第四十六話 ルグニアで起こっている事
◆ルグニアの街
傷の手当てをして、MP大量消費の目眩も無くなり、本調子に戻って来た直哉達は、アンナと共に城へ向かっていた。その途中でアンナは直哉に聞いてきた。
「少し聞いてもよろしいですか?」
「何でしょうか?」
「あなたは何者なのですか?」
「私は、バルグフルの冒険者で鍛冶職人の直哉伯爵です。あなたはアンナさんでよろしいでしょうか?」
直哉はルグニアに来る前に事前に決めていた自己紹介をした。
「そういえば、私も自己紹介をしていませんでした。私はルグニア国の近衛騎士団特別警護隊アンナです」
「どうもご丁寧に。こっちはリリでこっちがフィリア、そして後ろがラリーナです。それで、聞きたい事とは何でしょうか?」
アンナは少し考えてから、
「この時期にルグニアへ来る方は商人ぐらいなもので、冒険者が来た事に驚きで。差し支えがなければ入国理由をお聞かせ願えませんか?」
直哉は隠す必要もないので、
「公にはバルグフルからの親書を届けに、個人的には鍛冶職人の上級職をめざしに来ました」
「その歳で、上級職ですか? あ、いや、悪気はなかったのですが」
「お兄ちゃんは凄いの! この装備も全部お兄ちゃんが造ってくれたの! あー、そうだ。サクラが少し燃えちゃったの、直せる?」
リリは、花びらを見せるように回った。
「あらら、俺を助けるためとはいえ、ずいぶんと無理させちゃったね。ありがとうサクラ、リリを守ってくれて」
そう言うと、武具修理のスキルで修復した。
「これが、限界かな。後は造り直さないと駄目だな。ただ、今は素材がないから造れないけどね」
リリの防具が一瞬で直るのを見て、
「い、今のは、何なんですか? 防具が一瞬で新品になったのですが・・・」
直哉はしまったという顔をして、
「あっ、いつもの癖で使ってしまったのですが、出来るだけ人前では使用しないようにするのでした、これは他言無用でお願いしますね」
「直哉様もリリさんも迂闊すぎです」
フィリアが苦言を呈した。
「予想を上回る方のようですね」
アンナは驚きながら直哉達を観察していた。直哉は盗賊風の黒が基調の装備品で剣と盾は装備していない、リリはピンクが基調の武道家風の装備品でナックルを装備していた。フィリアは重戦士風の金を貴重にした装備で、バトルハンマーを装備していた。ラリーナは、直哉と同じように盗賊風で銀色を基調にしていて長巻を装備していた。
「不思議な方々ですね。ルグニアには居なかったタイプの人ですね」
「お城へ向かいましょうか?」
直哉はみんなと共にお城へ向かった。
◆ルグニア城
直哉達が到着すると、アンナが取次ぎをしてくれて、城の応接室へ通してくれた。
「それでは、皆さんを呼んできます」
アンナの言葉に、
「その必要はありません」
ダライアスキーがエバーズとエリザ、それに近衛騎士を数名連れてやって来た。
「良く来てくれた、礼を言う」
エバーズは直哉に頭を下げた。
「こちらが、わらわを救ってくれた若者かえ」
「そうです、アンナと共にエリザ様の窮地をお救いした者です」
「そうか、あの窮地から救出出来るとは、助けて頂きありがとう存じます」
エリザはペコリと頭を下げた。
「どういたしまして。それと、始めまして、俺は直哉と申します。バルグフルで鍛冶職人の冒険者をやっています」
「これは、ご丁寧にありがとうございます」
そういうと、ダライアスキーを見て彼が頷いたのを見てから、
「申し送れました、わらわはエレザじゃ。現国王アシュリーの妹じゃよ」
「そうでしたか、それで、あなたがあそこに居たのは何故ですか?」
「それは・・・」
直哉の質問にエリザは言いよどんだ。
「それは私から話します」
ダライアスキーが助け舟を出した。
「エリザ様は姉のアシュリーを探しておられたのです。だから、あれほど危険ですと申したではありませんか」
「ごめんなさいなのじゃ」
「いくら弓の扱いが国中で一番巧くても、戦闘力の強さには繋がらないのです」
「ううう」
エリザは小さい身体をさらに小さくして聞いていた。
「姉上を見つける前に、レッドムーンの連中に見つかるとは、ついてないのじゃ」
エバーズは、
