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第三十七話 鍛練と納品そして魔族?

◆次の日


直哉が一階フロアに下りてくると、ミーファとティアが朝の支度をしていた。

「おはようございます!」

「直哉さんおはよう」

「おはようございます。伯爵様」

恭しく挨拶をしてくる老婆を見て、

「こちらがキルティングさんの奥様ですか?」

「はじめまして。このたび夫のキルティングと共に雇い入れていただきありがとうございます。メイドのティアと申します、よろしくお願いいたします」

「あぁ、これはご丁寧にありがとうございます。俺は冒険者で鍛冶職人の直哉です。至らぬ点があるかと思いますが、言って頂ければ対応いたしますので、遠慮なく申してください」

「本当にありがとうございます。住む家と温かい食事それに着る物があれば言う事はありません」


この世界の住人は、この三つを持てない人も多く、そういう人たちが集まるスラム街と呼ばれる地域もある。

(スラム街という場所があるって事はゲームの中でもあったので知ってはいたけど、実際に見たわけではないので、実感がわかないや)


「それで、キルティングさんの姿が見えないようですが?」

「今は、向こうの屋敷の菜園を見てもらっているわ。今日専属の庭師を雇う予定なので、その前に管理の方法を覚えてもらっているの」

「なるほど、それで、ティアさんにはこっちの手伝いをしてもらっていたのですね?」

「えぇ、女性の部屋もあるので、ティアさんに両方の女性の部屋を整えてもらう予定です」

「わかりました」


直哉は自分の席について、朝ごはんになるのを待った。

「そういえば、今日のご予定は?」

「南の森で鍛練しようと思っています。今日は鍛練、明日は休養、明後日は火山! こんな感じですかね?」

「そうですかわかりました。今日の夕方に新しく雇った方々と晩餐会を開く予定なので、覚えておいてくださいね」

「り、了解です。今日の用事は鍛練の後で王城へ納品しに行くだけなので問題ありません」


朝食後、直哉とリリとフィリアは南の森で、昨日造った装備を実戦で試していた。

「障害物が多いと、余計にMPを取られますね」

「リリは細かい操作をすると、MP切れで倒れちゃうの」

「そうでしょ? マリオネットで操る時も意外と大変なんだよ」

そう言いながら、群がってくるジャイアントリザードやゴブリン達をなぎ払っていた。


リリは、新装備を身に纏う時、

「舞い散れ! サクラ!」


フィリアは、

「戒めよ! エンジェルフェザー! って、リリさん! このセリフは流石に恥ずかし過ぎです!」

と、顔を赤くして言った。

「大丈夫なの! すぐに慣れるの!」

リリのセリフに、直哉は昔の恥ずかしい自分を見ているようで、いたたまれない気持ちになった。


二人の鍛練は順調で、リリは殴りに行った時に邪魔にならないように周囲に展開し、フィリアは属性毎に分けて飛ばしたり、違う属性同士を連携させて防御力を上げたりすることを覚えた。

「良い感じに動けるようになって来たね。これなら、敵味方が乱戦の場所でも使って大丈夫かな」

リリは肩で息をしながら、

「でも、消費MPが半端無いの。どんどんMP回復薬が減っていくの」

「そうですね、私も大量に消費してしまいました」

リリとフィリアが残り数本になったポーチを見せてくれた。

「ふむ。MP回復薬の確保が最重要課題だな。それと、ふたりのポーチに入る量を増やさないと、補給が大変になるな」


直哉は次に造るものを頭に描きながら鍛練を続けた。

新しく造った四属性の剣と盾を装備し、マリオネットで四属性の剣を九本と各属性の盾二つずつと四属性の盾一つの合計十八個の武具を展開した。新しい四属性の剣は基本攻撃力が大幅に向上していた。

(ふぅ、操り糸強化で操作のスピードが格段に向上したな。後は連携でMPを回復させるクマの代わりに、小さな玉を三つ造って防具の内側にくっつけたから、これでMP回復が楽になるだろうな)

