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第二十二話 外伝 フィリアの気持ち

第二十二話で直哉が森に向かっている時に、フィリアに起こった出来事です。

◆直哉の家 鍛練場


「はぁ」

フィリアはフル装備で鏡の前に立ちため息をついていた。

(これは、伝説のアークロード様の鎧によく似ている。直哉様と伝説のお方がダブって見えるのはなぜでしょう?)



封印していた小さい頃の記憶。

「なんで、あんな女に子供が生まれるのよ。忌々しい」

「ハーフエルフの癖に! 由緒あるバルグ城を汚さないで欲しいわ」

「本当に! この場所に相応しくない娘ですわ」

まるで、汚物を見るような正室と側室達の目。

(先代のバルグ王が、可愛がってくださっていたことは今でも思いだす。私が産まれてこなければ、母は今でもあの城でお父様と共に生活をしていたのだろうか)

フィリアはそう考えると悲しくなってきた。

(お父様の部屋に飾ってあった、バルグを救ってくれた大英雄アディア様。黄金色の鎧に身を包み、大昔の王女様を支え、この国初の女王を誕生させた方。お父様も、この様な男性になら嫁にやれるって言ってた。そのお父様も亡くなられ、母と二人だけの逃避行に疲れが見え始めた頃にたどり着いたこの町で、直哉様に出会った)



バルグフルに着いてからの記憶。

フル装備から軽装に変え商人ギルドが経営する食事処へ来た二人。装備品を持ち歩くため大荷物にはなっていたが、周りも買い物などで大荷物のため、さほど違和感はなかった。

「フィリア、ここで食事にしましょう。その後で宿と冒険者ギルドへ行きます」

「はい。お母様」

と、名物らしいモーモーキングの串とサラダをつまんでいると、かわいらしい声が聞こえてきた。


「リリ、あれ食べたい!」

声のした方を見ると、かわいらしいピンクの装備に身を固めた小さな武闘家の女の子と、いかにも胡散臭そうな軽装の若い男が居た。

「へぃ、らっしゃい! この串はモーモーキングの串で一本30Cだよ!」

お店のご主人は大きな声で新規の客を呼び込んだ。

「一本ください」

若い男がお金を払い、女の子に大きな串を渡していた。

そして女の子が、

「お兄ちゃんも食べる?」

と聞いた後で、二人で囓り合っているのを見て、兄弟なら大丈夫と思った。


この町に着くまでに、色々な人を見てきたフィリアにとって、小さな女の子は標的になりやすく、一緒に居る男は大体が下心を暴走させることが多かった。フィリアは母と一緒であったが、母はエルフで見た目は若く見えるため、標的になりやすかった。

(この町は大丈夫なのかな?)

フィリアがそう思うほどに、バルグから逃避行中の治安の悪さは目に余るものがあった。

「あら? もう食べ終わったの?」

と、ミーファに声をかけられ、

「はい。しっかりと頂きました」

「なかなかの味付けよね? この町に長くいられると良いのだけど」

そう言って、ため息をつきながら、

「さぁ、宿を探しに来ましょう!」


ミーファが先行し、フル装備に着替えたフィリアは後に続いた。

(お母様の話では、このバルグフルの冒険者ギルドのマスターさんと知り合いらしく、その人を頼るようであった)

