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第二十七話 直哉のダメージ

◆直哉の家


直哉が目を覚ますといつもの天井だった。

(あれ? ここは? なんで? うっ)

頭に激痛が走り、南の森での出来事を順番に思い出していた。

(ガナックさん、メイフィスさんのご夫婦は愉快な方たちだったな。アーサー君は病気っぽいし心配だよな。そして、わんことそのお母さんに出会って、何故か戦ったよな)

そこで、自分が涙を流していることに気がついた。

「なんで俺は・・・・あぁ、そうか。メイフィスさんは俺が殺したんだ。俺が、この手で。うぅぅ」

直哉は震えながら泣いた。

「お、俺は何て事をしてしまったんだ。この手で、人を・・・」


コンコン

「たのもうなの!」

返事を待たず、リリが入ってきた。

「あれ? お兄ちゃん?」

部屋に入ったリリが見つけたのは、ベッドの上で体育座りの体制で布団を肩にかけて包まっている直哉の姿であった。

「こら! リリちゃん! 勝手に入っちゃ駄目でしょ!」

後からフィリアとラリーナが一緒に入ってきた。

「どうしたの?」

リリは心配そうに覗き込んだ。


「・・・・・・・・・おぇー」

直哉は吐いた。

「うわぁ」

リリは慌てて離れた。

「直哉様!」

フィリアは慌てて直哉に近づき、容態を確認した。

「酷い熱に嘔吐に震え、内臓系の病気だと危険ですね。リリさんは上に行って換えのシーツにお湯とタオルを大量に持ってきてください。ラリーナさんは私の母かラウラさんを呼んできてください。お願いします」

