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第四十三話 火山 〜中編〜

◆火山の麓


直哉達が到着すると、リカード達が巨大な魔獣と戦っていた。

リカードとゴンゾー、そしてラナが前に出て敵を包囲しつつ、ルナは死角へ回りこみ、ヘレンは後方から魔法で攻撃、ミシェルとデイジーは負傷者の手当と安全圏への脱出を行っていた。

「リリとラリーナはリカード達の援護! フィリアは魔法で支援をかけた後、負傷者の救護を!」

直哉は指示を飛ばしつつ、マリオネットで周囲に大型の盾を展開させ、さらに家具作成を使い、食べ物を運ぶワゴンの大きいものを作り、

「敵の攻撃は防ぎます、このワゴンに乗せて、戦闘区域を脱出してください」

飛んでくる岩を盾で防ぎながら指示を出した。

「わかりました! 助かります」

負傷者を確認すると、七名のうち生存していたのは二名だけであった。

その二名も今は意識が無く、運ぶのも苦労していた。

戻って来たフィリアに、

「ここは頼む」

「お任せ下さい」

と、挨拶をして直哉はリカード達の援護へ向かった。



◆対オメガベヒモス戦


(あれは! ゲームの中にいたベヒモス。でも何か色が違う?)

その時、オメガベヒモスからブレスが吐き出された。

リカード・ゴンゾー・リリ・ラリーナは回避していたが、ラナは盾を構えて防御していた。

(まずい)

「避けないと不味い!」

直哉は大型の盾を数枚飛ばし、ラナの前に展開した。

外側の盾が変色していった。

(あれは、石化!? ベヒモスの石化って魔法じゃないのか!)

ベヒモスの背中に生えているヒレが灰色から紫色に変化し輝きだした。


(えー、もしかして途中でブレスの効果が変わるのか? っと、外側の盾が粉々になったか)

直哉はさらに盾を造り出し、盾を飛ばした。その隙に、ラナは逃げだし距離を取った。

オメガベヒモスは気がついておらず、盾に向かってブレスをはき続けていた。


「今です、死角から斬りかかって下さい!」

そう叫ぶ前に、リカード達はその場を飛び出し、攻撃を開始していた。

「絶空!」

「奥義! 天翔乱撃!」

「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」

「クールブリザード!」

「せぃ!」

四人の同時攻撃にオメガベヒモスが怯んだ。オメガベヒモスの周囲に強力な冷気があふれ出した。

そこへ、リカードの剣技が炸裂した。そして、ゴンゾーの奥義が斬り刻み、ラリーナの一撃で角の一本を斬り落とした。


「ぐぉぉぉぉん」

痛みにさらされ、大きな雄叫びを上げた。

そこへ、惚けていたルナの一撃とヘレンの火の魔法が飛んできた。

ルナの攻撃で背中のヒレにダメージを与え、その直後に火の魔法でそのヒレを焼いた。

「ぐぉぉぉぉぉ」

さらに攻撃を受け、痛みの雄叫びを上げた。ところが、最初に絶空で斬った箇所と天翔乱撃で付けた傷はすでに回復していて、角もだいぶ回復していた。ただ、氷の傷は回復が遅くまだダメージが残っているようだった。


前衛の四人は攻撃を集中させた。

「そりゃ、そりゃ、そりゃ」

「せぃ、せぃ、せぃ」

「あちょちょちょちょ!」

「うりゃ! そりゃ!」


その隙間を縫ってルナとヘレンの攻撃が飛んできた。超回復しながらブレスや腕や角の振り回し等多彩な攻撃にさらされながらも、リリの氷の攻撃を中心にダメージを蓄積させていっているのが判った。直哉はベヒモス戦で傷ついた人に回復薬やMP回復薬をマリオネットで振りかけながら、ラナの傷を診ていた。


「結構重症だね、この回復薬だけで回復しきらないとは、状態異常の付与が多いな。たしか全ての状態異常を治す薬はまだ無理だったから、取りあえず順番に癒していきますか」

そういいながら、次々と様々な状態回復薬を造りながらラナを回復させていった。

そこへ、オメガベヒモスから体内から飛ばす岩の攻撃が飛んできた。周囲の四人は素早く回避し直撃を避けルナとヘレンも何とか回避した。直哉はラナの具合を見ながらスキルに集中していたため、その岩に気が付く事が遅れた。