「ここが冒険者ギルドが直営している宿屋ね」

なかなかの大きさで一階には酒場があり、酒場で飲み食いしている冒険者も多く見られた。

ミーファと共に二階の宿受付に行くと、胡散臭そうな目で見られながらも、一部屋借りることが出来た。

部屋に着くと、

「さて、一息ついたら冒険者ギルドへ行くから、装備はそのままでね」

ミーファの言葉に、

「はい。わかりました」

フィリアは逆らうことなく装備一式を身につけたまま休憩した。


ここに来るまでの宿で、居ない間の盗難は当たり前、酷い時は女性二人なのを良い事に部屋に乱入してくる主人も居たので、この宿でも警戒していた。

しばらく休憩したが、襲撃は無かったので、

「もうじき日も暮れるし、ギルドへ行きますか」

フィリアを連れ立って、冒険者ギルドの方へ向かった。


冒険者ギルドはそれなりに人が居たが、色々な職業の人が居たため、フル装備のフィリアが居ても違和感はなかった。

しばらく待っていると、順番が来て呼び出された。

その瞬間はちらっとこちらを見るものも多かったが、フル装備のフィリアを見て、目を背けるものがほとんどだった。

個室に通されると、仲にエルフの男性が待っていた。


「ヘーニル! 久しぶり! 元気そうで何より!」

「あの頃から変わらないですね」

ミーファがヘーニルと呼ばれた男性と嬉しそうに握手していた。

「何やら、大変なことになっているようだね」

ヘーニルはそれなりに内情を知っていたようで、二人の事を労った。

「この町に長逗留する事が出来たら嬉しいのだけど。この子の事もあるし」

ミーファはフィリアを紹介した。

「この子が第一王女ですね。ハーフエルフの様には見えませんね」

「父親の血が強かったようで、容姿は人間と変わらないし、年齢も人間に近いですね」

ヘーニルは少し考えた後で、


「逗留先はこちらに考えがあります。駆け出しの冒険者ですが特殊なスキルを持つ者で、我々も一目置いているのですよ。安全面等を考慮出来次第、そちらに移って貰います」

「監禁という事ですか?」

フィリアが口を挟むと、

「いや、自由に行動する事が出来ますよ。ただ、護衛の者が付くと思っていてください」

「あまり、贅沢を言うものではありませんよ」

ミーファに言われフィリアはシュンとなった。

「子供を苛める事は、あまり感心しませんよ?」

「いえいえ、注意しただけですよ」

「ふむ、まぁ、良いでしょう」

ヘーニルとミーファは昔を懐かしむように、ゆっくりと話していた。


「これが、この町の身分証です。王都から正式に受け入れるとの文章が届きました。お二人はこの町の住人として暮らしてください。ただ現状では、バルグの第一王子、第二王子を狙った連中が潜んでいる可能性がありますので、護衛を付けさせて貰います」

「よろしくね。ヘーニル」


(あの噂は本当だったんだ。と言う事はお父様はもうこの世にいらっしゃらないのですね)

深いため息をついたフィリアに、

「今日は疲れたわね。また、明日改めて話しましょう」

ミーファがフィリアとヘーニルに言って、冒険者ギルドを後にした。


宿屋兼酒場に到着すると、フィリアが何かに気を取られている事に気がつき、

「私は、部屋を確認してくるから、あなたは酒場で食べ物と飲み物を選んでおいて、後で行くから」

そう言い残すと、上の階へ上がっていった。

取り残されたフィリアは酒場へ足を踏み入れた。酒場には一組のカップルが居るだけで閑散としていた。

入り口で立ち往生していると、女性の店員さんが近づいて来て、


「お客様、申し訳ありませんが、当店では頭部装備は外してからの入店が、義務づけられております」

フィリアは、完全重装備のまま酒場に入り込んでいた事に気がつき、

「あっ、ごめんなさい。うっかりしておりました」

兜を脱ごうとして、一人ではアタッチメント部分を操作できないので、全部脱がないと頭部装備を外せない事に気がつき、鎧を全部脱いでカウンターへ進んだ。


少し進んだところで、

「お兄ちゃん、見過ぎなの」

という声が聞こえてきたので、ちらっと見てみると、どこかで見た二人組がご飯を食べていた。

カウンターにたどり着くと、先ほどの店員さんが、

「いらっしゃいませー。本日は何にいたしましょうか?」

「サラダとお魚の料理、それに合うお酒をそれぞれ二人前ください」

「お連れ様がいらっしゃるのですか?」

店員はカウンターではなくテーブル席に案内して、少し待つように伝えた。


その時、

「えいなの」

ばしっ! っと派手な音が店内に響いた。

「ぎゃー、目がー目がー」

男性が目を押さえて突っ伏していた。

ぼーっと店内を見ていると、先ほどのカップルが目に入り、男性の料理皿から次々と肉を取っていく女の子が目に入った。

(あれじゃぁ、男性のおかずが野菜だけになりそうな勢いね)

そう思っていると、男性が店員を呼び出し、魚料理を注文していた。

(ふふふ。やっぱり足りなくなったのね。しかも魚料理って事は女の子に取られないようにかしら)


「あら? お連れ様はまだですか? サラダの用意が出来たのですが、お出しするのは揃ってからにいたしますか?」

店員さんがサラダと飲み物を持ってやってきていた。

「あ、いえ、出来た料理を出して置いてください。先につまんでいますから」

しばらく、お酒とサラダをつまんでいると、魚料理も出てきて全てが揃ってしまった。

男性の方にも魚料理が運ばれて、嬉しそうに魚を食べていた。


お酒の追加を頼み、料理に舌鼓を打っていると、カップルは食事が終わったらしく、会計をすませて出て行った。

その少し後にミーファが入ってきて、

「ごめんなさい、手続きしてたら遅くなっちゃった」

フィリアの前に腰をおろした。

「なかなか良さそうな町ね?」

「はい。バルグ以来ですね、ここまで栄えているのは」

ミーファの言葉に相づちを打った。

「ここなら、少しは安心できるはず」

「お母さんには、安全な場所で過ごして貰いたい。私が冒険に出て稼いで来ますので」

フィリアはそう言うものの、どこにバルグを襲った者が潜んでいるかわからない現状では、それも難しそうであった。

「さて、ご飯も食べ終わったし、今日はもう寝ましょう」

ミーファは店員を呼び、会計をすませた。

ミーファとフィリアは揃って店を出て、取ってあった宿で休むのであった。



次の日、冒険者ギルド ギルドマスターの部屋

ヘーニルは昨日よりつやつやした状態で出迎えてくれた。

「こんにちわ」

「昨日はよく眠れましたか?」

「それなりに寝させて頂きました」

ミーファとヘーニルの会話に耳を傾けながら、昨日の二人組の事を思い出していた。


(あの不思議な二人組は冒険者なのだろうか? もしそうなら、冒険者仲間としてやっていけないか確認しましょう)

