第三十三話 直哉伯爵の新しいお屋敷 〜後編〜
◆直哉の新しい屋敷
その後、戦闘は無く新しい土地へたどり着いた四人は、周囲を見まわした。
「随分と奥まで入ってきたのね。森の匂いが強いから私には住みやすいわね」
「リリもこの森で鍛練したら強くなれそうなの!」
直哉は、
「そうか、この森そのものを鍛練場にすれば良かったのか!」
とつぶやきながら、土地タブを操作して屋敷を移動させてきた。
(既に配置してある建物なら、それほどMPを消費なくて済むな)
ドーンと建物が移動してきた。
「おぉ! 流石お兄ちゃんなの! いつみても凄いの」
リリは興奮気味に直哉にくっついて来た。
「話には聞いていたけど、実際に見ると本当に凄いわね」
ミーファは驚いたように呟いた。
「では、広げますね」
直哉はスキルを発動し地下鍛練場と同じ大きさに広げた。
「くぅ」
「直哉様!」
ごっそりMPを持っていかれた直哉は立ちくらみを起こしていた。
フィリアは咄嗟に直哉を支えた。
MP回復薬を飲み干し少し回復させたところで一息ついた。
「ふぅ。久し振りにMP消費による目眩を味わったよ」
冷や汗を拭っていた。
(そういえば、マリオネットを使っていればMPが上昇するのだっけ?)
直哉は愛用となったクマを取りだして、疑似部位連携とマリオネットを使い最大MPを増加させ、MP回復量も二倍に上げた。
(これを、もう何個か造ればMP切れは無いだろうな)
四人は新しくできた直哉の屋敷に足を踏み入れた。
玄関の扉を開けると、三方向に扉がある。正面の扉は大きく、左右の扉は通路の半分くらいの大きさの扉が付いていた。正面の扉を開けると、大きな空間に楽に十人は使う事が出来る机が四列三段並んでいて、その奥に調理スペースが確保されていた。調理スペースの横にリフト乗り場があり、リフトが四台に増えていた。
「おぉー、広いの!」
リリの言葉通り、滅茶苦茶広くなった居間。
「流石に広すぎですね、今までと同じ大きさにして、他の部屋を造りますか?」
「そうねぇ。地下の転移部屋をこの階に持って来たらどうかしら?」
「この階にですか?」
「今までは、セキュリティの関係で地下を使っていましたが、この屋敷に徒歩で来るのはまず不可能ですから、こちらの明るい場所に出してみたら如何かしら?」
「それも、そうですね」
「お兄ちゃん! 地下の鍛練場はどうなったの?」
直哉が家の中を配置換えしていると、リリが鍛練場を見たくてウズウズしていた。
「前よりも広くなってるから見ておいで」
「はいなの!」
リリは入り口の扉に向かい、地下と書かれた扉を開けて階段を下りていった。
「フィリア、そっちは危ないからこっちに来てて」
配置を換えようとしたらアラートが出たため、移動場所に居たフィリアを動かして配置換えに精を出した。
調理場スペースを動かし、転移部屋を移動させ、リフト乗り場と転移扉の部屋として居間の一画に作成した。部屋には窓を設け、外の光を取り入れると共に、外からは中が見えないような造りになっていた。
「ミーファさん、調理場は問題ありますか?」
一通りの調理器具を動作させ、食材入れ(冷蔵庫)や、汚れ落とし(食器洗い)機を操作して問題無い事を確認していた。
「取りあえず、備え付けの機械は問題なさそう。後は実際使ってみてから判断します」
「お願いします。では次は上ですね」
そう言って、上に向かおうとした時、
「お兄ちゃん。ちょっと不満なの」
リリが下から帰って来た。
「どうしたの? 前の鍛練場より広くなってるから、飛び回れるのではないの?」
「確かに広いけど、その分薄暗いし、空気も淀んでるの」
「そんな。そうならないように明かり用の石も空調用の石も増やしたのに」
直哉は下の階へ移動した。
リフトを出た皆の感想は、
「暗い。クサイ」
「確かに薄暗いし、なんだか嫌な空気だね」
直哉は少し考え、
「よし、高さを今まで通りにして、空間にも区切りを入れよう。それで、空調がちゃんとする大きさまで小さくするよ」
「鍛練は?」
「今までと同じ鍛練は地下で、それ以上の鍛練は森でやろう」
直哉達は一階へ戻って来てから、地下の鍛練場を大きく変化させた。
「ただ単に大きくすれば良いって訳ではないのですね」
「そうね、人には使いやすい大きさって物があるからね」
