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第四十五話 初めてのルグニアで

雪と鍛冶の国 ~ルグニア編~


◆ルグニアへ続く街道


火山を後にして、山道をひたすら走り続け四日後の昼過ぎにようやく石造りの大きな城壁が見えてきた。

辺り一面は深い雪が降り積もり、馬車道と生活用の道は雪かきがされているものの、他の所は雪の壁になっていた。

「崩れて来たら生き埋めだな」

直哉はそうつぶやきながら自らが造り出した、簡易コタツに潜り込んだ。


馬車の床部分に毛皮を防火コーティングして敷き詰め、そこに溶岩石と木材を使用し家具の中にあったコタツを造り出していた。コタツ用の布団も造り出し、温々とした旅を送っていた。

雪が降り出した時は、リリが大はしゃぎで外を飛び回っていたのだが、今ではすっかり飽きてしまい、コタツの精になっていた。

「このコタツは魔性の道具ですね。入ったら出られないとは」

「今までは必要なかったけど、新しいコテージには標準装備してあるよ」

直哉達は夜通し馬車を走らせて進むか、夜はコテージで寝るかを話し合った結果、お風呂にゆっくり入りたいとの意見が満場一致となり、コテージを造ってゆっくり寝る事とした。


コテージは雪の中に造る事が多く、湿気対策のため外側を木材から石材へシフトして造り直した。

その際床部分に溶岩石を使用し、床暖房のような機能を持たせた。生活部分には木材を使用し、暖かみを出していた。そして、お風呂場とは別にサウナを造り寒さをしのいでいた。

「この馬車にコテージを連結させたいな。そうすれば、暖かい部屋でゴロゴロとしたまま目的地へ着けるのに」

直哉の駄目人間発言に、

「そうだな、この雪の中、鍛練後は泥だらけになるからすぐお風呂で洗い流したいな」

結局移動後、鍛練をして寝るを繰り返したため、四日の時間が過ぎていた。




◆ルグニアの街


街の入り口に着くと、大勢の馬車が止められて荷物のチェックをしていた。

「これだけで、一日は過ぎそうだな」

直哉達は順番を待つ間鍛練でもしようとしていると、街の方から数名の衛兵と共に聖騎士風の男がやってきた。直哉は、

「もしかして、鍛練を行うのは禁止ですか?」

そんな直哉の質問は無視し、

「この馬車はバルグフル王家の馬車、だが、お前達は王家のものではないな、この馬車を何処で手に入れた? 返答によっては斬らせて貰う」

衛兵達は槍をこちらに向けて威嚇してきた。

「みんな、落ち着いて」

リリ達がいきり立ってきたので落ち着かせた。


「俺は直哉。バルグフルで辺境地伯爵の爵位を頂いております。今回はバルグフルの宮廷魔術師であるシンディア様よりの命により、親書をお届けに参りました」

直哉が伯爵証を見せると、聖騎士は目を見開いて、

「その証は本物だな。だが、お主が直哉という証拠にはならん。詰め所で真偽を確かめさせて貰う」

直哉を捉えようとすると、リリ達がその前に立ちふさがった。

「直哉様! いつまで言わせておくのですか? この様な物の言われ方に腹が立たないのですか?」

「えっ? 今のところそのような要素は無かったけど? とにかくみんな落ち着いて、問題無いから」

直哉の説得により、三人は渋々ながら聖騎士の言葉に従った。

「詰め所に行くのは良いですが、馬車はどうしますか?」

「こちらで、預からせて貰う」

「借り物なので丁寧に扱ってくださいね」



直哉達が詰め所について、他の人たちから見えなくなると聖騎士は頭を下げた。

「誠に申し訳無い、他の者への牽制があったとはいえ、バルグフル王家の使者様にあのような言葉を使ってしまって、失礼しました」

「信じて頂けるのですか?」

直哉の言葉に、

「もちろんです。一般の方には知られておりませんが、王族の紋章が入った馬車は、王族の許可が下りた者だけが扱う事が出来る様になっておりますので、その馬車を動かしてきているのであれば、それだけで証明となります」