昼前までに充分に鍛練をこなした三人は、一度屋敷に戻った。


屋敷で作業していたティアさんに、

「ただいま、ティアさん」

「伯爵様。お帰りなさいませ」

挨拶を済ませ、

「ミーファさんは、何処に居ますか?」

これからを相談するためにミーファの居場所を聞いた。

「ミーファ様は、来客用の屋敷で、新しく雇う人の面接を行っております」

「そうですか。そっちへ行ったら邪魔になってしまいますね。ティアさん、伝言をお願いできますか?」

「なんなりと」

「ミーファさんが戻って来たら、俺達は王城へ納品をしに行くと伝えてください。夕方には戻る予定ですと」

「かしこまりました。一字一句間違えなくお伝えいたします」

まじめなティアに苦笑しながら、

「そんなに肩肘張らなくても良いですよ」

と言ってはみたが、そう簡単に変わる事が出来ない事は直哉もよくわかっていた。

「それでは、汗を流した後でお城へ行ってきます」


直哉達は、お風呂へ直行し身体を綺麗にした後で、お城へ向けて歩き出した。

「何で、来客用の屋敷まで飛ばないの?」

リリの疑問に、

「今、向こうではミーファさんが面接しているのだよ。その邪魔はしたくないからね」

「寄って行っても、邪魔にはならないと思いますが?」

直哉の言葉にフィリアは反論した。

「いや、俺が居ると、ミーファさんに断られた人が直接俺の所に来るかもしれないでしょ? そうなったら俺は断れないかもしれない」

「直哉様はお優しいから」

「そうなると、折角のミーファさんの決断を換えさせる事になってしまう。それなら、はじめからミーファさんに任せずに、自分でやれよってなると思うんだよね」

「難しいの! でも、お兄ちゃんがやりたい事をするのが一番良いの!」

「ごめんね、その為に二人にも歩かせてしまって」

直哉は二人に謝った。

「リリはね、お兄ちゃんと出かけられるから嬉しいの!」

「私も、直哉様のお側に居られるので嬉しいですよ」

そういって、両脇からくっついてきた。直哉は少々歩きづらかったが、ゆっくりと歩き王城までのんびりの旅が続いた。



◆バルグフル城


王城では、会議などで忙しいシンディアが時間を作って対応してくれた。

「こちらが、ご依頼の武具で、コレが試作品です」

シンディアは目を輝かせながら、

「性能はどうですか?」

「確認しましたが、初級程度なら十回は打ち出せます。ただ、弾丸の方が初級程度でも三回が限界ですね。一応二発造れたので、初級で六回は撃てると思います」

「ここで、試しても良いかしら?」

直哉は使用方法を教えた。


「ここに魔法を打ち込むようにってこんな感じかしら?」

「火を司る精霊達よ、我が魔力に呼応し敵を焼け!」

「ファイアボール!」

火の魔法を詠唱し発動しようとすると弾丸の中に吸い込まれた。

「へぇ、面白いわね。これで魔法が撃てるのかしら?」

「そのはずです」

「私が撃つより、魔法が使えない人の方が良いわね」

そう言って近衛騎士団長を呼び出した。

リリとフィリアは直哉の話が終わるまで、隅っこで大人しく待っていた。


「アレク、忙しいのにごめんなさいね。貴方にやってもらいたい事が出来たから、来てもらったの」

「他でもない、お前の頼みなら喜んで聞くが、お前に出来ない事など無いだろう? もし、あったとしても、それを俺がやれる訳がないだろう」

困ったような表情を浮かべるアレクに対して、

「大丈夫よ! 今回は魔法が使えない人の出番だから」

シンディアは新しい武器を説明した。

「何と恐ろしい武器を開発するんだ。この武器が主流になったら、我々の存在価値が薄れるではないか!」

アレクは直哉に喰ってかかった。

「少しは落ち着いてください。そうならないように今から対応策を考えるのでありませんか。直哉伯爵も全面協力してくれているのですよ? 他の者が造り出して大量生産されてしまった後では、対応策を考える時間がありませんから」

「ぐぬぅ」

シンディアの言葉にアレクは言葉を詰まらせた。

「さぁ、あの的に撃って見せて!」

「わかったよ」


アレクは魔弾銃を構え的に向かって引き金を引いた。

魔弾銃から合計十発の火の玉が発射された。

「おぉ!」

「あら!」

アレクとシンディアは興奮した。

「あれは、私の魔法がそのまま発動した感じですね」

直哉も驚きながら、

「そのようです」

「つまり、高位の魔術師に魔法を込めて貰えば、高位の魔術師と同じ魔法が量産できるという訳か」

「これは、予想以上の武器になりそうですね」

直哉は自分で造ったとはいえ、畏怖を覚えた。


「これが量産できたら、我が近衛騎士は無敵になるな」

そう言いながら使った弾を取りだした。

「これに、先ほどの魔法が込められていたのか?」

「そうですね、その弾に魔法を込めて、魔弾銃はそれを撃ち出す事が出来るってだけですから、増幅機能などは付いておりません」

「付ける事は出来るのか?」

直哉はスキルを発動させて見てたが、

「すみません、現状ではわかりません」

「そうですか。残念です」


シンディアは目録を造り直哉の納税額を記載した。

「これが、今回の納税額です」

「ありがとうございます」

直哉は礼を言って帰ろうとした時、頭の中に声が響いた。


(直哉! 直哉! 聞こえているか?)