「近衛騎士に成り済ましていたので、もしかしたらその辺に居るのかもしれません」
「それは、こちらも同じです。一体どこから湧いて来るのか」
ダライアスキーもため息をついた。
「さて、直哉伯爵とアンナよ、状況を報告して貰えるかの」
アンナが前に出て、
「エリザ様を追って、街に行くと既にレッドムーンとの構成員と戦闘中で、私が加勢したところ、一目散に逃げていきました。その後城に戻る道を行くと、構成員達が道を封鎖していたため、近くの民家へ逃げ込みました。そこがルーシーさんのお宅で最上階の部屋に逃げ込みましたが、レッドムーン放った火の集合体に追い詰められていきました。そこへ、こちらの直哉さん達が来てくれました」
「途中の階は見ました?」
「いいえ、直ぐさま最上階へ行ったので見ておりません」
「そうですか」
直哉はあの時の状況を思い出していた。
「現場に駆けつけた時、その場にいた近衛騎士達に許可証を見せて話しかけたが、無視されたので問答無用で押し入りました。途中の階で奇妙な箱を見つけましたが、生存者救出を最優先にしたので、上の階へ行くと、炎の集合体が壁をつくって居たので、ぶっ飛ばして部屋に入ると、アンナさんが二人を守っていました。その場の集合体を殲滅後、倒れていた二人を抱えて下の階に行こうとしたのですが、部屋の入り口をイフリートの姿をした集合体に阻まれ、窓も開かなかったので、壁をぶち壊して外に出ました」
「壁をぶち壊してって、そう簡単には壊せぬだろう。何をしたのだ」
エバーズの疑問に、
「このマジックアイテムを使いました。一日に一度だけ爆発魔法が撃てる指輪です」
ルグニア一同は興味津々でのぞきこんだ。
「バルグフルでは、このようなアイテムが出回っているのですか?」
ダライアスキーは脅威を感じながら聞いた。
「いや、俺しか持っていないようです」
「そうですか、ちなみに直哉さんは作成できますか?」
「残念ながら、今のままでは作成出来ません。ですが、上級職になれば作成できると思います」
ダライアスキーは目を見開いて、
「それは凄い! そのときは是非ルグニアとも取引をお願いしたいですな」
「取引に関しては、バルグフルの宮廷魔術師を通していただければ問題ありません」
「そうか、既に契約を結ばれていたか、残念だ。でも、バルグフルの女豹と交渉してでも欲しいな」
「そういえば、屋上で戦っていたときも、見慣れぬ武具を使っていたな。俺用のも造れるのか?」
「素材さえあれば造ることは可能です」
直哉の言葉にエバーズは身を乗り出して、
「まじか! 素材は何があればよいのだ?」
「ベースとなる武具の素材に、操作用の腕輪の素材、そして、念動力を生み出す念動石とその念動力を通しやすいゴーレム岩です」
「・・・・・念動石とゴーレム岩だって? それだけで、何十Gもする代物ではないか! 流石に無理だな」
エバーズはがっかりして座り込んだ。
「先ほどの件はこの辺りで終わりにして、そろそろ、アシュリー様の件をお聞かせ願えますか?」
直哉は話が進まないので切り込んだ。ダライアスキーは、
「少々長い話になりますので、こちらの柔らかい椅子の方へどうぞ」
皆に飲み物と軽くつまめる物が出されて、それぞれ思い思いの場所に座った。
「まずは、このルグニアについてお話しさせて頂きます。現国王のアシュリー様のご両親ですが、父親は前国王のバルドズム様で母親はお后様のシギノ様です。アシュリー様が産まれた年に不幸に見舞われ、前国王のバルドズム様が崩御された。その後王位を誰に継がせるかで王国が分裂しそうだった時に、シギノ様は王位はバルドズム様の血が流れる、娘のアシュリーが継ぐべきとおっしゃったので、アシュリー様は産まれた年に国王となってしまいました」
「そんな無茶な」
直哉の言葉に、
「そうですね。私もそう思いました。バルドズム様はご自分が崩御しても、数年は国の繁栄を保てるだけの組織を作り上げており、私とエバーズ、そしてエリザ様の父であるエルムンドの三人でバルドズム様がなさろうとしていた大方針を受け継ぎ、幼いアシュリー様とシギノ様をお支えしていたのです」
(あれ? アシュリーさんとエリザさんって姉妹じゃないの?)