「なっ、しまった」

気が付いた時には、直哉は避けたらラナに当たってしまうので、何とか盾で受け止めようとしたが、体勢が悪く受け止めきれなかった。直哉は盾を岩にはじき飛ばされ、その後飛んできた岩が頭を直撃し気を失った。


リカードは敵の身体から飛び出た岩を回避して、攻撃をしようとした時、

「なっ、しまった」

と、直哉の声が後方から聞こえて来た。リカードが気を取られそうになっていると、


「お兄ちゃんなら大丈夫なの、フィリアお姉ちゃんが助けてくれるの! だからリリ達はこいつを倒すの!」

と、リリから叱責が飛んできた。


(まさか、リリちゃんに怒られるとは思わなかったぜ)

「よし! 気合入ってきた! あの岩を飛ばされるのは厄介だ、敵に攻撃の隙を与えずに致命傷を与えるぞ!」

リカードは深く息を吸い込み、


「宝剣よ、私に力を!」


魔力を剣に込め、能力を発動した。

「こっちだ化け物! 絶空!」

リカードの攻撃はオメガベヒモスの眉間に直撃して、敵の攻撃が中断した。ギロリとリカードを睨み付け動きが止まった。


「今だ! 総攻撃!」

その言葉にゴンゾーが続いた。


「敵の動きが止まった、これならいける! 第二奥義! 突刺牙崩!」


敵に向けて一直線に突撃して剣を突き刺す技をうまく心臓へ直撃させた。この技は昨日完成させたが、自身の動きを今だ制御できず、止まっている相手にしか攻撃を当てることが出来なかったで、今回は上手く当てることが出来た。


「これなら! 銀狼化! ローリングファング!」


そこへ、ラリーナが銀狼へ変身し、オメガベヒモスの喉笛に噛み付き回転をかけた。

喉笛を食い千切り更に動きを遅くした。

眉間の傷が治り、心臓の傷を修復に入ったベヒモスだったが、致命傷を幾つも受け、その回復速度が明らかに遅くなっていた。


「やはり、致命傷であれば修復も遅くなるな、これならいけるぞ!」

そして、リリは魔神拳用の力が溜まり、氷の詠唱を始めた。

「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」

この詠唱と共に、ジャンプしてベヒモスの頭部と同じ高さまで舞い上がると、

「クールブリザード! 魔神氷結拳!」

氷の魔法を纏った魔神拳をベヒモスの頭部に叩き込んだ。


頭部を凍結させられ、砕かれたベヒモスは最後の力を振り絞り身体の全てを岩として、周囲にはじけ飛ばした。

「なっ? 自爆?」

リカードとラリーナは回避に専念し、リリとゴンゾーは直哉の方へ飛ばないように、迎撃していた。


「あちょちょちょちょちょちょちょちょちょ」

「奥義! 天翔乱撃!」

二人のもの凄い攻撃回数・速度をもってしても、全ての攻撃を防ぎきれず、かなりの数を突破されてしまった。しかもまだまだ続きそうであった。


「フィリアお姉ちゃん! 突破されたの! 残りは何とかしてみるの!」

「舞い散れ! サクラ!」

リリの周囲に桜の花びらが展開され、まだまだ飛んでくる岩を次々と落としていた。

「戒めよ! エンジェルフェザー!」

フィリアも羽根を展開させ、直哉達を守る繭のように展開した。


「何それ? 恰好良い!」

リカードは目を奪われた。


「王子! 気をつけなさい!」

ゴンゾーが叫びながら自らの危険を顧みずリカードに迫っていた岩を迎撃した。


ゴンゾーは無数の岩が直撃したが、リカードに迫っていた岩の直撃は何とか避けた。

「ゴ、ゴンゾー!」

リカードは近くに転がっていた直哉の盾を拾い、ゴンゾーに迫る岩を防ごうとしていた。


ラナは自分の治療をしてくれながら、こっちに飛んできていた岩を防ごうとしてくれた直哉を、今度は自分が守りたいと思い、上手く身体が動かせない中で、直哉が取りだしていた盾を持って防ごうとしていた。