「だったら何故、直哉様を貶めるような発言をなさったのですか?」

フィリアは怒り心頭に発して、聖騎士に詰め寄った。

「フィリア、落ち着いて。俺は気にしていないから」

「ですが!」


「フィ・リ・ア! 俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、時と場合を考えてくれ」

「わかりました。直哉様がそう仰るのなら」

フィリアは渋々ながら引き下がった。

(ああやって、感情を爆発させるのは珍しいな)

「わかってくれたのであれば、リリを持っててくれるかい?」

そう言って、直哉に寄りかかって眠ってしまったリリを担ぎ上げてフィリアへ渡した。

「この様な時に!」

フィリアはプリプリしていたが、

「きっとリリにはこの場の空気が感じ取れるのだよ、外にいた時とは違い敵意を感じない事に」

「本当に申し訳無い、今は非常時でして行き来する人々を厳しく検問しているのですよ。それで、親書は誰宛でしょうか?」


「ルグニア国王のアシュリー様です」

その言葉に、周りの衛兵達が騒ぎ出した。

「静まりなさい。しかしアシュリー様ですか」

聖騎士も困ったような顔をして、

「とりあえず、王城へ参りましょう、宮廷魔術師のダライアスキーに取り次ぎます」

「わかりました、お願いします・・・。もしよろしければお名前をお聞かせ願いませんか?」

直哉の言葉に聖騎士は、

「これは、大変失礼いたしました。私はエバーズと申します。この国の近衛騎士団長を務めさせて頂いております」

「俺は直哉、冒険者で鍛冶職人もやってます。ほら、フィリア!」

「私はフィリアと申します、こちらの直哉様の妻です」

「こっちの寝てしまったのが、もう一人の妻のリリです」

そして、ラリーナが出てきて、

「私はラリーナ、妻候補生だ」

「なるほど。みんな妻とはなかなか豪華だな」

直哉達はエバーズに連れられ、近衛騎士の詰め所から直通の通路を通り、王城へ入った。




◆ルグニア城


王城に入ったとたん空気が変わり、辺りがピリピリし始めた。

「んー、何か嫌な感じなの」

眠っていたリリが目を覚ましてつぶやいた。

「ダライアスキー! 今いいか?」

玉座の傍で文官に指示を飛ばしていたローブ姿の男に声を掛けた。

「このくそ忙しい時になんだ!」

「アシュリー様に面会だ」

「こんな時に何処のどいつだ!」

「バルグフルの宮廷魔術師からの親書を持って来たと言っている」

その時ダライアスキーは直哉の存在に気が付いた。

「そちらの方が親書をお持ちなのですか?」

こほん、と咳払いをしてから、


「私はルグニアの宮廷魔術師のダライアスキーです」

「俺は直哉、バルグフルで辺境地伯爵です」

「それで、親書を持っているとの事ですが、渡してもらえますか?」

「はい、こちらですがアシュリー様へ直接お渡しするように厳命されております」

親書を取りだし、王族の家紋を見せながら言った。

「それは、困りましたな。現在アシュリー様は不在です。お戻りになられましたらご連絡を差し上げます。よろしければお部屋をご用意いたしますが?」

「あ、他にもやる事がありますので、街での滞在許可をいただけるありがたいです」

「わかりました、今から手配しますので、少々お待ち下さい。エバーズ! 粗相の無いようにな」

そう言って、滞在許可証を作成しに行った。


残されたエバーズは、

「聞かないのですか?」

「何をですか?」

「アシュリー様の事を」

「特には何も」

エバーズはジッと直哉の顔を見て、

「変だとは思わないのですか?」

「変だと思いますよ。ですが、それを話さないという事は、聞かせられない事情があるという事、わざわざ虎の尾を踏みには行きませんよ」

「ただの阿呆かと思ったが、なかなかの奴だな、気に入った」

「それは、どうも」


直哉は対他国の要人との対応貫いた。

(一応公式の場だしリカード達の評価を下げる訳にもいかないからな)

