第三十一話 領地に現れた熱いやつ
◆直哉の家
直哉が買い物から帰ると、一階にリカードとゴンゾーが待っていた。
「おぉ、待ってたぞ!」
リカードが立ち上がり出迎えてくれた。
「どうも、お待たせしました。あれ? ラウラさんかミーファさんはいないのですか?」
「残念ながらどちらも居ないので、勝手に上がらせて貰った」
「それは、構いませんよ」
直哉は適当に空いている席に座った。
「それで、何かありました?」
「そうそう、お前に聞きたい事があってやってきたのだ」
「何でしょうか?」
「お前の知識の中に、今回の火山の噴火に関する情報は無いか?」
リカードの表情と質問に、状況は良くないのだと判断できた。
「俺も先ほど噴火の可能性を聞かされて思い出そうとしたのですが、全く思い出せませんでした」
直哉が申し訳なさそうに言うと、
「それなら、不思議な力で何か情報は出ていないのか?」
直哉はクエストタブを開いたり、マップを確認したが噴火に関するクエストは起きていないようだった。
「今のところは何も起きてないですね。俺自身火山に行った事がないので、マッピングされてないからなのかもしれませんので、近くに行けばもしかしたら反応するかもしれません」
「ならば、今から一緒に行く事は出来ないか? 一刻も早く、いつどの位の規模で起こるのかを知っておきたいのだ」
直哉は少し考えて、
「おそらく、今すぐここまで届く噴火はないと思います。もし、私に被害が及ぶならそれを回避しろというクエストが起きると思います。また、私が近づく事でトリガーが引かれてしまい噴火する可能性もあります。あくまで可能性の話しですが」
直哉は慎重になった。
「直哉は、やって後悔するのと、やらずに後悔するのどちらを取るのだ?」
「もちろん、やって後悔する方を選びますよ」
直哉の言葉にリカードはニヤリと笑った。
「では、火山へ一緒に向かってくれるな」
「もちろん! いつ出発ですか?」
直哉の返事に満足したリカードは、
「三日、いや、四日後に出発する。火山までは馬車で五日ほどかかるからそのつもりで」
「どのくらいの人数で、何日くらい調査するのですか?」
「人数は未定だ。熟練の冒険者を集めようと思ったが、彼らにはこの町を守って貰う事にする」
リカードの言葉に、
「それでは、俺はステータスやスキルの調整をしておきます。レベルによっては、リカードの腕をバージョンアップ出来るかもしれませんし。ゴンゾーさん用の補助器具はどうしますか?」
「拙者のか? 拙者の改造してもらえるのであればよろしくお願いする」
「わかりました。土地も広がったので色々と変更しようと思ったのですが、時間が出来るかどうか心配です」
「スキルはすぐわかるのか?」
直哉はステータスを開きながら、
「すぐわかりますよ!」
ステータス画面
ナオヤ
鍛冶職人
冒険者ランク2
Lv:18
最大HP:148+200
最大MP:178+200
力:20+20
体力:18+20
知力:13+40
素早さ:13
器用さ:13
運:8+10
ボーナス 29
スキルポイント 39
スキル
戦士系:1
○縦斬りLv4
○横斬りLv5☆
○リジェネLv1
○得意武器(片手剣:Lv3)
四連撃Lv2
盾攻撃Lv1
急所攻撃Lv1
魔術師系:0
○魔力吸収Lv1
商人系:0
○目利きLv1
鍛冶系:10
武具作成Lv5☆
アクセサリ作成Lv1
大工Lv5☆
冶金Lv5☆
精錬Lv5☆
アイテム作成Lv5☆
武具修理Lv3
アクセサリ修理Lv1
家具修理Lv2
リフォームLv1
サイボーグ系:6
疑似四肢作成Lv4
疑似臓器作成Lv1
疑似部位連携Lv4
疑似四肢修理Lv1
マリオネットLv3(MP補正:+30)
(おや? マリオネットにMP補正が付いたな。それに、四肢作成もレベルあがったし、強化出来るな)
「やはり、レベルが上がっているので、義手の性能を上げられますね」
リカードは待ってましたと言わんばかりに、
