第三十九話 対ブラックアクター戦
◆対ブラックアクター戦
リカードがサルと戦闘を開始したとき、直哉達も戦闘を開始していた。
「何かを弾きました! あれは、ウマのぬいぐるみ!」
「みんな! 戦闘開始!」
「はいなの!」
「わかりました!」
「お兄ちゃん! あれ使って良いの?」
「ラリーナが居るから控えてくれるかい? 俺たちとの連係が慣れたら使って良いよ」
「わかったの!」
とは言うものの、直哉は動けず直哉を守るラリーナもその場を動けなかった。
「くぅ。直哉よ何をやっておる、早く援護に行かないと二人が危ないぞ!」
「わかっている。しかし、MPが魔蓄棺に取られている現状では、動きようがない」
「それは、外せないのか?」
「えっ? そうか、装備を外せばよいのか!」
直哉は魔蓄棺を外してアイテムボックスへしまった。
「よし! これなら回復できる!」
急速に体内へ浸透するMPを感じながら、辺りを見まわした。
リリとフィリアは加護を付けた後、ウマのぬいぐるみに攻撃を開始していた。
「リリは突撃するだけの小娘だと思ったが、あんな戦い方をするようになったのだな」
リリは初級の風の魔法を撃ちまくり、ウマの攻撃方法を読もうとしていた。
「フィリアも新しい魔法を覚えたようだし、俺の出番はないかな?」
フィリアはウマの周りに光のブロックを並べて、動きを制限しようとしていた。
「何を戯けた事を言っている、もう一体は恐らく倒しただろうが、ウマは健在でサルだっている。気を抜くのは早すぎるぞ! っと」
ラリーナは直哉に群がるリザードやゴブリン達を装備していた長巻で蹴散らしていた。
ウマのぬいぐるみは、物凄い速度で動いて撹乱させつつ、体内から黒い霧を出して槍を造り、それを飛ばして攻撃してきた。
リリ達は何とか回避していたが、完全には避けきれなかった。
ヒツジのぬいぐるみは、直哉の魔法によって完全に消滅していたようだ。
「リカードの方もそろそろゴンゾーさんが到着するだろうし、問題無いと思う。ただ、このウマは強い」
リリの風魔法をものともせず、フィリアの光のブロックを弾きながら突進して槍を飛ばしてきた。
「危ないの!」
そう言いながらもウマの攻撃を回避した。
フィリアはウマの突進にあわせて、カウンターを入れるためハンマーを振るったが、ウマの速度が速すぎて空振りして、槍を喰らっていた。
直哉は数本のMP回復薬を飲み眩暈と戦っていたが、
「ラリーナ、二人を援護してやってくれ。あのスピードはラリーナとリリの二人がかりじゃないと厳しい」
「しかし、この場は平気か?」
直哉はマリオネットを使用し、回復用の珠と接続して回復速度を上げ、剣と盾を取り出した。
「ここは、俺が何とかする。だから、頼む」
ラリーナは少し迷ったものの、
「わかった、死ぬなよ」
と、言い残しウマの鼻っ面を捕らえるべく飛び出した。
ラリーナはスピードでリリ達を翻弄している所に乱入した。
「せぃやぁ!」
走りながら長巻を振るいウマの動きを止めようとした。
「む?」
突然の乱入と予想を上回る攻撃速度に多少驚いたものの、落ち着いて回避し槍を造り飛ばしてきた。
そこへ、リリとフィリアの魔法が飛んできた。
「その程度の魔法では、我には傷一つ付けられん!」
そう言うと槍を霧に戻し、魔法を無効化する闇の衣を展開した。
「それなら!」
リリは風魔法に乗り、拳に闘気を溜め始めた。
だが、その風魔法に追い付きリリを攻撃してきた。
「ふん!」
「あわわ。危ないの!」
リリは風魔法から飛び降りる事で攻撃を回避した。
リリを追おうとしたが、そこにはラリーナが待ち構えていた。
「せぃや!」
「ちっ! 苦し紛れに逃げたにしては、良いところに居たな。だが、お前の攻撃は見切った!」
ラリーナの凪ぎ払いを避けて、そのまま体当たりを仕掛けてきた。
「くっ!」
ラリーナは攻撃を回避されたが、力任せに回転して、ウマに向けて長卷を斬りつけた。
「敵に背を向けるとは・・・何?」
遠心力で先ほどよりも速い攻撃に対応が遅れた。
ザシュ!