そこへダライアスキーが帰って来て、

「お待たせしました、こちらが公式の滞在許可証です。ちなみに何をするおつもりですか?」

「鍛冶ギルドで上級職になろうと思っています」

「そうでしたか、直哉伯爵は鍛冶職人でいらっしゃるのですね。紹介状を書きましょうか?」

「これは、俺の個人的な事なので、そこまでしていただくわけにはまいりません。お気持ちだけ受け取っておきます」

ダライアスキーは、

「そうですか、差し出がましいことを申しまして、申し訳ありません」



直哉は滞在許可証を受け取って城を後にした。

「石造りの良い町だね」

「私は森の木々の方が好きですね」

「リリはおなか空いたの」

「これからの予定は?」

見事にみんなバラバラだったが、

「とりあえず、宿の確保かな? まずは冒険者ギルトか酒場で情報を得ながら飯の調達ですね」

直哉がそう言うと、

「冒険者ギルドならそこにあるよ」

ラリーナが目の前の場所を示した。

「目の前じゃないか!」

悪態をつきながら中へ入っていった。



ギルドの受付にはタヌキの獣人が受付をしており、

「ようこそ、冒険者ギルドへ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」

「俺はこう言う者ですが、しばらく滞在するので泊まれる宿と、飯が食える場所を教えてもらえますか?」

受付が直哉のタグを確認すると、

「こ、これは大変失礼いたしました。奥の個室へどうぞ」


(これは、何かあるな・・・・)

「わかりました。ただ、長くなるようでしたら、先に飯を食いたいのですが」

直哉はリリの方を見た。受付は悟ったようで、

「それでは、冒険者ギルド直営の酒場へご案内いたします。お食事が済みましたら、お手数ですが、私アンジェラにお声かけ下さい」

そう言って、隣接する酒場へ案内してくれた。


四人は飢えを満たすべく様々な料理を注文した。料金はバルグフルよりも割高ではあるが直哉一行の経済力からすれば問題は無かった。

「お肉料理が多くて嬉しいの!」

味付けは濃いめで、お酒が欲しくなる味で食べると身体が暑くなってくる料理が多かった。

直哉は、食べきれない料理は、直哉お手製の弁当箱に詰めてアイテムボックスへしまい込んだ。

四人は会計を済ませ、食後のお茶を楽しんでいた。


「さて、あの受付の様子じゃ、一悶着ありそうなんだけど、行きますか?」

「直接は監視されている様子は無いな」

「まぁ、後ろに誰がいるかが重要ですね」

「リリは身体動かせれば問題無いの!」


直哉達は冒険者ギルドへ戻りアンジェラを呼び出すと、

「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」

と、奥の部屋へ案内された。部屋の造りは石造りの頑丈な部屋で二人の人物が待っていた。


一人は獣人でサイの頭が着いていた。もう一人はエバーズであった。

「ふむ、彼が噂の人物だね」

「そうそう、中々切れそうだろう」

「ようこそ、ルグニアの冒険者ギルドへ、わしはオプトベーガス、見ての通りサイの獣人じゃ」

「はじめまして、冒険者で鍛冶職人の直哉伯爵です」

「まぁ、堅苦しいのは無しで行こうぜ」

エバーズは気さくに言い放った。


(リカードみたいな人だな)