「そして、大きな混乱も暴動も起こらず二年が過ぎた頃、大事件が起きました。シギノ様がエルムンドに襲われ身籠もってしまったのです。当時シギノ様にはエルムンドの他に私とエバーズからも侍女を付けて警護していたのですが、殆どの者は殺された後で犯されていて、生き延びたシギノ様と侍女の証言により犯人はエルムンドだと判明しました。事の真相が明るみに出る前にエルムンドは行方を眩ましていて、発見する事が出来ませんでした。その後、シギノ様はエリザ様をご出産されました」
(また、凄い生い立ちが出てきたな。女王様と犯罪者の子供か)
「その後、十五年の歳月が過ぎました。その間は大きな混乱もなく平和だったのですが、数ヶ月前から黒い衣を纏った怪しげな人物が彷徨くようになり、シギノ様が原因不明の病に倒られました。症状は眠っているだけのように見えるのですが、目を覚ます事が無いのです」
(火山での症状に似ているな)
「そして、昨日レッドムーンからの犯行声明があり、シギノ様の症状を治療するには前国王の血を引くものの生き血を祭壇に捧げる事だとの書状が届きました。それを読んだアシュリー様は祭壇に向かったかと思いきや、途中で道に迷ったようで居なくなってしまったのです」
「それで、捜索してほしいとの事ですね」
「はい。そういうことです」
直哉は情報を整理しながら、
「ルグニア周辺の地図はありますか? できれば祭壇方面が詳しく載っている地図が」
ダライアスキーは用意しておいた、周辺の地図を直哉に見せた。
(やっぱりそうだ。ゲームの時に氷の禁呪を修得する祭壇だ。取得するのに必要手順があるから今すぐには修得出来ないけど。ということは、間違いやすいのは、この辺にある鍾乳洞だな)
「こちら側に鍾乳洞ってありますか?」
「鍾乳洞?」
「洞窟ならどうですか?」
ダライアスキーはしばし考えていたが、エバーズが、
「もしかして、あの洞窟か? 中に水が溜まって奥に祭壇みたいな棚があるところ」
「あぁ、あれか」
「もしかしたら、スライム系が居ますよ。あの鍾乳洞は」
直哉はゲームの知識を思い出していた。
「あの洞窟は水の神が住んでいると言われている。何事もなければよいが」
「とにかく、捜索隊を組織しよう」
「待ってください」
直哉が二人を止めた。
「時間が惜しい、待ってはおれん」
「何かあるのですか?」
直哉の待ったにエバーズは飛び出しそうになり、ダライアスキーは忠告を聞こうとした。
「城内にもレッドなんちゃらの構成員がいるのですよね。今ここで大騒ぎをして知られては危険なのでは?」
「確かに一理あるな。では、どうするのか?」
みなが頭を悩ませているとエリザが、
「ならば、ここにおる者を二手に分けて敵の目を分散させるのが良いと思うぞ」
「どう分けますか?」
「姉上救出には、直哉たち冒険者とわらわ。この街の防備にエバーズとダライアスキーとアンナを中心とした近衛騎士たち。エバーズ達は、今日わらわが戻ったので宴を開く準備をすると言う事にして、敵の目を集めておいておくれ」
「しかし、エリザ様が危険です」
「このような武具を身に纏っておる者達ならば、その城に居るより安全であろう」
城の者達が話し始めたので、直哉はスキルを発動し、今のうちに消費した回復薬系を補充していった。
ついでに、魔畜棺にもMPを最大まで充填しておき、最大限支援できるように準備をしていた。
リリは少なくなったサクラを再編していて、フィリアは瞑想して光の精霊とコンタクトを取っていた。ラリーナは長巻の手入れを始めた。
「もしかして、直哉さんたちは捜索に出ていただけるのですか?」
手入れ始まったのを見てダライアスキーが聞いてきた。
「もちろんです。困っている人を無視することは出来ませんし、俺たちもアシュリー様に用事がありますので、準備が出来次第、捜索に向かいますよ」
「ほら! だから、わらわもついて行くのじゃ」
「足手まといは要らないぞ」
割り込んできたエリザに、ラリーナが突っ込んだ。
「むっ。わらわはこれでも弓の使い手じゃぞ?」
「さっきも話していた通り、実戦はそんなに甘くない。そんな考えなら冒険に出ないほうが身のためだ」
「むー」
ラリーナの言葉に涙目になったエリザが頬を膨らませて抗議していた。
「見た目は十歳前後だが、先ほどの話だとすでに十五は超えているんだよな。不思議だ」
「不思議ではないぞ。我が父はドワーフじゃからの。まぁ、母は人間じゃが。ドワーフの血が混ざっておるので、人間の半分の速度で年をとるから、この時期はどうしても若くなってしまうのじゃ」
「そうなんですか。と言う事はアシュリー様も半ドワーフなのですか?」
「そうじゃよ。母親は同じじゃからの。姉上の父君はドワーフの偉大な王族の末裔なのじゃ。その血を受け継いだ姉上も王族の末裔なのじゃ」
「では、そのアシュリー様を助けに行きますか」
アイテム等の補填が終了したので直哉はそう言って立ち上がった。
「わらわも行くぞ、直哉達だけでは姉上かどうか判断できないじゃろう」
「お城での陽動は、エリザさんが居なくても何とかなりますか?」
ダライアスキーは思案した後、
「後四時間で日が暮れます、それまでにお戻りください。日が暮れたら宴を始める予定で、お戻りになるまでは、アンナに身代わりをやらせておきます。ですが、くれぐれもお気をつけて。直哉様方もエリザ様をお頼み申し上げます」
苦渋の決断をした。
「それでは、時間が惜しいので俺たちは行きます」
直哉一行は、エリザを加え、迷子になったアシュリーの捜索に出かけるのであった。