フィリアはミシェルとヘレンと共に負傷者の救出と治療を行っていた。命のあった二人の傷を癒して呼吸が安定した時に、直哉の声を聞いて咄嗟に走り出していた。直哉の所についたフィリアは、頭の防具が吹き飛び頭から大量の血を流しながら倒れていた直哉を見て息をのんだ。横にいたラナの事も放っておいて直哉の傷の手当てを始めた。傷を回復させ止血する、この作業に全力を費やし何とか止血に成功し傷も塞いだが、失った血液を戻す事はこの世界では出来なかった。直哉の顔色は真っ白で静かに横たわっていた。呼吸は浅く今にも消えてしまいそうであった。


「直哉様! お目を開けて下さい! 直哉様!」


その時、リリから抜かれたと叫び声が聞こえ、そちらを見るとサクラを使って防御しているリリの姿が見えた。フィリアも羽根を解放して、直哉と直哉守ろうとしてくれていたラナを守るように羽根を展開させた。

その時、後ろからミシェルの声が聞こえてきた、

「こちらです、馬車までは攻撃が届いていません」

「駄目です、頭を打っています、簡単には動かせません。他の方々を非難させてください」

「わかりました。デイジー! リカード様の所へ行ってくれ、私はルナ様を救出しに行く!」

ミシェルは直哉の周りに落ちている盾を取って、デイジーに投げつけた。

「わわわ。盾なんて重たいもの持って走れない・・・・! 何この盾、軽い! これなら装備しても走れそう」

「ラナ様、ここは任せます。出来たらお下がりを」


ミシェルはその場の盾を拾いルナとヘレンのほうへ向かった。

その時ルナとヘレンは、絶望に襲われていた。

「ヘレン、避け切れますか?」

「無理です。魔法力もそろそろ尽きてしまう。そうなったら、終わりですね」

ヘレンは、土の障壁を展開し何とか岩の攻撃を防いでいた。


ルナは何も出来ない自分に歯がゆい気持ちでいっぱいであった。

「もうじき、直哉様の援護で頂いた回復薬系が底を尽きます」

「私ももう手持ちがありません」

いつまで続くのか、わからない岩の攻撃に焦りを感じていた。

「自爆攻撃なのに、こんなに長続きするなんて。そんな話聞いたこと無いですよ」

「でも、実際続いていますから、聞いた話より今起こっている事の方が真実ですよ」

ルナは直哉に言われた様に、周囲に警戒の目を向けると、迫ってくる岩の他に妙な視線がある事に気が付いた。


「あそこに何かいる!」

その言葉に反応したのはリリだった。


「見つけたの! フィリアお姉ちゃん!」


そのリリの叫びにフィリアは頷いた。

「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」

「スライスエア!」

リリは風魔法を使い、ルナが見つけた敵に向けて突撃を開始した。

「ちぇっすとー」


近いて見ると、蛇のぬいぐるみが頭を振っていた。

「きしゃー」

リリの突撃にやっと気が付いた蛇のぬいぐるみは、操っていた岩を全てリリへ向けて飛ばし始めた。

「それは、悪手なの!」

リリはそう言うと、速度を上げ敵に近付いていた。

「きしゃー、きしゃー」


焦った蛇のぬいぐるみは、近くに隠しておいた専用のボディスーツを着用して、義手義足が動くリリと同じくらいの大きさのロボットになった。ぬいぐるみ自身は中央のくぼみに入り込み全てのパーツを動かしていた。ただ、今まで操っていた岩は操作が解除され、その場に落ちていた。


「魔神氷結拳!」


風に乗った勢いのままで必殺技を繰り出した。

蛇ロボットは両腕でガードして本体への直撃を防いだ。

「ぐぅぅぅ」

いつもなら敵を砕き衝撃をそのまま前方に放っていたが、今回はその全てがリリに跳ね返ってきた。

「いよっと!」

リリは反対の手を使って、身体を押し戻し、衝撃に流されるように後方へ飛んだ。それでも、右半身は酷い状態でまともに動く事が出来なくなっていた。


(このままでは、まずいの。お兄ちゃんに造ってもらった回復アイテムもコレが最後なの)

左の薬品入れに差しておいた従来の美味しくない回復薬を取りだして我慢して飲んだ。

「うげぇ、不味いの! こんなに不味かったっけ?」

リリは直哉の造るリリ専用の甘い回復薬に慣れてしまったので、通常の回復薬が恐ろしく不味く感じるようになっていた。でも、回復量は今までの中で最高を誇り、右半身の傷はほとんど癒えた。

