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第三十五話 新たな目的地

◆鍛冶ギルド


「おじさんお久しぶりです!」

直哉は裏口の髭樽おじさんに挨拶をした。

「おぉ。直哉・・・伯爵様。ようこそおいでくださいました」

途中から、腫れ物を扱うような態度に、

「いきなりどうしたのですか?」

「いえ、伯爵様に失礼の無いようにと思いまして」

「あー、俺に対しては態度を変えなくて問題無いですよ。俺は伯爵の称号を得ましたけど、鍛冶職人で冒険者の直哉ですから!」

明らかにホッとした表情を浮かべ、

「そう言ってもらえると、こっちも助かるぞ」

直哉は手を出して、

「これからもよろしくお願いします」

そう言って、髭樽おじさんと握手した。


直哉はマスターの部屋を訪れた。

「こんにちは!」

部屋の前にいたラウラさんに声をかけ、

「あら、直哉伯爵様。ようこそ、おいでくださいました」

と、髭樽おじさんと同じ対応だったので、止めて貰うように頼んだ。

部屋の中に入ると、

「わざわざこの時間に来るという事は、重大な事が起こったのか?」

ヘーパイストスは突然の直哉の訪問に不吉な物を感じたが、

「あ、そっか、家に居る時で良かったのか」

直哉は、今、思いあたった。

ヘーパイストスはホッとしながら、

「そういえば、リリちゃん達が見あたらないが、今日は来ていないのかな?」

「はい。あの二人は魔術師ギルドの方へ、新魔法を覚えに行きました」


「そうじゃったのか、残念じゃのぅ。まぁ折角お主だけでも来たのじゃ、何の用なのか聞こうではないか」

「今の職業で鍛冶スキルのロックがあるのですか?」

直哉はスキル欄の☆の事を聞きたかったが、スキル欄を見せられないので、別の聞き方をした。

「何? もうロックがかかったスキルがあるのか?」

ヘーパイストスは身を乗り出して聞いてきた。

「はい。鍛冶スキルで数個あります」

「フムム。恐るべきスピードじゃな。とりあえず、ステータスプレートを見せてくれるか? そこに職業マスター権限で得られる情報に、次の試験を受けられるかどうか判断する項目があるのじゃ」