「それでは、強化を頼む」
と、身を乗り出して来た。
直哉はスキルを発動し、新しく揃えた素材を使いリカードの義手と補助を造り出した。
「素材は同じですが、基本性能がかなり上がっているので、気を付けてください」
「了解!」
リカードは新しい腕を回しながら、
「ゴンゾーのも頼む。早くこの腕を試したい」
ゴンゾーさんにも前回と同じ素材で造り直し、ゴンゾーさんは嬉しそうに装着した。
二人は新装備を試すべく鍛練場を所狭しと駆け巡った。
(やっぱりここも狭く感じる様になったな。土地を広げてもっと大きな鍛練場を造ろう。って言うか二人とも速すぎ!目で追うのがやっとだよ。どれだけ強くなれば気がすむのだろう。今の俺じゃあ舜殺だな。まぁ、俺は俺の出来る事から始めるか)
直哉は土地タブを開き、管理画面を眺めていた。
(ここがガナックさんの小屋で、ここが池か。この辺はそのままにしておこうかな)
先日の足取りを辿るように領地が広がっていた。
(これで、領地から外すことが出来た。ん?このアイコンは温泉マークの予感。火山と関係あるのかな?)
「よし! 温泉かどうか確認したら、新しい家はその側に造ろう!」
直哉は探索の準備すると、
「領地を見てきます」
「後にするというのは何だったのだろうか? まぁ、私たちも同行しよう」
一人で行くつもりだったのだが、リカード達が同行を申し出た。
「ありがとうございます。頼もしい護衛です。本来の肩書きからすると逆にならなきゃ駄目なんですがね」
直哉は肩をすくめた。
「護衛といえば、ラナさんとルナさんはどうしたのですか?」
「そうだった! 風呂に行ってるのだったんだ。今頃上の階で私達に撒かれたと思っているかもな」
三人は一階に上がった。
そこには、泣いているラナとルナ、二人を慰めるイリーナとミーファの姿があった。
これはヤバいと逃げ出そうとしたリカードを直哉は制止しようとしたが、パワーアップしたリカードを止める事は出来なかったが、ゴンゾーが代わりに止めた。
「今、逃げたのが主犯ね。後の二人は共犯と言うわけね」
鬼の形相になったミーファが冷たく言い放った。
「ひぃぃぃ」
リカードが情けない声をあげた。
泣いていたルナが直哉を見つけると、
「直哉伯爵様。帰っておいでだったのですね?」
と、助け船を出してくれた。
リカードに雷が落ちた後、ラナとルナを加えた五人は直哉の領地を確認しに出かけた。
「ミーファさん、リリとフィリアが帰って来たら、この辺に行ってると伝えてください」
居間に置いてある地図に温泉マークがあった場所を記した。
「わかったわ。それと、戻って来たら話しがあるので私の所に来てくださいね」
直哉は何の事だろうと思ったが、
「わかりました。後ほど伺います」
と言って出かけた。
◆直哉の領地 温泉
「先ほどの場所だと、直哉の家から東南東方向に一時間ほど進んだ場所だな」
「そうですね、もしかすると山にかかっているかもしれません」
「さすがに山はお前の領地にはならないぞ?」
リカードの言葉に、
「わかっていますよ。もし本当に温泉が湧き出ているのであれば、俺の領地まで引こうかと」
「それなら、問題無いな」
途中でオークの群れと遭遇するも、全部で三十匹の団体であったが、リカードとゴンゾーが十匹ずつ、ラナとルナが四匹ずつ、直哉が残りと危なげなく倒した。
直哉は、ドロップしたシルバーリングを拾いつつ、マップを確認した。
「この辺は、すでに標高が上がってきてますね。まだ、領地としてくれるのですか?」
土地タブをクリックすると、先ほどまで黒かった部分に地形が書きこまれ、領地が広がっていた。
「この距離なら、温泉とやらの所まで領地に入りそうだな」
その時、マップのタブとクエストのタブに警告マークが浮かび上がった。
「ん? 何だろう?」
マップのタブをクリックすると、温泉マークの部分に魔物のアイコンが追加され、クエストタブが開き強制クエストが発動した。
強制クエスト 魔物から温泉を解き放て!
