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第二十三話 南の森で ~前編~

(しかし、豪快な女性だったなぁ。それにあの犬からも不思議な気配を感じたし、また会うことがあったらゆっくりと話したいな)

地図を見ていた直哉は、先ほど登録した友録に変化があるのに気が付いた。

(あれ?メイフィスさんの項目が黒くなってる。何だこれ? インスタントメッセージも反応ないし、ボイスチャットも反応なし。何が起こっているのだろう?)

悩みながら森を進むと、町のほうから声が聞こえてきた。


「こっちから、お兄ちゃんの匂いがするの! 間違いないの!」

「直哉様! 居たらお返事を!」

(ん? リリとフィリアか?)

「おーい! ここに、いるよー!」

声を上げると茂みの中からリリが飛び込んできた!

「お兄ちゃん発見なの!」

「おっと、危ない」

飛び込んできたリリを受け止めた。


「すんすん。お兄ちゃんの匂いなの!」

首筋に顔をうずめたリリは直哉の匂いを堪能していた。

「俺ってそんなにクサイかな?」

直哉がそう口にすると、

「そんな事は、ありませんよ。リリさんが特殊なのですよ」

そう言いながら、フィリアが合流した。

リリが張り付いていない腕を組み、寄り添うようにくっついてきた。


「二人とも今日はどうしたんだい?」

直哉は首をかしげながら聞くと、

「私たちは不安だったのですよ?」

「お兄ちゃんが一人で帰っちゃうんじゃないかって」

「今朝からお姿をお見かけしないし、リカード様達からは、南の森の異変と直哉様が南の森でその異変に巻き込まれたと聞かされて、居ても立っても居られなくなったので、お迎えに上がりました」

「とりあえず、お兄ちゃんの気配がする方向へ直進して来たら、近くからお兄ちゃんの匂いがしてきたから、その匂いの強くなる方へ進んで来たの!」


「南の森の異変だって?」

直哉はメイフィス達が向かった方角が南なのと、友録の項目が変化していた事等から、メイフィス達に何か良くない事が起きていると確信した。

「リリ、フィリア、一連の流れを教えてくれるかい」

直哉は二人が離れてくれないので、そのまま話しかけた。


「はいなの! 起きたら全員集合していて、お兄ちゃんの探索に手を挙げたの!」

直哉は微笑みながらリリの事を見ていた。

「リリさん、その説明だと、さすがの直哉様でも理解するのは不可能ですよ」

「リリは俺が危険って事だけで俺の所に来たって事だよね?」

「そうなの! リリはいつだってお兄ちゃんと一緒に居るの!」

「私もです」

二人は直哉の腕にそれぞれくっついた。

「今日はやけに距離が近いな。昨日の話が原因だよね?」

二人はそれぞれうなずくと、


「俺は、全てを取る事にした。元の世界に帰る事、リリの願いを叶える事、フィリアの願いを叶える事。最低でもこの三つは叶える事にするよ! それ以外はその時それぞれ考えるよ」

「お兄ちゃん!」

「直哉様!」

二人がくっついて話が進まないので、


「さて、フィリア。詳細をたのむ」

「はい。この森の奥で大規模な魔法が使われたらしいので、その調査を直哉様に依頼をしにリカード様とゴンゾー様がいらっしゃいました。直哉様がいらっしゃらない事を伝えると、直哉様がお一人でこの森に入っていくのを見かけた者がいて、もしかしたら、大規模な魔法に巻き込まれたのでは? という事で、魔法が使われた場所の調査隊と直哉様の捜索隊が結成されました」

「こっちは、リリとフィリアお姉ちゃんなの!」

「と、言う事は、調査隊はリカード達かい?」

「そうなると思います。お城に戻って相談するとおっしゃってました」

直哉は少し考えてから、


「俺は二人を連れて、調査に加われば良いのかな?」

「はい。そのために魔法が使われた場所の地図を頂きました」

直哉はその地図を見て、自分のマップと見比べながら、おおよその場所にマーキングを置いた。

「後は、大規模な魔法と言う事なので、対魔法用の装備と回復薬系を渡しておくね」

スキルを発動させ、


リリには飛んで行くときに邪魔にならないように、本体は腕の太さと同じ大きさでその中に扇型の羽根が一週分仕舞われており、それが広がると腕の三倍程の大きさになる盾へ変貌する。

これを、疑似四肢作成を使い義手扱いで作成して、疑似部位連携を使い扇形の羽根を広げたり閉じたりする部分を意識するだけで行えるようにした。


フィリアには回復薬を多数収納出来、尚かつ身につけて持ち歩けるポーチを、クロスボウの矢の換えと被らないように装着させた。最終的には直哉のアイテムボックスのような異空間を使った収納が造れるようになれたら良いなと思っていた。