直哉がステータスプレートを渡すと。

「間違いなさそうじゃ。鍛冶職人の上位職業になる事が出来るな。しかも殆どの職に就けるぞ。これがその一覧じゃ」


鍛冶職人 上位職

高等鍛冶職人:全ての鍛冶スキルを覚える事が出来るが、必要スキルポイントが高くなる。

武具職人:武具作成系統のスキルを中心に覚える。他系統はスキルレベルの最大が5になる。

装飾職人:アクセサリ作成系統のスキルを中心に覚える。他系統はスキルレベルの最大が5になる。

アイテム職人:アイテム作成系統のスキルを中心に覚える。他系統はスキルレベルの最大が5になる。

家具職人:家具作成系統のスキルを中心に覚える。他系統はスキルレベルの最大が5になる。

大工:大工系統のスキルを中心に覚える。他系統はスキルレベルの最大が5になる。

戦闘鍛冶職人:戦士系統のスキルを中心に覚える。鍛冶職人の全系統はスキルレベルの最大が7になる。


「今、ここで決めた方が良いですか?」

「いや、ここで決められてもどうしようもないのじゃ」

ヘーパイストスの言葉に、

「どういう事ですか?」

「わしに教える事が出来るのは、鍛冶職人だけなのじゃよ。上級に上がるにはそれぞれのマスターから与えられる試練を乗り越えなければならないのじゃよ」

直哉はマップを見ながら、

「それぞれのマスターは何処にいるのですか?」

ヘーパイストスは周辺の地図を取りだして、

「この雪国ルグニアに数多くのドワーフが住んでおり、その中に大体のマスターがおる」

直哉は地図に書かれているルグニアをマップにマーキングした。

「わかりました。機を見て行ってみます」


「ふむ。その若さでこのワシに追いつくとは、流石直哉じゃの」

「ちなみに、ヘーパイストスさんは何の上級職なのですか?」

「わしか? わしは戦闘鍛冶職人じゃよ。武具を造るのも戦うのも得意じゃぞ」

「なるほど、参考になりました」

「まぁ、実際にマスターから説明を受けてから決めるのじゃぞ。それと、コレを持って行きなさい」

そう言って、懐から手紙を取りだした。

「この手紙は何ですか?」

「お主のスキルに関する情報じゃ、この手紙と王城から出た伯爵証を見せればスキルについて無用な詮索をされる事は無いはずじゃ」

「ありがとうございます」

直哉は頭を下げた。


「それで、いつ出かけるのじゃ?」

「数日後に火山の調査に行くので、そのついでにルグニアへ向かおうと思います」

「そうか、わかった。留守の間は屋敷はわしらに任せておけ。並大抵の魔物なら追い払ってやる」

ヘーパイストスは力こぶを作って自らの強さを伝えようとしていた。

「かさねがさね、ありがとうございます。屋敷に雇う人は非戦闘員でしょうから、魔物が現れた時、ミーファさんだけだと心配でしたから」

「ふむ、非戦闘員が常駐するのか。まぁラウラもヘーニルもいるから大丈夫じゃろう」

「よろしくお願いします」

直哉は鍛冶ギルドを後にした。



◆商店街


(えーっと、リリ達はモーモーキングの店にいるって言ってたな)

もはや、常連と言っても過言ではないモーモーキングの串を売っている店に来ると、

「お兄ちゃんの匂いなの!」

どこからともなくリリの声が聞こえ、人ごみで見えない角度からリリが飛び込んできた。

「わーい! お兄ちゃんなの!」

「おっと。危ない危ない」

そう言いながらもしっかりとリリをキャッチした。

「お待たせ!」

「今日はどのような物を買う予定ですか?」

フィリアの質問に、

「最初は屋敷に使った魔法石の補充と、装備品の補修用の材料を買おうと思ったのだけど、今朝倒したゴーレムのアイテムを利用した武具アイテムを造るための素材を買う予定だよ」

「ゴーレム岩?」

「うん、この岩は念動力を浸透する代わりに物理攻撃が通りにくい性質を持っているから、念動石とジュラルミンもあわせて使ってみようかと」

「また、直哉様が強くなられますね」

「いや、今回のはリリとフィリアに造ろうかと。俺はスキルで似たような事が出来るからね。上手くいったらの話しだけど」


直哉達は話しながら素材屋へやってきた。

明かりの石や、水・お湯系、風の石など屋敷を造る時に必要な魔法石を購入し、ジュラルミンに必要な素材や火炎瓶の素材を集め、さらに素材を物色していた。

「ん? これは氷ですか?」

冷気が漏れている固形物を見つけたので聞いてみた。

「これかい? これは氷じゃないぞ! 水につけると煙幕になるんだ。問題は煙幕の持続時間の短さと持ち運びなんだよな。この冷却装置に入れておかないと、消えて無くなってしまうんだよ」

「なるほど、これを、あるだけください」

店の人は目を見開き、

「良いのかい? 正直失敗作だと思っているのだけど」

(そんな事言っちゃダメでしょ)

「全部で10Cね」

「それでは、この箱に入れてください」

「家まで保ちませんよ?」

「構いません」

店の人は、注意したからね! と言わんばかりに冷えた塊を箱に入れてくれた。

「ありがとう」

直哉はお金を払い、箱をアイテム欄に投げ込んだ。


(他に何か無いかな)

直哉が物色を再開すると、かすかに建物が揺れている事に気がついた。

(むっ? 前回の揺れより大きいな)

直哉が異変を感じた時、二人が寄り添ってきた。

「変な感じなの」

「気持ち悪いです」

二人は揺さぶられる感覚に気持ち悪さを感じていた。今回は他の人々も揺れを感じたため、不安を感じる人が多かった。

(あまり、良い傾向ではないな)