「直哉様は造りたい部屋はないのですか?」
先ほどから母親の意見を鵜呑みにしている直哉にフィリアは聞いてみた。
「俺? あるよ。温泉! 二人は何かないの?」
「私は特には」
「リリは、身体が動かせる場所が欲しいから、外の鍛練場を見たい!」
「森は、そのままが鍛練場かな。魔物もそのままにしておくから、ひと狩り行きたくなったら裏庭へ!」
「その場合、この屋敷にも魔物が来るのでは?」
直哉は土地タブを見ながら、
「屋敷の中は、システム的に保護してあるみたい。森の中は無理だけど家にいれば安全だね」
ミーファは安心したが、
「庭に菜園を造る場合は問題無いの?」
「やってみます」
直哉は土地タブを操作して、屋敷の近くに庭園を造り、その庭園までの道を造った。
システムの説明を読むと、屋敷は無条件で守られるが道や庭園はアイテムを立てて、魔物の進入を防ぐ必要があるとの事だった。
「庭園はダメでした。ただ、アイテムを使えばその周囲に魔物が入ってこないので、後で量産しておきます」
直哉は、その敷地内に配置すれば、その周辺に魔物を寄せ付けないアイテムが造れる事を確認した。
「わかりました。それは、お任せします。配置もしてくれるのですよね?」
「もちろんです」
「では、上の階を終わらせてしまいましょう、そうすれば各々がやれる事が増えるので」
「了解です。二階から四階までは部屋の造りは同じです。ただ、大きさが変わってますが」
直哉の言葉にミーファは、
「それなら、直哉さんはお風呂の改修作業に取りかかってください。フィリアとリリは各部屋のチェックをしに行きますよ!」
「はーい」
「はいなの!」
ミーファはリリとフィリアを連れて上の階へ向かった。直哉も最上階へ行き建物内部に温泉を取り込む準備をした。
(コレとコレを使って、温泉成分でも問題無い造りにして、下水用の石で温泉を取り込んでくれるのかチェックして、温泉をくみ上げる行程を石で再現して。上まで行ったけど、途中で温泉がこぼれすぎるな。しかも途中でくみ上げている石が詰まるな。うぐぐぐぐぐ。それなら、途中の配管にくみ上げを再現した石を組み込むか。これなら、配管事態が動くから、あっ、配管の強度が凄くもろくなった。そして漏れた。あー外に温泉が降り注ぐ!)
「難しい!」
(そういえば、温泉グリフィンは温泉を吹き上げていたな、アレを再現してみるか。配管の下に温泉を溜めて、一気に風の石で吹き上げる!)
「あ。屋根が吹っ飛んだ。だが、それなら配管の上の部分を強化しておけば大丈夫なはず。ただ、素材を何にするか・・・」
(っていうか、風の石の強さを調節すれば良い気がしてきた)
「よし! お湯が出てきた! そして温泉の匂い!」
(水漏れは無し、排水も問題無いし、ただこのままじゃ熱すぎるから、この部分の配管自体を冷やして温泉を冷やすようにすれば完成だ!)
「出来た! そのまま触ると熱いけどお風呂に入れれば少し下がるから大丈夫でしょう!」
直哉は会心の出来に喜んだ。
今までのお風呂に加え、温泉成分の風呂を揃え、全部で六つの風呂が出来た。
微調整をしていると、リリ達が上がってきた。
「お風呂はどんな感じですか?」
「通常のお風呂は出来ました。今、温泉部分のお湯を入れてるところです。こちらの問題が無ければ完成です」
ミーファが温泉施設の方へ入ると、湯船からお湯が溢れていて室内は大量の湯気と温泉特有の匂いに包まれていた。
「もの凄い熱気と匂いですね」
「それがいい!」
直哉は悦に浸りながら袖をまくって腕を湯に付けた。
「うん。この位の温度なら、源泉掛け流しで良い感じになる。配管につまみを付けて温度の調整も出来るし問題無いでしょ」
「お疲れ様でした。ですが、本日はもう少し頑張ってください」
ミーファはさらに注文を出した。
「来客用の屋敷と、転移扉ですね?」
直哉の答えに、
「そうです本日そこまでして頂けると、明日以降は屋敷の事を私に任せて頂いて、自由に行動してもらえます」
「ですよね。スキルの事とか武具の調整をしたいので、頑張ります」
直哉は新しく来客用の建物の作成に入った。
(屋敷の内部は縦に三分割したフロアを造り、中央のフロアの端に入り口。反対側に階段。左右のフロアには個別に話せる個室を並べた。まずは入り口。入って右側に転移用の部屋この部屋の扉は鍵付きで、正面は休憩スペースと受付。受付は部屋の中央で、その後ろは上に上がる階段と資料用の棚。受付から左右のフロアに行き来出来、左右のフロアにはそれぞれ個室が並んでいる)