この温泉は魔物『温泉グリフィン』が占領している。この魔物を倒す事により温泉を使用する事が出来る。
逃げる事も可能だが、その場合この場所の温泉は消滅する。
「温泉グリフィンってはじめて聞いたのですが、知っていますか?」
「レッドグリフィンの事かな?」
「そこまでは、わかりませんが、温泉グリフィンが待ち構えています。ご注意を!」
「わかった。ゴンゾー殺れるか?」
「拙者にお任せを!」
ゴンゾーを先頭に、リカード・ラナ・ルナが続き、直哉は最後尾を努めた。
「せいやー」
ゴンゾーの一撃は休んでいた温泉グリフィンの羽根を貫通し、その激痛で目を覚ましたグリフィンが叫んだ!
「ぴぇぇぇぇぇぇぇー」
その叫びに共鳴するかのように、温泉があちこちから噴き出した。
「あちちちちちち」
リカードは足下から噴き出した温泉の直撃を躱したが、飛沫を浴びただけで激痛が走る程の熱さを感じた。グリフィンの側に居たゴンゾーは大量の温泉を浴びていたようで、その場にしゃがみこんでいた。
「直撃は危険だ、ラナとルナは回避に専念しろ! 直哉! バックアップを頼む。私が突っ込んでゴンゾーを助ける!」
「了解!」
直哉は厚めの盾を十枚取りだし、全てをマリオネットで操った。
一つは自分の足下に、ラナとルナに一つずつ、突っ込んでいくリカードの足場を創るように盾を並べた。
「ナイス! ほっ、ほっ、ほっ」
リカードはその盾を足場にしてグリフィンに肉薄した。
直哉は盾を操作しながら周囲の警戒をしようとした時に、ラナとルナが二人の応援をしているだけという事に気がついた。
「ラナさん、ルナさん。応援するよりも周囲の警戒を! 敵が一体だけとは限りませんよ?」
そして、ラナの後ろに槍を装備した大きなトカゲが息を潜めている事に気がついた。
「リカード! そちらはお任せします、俺は二人を助けます」
「頼む! こっちは何とかする」
直哉は新しい盾を取りだし、ラナとトカゲの間に潜り込ませた。その結果ラナを救う事が出来たが、リカードの援護が疎かになっていた。
「ラナさん、ルナさんトカゲは全部で三匹はいます、少しの間押さえられますか?」
「やってみます」
ラナが前に出て、トカゲたちの注意を引き攻撃を受け止めていた。時には攻撃を繰り出して牽制してルナの方へ注意を向けさせなかった。そして、タイミングを計りルナはトカゲへ攻撃を仕掛けた。
「セイ! セイ! セイ!」
死角から繰り出される連続攻撃にトカゲAはキラメキながら消滅した。
その後も二人は連携してトカゲ達を翻弄していた。
「少しの間頼みます」
直哉は意識をリカード達の方に向け、防衛網改を取り出した。
「リカード、今から網飛ばしてグリフィンを絡め取ります」
「頼む、中々近づけないからダメージが少ない」
網を二つ取り出した。一つは見える網、もう一つは見えづらい網。
マリオネットで網を操作して、見える方を前面に、見えづらい方を後方へ配置して前面の網を近づけていった。
「そのまま、後ろのに引っかかれ!」
直哉の思惑通り後ろの網に引っかかり、身動きが取れなくなった。
「さらに、コレも!」
そして、前から迫っていた網も巻き付け、
「後は頼みます」
と、ラナとルナの方へ意識を向けた。
先ほどの残り二匹を翻弄している姿が目に入った。
直哉は、さらに周囲を見渡すと、ルナに向かって槍を投げようとしているトカゲの姿が目に入った。
剣と火炎瓶を取り出し、新たに飛ばした。
(MPが結構厳しくなってきたぞ。ぬいぐるみの出番だな)
ぬいぐるみを懐にしまい、連携を使って身体の一部として扱い、魔力吸収を発動した事を確認した。
(これで、回復スピードが二倍になるはず)
その時、トカゲは槍をルナに投げつけた。二人はこの攻撃に全く反応できなかった。
槍が正確にルナに飛んできて、ルナの動きが止まった。
目を瞑り、痛みを堪えようと構えた時、ラナを守った盾がルナの前に飛び、槍の砲撃を完全に防いだ。
ガン!
