第四十二話 火山 〜前編〜
◆バルグフル
直哉はリリとフィリアとラリーナを連れて、
「それでは、行ってきます。目標は火山の調査、その後ルグニアを目指そうと思います」
その言葉に、使用人達はざわめいた。
「戻って頂けるのですよね?」
チュニがネコ耳としっぽを下げながら聞いてきた。
「ルグニアで鍛冶職人の上級職を目指してきます。それが終われば戻ってくる予定です。その間のこの屋敷の事は、ミーファさんを筆頭に、みなさんにお任せします」
そう言って、みなと挨拶を交わして屋敷を後にした。
城に到着した直哉一行をリカードとゴンゾー、そしてシンディアと近衛兵の五名が待っていた。
「おはようございます」
みなと挨拶を済ませた後シンディアが、
「直哉伯爵に王城からの命令がありますので、中にお入り下さい。リカード様もご一緒に。リリ達はゴンゾーさんと共に別室でお待ち下さい」
「何かあったのですか?」
「それも、王様より説明がありますので、中へどうぞ」
「判りました。みなはゴンゾーさんに付いていって」
「はいなの!」
「承知いたしました」
「わかった」
シンディアとリカードに連れられ、奥の秘密の話しをする間に通された。
そこには、王様とお后様、近衛騎士団長のアレクがいて、さらに二人の人物が待っていた。
「直哉よ良く来てくれた。空いているところに座ってくれ」
オケアノスは直哉を迎え入れた。
「まずは、南の森の祭壇の件は見事であった。リカードやゴンゾーから話は聞いた」
「リカード様やゴンゾー様のお力が合ったからこそ成し得た事です」
「それでも、成し得た事に変わりはあるまいて」
直哉は恐縮していた。
「さて火山の調査の件だが、今回はこの二人の推薦する冒険者に任せたのじゃ。二人とも自己紹介を」
そういって、二人が前に出てきた。
「初めまして、直哉伯爵殿。私はお城の右周辺の地域を担当するダイダロスと申す。以後よしなに」
「わたくしは、左周辺の地域を担当するヘレネと申します。お見知りおきを」
二人は優雅に挨拶をしてきた。直哉は立ち上がり、
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。俺は直哉、冒険者で鍛冶職人です。よろしくお願いします」
「これで、伯爵同士の挨拶が済んだな。それでは、本題だ」
三人は席に座りオケアノスの話を聞いた。
「この二人が抱えておる冒険者を火山に向かわせたのじゃが、今朝から連絡がつかないのじゃ」
「連絡とは、どのようにして取っておられるのですか?」
直哉の疑問に、
「シンディア、見せてあげなさい」
オケアノスの言葉に、
「こちらをご覧下さい」
と、アイテムを見せてくれた。
「これは、失われた技術を用いて作られたとされる、魔法の道具で、現在バルグフルにはこのセットしか残ってはいないのです、今は片方しかありませんが」
見た目はトランシーバーで、アイテム鑑定すると『遠音届』となっていた。
遠音届:登録した機械同士で、その場の音を送る事が出来る機械。
(ふむ、現在は、《登録された機械が無いか故障しています》と表示されている)
「直せますか?」
直哉は修理系のスキルを色々発動させてみたが、
「さすがに直せないですね」
「わかりました。無いものねだりをしても仕方がありませんので、話を続けましょう」
ダイダロスが立ち上がり状況の説明をはじめた。
「私が雇った冒険者は五名、この五名は名のある冒険者のパーティなので、他の人を入れずにそのまま向かわせました。ここから火山までは徒歩ですと五日ほどかかってしまうので、当家で注文した高速馬車を使って行って貰いました。その結果昨晩火山の麓に到着し、今朝方これから火山に登るとの連絡があったのですが、それ以降このアイテムから反応が消えました」
ヘレネにかわり、
「私が雇ったのは二名ですが、両名とも冒険者ランク5の精鋭でした。ダイダロスさんの馬車に同行させてもらいました。ですが、ダイダロスさんの雇った冒険者が持っていた機械が壊れた今、安否の確認をするすべが無くて途方に暮れておりました」
「本来ならばもっと情報を集めてから行くはずだったのだが、こうなっては仕方が無い、情報を集めながら行くしかないな」
リカードの言葉にダイダロスは、