一階部分を造り模型を造りだした。
「一階はこんな感じです」
「使ってみて問題があればすぐにリフォームできるのですよね?」
「はい。作り直せます」
「それなら、そのままの勢いで残りのフロアも造ってください」
「了解です」
直哉はMP回復薬を飲みながら残りのフロアを造り出した。
(二階部分は屋敷で働く人たちの住居スペース、三階部分はリラクゼーションスペースにした)
「出来ました! 後は倉庫とサイエンスペースの確保ですね」
「お兄ちゃん大丈夫? 顔色が物凄く悪くなってきたよ?」
リリが心配そうに覗き込んできた。
「えっ? 大丈夫だよ? 身体はげん・・・・」
短時間で度重なるMPの枯渇と回復の繰り返しで直哉の身体は悲鳴を上げていた。
「お兄ちゃん!」
「直哉様!」
「直哉さん!」
とっさに三人がかりで支え、直哉はそのまま気を失った。
「あらあら、このまま部屋まで連れて行きましょう」
ミーファは二人と一緒に直哉を支えて、部屋まで運んで行った。
「倒れるまで直哉様をこき使うなんて、いくらお母様でも許しませんよ!」
フィリアはプリプリしながら直哉を運んでいた。
三人は直哉をベッドに寝かせると、ミーファは来客用の屋敷のほうへ、リリとフィリアは新しいお屋敷を整理し始めた。
ミーファが一階フロアをあらかた片付け終えた頃、上のフロアが出来る音がしたため一度屋敷に戻ってくると、リリとフィリアが調理スペースで料理を頑張っていた。
「あー、リリさん、お肉をそのまま串に刺さないでください! 下味を、ってそのまま焼かないでくださいって!」
リリは、肉串を食べて貰いたいようで頑張って作っているのだが、料理をしたこと無いので作り方がわからず、自己流で作っているところを、フィリアに怒られていた。
「いいの! これが美味しいハズなの! 大自然の味なの!」
リリはフィリアの言葉に反論しながら焼いていた。
「あらあら」
ミーファはそんな二人の調理を眺めていた。
ミーファの視線に気がついたフィリアは、
「お母様! ボーっと見ていないでリリさんの調理を見てあげてくださいよ!」
と怒鳴り散らしていた。
「新鮮だ! フィリアってそんなに感情が豊かだったんだ」
その場に現れた直哉は、普段のフィリアと違って喜怒哀楽の激しいフィリアを見て呟いていた。
「えっ?」
「お兄ちゃんなの!」
フィリアは驚いた顔をして、リリは笑顔を直哉に向けた。
「何で、直哉様がここに居るのですか? 上で眠っていたのでは無いのですか?」
「わーい、お兄ちゃんなの!」
フィリアはその場でバシバシと机を叩きながら叫び、リリは肉串を持ちながら直哉に突撃した。
「おっと」
直哉は串に刺さらないようにリリを受け止めた。
「心配させてごめんね、それとありがとう」
直哉はそう言って、リリを下ろしながら椅子に座った。
「それで、俺が倒れていた間の状況を、教えてくれると助かるのですが」
三人に話しかけると、
「私の話は無視ですか!」
「んとね、お兄ちゃんのために焼いてた、このお肉美味しいよ!」
二人の話では伝わってこなかったので、ミーファに視線を向けた。
「あらあら、これは将来が大変ね」
「いや他人事のようですが、二人ともあなたの娘なんですよね?」
「あは、ははは、はは」
ミーファは引きつった笑いで誤魔化そうと、
「そうそう、先ほど来客用の屋敷で上のフロアから音が聞こえて来たのですが、直哉さんですか?」
「はい。先ほど目を覚ました時に体調も良かったので造ってしまいました」
「本当に大丈夫なの?」
直哉は力こぶを見せながら、
「ほら、この通り!」
といって、安心させようとした。
「とにかく、これで一通りの内装が終わりました。菜園と倉庫の準備も万全です。確認をお願いできますか?」
「わかったわ。もうじきラウラ達も帰ってくるから、それまでは頑張りましょう。フィリアたちは食事をお願いしますね。直哉さんにしっかり見てもらいなさい」
そう言って、転移部屋から来客用の屋敷へ移動していった。
直哉はリリとフィリアに、
「今は三人だけだし、二人に大事な話がある」
そう言って、二人と向き合った。