完全には回避できず、右後ろ足が吹き飛んだ。
「くそぅ! 我が身体に傷を付けるとは! 許さんぞ!」
ウマは吹き飛んだ足の代わりに、黒い霧を吹き出して立っていた。
「リリ! フィリア! あの足に魔法攻撃を!」
リリ達は、直哉の意図を汲み取り魔法を黒い霧部分に集中した。
「ええぃ、チマチマと煩わしい!」
黒い霧を更に噴出させ、魔法からのダメージを軽減した。
「ラリーナ! 俺の攻撃と連携を!」
直哉は剣と盾をマリオネットで飛ばして、ウマの周りを飛び回り牽制した。
直哉の周囲にはゴブリンやオーク等が群がってきていたが、装備した剣と盾で駆逐しながら、ウマに飛ばしたマリオネットが途切れないように立ち回っていた。
(俺自身が交戦している中で、マリオネットを操作するのはあれが限界だな。飛ばすだけならもう少しいけるけど、集中して無いとどこに行くかわからないから危険だよな)
「せぃ、やぁ、とぅ」
ラリーナの攻撃は当たらなくなっていた。足を一本切り落としすばやさが下がったのだが、ラリーナの攻撃が単調だったため、先読みで回避されてしまっていた。さらには、
「ほほぅ、これが空に浮く武具ですか、実に興味深い。これが仕掛けですかな?」
そう言いながら闇の霧を使いマリオネットの糸を掴もうとしていた。
(マリオネットの糸を直接掴みに来るなんて、危うく糸を切られるところだった)
直哉は、糸を掴ませないようにたくみに操作していた。
しばらく戦っていると、
「こんなものですか? だとしたら拍子抜けです。フルシュを倒したというのは何かの間違いですか?」
(まぁ、実際倒したのはリカード達だし間違っては無いな)
無駄に冷静に分析しながら、次の一手を考えていた。
(俺の眩暈も治まってきたし、そろそろ一気に決めますか)
周囲のゴブリンやオークたちを横斬りでなぎ払い、ウマのぬいぐるみへ近づいた。
「リリ、フィリア、いつもの行くよ! ラリーナは援護を!」
フィリアは魔法力を増強し、リリは風魔法を唱えた。
「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力に呼応し武器に魔力を与えたまえ!」
「セイントマジック」
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
「雑魚敵も蹴散らしたし、出し惜しみは無しだ!」
四つの剣と四つの盾をマリオネットで操作して殴りかかった。
「ふむ、それがフルシュを苦しめた見えざる手ですか? 私にははっきりと見えているのですがね」
リリの風乗り無限拳、フィリアの光魔法、ラリーナの回転斬り、直哉のマリオネットアタックの集中砲火を浴びせた。
(ムム。しかし予想を遥かに上回る連携ですね、これはまずい。魔王様からの援助が無い今、かなり危険ですね。連携の肝である、あの男を倒すのが先決ですね)
「喰らいなさい!」
闇の衣を無数の槍に変化させて、直哉に攻撃を仕掛けてきた。
「くっ、攻撃に集中できない。全部守りに徹しないと危険だ」
直哉の周りに剣と盾を集中させ、槍を弾き飛ばしていった。
直哉の攻撃がなくなったものの、フィリアの魔法が効くようになり、ダメージを蓄積させていった。
「ぐぬぬ。このままでは不味いな、あの男を黙らすだけでは足りなかったか。ならば奥の手を使わせて貰おう」
ウマのぬいぐるみは懐から黒い塊を出して、何かを唱え始めた。
(あれは、呪文? 聞いた事がないけど)
「我が体内に眠る朱雀の力よ、我ブラックアクターの名においてその力を貸したまえ!」