「王子自らが行くことはありませんよ。冒険は冒険者に任せておけば良いのです」
リカードはダイダロスを諭すように、
「そうやって、他人に任せて何もしない王族に何の意味がある? 我が祖先は自ら先陣を切って魔王と戦い、そしてこの地を勝ち取った。だからこそ民も付いて来てくれた。だが、戦うこともせず暮らしている私たちに何の権利があるだろうか? そうなってしまっては、ご先祖様に申し訳が立たない。私はそう思う。だからこそ、バルグフルの危機に対応出来る力をつけるためにも、今回の火山探索任務は必要だと考えている」
「出すぎた真似を失礼いたしました」
「わかってくれれば良い」
「我々バルグフルの民は、良き後継者を得て安心できます」
リカードとダイダロス、ヘレネの会話が終わったとき、オケアノスは、
「それではリカードよ。直哉伯爵達とともに火山に行き、情報を集めてまいれ。もし問題が起こっているならそれも対処してまいれ! 先に出た冒険者達と合流して、見事この試練を乗り越えて見せよ!」
「はは!」
リカードと直哉はその場で頭を下げた。
「それでは、こちらも高速馬車を用意しておきますので、直哉さんは皆さんのところで火山へ行く準備をお願いします」
そういって、シンディアや王様達は部屋を後にした。
部屋に残された直哉はリリ達の所に戻り、
「準備はしてきたけど、もう一度確認しますか」
直哉はスキル表やステータスを確認し、アイテムボックス内や倉庫の再確認をしていた。
装備品の確認をしていると、シンディアが馬車の用意が出来たと呼びにきた。
表に出ると、大きな馬車が待ち構えていた。
「大きいの!」
以前乗った馬車の二倍の大きさの馬車が用意されていた。
「今回は八人乗りの乗車スペースと二人分の御者スペース、計十名が乗れます」
「では、リカード達は乗車スペースへ乗ってください、私は外に居ますよ」
直哉は御者スペースへ乗り込んだ。
リリとフィリア、そしてラリーナも御者スペースへ乗り込んだ。
「狭い」
結局御者スペースには、直哉とフィリアが座り、リリは直哉の膝の上に座り、ラリーナは銀狼化して乗車スペースの上に寝そべった。
「直哉伯爵の前に制御板があります、火山の麓までは登録してあるので自動的に行きますが、途中で止めたい時は一時停止、一時停止を解除するには一時停止中に実行すれば動き出します。また、細かい動作が必要になった時は、この《手動》のパネルを押して、自動を解除して下さい。その後、パネルを触りながら操作をする事になります。その後、火山に向かう場合は、《自動》パネルを押して、目的地を火山にして下さい。目的地は火山とバルグフルを設定してあります」
直哉は、シンディアの説明を聞いて、手動を試したくなったが我慢していた。
乗車スペースには、リカードとゴンゾー、ラナ・ルナ・ミシェル・デイジー・ヘレンが乗車した。
「それでは、行ってきます」
「王子を頼みましたよ!」
「わかりました」
直哉達はシンディアに見送られながら、火山への道を急いだ。
◆火山へ続く道
「すやすやすや」
リリは、直哉に背中を預け、フィリアの方に傾いてフィリアの胸を枕にしながら眠っていた。
「こうやってみると、まだ子供だよな」
「そうですね、こんな小さな身体にあれほどの力があるなんて、一体どのような秘密があるのやら」
フィリアはリリの頭をやさしく撫でながら言った。
「まぁ、人間族では無いだろうね」
「えっ?」
直哉の言葉にフィリアは驚いた。
「あれほどの魔力と、最近では腕力もついてきている、そして先日のサブリナさんとの事を考えると、人間族とは思えないのだよ」
「では、リリさんが元の姿に戻ったら、どうされるおつもりですか?」
「ん? どうもしないよ。だって、リリはリリでしょ? それこそ、最初に出会った時からリリはリリのままだったからね」
フィリアは不安になりながら直哉に聞いた。
「では、私が人間では無い生物に変身したら、私を遠ざけますか?」
「ん? フィリアを? なんで?」
「今は人間に近い姿でいますが、将来はエルフに近づくと思います。それでも、お側に居させてもらえますか?」
直哉は、
「そんなの当たり前じゃん。フィリアもフィリアでしょ? 俺は人間の姿のフィリアを好きになったのではなく、フィリアを好きになった。だから、どのような姿になっても、フィリアと一緒に居るよ」