直哉自身には、疑似四肢作成を使い手の平サイズの小さな熊のぬいぐるみを造り、これをマリオネットスキルと疑似部位連携スキルを重ねがけする事により、直哉の意識と同調して動くぬいぐるみを造り出した。

新装備でリリと直哉は疑似部位連携による、今までにない感覚に慣れながら、森の奥へと進んだ。


直哉の案内で、ガナック達の家までは安全に進む事が出来た。そして家には誰も居ない事を確認すると、異変が起きたポイントを確認するために、マップを開いた。

「ここよりさらに南の方角だね。ここからは道がわからないから身長に行こう。リカード達も調査に来ているだろうけど、俺たちよりは遅くなると思う。絶対に無理はしないように!」

三人は改めて装備を確認し、回復薬系などの消耗品も整えた。

リリはすぐに盾との連動を覚え、戦闘への支障は全くなかった。

直哉の方は、動かす事は出来るようになったものの、実戦で使うにはまだまだ改良の余地があった。

視点などは繋がってないため、常に見えるところにいなければならず、森のように障害物が多いところでは、スキル『マリオネット』で操る糸が絡まって動かなくなる事もあった。そして、触覚が共有されているためぬいぐるみが傷つくと直哉にダメージが反映された。この辺りの問題点を解決するまでは、お蔵入りになりそうであった。疑似部位連携を切って、ただの人形を操作する事なら可能であったが、直哉は自分のスキルを人形に使わせるため、身体と連携したのであった。


(まぁ、使い方次第かな? スキルを使わないのであれば、その辺の石とかを操ればそれだけで武器になるよな。待てよ。武器を操れば強力なスキルになるのでは?)

直哉は、倉庫に置いてある石の剣を数本取り出して、マリオネットで操った。

(こ、これは、使える気がする!)

自分の周りを自在に動く剣を見て、直哉は新たな戦い方を思案していくのであった。


複数の武具を操作する事になれた頃、アークゴブリン一体、オーガ三体、ゴブリン十五体、コボルト多数の混合パーティを見つけた。

アークゴブリンを中心にオーガが周りに控え、その周りをゴブリンが警備している。

コボルトは、雑用を担当していた。


(ゲームだとアークゴブリンはレベル15相当、オーガはレベル8相当、ゴブリン・コボルトはレベル1だったから、なんとかなるな)


「出だしから数が多いな。俺とフィリアで雑魚を狩りますか。リリはここのボスクラス四体いける?」

「一体なら余裕! 四体は恐らく!」

「フィリアは加護を掛けた後、目くらましを! うまく雑魚が怯んだら、オーガに光り魔法で攻撃した方が良さそうだな。雑魚は俺が狩る!」

「承知!」


「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力にひれ伏しその加護を仲間に与えたまえ!」

「ディバインプロテクション!」

直哉達を光の膜が包み込む。

「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」

「スライスエア!」

リリが風の魔法を使い敵陣へ突っ込んでいった。


敵襲を受け、リリの方を見るとその後ろから強力な光がやってきた。

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力に呼応し敵の目をそらせ!」

「スパークフラッシュ!」


直哉も同時に掛けだし、複数の武具を操りながら近くにいたコボルト、ゴブリンを操った武具で牽制しながら、攻撃範囲に入った敵をなぎ払った。操った武具では致命傷を与える事が出来なかったが、牽制するだけなら今のところ有効であった。


フィリアは柄の長いハンマーを装備し、二人から離れすぎないように後を追いかけた。

リリが切り込んで行き、その後ろを直哉が雑魚を蹴散らしながら突進した。

フィリアは雑魚の残りをハンマーで潰しながら追いかけて行った。


「ちぇっすとー」

立ちふさがるオーガのうち、進行途中にいた二体に氷結クラッシュ連続拳版をお見舞いし、アークゴブリンに攻撃を仕掛けようとしたが、すでに迎撃態勢が整っていたため、乗っていた風魔法を解き放ちアークゴブリンにぶつけた。リリは倒したオーガの上に立ち、アークゴブリンと対峙した。

残りのオーガが目つぶしから回復し、状況を判断しリリに攻撃を仕掛けようとしたが、そこへフィリアからの魔法が飛んできた。


「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力に呼応し敵を裁け!」

「ホーリーフォトン!」

光の衝撃波がオーガを襲い、オーガは昏倒した。


直哉は辺りのコボルトとゴブリンを操った武具で取り囲み、一手に引き受け次々と撃破していった。

「せぃ! やぁ!」

しっかりと鍛練をしていた直哉にとって、ゴブリン・コボルトの群れは問題無く、次々と撃破していった。

昔は、すぐ息が上がって腕が鉛のように重くなってきていたが、最近はこの位の時間なら剣を振り続けても、普段通りに剣を振る事が出来るようになっていた。


リリはアークゴブリンと対峙していたが、突撃を開始した。

「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」

「スライスエア!」

「スライスエア!」

「スライスエア!」

「スライスエア!」

風魔法を連打し、周囲に風魔法による檻を作り上げた。


「ちぇっすとー」

その風魔法の一つに乗り、アークゴブリンの死角に回り込むように飛んでいき、後ろから攻撃を繰り出そうとしたが、アークゴブリンもそれに対応するように、リリを追い続けた。