(よし、身体が動くようになったの。でも、MPが心許ないの。初級魔法二回が限界なの。氷結クラッシュも中級魔法であの腕を貫通できなかったの)


そこへ、銀狼化が解けたラリーナが突っ込んできた、

「リリ! わたしがあの腕を破壊する! リリはそのままあのくぼみを攻撃して!」

「わかったの!」

ラリーナは直哉に新調してもらった長巻を振るい、蛇ロボットへ斬りかかった。蛇ロボットは魔法やスキルを使えず、ただ単に腕を振り回すだけの存在になっていた。


「リズファー流、月牙双輪!」

月牙双輪:一本の長巻を複数本あるかのように振るい牙で噛みつくように切断する技


ザシュ! ザシュ!

ラリーナの技で蛇ロボットの両腕は切断され少し吹き飛んだが、その場でピタッと止まった。

「直哉と同じ技か?」

ラリーナが驚いていると、その腕と胴体の間を縫ってリリが攻撃を仕掛けていた、


「この距離なら! 切り刻め! 桜花吹雪!」


最後の魔力を振り絞り飛ばしておいた桜たちに氷の属性を付与し、窪みからその中へ進入させた。

「きしゃーーーーー」

ロボットの中から蛇の叫び声が響き渡った。しばらくすると、それもだんだん小さくなり、ロボットはその場に倒れ込んだ。蛇のぬいぐるみはキラメキながら消滅した。


リリは魔力切れを起こし、その場に昏倒した。

「よっと」

ラリーナはリリが地面にぶつかる前に受け止め担いで直哉の元へ向かった。

直哉の元へ戻ると、リカード、そしてミシェルが直哉を慎重に馬車へ運んでいる最中であった。

「まさか?」

「そんなはずはありません」

馬車では気を失った二人と、満身創痍なゴンゾー、状態異常なラナと魔力切れのヘレンが休んでいた。

そこへ、ラリーナが担いでいたリリを休ませた。

「うーん、狭いの。むにゃむにゃ」

全員の症状を見たリカードは、


「こりゃ、直哉が目を覚まさないとなると、そのまま帰る事になるな。現状では直哉の回復薬頼みだからな。今日はここで休む事にしよう」

そういって、野営の準備を始めた。直哉と冒険するようになって初めての野宿となった。

「直哉が起きていれば、コテージを出して貰って、一っ風呂浴びたかったのだがな」

そう言いながら、たき火を起こしてリカードとミシェルなど、戦闘で大きな傷を負わなかったものは順番に見張りについていた。


周囲が暗くなり気温が下がってくると、フィリアはだんだんと冷たくなっていく直哉の身体に自分の身体を押しつけて、直哉の体温を維持しようと頑張っていた。そこへ、

「直哉を温めるのであれば、この身体なら適任だろう」

見張りが終わった、ラリーナはそう言って、銀狼の姿に変わり直哉の横からくっついた。

「直哉様、頑張ってください!」

「不思議な男だ、わたしの心をここまで揺さぶるとはな。死んで欲しくないと思ったのは、お母様の時以来だよ」

その言葉にフィリアは、


「まさか、ラリーナさんも直哉様の事が?」

「出会いは最悪だったのだがな。今では好意を持っているのがわかる」

「そうですか。それでは直哉様には早く回復して貰って皆で支えましょう」

「そうだな、それが良い」

二人は直哉を温め続けた。その甲斐あって、時間がかかったものの直哉の顔に赤みが差してきた。


(これなら大丈夫そうですね。そう言って、昨日からの疲労もピークになり意識を飛ばす事にした)

「あー、二人ともずるいの! リリも混ざるの!」

元気になったリリが馬車から出て見た光景は、裸の直哉に両脇からくっつくフィリアとラリーナの姿であった。三人の上には申し訳なさ程度に布がかけられていたが、全てを隠す事は出来ていなかった。

そこへ、装備を外したリリが直哉の空いたスペースに潜り込んできた。

「暖かいの」

リカードとルナ、ミシェル・ヘレン・デイジーは四人の世界を見ないようにしていた。

一方の直哉達は今だ夢の世界にいるのであった。

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