「直哉様」
直哉の言葉にフィリアは嬉しくなり、そのまま抱きついた。
「むぎゅ」
二人の間からリリの声が聞こえた。
「あっ!」
フィリアが慌てて離れると、フィリアの胸に押し潰されたリリが現れた。
「リリさん! 大丈夫ですか!」
「ううう。酷い目にあったの。折角良い夢を見ていたのに、酷いの!」
リリはプリプリしながら直哉の胸板に頬をスリスリしていた。
「どんな夢を見ていたの?」
「んとね、パパとママの夢なの! 二人は凄く仲良しで、リリを挟んで口づけをしていたの。そしたらむぎゅって息が止まったの」
直哉は少し考えて、
「リリ、お父さんの名前って覚えてる?」
「うんなの! パパはラインハルトなの!」
「やっぱりそうか」
直哉は納得がいったように肯いた。
「お兄ちゃんはパパを知っているの?」
「あぁ、ゲームの中の人ならね」
リリは目を輝かせて、
「教えて欲しいの!」
「ゲームの中でラインハルトというのは竜王の事だった。竜王ラインハルトは緑の大きな龍で、龍族を束ねていた。ところが、人間族を嫁に貰い、その人との間に子供が出来ると、龍族の中の一部が反乱を起こしたんだ、お嫁さんと子供を逃がすために戦っていたのだけど、カースドラゴンという邪悪なドラゴンが龍族を乗っ取り、竜王を追い詰めたんだ。そこで竜王は嫁の種族である人間に助けを求めてきた。これが、ゲームでの竜王ラインハルトとの出会いだね」
直哉の言葉に、
「カースドラゴンって赤いの?」
「普段は真っ黒だけど、ダメージを与えていって残りの体力が少なくなると赤くなる。そうなると、攻撃が苛烈になって、ヒーラーをいかに生き残らせるかが勝負だった」
「もしかして名前がルビー?」
「んー? そこまではわからなかった。カースドラゴンとしか表示がなかったし」
「そっか」
「でも、それがルビードラゴンっぽいね」
「その世界のリリは緑のドラゴンだったの?」
「直接会った事は無いけど、真っ白で綺麗なドラゴンだって聞いたよ」
「そっか、リリはお兄ちゃんと一緒じゃなかったの」
リリは直哉の膝の上でしんみりとしていた。直哉はリリの頭を撫でて、
「大丈夫。俺はどんなときでもリリのそばにいるよ」
「リリが人間じゃ無くても?」
その言葉にフィリアと直哉が微笑んで、
「当たり前だろ、どのような姿をしていても、リリはリリでしょ?」
抱きつくリリを撫でる直哉に、
「私の時と同じじゃないですか?」
「人によって意見を変えられるほど、俺は器用には生きられないよ」
そう言って、リリとフィリアを抱きしめていた。
そんな様子を、乗車スペースの上からラリーナがみていた。
(良いものだな。私は銀狼だからと諦めていたが、直哉がこの考えなら問題無さそうだな)
昼食にサンドイッチと紅茶を取りながら先を急いだ。リリには鶏の唐揚げを付けておいたので、大喜びだった。
「はぁ、幸せなの。お兄ちゃんの世界行って美味しい料理をいっぱい食べたいの!」
「私はおうどんを制覇してみたいですわ」
「あははそうだね、しゃぶしゃぶとかすき焼きとか食べたいね。この世界の調味料ってどのくらいあるのかな? 帰ったらミーファさんに相談してみよう」
火山まで後一時間ほどというところで、前方で何かが起こっている事に、リリとラリーナが気がついた。
「お兄ちゃん!」
「直哉!」
直哉は一時停止を選択して、馬車を止めた。結構な速度が出ていたため止まるまで時間がかかってしまった。そのお陰で、直哉にも状況が掴め、リカードやゴンゾーも乗車スペース内でも異変を感じ取れていた。
「直哉!」
「直哉殿!」
直哉は全員に向けて、
「前方で何かが起きています、もしかすると先の冒険者達が戦っている可能性もあります。突っ込みますか?」
「いや、馬車は移動は楽でも小回りがきかぬ。ここからは走っていこう」
「それなら、馬車を脇道に待避させておきますね。リカード達は準備が整ったら先に行ってて下さい」
「心得た!」
リカードに後を託し、直哉は馬車の操作を手動に切り替え、主要道路から外れた待避道で馬車を止めた。
元の道には準備を整えたリリとフィリアとラリーナが待っていた。
「よし、リカード達を追うぞ!」
「了解(なの!)(です!)(だ!)」
三人は元気に返事をして直哉の周りを固めた。