リリを追って後ろを向いた時に、フィリアからの援護射撃が飛んできた。

クロスボウが発射され、背中から後頭部にかけて数発の矢が突き刺さった。

アークゴブリンがフィリアに殺意を向けた所で、リリからの一撃が飛んできた。


「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」

「クールブリザード!」

「魔神拳! 氷結クラッシュ!」

アークゴブリンは、風魔法に乗って最高速で繰り出す魔神拳を避ける事が出来なかった。

ドグシャ!

断末魔をあげる事さえ出来ずに、激しい音とともにアークゴブリンの上半身は粉々に砕け散った。


大半の雑魚を片付け終わったところで、アークゴブリンが倒れたため、残りの雑魚が逃げはじめた。


(この状況ならぬいぐるみを試せそうだ)

直哉はぬいぐるみを取り出し意志を疎通させ、ぬいぐるみ用に造った剣を持たせて突撃させた。

逃げて行くコボルト達に対して、直哉の横斬りぬいぐるみバージョンが炸裂した。

数匹のコボルトに斬りかかり、一体は運良く倒せたが、他の敵には傷を付けただけであった。

(ちっ、上手くいかないな)

ぬいぐるみを手元に戻しデータを貯えていく直哉。


「今、ちっちゃな熊さんが攻撃してたの!」

「直哉様、お身体に違和感はございませんか?」

直哉は。意思の疎通を解除した後で、ぬいぐるみをリリに手渡して、身体を動かしてみた。

「武器を持っていた右手の手首が痛いね」

直哉の言葉にフィリアは右手首を両手でやさしく包み込んだ。

「傷口が出来たりするわけでは無いのですね」

「そうだね。痛みだけがフィードバックされるみたいだよ。だから最初に試した高所からの落下ダメージは実は危険だったのだよ。今は解除してあるから破壊されても俺にダメージが無いから良いけど」


「あー、首取れちゃったの!」

フィリアは青ざめた表情で直哉を見たが、

「だから、大丈夫だって」

直哉は笑いながらフィリアの頭を撫でた。

「そういえば、この状態で操れないのですか?」

リリから頭の取れたぬいぐるみを受け取り、修復しながら、

「この状態って? ぬいぐるみとして動かすって事?」

「そうです、そうすればダメージを気にせず攻撃出来ると思うのですが?」

綺麗に修復したぬいぐるみを再びリリに渡しながら、

「はい、リリ。乱暴に扱わないでよ?」


渡す前にマリオネットを発動させ、

「勿論出来るよ! こんな風に!」

リリの手の平からスルリと抜け出し、逃げはじめた。

「あー、待つの!」

リリがもの凄い速さで追いかける中、直哉もマリオネットをフルに操作していた。

「えい!」

飛びついてきたリリをヒラリと避けてジグザクに逃げ回る熊のぬいぐるみ。

「こんのー!」

リリは興奮して魔法を放った。


「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」

「スライスエア!」

「ちょ!」

ぬいぐるみを動かしていたマリオネットの糸はリリの風魔法によって切断された。


勢い余ったぬいぐるみが明後日の方向へ飛んでいった。リリはそれを追いかけて森の中へ消えて行った。

「まぁ、あんな風になるし、疑似部位連携で手足のようにしたのは、俺のスキルを使える様にするためだったからね」

「お兄ちゃーん! 大変なの!」

森の奥からリリの声が聞こえてきた。

「今行く!」


直哉とフィリアが声の方向へ行くと、周囲を警戒しているリリと、空中に浮いている熊のぬいぐるみを発見した。

「ありゃ? 空中に浮いてる? そんな機能付けてないぞ?」

ぬいぐるみを回収しに行こうとした直哉を、


「待って、お兄ちゃん、それ以上は進んじゃダメなの!」

リリが止めた。

「何か、嫌な予感がするの!」


直哉はとっさに地面から砂を握り、正面のぬいぐるみ付近に砂をまいた。

すると、広範囲にわたって砂が空中で静止し、見た事のある模様が浮かび上がった。

「これは、蜘蛛の巣?」

糸の部分に触れないように離れようとすると、上からもの凄い殺気とともに何かが襲いかかってきた。

直哉とリリはとっさに避けたが、フィリアは上手く避けられず、直撃を受けた。

「きゃー!」

あっという間に、大量の白くてネバネバする粘着物質に絡め取られてしまった。

「フィリア!」

「お姉ちゃん!」

直哉とリリは少し離れたところから上空を見上げると、そこには巨大な蜘蛛、ジャイアントスパイダーがこちらを見ていた。

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