金属同士のぶつかる音が響き槍をはじき飛ばした。
「ぎしゃぁぁぁぁぁぁ」
トカゲは怒り狂いルナの方へ突撃していった。
「二人とも! アレは何とかするから、目の前の敵に集中して!」
直哉の叫びに我に返った二人は、二匹のトカゲを相手に善戦していた。
ルナの方に向かっていたトカゲは、火炎瓶を顔面にぶつけられ、怯んだ隙にしっぽに剣を突き立てられ、しっぽを切って捨て身の攻撃を仕掛けようとした時に、盾をぶつけられ意識を飛ばされた。
直哉は剣と盾を装備して、気絶したトカゲのトドメをさした。
ラナとルナも何とか残りの二匹を倒し、肩で息をするほどの疲労感にその場に座り込んでしまった。
直哉は辺りを見回して当面の安全を確認してから、リカード達の方に意識を向けると、そこには無惨な姿のグリフィンが横たわっていた。
「流石ですね!」
直哉達は、リカード達に合流した。
「拙者の不覚であった。まさか、熱湯で攻撃を仕掛けてくるとは、ぐぅ」
そう言って、苦痛に顔をゆがめた。
直哉はかける回復薬改二を取り出しゴンゾーを回復した。
「おぉ! この薬はもの凄い回復力だな」
ゴンゾーは重度の火傷を負っていた腕が、みるみるうちに回復していくのを見ながらつぶやいた。
直哉がクエストタブを確認すると、クエストクリアになっており、無事温泉を手に入れた。
「直哉殿の領地は良き鍛練場になりますな」
「そうですね、許されるのなら魔物を鍛錬用に放置しておく場所を創っておきたいですよ」
「それは、面白そうだな!」
直哉は土地タブを操作して、周辺に立地条件の良い場所を探した。
温泉から数分戻ったところに地盤が良い場所があり、その場所に新しい屋敷を構える事にした。
直哉は屋敷の大きさを決め、地上部分にその範囲を表示した。
「おぉ! 区切りが出てきた」
直哉のスキルを見たリカードは興味津々で出来上がる過程を見ていた。
「この範囲の木々を伐採して、地下部分を掘ります」
周囲の安全を確かめてから土地タブを操作した。
一瞬にして区切りの中の木々は伐採され、大きな広場が出来た。
「おぉー、あの木々が消えた!」
リカードが飛び出していきそうなのを止めながら、
「穴を掘りますよ?」
といって、四階分の縦穴を創った。
「なんと! 直哉殿の鍛練場より広い空間が出来ておる」
その部分に、直哉の家の地下をそのまま大きくしたような地下鍛練場を埋め込んだ。
「ふぅ。かなりMPを消費したな」
簡易的に創った入り口を開け、地下へ降りていった。
「凄く広い!」
「階段だと結構長いですね、リフトを複数用意しないとダメだな」
中は、鍛練場・更衣室・シャワールームを完備し転移部屋への入り口も再現されていた。
「一度戻って、皆と話しましょう」
リカードとゴンゾーは新しい鍛練場に後ろ髪を引かれていたが、直哉が先に帰ってしまうので鍛練を諦めて戻る事にした。