「ん? 何か付いてるか?」

「いえ、それで、何か用でしょうか?」

エバーズは声のトーンを落として、

「今、この街は非常時と伝えたのだが、使者殿達の安全にも関わってくるので、話しておこうと思う」

「はい」

「現在不審火が相次いで起こっている、ルグニアの街はご覧の通り石造りの家が多いため周りに広がらない分、逃げ遅れた者はほとんど助からないのだ。十分注意して欲しい」


「原因はわからないのですか?」

「あぁ、不甲斐ない事にわからないのだ」


と、その時冒険者ギルドが騒然としてきた。

「どうしたのじゃ?」

オプトベーガスが外のギルド員に事情を聞くと、


「エバーズ様、また不審火です。今回は逃げ遅れた者が多数。現在ギルド員で救出に向かっていますが、思うように救出できていないとの事」

「わかった、近衛騎士団を派遣する、場所を!」

直哉は目の前で堂々と会話されていたので全ての事情を知ってしまった。


「みんな! 行こう!」

「はいなの」

「承知しました」

「わかった」

「エバーズさん、俺たちも向かいます」

「すまん。助かる。オプトベーガス、面倒ごとが起きないように活動の許可を出しておいてくれ」

「わかっておる。コレを持って行きなさい」

オプトベーガスは許可書を直哉に渡した。




◆ルグニア城下町


許可書を貰い、現場に駆けつけた直哉達は、燃えさかる石造りの家を目の当たりにした。

(五階建ての建物だな、四階までの窓が開いているのに、五階の窓は開いてないのか・・・。何かお札のような物がくっついているな)

「そこの人! 下がりなさい! 危険です!」

近衛兵の装備で、赤いスカーフを腕に巻いている集団に咎められた。貰っていた許可証を見せながら、

「中に逃げ遅れた方はいませんか?」

と聞くと、近衛騎士は口元をニヤリとしながら、

「もう助からん」


(何だろうこの笑みは。助からんという事は、まだ中に居るって事か)

「リリ! フィリア! ラリーナ! 居場所はわかる?」

そう言いながら、直哉は冷気のマントを改良し、燃えにくい素材のマントを作り上げた。

「ここからじゃ、何とも言えない」

三人とも居場所の特定は難しかった。


「時間が惜しい、リリ! このマントを着けた上に水と風の加護をかけて一緒に突入! フィリアはリリに魔法ブーストを! その後ラリーナと共に周囲の警戒を!」

直哉とリリは冷気のマント(防火仕様)を身につけ、その上から魔法ブースとされた水と風の加護を纏った。後ろではスカーフ付きの近衛騎士達が「邪魔をするな」とか叫んでいるが、全て無視した。


「風の加護で常に新鮮な空気を顔の周りに吹きかけて、煙を吸わないように」

「わかったの」

「直哉様お気を付けて」

「死ぬなよ!」

「おう。ここは任せた! おりゃ!」

入り口に冷凍瓶を投げつけ一気にその温度を下げ火の勢いを弱めた後、直哉とリリは燃えさかる家の中に入っていった。



「あいつと、あいつと、あいつと、あいつもか」

その場に残ったラリーナは、フィリアにわかるように敵意を持って見ている人を指さしていった。

「あの、腕に赤いスカーフを巻いている近衛兵は全員、敵意を持っているな」

「注意しておきましょう。狙いが何だかわかりませんので」



中はもの凄く炎が渦巻いていた。直哉は冷気のマントが燃えないことを確認すると奥へ足を踏み入れた。

(燃える物が少ないのにこの燃え方は不自然だな)

直哉がそう考えていると、リリが何かを感じたようで、

「上に誰か居るの、女の人の声がする」

「よし! 一気に行こう!」


リリはその言葉を聞いて、一気に上の階へ駆け上っていった。その後を直哉は警戒しながら登っていくと、三階部分に人が入れそうな程大きくて怪しげな箱があり、厳重に封印が施されていた。


(なんだ、これは?)