その瞬間ブラックアクターは、黒い塊ごと四つに分裂した。はじめは能力も四分割されていたが、黒い塊を取り込んだとたん、一体の時よりも強力な力が噴き出してきた。
「ふははははは。コレこそが我が能力、多重分形だ! 本来なら魔王様の援助が続くところで行い大量に分かれるのだが、今回はこの魔王様から頂いた力だと四体が限界だが仕方がない、これで貴様達を屠った後、改めて魔王様に力を授けて貰おう」
四体はバラバラに攻撃を仕掛け、直哉達の戦力を分散させようとした。
「まずい! リリ! フィリアと合流して二体を受け持って!」
「ハイなの! でも、このままじゃ厳しいの!」
「あの力を使ってい良いから!」
リリは笑顔になって、
「了解なの!」
MP回復薬を飲みながら、
「舞い散れ! サクラ!」
起動となる言葉を発して、新装備を発動させた。
「何ですか? それは!」
ブラックアクターAは驚愕した。他の三体もそれにつられ、動きが鈍くなった。
直哉はその隙を見逃さず、
「四連撃! 全てに×の字斬り! そして、マリオネットで防衛網と火炎瓶で波状攻撃! さらに、四連撃! 全てに急所攻撃!」
現状で出来る最大の攻撃をお見舞いした。
直哉の前に来ていたブラックアクターCは、最初の×の字斬りを回避するタイミングを逃し、各足にダメージを受けて素早さが激減したところに、防衛網と火炎瓶で身動きを封じ込め闇の衣を焼き、最後に急所攻撃でトドメをさした。
「この私がー!」
ブラックアクターCはキラメキながら消滅した。
「ふぅ。上手くいった。次はリリの敵とラリーナの敵に対して防衛網を飛ばしておこう」
直哉は防衛網を大量に取り出し、ブラックアクターAとブラックアクターBの間に大量にばら撒き、ラリーナの方を向いた。リリがサクラを起動したのを見たフィリアは、目の前のブラックアクターBがリリに気を取られているのを確認して、
「戒めよ! エンジェルフェザー!」
と、発動させた。
「なんと! こっちもか!」
ブラックアクターBは驚き混乱した。
その隙を見逃さず、
「行きなさい!」
各種類の羽根を組み合わせてブラックアクターBへ飛ばした。
「しまった!」
ブラックアクターBは混乱から回復し、何とか回避しようとしたが間に合わず、羽根による攻撃で闇の衣の内部から魔法効果を喰らいダメージを受けていた。そこへ、
「ちぇっすとー!」
風魔法に乗ったリリが飛び込んできた。
「はっ! 不味い! Aは何をやって・・・」
と、言いかけたところで、リリの魔神拳が炸裂した。
ドグシャ!
頭の部分が完全に潰れ、回復のため闇のエネルギーが噴き出した。
「今です! 天より来たりし光の精霊よ、我が魔力にひれ伏し邪悪なる者に裁きの鉄槌を!」
「エンジェルフィスト!」
噴き出した闇のエネルギーに向け、強化した光魔法を打ち込んだ。
「・・・・・・」
ブラックアクターBは光のエネルギーをはじき返そうと力をこめた、そこへ、
「これはおまけなの!」
リリはさらに魔神拳を放つために、力を溜めた。
そこへブラックアクターAが我を取り戻し、リリの方へ走り出そうとしたが、直哉のマリオネットにより防衛網がしかれ、回り道をしなければ到着出来ないようになっていた。
「こしゃくな真似を!」
ブラックアクターAは直哉に毒づきながら、回り道をしていた。
その時、ラリーナは銀狼に変化して、ブラックアクターDの速度に対抗していた。
(私一人では倒せないか。せめて直哉がいれば何とかなると思うのだが、あちらは・・・もう倒したのか! さすが直哉だな。母が認めただけはある)
ラリーナは直哉に言葉を送った。
(直哉よ、こっちの敵を連れて行って良いか?)