「了解なの!」

「わかりましたわ」

二人が出て行った後で、フィリアは直哉の粗相を処理し、口の周りを拭いた。


「お口の中はもう少し我慢してください、今、リリさんがお湯を持ってきてくれますので、それで、漱いでください」

直哉は何も言わず、涙を流した。

「直哉様? どうなさったのですか?」

「俺は、とりかえしのつかないことをしてしまった。人を殺めてしまった。この手で、俺の意思で」

直哉は、フィリアに悩みを打ち明けた。

「俺は、俺は・・・・おえー」

二度目の嘔吐をして、意識が朦朧とする直哉。

フィリアは、直哉の精神的なダメージが大きい事に驚き、


「とにかく身体と心を休ませるべきですね」

フィリアは必要なものをピックアップしていった。そこへ、下の階からラウラとミーファとラリーナが、お湯などを持ってやってきた。

「容体は?」

「直哉様は心を磨り減らしております。今は十分な休息とその後栄養を」

ラウラが部屋の換気をはじめ、ミーファは直哉の汚れた服などを脱がせ始めた。

「もうじき、リリさんが上からお湯とタオルなどを持ってきてくれるはずです。私は下から睡眠薬とお粥を持ってまいります」

フィリアはそういうと、部屋を出て行った。


「あらあら、一人じゃ大変な量ね、ラリーナさん、リリのところへ行って手伝ってもらえるかしら?」

「わかった。行ってくる。上の階だったな?」

「お願いね」

ラウラとミーファの手際の良さにより、見る見るうちに直哉の周りは綺麗になっていった。

上の階からリリとラリーナが降りてきた。

「お待たせなの!」

「お待たせ!」

ミーファは直哉を担ぎ上げ、ベッドからおろして身体の汚れを落としていった。

その間にラウラは、ベッドメイクを済ませ、ミーファの手伝いに入った。


「お兄ちゃんどうしたの?」

「直哉さんは心の病気なの。少し休息が必要だから、リリちゃんたちは下でリカードさんたちの相手をしていてもらえるかしら?」

「リリもお兄ちゃんと居たいの」

「一緒に居ても大丈夫なくらい回復したら呼びますから」

リリは納得がいかないものの、行くのを渋っていると、

「直哉さんが動けないときに、代わりに動いてあげることも大切なのですよ。リカードさんとのお話だって大切なことでしょ?」

ミーファは子供をあやすようにリリの頭を撫でた。


「ラリーナさんも良ければ、リリと一緒にリカードさんの相手をお願いできるかしら?」

「私がか? 私が話相手を勤まるとは思えんが、リリを連れて行くことなら出来る。それで良いか?」

「ええ、構いませんよ」

渋々と降りていったリリは、下でリカードの相手をしているフィリアを見て、ミーファの言っていた事はこういう事なんだと理解した。


「あ、リリさん、よろしければ直哉様のところに、この薬とお粥を持っていってもらえませんか?」

フィリアの言葉に驚きながら、

「リリが行って良いの?」

「もちろん。リリさんも直哉様の事が心配でしょ? お傍にいてあげてください。こちらも終わり次第向かいますから」

リリはパッと笑顔を浮かべ、

「ありがとうなの! 行ってくるの!」

薬とお粥を置いたワゴンを押しながらリフトに消えていった。


フィリアは残ったラリーナを呼び寄せて、

「と言うわけで、ラリーナさんはこちらで一緒に話しましょう」

リカードとゴンゾーとシンディアの元へ集まった。

「さて、大体の事はフィリアから聞いたのだが、魔王と悪魔神官、それにダークエルフが襲ってきたときの状況がわからないので、教えていただけるとありがたいのだが」

シンディアの言葉に、ラリーナは思い出すことを拒否する頭を抑えながら、


「あれは、私と母が直哉に出会った日、帰路についたのだが、里に近い祭壇の方から怪しい気配が立ち込めていたので、母と共にその地点に向かっていた。途中で大きな魔力の放出を感じたので、里の方が心配になりそちらに進路を変更した。里へ付く途中でぬいぐるみと戦っている里の戦士たちの姿が見えました。その場に居た敵はそのぬいぐるみだけでした。母は戦士から事情を聞きだすと、私に直哉宛の手紙を託し直哉の元へ行かせた。母は戦士たちと共にぬいぐるみと戦っていた。これが、私の知る彼らです。この後で、直哉の張った粘着性の強い網に引っかかって捉えられました」