「お兄ちゃん! 早く来て! リリじゃ開けられない!」

上の階からリリの声が聞こえてきた。

「今行く!」

直哉がリリの元へたどり着くと、目の前に燃えさかる扉が立ちはだかった。

「なんだこれは? とりあえず、氷の魔法で温度を下げてみて」

何発か当ててみたが、すぐに蒸発して元通りになってしまった。


「駄目なの」

「それなら、物量作戦だな」

直哉はありったけの冷凍瓶を扉に投げつけた。初めのうちはすぐに回復していたが、冷凍瓶の数が増えるたびに、炎の勢いが無くなってきた。

「よし、後一押し」


その時炎の扉が変形し、炎の集合体の魔物が現れた。

「これなら、当てられるの!」

リリは拳に凍り魔法を付与して、無限拳を繰り出した。

逃げようとする炎の集合体に、直哉が回り込み、リリの攻撃範囲内へ押し出していった。

「あちょちょちょちょ!」

「えぃ、やぁ、とぉ!」

直哉達が攻撃していると周囲の壁から炎の集合体が集まってきた。


「敵が集まってくるの!」

「まずいな、先に進めない。リリ、MP残量は?」

「これ飲めば全快なの!」

そう言ってMP回復薬を飲み干した。


「よし、氷の魔法を叩き込むんだ!」

「はいなの!」


「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」

辺りが一気に寒くなり、

「クールブリザード!」

炎の集合体達は凍りついた。


「えー、凍りつくんだ」

自分で言った事とはいえ、炎が凍るところを目の当たりにして、思わず呆けてしまった。

「お兄ちゃん、ちゃんとするの!」

リリの叱責が飛び、


「悪い! そこ!」

バリン。バリン。炎の集合体は粉々に砕け散った。

「今だ、奥の部屋へ!」



直哉達が部屋に入ると、剣を構えた女性が一人、倒れている女性が一人、うずくまってる少女が一人の計三人が居た。


「大丈夫ですか?」

直哉の質問に、剣を構えた女性が聞き返してきた。

「貴様何者だ? 見ない顔だな」

「俺は、バルグフルの冒険者、直哉伯爵です。話は後にして逃げましょう」

剣を持った女性は一瞬考えたものの、

「わかりました。だが、窓も扉も開かなかった、どうやって扉を開けたんだ?」

「殴って開けました。とにかくこれを!」


リリが少女を担ぎ、直哉が冷却のマント(防火仕様)をもう一枚作り出し剣を持つ女性に渡し、倒れている女性を担いでもらった。そして、元の出口に向かおうとしたとき、入り口に巨大な火の塊が吹き上がった。


「くそ。まさか、イフリート!」


「あれは、何か変なの?」

リリは本能で何かを察知した。

直哉はマリオネットで盾を大量に取り出して、イフリートと自分たちの間に壁を築き上げた。


「リリ、その子を担いだまま飛べる?」

「えっ? うん行けるの」

「あなたは飛べますか?」

直哉の言葉に、剣を持った女性は、

「ここは五階ですよ? 不可能です」


「ですよね、わかりました。今から壁に穴を開けますので、合図をしたら飛び出してください。隣の建物まで道を作りますから。リリが先にその道を渡ってくれる?」

「何か造るの?」

「隣の建物まで橋を造ろうかと」

「大丈夫?」

「穴を開けてみて頑張る。何が起こるかわからないから、橋の向こう側にフィリア達を呼んでおこう」


直哉達の会話は意味がわからないといった表情の女剣士は、直哉が作った盾の壁がだんだん壊されていくのを見て恐れおののいた。

「直哉さんとやら、盾が保ちません」

「おっと、了解」

直哉はさらに盾を展開させながら、ラリーナに呼びかけた。



(ラリーナ! 直哉だけど。そっちはどう? こっちはかなり危険だよ)

(おぉ、直哉。こっちも、近衛騎士達と交戦中だぜ。面白いように敵が倒れていくぜ)

(勢いあまって殺さないでよ。それと、フィリアにも伝えて欲しいことがあるんだけど、良いかい?)

(あぁ、何だい)

直哉はラリーナにさっきの話を伝えてくれるように頼むと、

(伝えたぜ、爆発を待つそうだ)

(助かるよ)

(死ぬなよ直哉)

(おう!)