「さっさと買って、屋敷に戻ろうか」

直哉の言葉に二人は素直に肯いた。

直哉達は、商店街を進み雰囲気の暗い店にたどり着いた。

「お兄ちゃん、ここに入るの?」

「うん。バルグフルの中でこの店が特殊な魔法石を適正価格で売っている店だから」

「へぇ、そうなんですか。でも、リリさんは何で嫌がっているのでしょうか?」

「それは、入ればわかるの」


リリの言葉に、直哉を先頭にフィリアが続き、リリは二人の陰に隠れながら店に入った。

「いらっしゃーい」

この間の凄く化粧の濃いおっさんが話しかけてきた。


「あっらー、この間の坊やじゃなーい。まーた来てくれるなんて、うれしいわよーん」

「ひぃ」

フィリアは普段出さない声を上げて、立ったまま意識を飛ばした。


「そ・れ・で、今日はなに(・・)をお探しで?」

発音がおかしい部分があったが、直哉は無視して、

「掘り出し物はありますか?」


「んまー。掘り出すだな・ん・て、素敵ねぇ」

そう言いながら、一覧表を差し出した。


「こ・れ・が、最近の目玉商品よ。も・ち・ろ・ん、それなりにするけど。坊やになら特別に安くしてあげでも、良いわよーん」

直哉はゾクゾクと寒気がするのを我慢しながら一覧表を見ていくと、軽量石というのが目に付いた。

「この、軽量石というのは、何ですか?」


「あら? 鑑定のメガネ使っていいわよん」

直哉は鑑定のメガネを取りだして鑑定すると、《軽量石》対象となる物質の重量を軽くする事が出来る。


(この石と風の石を組み合わせれば飛べるかな?)

「これ、良いですね。五個ください」


「あぁん。やっぱりお金の使い方もす・て・き。一個1Gだけど、五個で4Gで良いわよん」

「何を企んでいるのですか?」

復活したフィリアが割り込んだ。


「あらら? これは、お美しいお嬢様。坊やのコレ(・・)か・し・ら」

小指を立てながら聞いてきた。

「私はこちらの直哉伯爵の婦人予定でフィリアです」

毅然とした態度で言った。


「あーら、それは、・・・ん? 伯爵? この坊やが?」

素の表情で聞いてきた。

「はい。俺は冒険者で鍛冶職人の直哉辺境地伯爵です」


「あっらーん。こんなに若いのに、爵位持ちだなんて、お姉さんか・ん・げ・き!」

腰をくねくねと動かしながら身もだえていた。

「・・・・・・・・」

直哉は無心で一覧表を見ていると、

「こ、これは、魔畜石!」

化粧の濃いおじさんはニヤリと笑い、


「やっと、気がついたのね。それが、今回のほ・り・だ・し物よ!」

さっそく、商品を鑑定のメガネで見てみると、《魔畜石》魔力の源であるMPを貯えてある石。320/500。となっていた。

「コレは凄い! たしかMPを出し入れする魔道具の核となる石ですね」

直哉は興奮しながら喰い付いた。


「よく知ってるわね。だからこそ、高いわよ」

価格を見ると10Gとなっていた。

「買います!」

即決した直哉に、


「やっぱり、坊やは良いお・と・こねぇ」

直哉は15Gの支払いをして、軽量石五個と魔畜石一個を購入した。

「ありがとうございました。おかげで良い買い物が出来ました」


「いえいえ、これからもお得意様として、よ・ろ・し・くね!」

「はら、リリ! 帰るよ!」

背後で小さい身体をさらに小さくしていたリリを抱えて帰路についた。



◆直哉の屋敷


「いろいろと、濃い方でしたね」

「はぁ。怖かったの」

フィリアとリリの会話に耳を傾けながら自分の領地へ帰ってくると、来客用の屋敷に明かりが灯っているのが目に入った。

「おぉ、ミーファさんは流石に仕事が早いな」

そう言いながら屋敷に入ると、ダンディなご老人が挨拶してきた。


「ようこそおいでなさいました、こちらは直哉伯爵様のお屋敷となります。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。俺は冒険者で鍛冶職人の直哉です。こっちはリリでこっちがフィリアです」