(ん? ラリーナ? もちろん、こっちから行こうと思っていたから助かるよ。俺の右側から連れてきて、俺のそばに防衛網が張ってあるから気をつけてね)
(わかった! ありがたい)
ラリーナはブラックアクターDに気取られることなく、直哉の元へ引き連れていった。
「逃げ足だけは一人前ですね! ですが、それも、ここまでです!」
ブラックアクターDは、ラリーナを追い詰めるべく速度を上げて追ってきた。ラリーナは、防衛網の位置を確認して、ブラックアクターDの攻撃範囲に入る寸前に到着すると同時に、上方向に進路を変えた。
ブラックアクターDは、後一歩で攻撃が届いたという悔しさに、防衛網の存在に気がつけず、そのまま絡め取られる結果になった。
「まさか、こんな初歩的な罠にかかるとは、しかもこの網は私の力じゃ引きちぎれ無いか。せめてブルックリン(サルのぬいぐるみ)位の力があれば何とかなっただろうに」
「これなら、私でも!」
ブラックアクターDは身動きが取れないまま、変身を解いたラリーナに切り刻まれていった。
(あとは、ブラックアクターAと瀕死のBだけだな。それなら俺はAを殺る!)
防衛網と火炎瓶をマリオネットで飛ばしながらAへ肉薄していった。
「ちっ! Bを助けるのは無理か、それならあの男を迎え撃つ!」
その時、リリの氷結クラッシュとラリーナの回転斬りでBとDを撃破した。
フィリアはAと直哉の位置を確認し、羽根を飛ばしながら近づいていった。
リリとラリーナは回復薬を使い、HPとMPを回復していた。
(やっぱり、俺の方を始末しに来たか。これでこのA以外は倒せるだろう)
直哉は剣と盾を掴み直し気合いを入れ直した。
「よし! 来い!」
と、叫びながら防衛網を張り巡らせていた。
「ふふふ、周りにあの忌々しい網を張り巡らせているのは見えているぞ!」
網を回避しながら直哉へ突撃してきた。
火炎瓶を投げつけながら防衛網を飛ばした糸を戻し、それで剣と新しい網を操作し始めた。
「時間稼ぎが得意で、戦闘力も意外とあり、特異な武具を装備しているか。やはり魔王様の脅威となりうるか。今この場で死になさい!」
槍を飛ばしながら突撃してくるブラックアウターを、直哉は防衛網と火炎瓶を使い動きを制限しながら攻撃を開始した。
「四連撃!」
「くっ、回避スペースが少ないと戦いにくいな」
直哉は、上から下へ、下から右上へ、右上から左へ、左から右へ、と回避するスペースを狭めながら攻撃を繰り出した。
ブラックアクターは闇の力を使い槍を量産して直哉に襲いかかっていた。
圧倒的な数の槍の前で直哉は善戦していた。
四方より迫り来る槍を剣と盾を使い、致命傷を避けていた。
「さすがに一人じゃ厳しいや」
疲労が蓄積してきた直哉は、歯を食い縛りながらも攻撃を受けていた。
(後少しで防衛網がある地点だ。後少し)
微調整を重ねてようやく後一歩と言うところで、ブラックアクターは動きを止めた。
「これが、苦肉の策かな?」
そう言って槍を突きつけた。
(ちっ、防衛網が破られたか。だが!)
槍を突きつけた瞬間、周囲に大量の冷気があふれ出した。
「なんだと!」
ブラックアクターは冷気から逃げようとしたが、予想以上の冷気により凍りついていった。
「これで、とどめです!」
直哉はマリオネットで剣を操作し、ブラックアクターに突き立てまくった。
「こ、この私がー!」
ブラックアクターがキラメキながら消滅したその時、祭壇跡地から物凄い闇の力が膨れ上がった。
「直哉様! 何かが来ます!」
そこに降り立ったのは、直哉も知るあの男だった。