「よし、準備が出来た」

そう言って、MP回復薬を飲み完全回復させた後、指輪を取り出した。

「派手にぶちかますの!」

「おうよ! 剣士さん、こちらに寄っててください」

女剣士が直哉の横に来たら、


「喰らいやがれ、エクスプロージョンツヴァイ!」


指輪から爆発魔法が放出され、物凄い轟音とともに部屋の一角が完全に吹き飛び外が見えた。

(隣の建物まで10メートル程。表通り沿いじゃなくて良かった。穴の大きさよりも小さいサイズで隣の建物まで延ばすと)


リリは足に力を溜めていた。きっとこの後、直哉が魔力枯渇で倒れるだろうと予想していた。


「出来た! リリ! リリが先頭で光の橋を渡って、その後ろに女剣士さん、最後に俺が行きます。防火効果を付けられなかったので、急いでください! リリ! 頼んだ」

「了解なの! しっかりと付いてきてください」

リリはそういうと、少女をしっかりと担ぎ、穴の外へ飛び出した。

「えぇい。考えていても仕方が無いか」

女剣士も意を決して飛び出した。


「くっ、ここに来て強烈な眩暈かよ」

直哉はMP回復薬を飲みながら、必死に眩暈と戦っていた。

(直哉急げ! 橋が燃え始めたぞ!)

だが、そのラリーナの呼びかけに直哉は応えられなかった。


女剣士が渡り終わると橋が激しく燃え始めた。

「お兄ちゃん!」

リリは少女を女剣士に預けると、再びMP回復薬を飲み元の穴へ飛び込んだ。

リリは直ぐに倒れていた直哉を見つけ、何とか担ぎ上げた。


「うー、重くないの!」

そう言って、穴から飛び出そうとしたとき、イフリートの攻撃が始まった。


「この、くそ忙しいときに!」

リリはスラングを吐きながら、


「舞い散れ! サクラ!」


サクラを展開させ攻撃をしのいでいたが、炎の威力が強くサクラが徐々に炭になっていった。


(ごめんねサクラ。お兄ちゃんを守るためなの。我慢してなの。リリだけなら余裕だけど、お兄ちゃんを担いでとなると無理っぽいの。でも、下でお姉ちゃんが見ててくれてるはずだから、多分平気なの)


リリは意を決して、

「とりあえず、飛ぶの!」

リリは直哉を担いだまま、大空へ飛び出した。


フィリアがそれを見て、ちょうど良い部分に、光のブロックを作り出した。

「さすがフィリアお姉ちゃんなの!」

リリは風の魔法に乗る要領で上手く光ブロックの魔法を使い隣の建物へ移った。フィリア達も上に行こうと階段を探していたが、ラリーナが、


「急がないと直哉が危険だ! フィリア私に乗れ!」

そう言うと、ラリーナは銀狼に変身し、フィリアを乗せて狭い路地の壁を三角飛びで駆け上がった。

近衛騎士の大半がのされてしまい、途方に暮れていたところへエバーズが増援を連れてやってきた。


「状況を報告しろ!」

「冒険者風の女が暴行! 近衛騎士数名が昏倒しております」

「火災はどうなっている!」

「中には犯人と思われる者が潜んでおります、出てこられないように見張っております」

と、次から次へと虚偽の報告をしていると、近くにいた市民達が騒ぎ出した。


「何を言うか! 近衛騎士の分際で市民を守らずに見殺しにしてたくせに! しかも、救出に入った冒険者の仲間に問答無用で斬りかかっていったのに、逆にのされただけじゃないか!」