そう言って、涙を拭いた。


「そうですか。おつらい所ありがとうございました」

シンディアはラリーナの言葉を記録して、

「後は、直哉伯爵の調書だけですね」

フィリアは首を振って、

「今はまだ無理ですね」

「フム。結局詳しいことは判らずじまいかの」

ゴンゾーの言葉に、シンディアは、

「私はもう少し待って見ます。容体も見ておきたいですし」


「それなら、俺たちはフィリアたちの相手をするか?」

リカードは剣を取った。

「それなら、私よりもリリさんの方が適任ですね、あと、よろしければラリーナさんも鍛練して見ては如何ですか?」

「わたし? 母以外に鍛練したことが無いので、楽しみではあるな」

そう言って、リカード・ゴンゾー・ラリーナの三人は鍛練場へ降りていった。


フィリアはその場を片付けた後、上の直哉の部屋へ向かった。

直哉の部屋では、リリが心配そうに直哉を覗き込んでいた。

ラウラとミーファはそれぞれの持ち場に戻っており、お粥も薬も手付かずであった。

「お粥は食べてもらえませんでした?」

「うん。心配なの」

シュンとしてフィリアを見た。


「このまま死んじゃうのかな。リリそんなの嫌なの」

「そうならないように、私たちで出来ることをやりましょう!」

フィリアは励ました。

「でも、リリ何をすればよいのかわからないの」

「それなら、直哉様にくっついて身動きを封じてください、その間に私が食べさせちゃいます」

フィリアはそう言って、造っておいたお粥に睡眠薬を混ぜていった。

「そのくらいなら、リリにも出来るの!」

リリは直哉の布団にもぐりこんだ。


直哉は夢の中で戦っていた。

倒しても倒しても襲い掛かってくるゾンビたち。

リカード直伝の戦闘方法で次から次へと倒していく。

そして、最後にメイフィスを倒して、

「どうして私を・・・・」

と言う台詞で目を覚ます。

何度目かの夢のあと、直哉は傍にリリとフィリアが居ることに気がついた。

「おはよう、二人とも」

リリは直哉に抱きつきながら眠っており、フィリアはそんな二人の頭を撫でていた。

「おはようございます。直哉様」

「なんだか、恐ろしい夢を見ていたような気がするよ」

何かを思い出そうとする直哉を、


「お腹は空きませんか? お粥の準備が出来ています」

「おぉ、ありがたい。良くわからないけど、物凄くお腹が空いているようだ」

そういって動こうとしたが、リリがしがみついており、

「私が食べさせてあげますわ」

フィリアに甘えることにした。

「はい、ふーふー。あーん」

直哉の口の中に睡眠薬入りのお粥を流し込んでいく。この薬は夢を見ることも無くぐっすりと疲労を取る効果がある。ご飯とお水、少々の塩のみというシンプルな味付けの中に入れても気づかれないほどの、無味無臭の薬。本来なら危険薬として分類されるのだが、フィリアはこっそりと造っていた。

しばらく食べた後、薬の効果で眠りに付いたので、

「リリさん、もう良いですよ」

と、声をかけた。

「すやすや」

リリも眠ってしまったため、フィリアはそのまま降りていった。


鍛練室に着くと、肩で息をするラリーナとその横で型の鍛練をするリカードとゴンゾーの姿があった。

「あれ? ラリーナさんはお休みですか?」

ラリーナはチラッと見ると、

「いや、この二人は化け物だろう」

そう言って、ぐったりとなった。


「リリさんが眠ってしまったので、私の鍛練を先にお願いします」

フィリアは武具を装着し、ゴンゾーさんの前に立った。

「ウム。この間と同じで行くぞ?」

「はい!」

お城に行く前の鍛練では気が付いたら剣を当てられていて何も出来なかったが、今回はその攻撃を見ることが出来、さらに身体も動いてくれた。


「ここです!」

左手に装備していた盾でその攻撃を受け止めた。ずざざ、と十数センチ後ろに下がったが、しっかりと受け止めた。

「せい!」

直哉がいつも攻撃したように、攻撃を繰り出した。

「おぉ」

ゴンゾーは思わぬ反撃を打たれ後ずさった。


「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力に呼応し敵の目をそらせ!」

「スパークフラッシュ!」

物凄い光を放ち目くらましを発動した。

「なんと!」

とっさに目を閉じ、目以外での感覚を研ぎ澄ます。


「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力に呼応し敵を裁け!」

「ホーリーフォトン」

光の拳が襲い掛かる。

「やりおるな!」

ゴンゾーは魔法が当たる寸前に身をかわして直撃を避けた。そこへ、


「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力にひれ伏し邪悪なる者に裁きの鉄槌を!」

「エンジェルフィスト!」

物凄い数の光の弾幕が襲い掛かった。

「ぬぉぉぉぉぉ」

ゴンゾーはその光の弾幕を剣技で裁ききった。


「流石に、お強いですね!」

フィリアは光魔法を撃ちながら、突撃を仕掛けていた。

「これで!」

そういいながら、走りこみながらの横薙ぎをしかけた。

「まだまだ!」

ジャンプでかわされ、蹴りを喰らって横転した。

「きゃぁ」

「流石に後衛のお前の攻撃では、わしには届かんのう」

剣をフィリアに突きつけた。


「参りました」

フィリアは素直に負けを認めた。

「また、強くなりやがったな。あそこまでゴンゾーを振り回すとは、直哉とリリが加わったら結構やばいな」

リカードはそういいながら、フィリアを起こそうとしたが、フィリアは自分で起き上がった。

「それで、直哉の方はどうなんだ?」

リカードはバツが悪そうにしながら聞いてきた。


「今はお薬の力で眠っております。もう少し気力が回復すれば乗り越えてくれると思うのですが、実際のところ人を殺した事の罪悪感ですか? それがいまいち判らないのですが、あのダークエルフは間違いなく私たちの命を狙っていた。最後は抵抗していたようでしたが、命を絶つ意外に救う方法が無かったことも事実。それなのに、何をそんなに気に病んでおられるのか。ラリーナさんにとってもあの者は里の人々のカタキですし。いつもの直哉様らしくありません」