直哉は持っていた伯爵証を見せながら二人を紹介すると、ご老人はハッとした表情で、

「大変失礼いたしました。伯爵様ご本人とは露知らずにお客様をお迎えする態度を取ってしまいました」

恭しく頭を下げた。

「あ、いや、頭を上げてください。お互い会うのははじめてなのですから、お名前を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、重ね重ね失礼いたしました。私はキルティングと申します。半年ほど前まで、王城で第一王子の教育係を務めておりました」

「第一王子って、リカードさんですよね?」

「はい」

「あれ? リカードさんの教育係ってゴンゾーさんじゃないのですか?」

「ゴンゾーをご存じなのですか? 彼は王子の剣術の教育係です、私は教養の教育係でした」

「なるほど。これからよろしくお願いします」

そう言って、直哉は頭を下げた。

そこへ、ミーファが転移部屋からやってきた。


「あら? 帰って来ていたの? おかえりなさい」

ミーファの問に。

「はい、ただいまです。他には誰か居るのですか?」

と、続けて質問をぶつけた。

「キルティングさんと一緒に、キルティングさんの嫁でティアさんをメイドとして雇いました」

「なるほど。後で紹介してくださいね」

「そうねぇ、明日になれば冒険者ギルドの方から数名やってくるから、みんなが揃ったら顔合わせをしましょう」

「わかりました」

「今日は屋敷まで歩くの?」

「いえ、転移をしてみようと思ってます。ですので、よろしく願いします」


四人は転移の間へ移動した。

扉を閉めて、ミーファは転移石を起動した。

「この石は目的地がセットされている下位の石なので、起動すれば自動的に転移します」

そう説明していると、転移石がまばゆく光り始めた。

「この光り方は!」

直哉がそう叫んだところで、光が部屋全体を包み込んで転移した。

「急にどうしたのですか?」

フィリアが急に叫んだ直哉に聞いた。

「この光りは、俺がこの世界に飛ばされた時ともの凄く似ている」

「直哉様の世界にも魔法があったのですか?」

「いいや、そんなモノは存在していなかった。俺が知らなかっただけなのかもしれないが」

直哉は首をかしげながら答えた。

「だとすると、アイテムが作用したのでしょう。転移には上位の転移があって、術者が考えて行きたい場所へ転移できると聞いた事があります」

ミーファの言葉に、


「それは、何処で聞きました?」

「古都バルグの王城です。メイドとして働いている時に」

「どうにかして、詳しい話しが聞きたいですね」

直哉が今すぐにでも飛んでいきそうなので、ミーファは、

「それなら、まずはバルグフルの王城から使者を出して貰い、転移の話しを聞けるかどうか確かめてみては如何ですか?」

「それなら、俺が使者として行きますよ。そうすれば、その場で聞く事ができるかもしれない」

「それは、使者が偽りの情報を持ち込むのを防ぐために、両国間の取り決めで出来ないのですよ」

ミーファの言葉に、

「ぐぬぬ」

直哉は苦虫をかみつぶした様な顔でうなった。

「お兄ちゃん」

「直哉様」

二人は心配そうに寄り添った。


(なおちん! 自分を見失わないで!)

(メイフィスさん? そっか。俺は焦っているのか。このまま無理をしても知りたい情報が入るどころか、失うモノの方が大きい。それならバルグに使者を出して貰い、その間に火山やルグニアへ行き、それからバルグに行く方が理に適っているか)

「あー、うじうじ考えても仕方がない! よし! 使者を出して貰っている間にこっちでやれる事をやってしまおう」

直哉はそう言って自分の両頬を叩いて気合いを入れた。

直哉の宣言に、リリとフィリアは安堵し、ミーファは肯いていた。

「よし! リリとフィリアは俺と一緒に地下の鍛練場へ! そこで、武具のパワーアップをするよ。そして、それを使いこなして貰う!」

「はいなの!」

「承知しました!」

力強く肯定する二人をみて、頼もしく思い、同時に心の奥がじんわりと暖かくなっていくのを感じていた。

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