「そうだ! そうだ!」

大勢の市民が見ていた事を叫んでいた。

「お前ら、市民の分際で、我々近衛騎士に逆らうというのか! そこに直れ、打ち首にする!」

そう言って剣を抜いた。


「そこに直るのはお前の方だ!」

エバーズが近衛騎士の剣を殴って落とし、さらに拳を振るって近衛騎士を黙らせた。

腕に赤いスカーフを巻いた近衛騎士達はエバーズを睨み付けていた。

「近衛騎士に扮していたか。レッドムーンの者達よ」

「ばれてしまっては仕方がない。おい、退却だ!」

そういうと、懐から煙幕玉を取りだして炸裂させていった。周りにいたレッドムーンの隊員達も同じように炸裂させ、追撃は困難であった。


ラリーナに乗って直哉の元へ着いたフィリアは、皆を守るリリの傍へ行き、

「良く守り抜きましたね。さすがリリです」

そう言って、頭を撫でながら背中の羽根に魔力を込めた。


「戒めよ! エンジェルフェザー!」

フィリアは天使の羽根を展開して、その場の全員を庇護下においた。

「防御は私が担当します。リリとラリーナさんは敵を倒して下さい」

そう言いながら光魔法を唱え加護を追加した。


ラリーナが銀狼の姿のまま突撃すると、イフリートは怯みながら攻撃をしてきたので、

「なんだ、これは?」

ラリーナも違和感を覚えたようで、

「これは、イフリートでは無いな。それなら!」

銀狼を解き、人の姿に戻って長巻を叩き付けた。

「うらぁ!」

イフリートは身体がバラバラになるのを何とか堪えていた。

そこへ、リリの魔力が膨れあがり、氷の魔法が飛んできた。

「ナイスタイミングだ!」

ラリーナが飛び上がって身を躱すと同時に氷魔法が炸裂した。

イフリートは完全に凍結してその場でオブジェとなった。ラリーナは長巻を構え直し、落ちてきた。

「リズファー流、月牙双輪!」

凍っていたイフリートは粉々になって消え去った。

「手応えがなさ過ぎる!」


落ちていたタグを見ると、

「炎の集合体がたくさんか。イフリートの姿を模倣していただけか」

そう言って、周囲の警戒を始めた。


リリはラリーナの一撃でイフリートを撃破したのを見てから、直哉の元へ走った。

「お兄ちゃん! 大丈夫?」

直哉はだいぶ持ち直してきたので、

「ありがとう。助かったよ」

と、リリの頭を撫でた。

「フィリアもラリーナもありがとう」

ようやく危険が去ったと気を抜いた所へ、



「全員動くな!」

と、腕に赤いスカーフを巻いた男が立ちふさがった。

「あなたは、レン兄さん?」

女剣士が赤スカーフの男に近づいた。

「おまえは、アンナか。その鎧は近衛騎士か! なぜだ! お前がどうしてアシュリーの陣営に居る」

「兄さんこそ、何で破壊が目的の組織に! 昔はあんなに優しかったのに」

「それは! 父も母もアシュリーに殺されたからだ!」

「あれは、レッドムーンの仕業だって!」

「なんだと? それはどういう・・・」

レンは驚いてアンナに近寄ろうとしたが、下からエバーズ達が近づいて来たため、


「くっ、千載一遇のチャンスを逃したか」

と、捨て台詞を残し逃げていった。

「そんな、兄さんどうしてこんな事を・・・」

そこへ、エバーズ達が合流した。

「皆さんご無事ですか・・・ってアンナ! ということは、エリザ様はご無事なのか?」

「エ、エバーズ様。私が付いていながら申し訳ありません。エリザ様は命に別状はないと思われますが、危険な目にあわせてしまって」


エバーズは少女を抱きかかえると、生死の確認や傷の具合などを確かめてから、

「いや、そんな事は良い。アンナも無事で良かった。エリザ様を連れて城に戻るぞ。レッドムーンの事で話しがしたい。それと、直哉伯爵とそのご婦人方も、お手数ですが、もう一度お城の方へご一緒願えますか? 今回の情報を共有しようと思います。それと、今回使用された武具アイテム等の補填も行おうと思っています」

エバーズの言葉に、


「とりあえず、休ませて下さい。流石に疲れました」

直哉はリリ達三人がくっついて傷を癒したり、休憩したりしていた。

「わかった、アンナよ直哉伯爵と共にお城へ来なさい。それと、こちらのご婦人は?」

と、もう一人の女性の事を聞いた。

「こちらの方は、あの家を貸してくれたルーシーさんです」

「そうであったか、では診療所にお連れしろ!」

エバーズの部下達はご婦人を運び出した。

「さて、先に城に戻っているので、休憩が終わったら城まで来てください」

「了解です」

「アンナ! 後は任せる」

「承知いたしました」

エバーズは颯爽と帰って行った。



「やれやれ、ルグニアでは、穏便に過ごしたかったなぁ」

直哉の嘆きは降り出した雪の中に消えていった。

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