フィリアは身体を癒しながらラリーナの方を向いて、


「私と鍛練しますか?」

ラリーナは目を輝かせて、

「後衛相手なら!」

そう言って、戦闘態勢を取った。

「いつでもどうぞ!」

フィリアは剣と盾を装備して、ラリーナの前に立ちふさがった。

「うらぁ!」

ラリーナはフィリアへ飛び掛かった。

「あまい!」

ラリーナの攻撃を容易く盾で弾くと、剣での攻撃を繰り出した。

「ちぃ!」

何とか躱したが攻撃に鋭さがない分、フィリアには届かなかった。

武器を持っていないラリーナに、

「そういえば、ラリーナさんの獲物は何ですか?」

「戦闘スタイルは真名の名付け親が決める事になっている、直哉の指示を待たなくてはいけないのだよ」

「そうですか、それでは戦闘スタイルが決まるまでは戦闘鍛練しない方が良いですね。しばらくは、基礎体力の向上の鍛練をしましょう」

そう言って、ラリーナと共に鍛練場を走り、腹筋背筋などの基礎体力向上の運動をしていた。



◆直哉の部屋


「こ、ここは・・・・」

直哉は薬の効果から覚醒し、朦朧とする意識の中、辺りを見まわした。

「もしかして、全部夢だった? とか・・・・」

直哉は身体が異様に重たいので、その重さの原因を探ろうとお腹を見てリリが居る事を発見した。

「あれ? リリ? 何で?」

直哉はリリを起こさないように脇に置いて立ち上がろうとしたが、足に力が入らず倒れ込みそうになった。


「あらあら」

部屋の中で作業をしていたミーファが受け止め、ベッドに戻してくれた。

「あれだけ、盛大に戻していたのですから、まだ身体が全快した訳ではないですよ」

直哉はキョトンとしていたが、だんだん記憶を取り戻し、涙を流し始めた。

「お、俺は、とんでもない事を!」

「そういえば、直哉さんはメイと知り合いみたいですね? あのお転婆娘は少しは落ち着いたのですか?」

直哉は、自己嫌悪に陥りそうな所を、ミーファの言葉で現実世界に引き戻された。

「メイフィスさんをご存じなのですか?」

「そりゃぁ、数百年前の大戦の同じ陣営で戦った戦友だし、良くも悪くもあの子に感化されたのは間違いないわね」

直哉は顔を伏せ、自分の世界に入ろうとした。

「そんな人を俺は・・・」

ミーファは直哉の顔を上げさせ、その目を見ながら、


「メイを助けてくれたのでしょ? ダークエルフに落ちてしまわないように。あの子の遺体を見せて貰ったわ。半分くらい黒く覆われていて、もう少し闇の力が注がれてしまったらダークエルフに落ちてしまっていた」


「それでも、殺してしまった」

「あの時の最善でしょうね。助ける方法は、清き里の清き森の清き湖にその身体を沈めて浄化する事。あの時それが出来て?」

「でも、でも。メイフィスさんの叫びが」

「その叫びは、本当にメイのもの? メイは最後に何て言ったの?」


「最後は、ありがとう、ごめんねって言っていた気がする」

「それが、メイの本心ね。あの子の心の声。メイは無用な人殺しをせずに済んだと思っていたはずよ」


「俺がもっと強ければ、メイフィスさんを殺さなくても無力化できるほど!」


「それなら、強くなりなさい! 心も身体も! 今のあなたじゃ、メイは犬死によ! あなたならもっと強くなれる、同じ状況でも違う選択肢を出せるほど」


「俺なら?」

「そう。正確にはあなた達なら! 直哉さんは一人じゃない。リリがいてフィリアがいてラリーナさんもいる。私やイリーナさん、もちろんお城のみんなも。だから、一人で自分の殻に閉じこもるのは止めなさい。メイも悲しむわ」


「メイフィスさんに会わせてください」

直哉の目に力が戻った。

「これなら、大丈夫そうね? リリを連れて下に行きなさい。リカードさん達がお待ちですよ」

「ミーファさんありがとう、何が出来るかはまだ判らないけど、自分なりの生き方を探してみようと思います」

直哉はリリを揺さぶって、

「ほら、リリ起きて? 下に行くよ!」

目を覚まさないリリを、抱き上げて、

「おや、随分と大きくなったんだな」

と感心しながら降りていった。

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