよ」

エリザは直哉からマントを渡され装備していた。以前の冷気のマントに暖房効果を付けた快適マント。暑さにも寒さにも対応した優れもの。魔法の力で、マントを着けているだけで、頭の先から足の先まで寒さ暑さを防御してくれる代物であった。

「この様なアイテムを造り出せる鍛冶職人など、このルグニアでも中々お目にかかる事が出来ない程の腕前じゃぞ」



先頭にリリとラリーナ、次にフィリアと続き、最後方に直哉とエリザが並んだ。

「昨日から彷徨っているのなら、そろそろ追いついても良い頃だ。小さな痕跡も見逃さないように慎重に行こう」

「了解!」

皆は返事をしながら、装備したランタンの明かりを照らし、さらに五感をフルに働かせながらゆっくりと進んで行った。

だが、戦闘の痕跡は無く、また野宿したような形跡も見あたらないため、この鍾乳洞には迷い込まなかったのでは? という考えが頭をよぎり始めた。

「誰も居ないの」


リリ達は最深部にたどり着いたが、人はおろか魔物にも会わなかったので、拍子抜けであった。


(鍾乳洞ってこんなに狭かったかな? うーん。そもそも、ここまで狭くて魔物も居ないのなら俺の記憶に残っているのはおかしいよな・・・。何を忘れているのだろうか?)


その時ラリーナが何かを見つけた。

「直哉! ここを見てくれ」

ラリーナが指し示す床を見ると、何かを引きずった跡が壁に向かってあった。

「あっ! 思い出した。隠し扉があったんだ。一度開けたら開きっぱなしだったから忘れていたよ。たしかこの辺に解除用のレバーが隠してあったような」

直哉が隠し扉の近くにレバーを見つけて、作動させると扉が横にスライドして奥に進む道が現れた。

「ここは、確か入ったら鍾乳洞の中にガーディアンモンスターが出る仕掛けになっていた。モンスターは巨大なスライムの化け物で、物理ダメージを与えにくく魔法も水や氷は吸収する魔物だった気がする」

「それは、ゲームの話しですか?」

「あぁ。爆発系魔法の連発で倒せて、結構良い経験値が貰えるやつだった。ただ、一度でも出した事がある人が来ると、この扉は開いたままになってガーディアンモンスターも出現しなくなるやつだ」

「つまり、強敵が出現する可能性があるって事ですね」

「そうなるね。しかも、俺の爆発系魔法は、まだ使用できないし、面倒な事になりそうな予感がするよ」

「それでも、姉上を見捨てる事は出来ません」

直哉は考えていた。

(でも、その条件だと、先に行っているはずのアシュリー様はどうやってこの奥に行ったんだ? 昔来た事があるのかな?)



「虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うし、行きますか」

「了解(です、なの、だ)」

直哉を中心に隠し扉の中へ入っていった。


隠し扉の奥はどこからか赤い夕日が差し込み、周囲を赤く照らしていた。

「綺麗なの!」

リリが足を踏み入れると、直ぐ傍の台座に女性が横たわっていた。

「姉上!」

エリザがアシュリーへ駆け寄り抱きしめた。直哉達も周囲を警戒しながら辿り着くと、アシュリーは目を覚ました。

「ここは?」

「洞窟の、中なのじゃ」

「どうして・・・・、あぁ、そうか、私はここで血を流してお母様の治療をしようとしていたのでした」

その時、ようやく直哉達の事が目に入った。


「お前たちは、何者だ! 私を誰だと心得る!」

「アシュリー様ですよね? 俺は直哉伯爵、バルグフルの宮廷魔術師から貴方宛に親書を預かっております」

そう言って、親書を見せると、

「それは、確かにバルグフル王族の紋章」

「お受け取りください」

そう言って、直哉は差し出した。アシュリーは内容を確認すると、


「そなたが直哉と申したな? では、こちらのピンクの方がリリ、黄金色の方がフィリア、そして、こちらの銀色の方がラリーナで間違いないか?」

「はい。その通りであります」

「と言う事は、この内容も本当ということになるか。一度城に戻ろう。お母様の治療法が気になりますが、それ以上に民の事が心配です。直哉伯爵、申しわけないが私たちを城まで連れて行ってくれないか?」

アシュリーの申し出に、

「もちろんそのつもりです。一つ確認なのですが、アシュリー様は以前にもこちらの洞窟へ来たことがあるのですか?」

「えぇ、小さい頃に。そういえば、始めてきた帰りに魔物に会いましたが、その時はエバーズ達が守ってくれたので助かりました、しかもそれ以降は見てませんね」

「そうでしたか。ということはアシュリー様と一緒に行けば戦わずにすみそうです」



直哉達は、元の道を引き返して、無事に馬車まで辿り着いた。

「この馬車なら、城まで一時間かからずに戻れますので時間にも間に合いそうです」

「そうじゃの」

馬車は城への道を突き進んでいった。

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