(この声は、ラリーナ? どうしたの?)

直哉の異変を感じたフィリアは、

「直哉様? どうかなさいました?」

「あぁ、今ラリーナから連絡が来た」


(直哉、銀狼の里のそばに祭壇があっただろう? あそこに変なやつが現れて祭壇を造り直しているぞ。そっちの人間か?)

(わからないから、お城の人に聞いてみるよ)

「シンディアさん」

「なんでしょう?」

「南の森にあった祭壇って造り直しているのですか?」

「どういう事ですか?」

「今、ラリーナという銀狼から祭壇を造り直していると連絡があったのですが、身に覚えはありますか?」

「いいえ。アレクの方は何か情報ある?」

「初耳だ。その話は本当なのか?」


その時、強い闇の力が解放された。

リリとフィリアとシンディアはもの凄い不快感を感じ、直哉も不快感をあらわにした。

「どうした? 何かあったのか?」

ほとんど感じなかったアレクがシンディアに詰め寄った。

「もの凄い魔力が放出された。方角は北! 火山の方角。まさかとは思うけど、魔族が噴火をおこそうとでもいうの?」

「嫌な予感がするの!」


「リカードさんとゴンゾーさんを呼んでください。恐らく、火山と南の森での両面作戦になると思います」

直哉の焦り声に反応したのか、

「呼んだか?」

リカードが現れた。

「さすがリカードさん! 危険を察知して来てくれたのですね?」

直哉の純粋な眼差しに、

「あ、いや、新しい武具を持ってきてくれたと言うから、それを使う者を連れてきただけなんだが」

そう言って、鼻の頭をかいた。


そんなリカードの後ろには、ゴンゾーとラナ・ルナが控えていて、その後ろに三人の女の子が立っていた。

「みんな入りたまえ、自己紹介と共に緊急事態への対応を協議する」

リカードの言葉にシンディアが反応した。

「ここで話すのですか?」

「時間が惜しいのだろう? ならばここで済ませて、事態の収拾に当たろうではないか」

「ですが!」

「問答している時間も惜しい、ほら、お前たち自己紹介をして新しい武具を身に着けよ!」

シンディアは言葉を飲み込んだ。


後ろに控えていた女の子達が前に出てきて、一人ずつ自己紹介をしていった。

「ミシェル、戦士です」

「デイジー、ハンターです」

「ヘレン、メイジです」

装備を受け取ると、別室へ着替えに行った。

「北の方で、巨大な闇の力を感じたようだが、それ以外に何かあったのか?」

リカードの質問に、直哉は先ほどの話を伝えた。

「それは、魔族の仕業だろうな。その祭壇はこの前完全に破壊したからな」

「そうだったのですか?」


(ラリーナ、聞こえる?)

(おう、聞こえている、どうだった?)

(リカードの話では魔族だろうって、辺りに魔族の気配は無い?)

(探してみる)

(無理はしないように。後で合流するよ)

(わかった)

直哉がラリーナと会話していると、


「祭壇はお前達に合流する少し前に破壊した。闇の力が溢れていたからな」

リカードが話していた。

「そんな事があったのですね」

直哉はその時の戦闘を思い返していた。

(そういえば、途中から回復速度がもの凄く落ちたような、それでもあの強さ。今でも身震いするな)

「ということは、今回は火山の方の祭壇が完成したという事ですかね?」

直哉の言葉にシンディアが続いた。

「そうでしょうね、そして、南の森の祭壇も再建中。これは急いだ方が良さそうですね」

「ふむ、それで両面作戦か。直哉! お前は南の森へ行って来い、俺たちは火山を担当する」

「危険すぎます」

リカードの割り振りにシンディアが待ったをかけた。

「だが、親父の戦力を動かすには、情報が推測の域を出ていない今では無理だからな。我々の目で確定情報を得る必要があるだろう?」

「それはそうですね。それでは、偵察任務に冒険者を雇いましょう。そしてあわよくば魔族の討伐まで請け負ってもらえれば言う事無しですね」

「そうか、それなら俺たちは直哉に付いていこう。あいつらに実戦を経験させなくてはいけないし、何かあっても直哉達なら何とかしてくれるだろう」

「それなら、許可を出しましょう」

「どのみち火山への出発は、明後日と考えていたからな。その前の肩慣らしと行こう」

「それでは、一度俺の屋敷に集合してください。本日中にラリーナと合流できるように動きましょう」

「了解した!」

リカード達は出撃の許可や、冒険者ギルドへの緊急クエスト発注作業のため出て行った。

直哉はリリとフィリアを連れて屋敷へ帰った。

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