「今日は、昨日話した冒険者の所へ案内します」

「どのような方なのですか?」

「昨日も話したように、駆け出しの冒険者ですが、鍛冶ギルドのマスターも一目置いている人です。兄妹で住んでいるのですが、二人とも良い子ですよ? 今回のバルグの話しもしましたが、二人に直接会って話しがしたいとの事でした。それから、受け入れるかどうか決めるそうです」


(随分と上から目線なのですね)

フィリアが憤慨していると、

「ヘーニルが推薦するくらいだから大丈夫でしょう。今から出発するのですか?」

ヘーニルが合図すると、綺麗なお姉さんが入ってきた。

「イリーナ、後は任せます。ラウラも行くと思うので報告を待っています」

「はじめまして、冒険者ギルドの案内人のイリーナです。これからよろしくお願いします」

ミーファはメイド服、フィリアはフルプレート装備でイリーナに案内され、直哉の家に着いた。


「随分と森に近いのですね?」

ミーファは思った事を口にした。

「そうですね、直哉さんのスキルがあまりにも特殊なので、他の人には見せられないのですよ。だから、こういう辺鄙(へんぴ)なところに家を構えているのですよ」

そう言いながら、そのまま主人の了解無く玄関の扉を開け入っていった。


そして直哉様が造った防具をを見た時、この人だ! と心を大きく奮わせる事になった。

直哉様の家ではじめて挨拶を交わした時も、この人で大丈夫なのか心配だった。

直哉様の提案には驚かされ、その後のお二人との鍛練で今までの私は打ちのめされた。

そんな時に造ってくれたこの鎧。黄金に輝く鎧。金で造ったものでは無いのに、この色を出し、しかも昔見たアディア様が着ていた鎧とほぼ同じ物。これの両肩にエンブレムが入れば完全に一致する物であった。

しかも、不思議なアイテムをどんどん造り出し、私を冒険者の仲間とするだけでなく、母の居場所も作ってくれた方。謎が多い方だけど、それでも傍で供に過ごしたいという願いは心の中で日々大きくなってきているのを感じていた。


「はぁ」

フィリアが鏡に映った鎧を見てため息をついていると、転移室からヘーニルが現れた。

「おや? その鎧は、フィリアさんかな?」

「えっ? あ、こ、こんにちは! フィリアです」

頭部部分の装備を外し顔を出しながら挨拶した。

「お一人ですか? 直哉君もリリさんも一緒ではないのは珍しいですね。何か悩み事ですか?」

フィリアが少し考えていると、

「十中八九直哉君の事でしょう。若い内に悩むのは大いに結構ですよ」

フィリアはうつむいたまま、

「私はどうすれば良いのか。直哉様に付いていきたい、でも母をこの世界に残していけない」

フィリアの悩みを聞いたヘーニルは、

「ミーファなら大丈夫ですよ。今の悩みを話してご覧なさい。きっと、良い答えが返ってきますよ」

そう言いながら、辺りを見まわした。

「そうそう、直哉君に用事があるのですが、上にいますか?」

「今日はまだ、直哉様もリリさんも見てません」

二人は、リフトでリビングへ向かった。


台所で、ミーファがうどんの準備をしていたので、フィリアはさっきの事を聞いてみた。

「私は直哉様と供に旅をして、出来る事なら一緒に直哉様の世界に行きたい。でも、お母様をこの世界に残しては行きたくない。私はどうしたら良いのですか?」

と、聞くと、ミーファは、

「あらあら、そんな事聞いてどうするのさ、それは、やらされている事なのかい? それとも、やりたい事なのかい? やりたい事があるなら、最大限頑張るしかないの。今、直哉さんは悩んでいるけどきっと答えを出して帰ってくるわ。リリちゃんも自分なりの答えを見つけようとしてる。あなたはどうなの? 誰かの助言を聞いてその通りに動いて、それで満足なの?」

フィリアは自分の胸に手を当てて心の奥底に隠した思いをさらけ出した。


「私は、直哉様と供に生きたい、生きて直哉様の故郷を見てみたい」


「それなら、決まりね。直哉さんにその思いを伝えなさい」

フィリアは少し考えたが、

「うん。そうする! ありがとう。お母さん」


「さて、私はリリちゃんの様子を見てくるわ」

「リリさん、どうかしたのですか?」

「お風呂で倒れたのよ。今は部屋で眠っているから」

ミーファは今朝の出来事を聞かせた。

「大丈夫なのですか? 私もお見舞いに」

「いいえ、まだ、私一人で十分よ。あなたはもっと元気になったリリちゃんの相手をしてあげなさい」

「この事を直哉様はご存知なのですか?」

「それが、朝から見当たらないのよ。探して伝えておいてくれるかしら?」

フィリアは、昨日の直哉の様子を思い出し少し不安になりながらも、

「わかりました。伝えておきます」

しかし、そんな思いとは裏腹に、直哉を見つけることが出来ずに時間が過ぎていくのであった。



◆その日の夕方


直哉を見つけられないまま時間だけが過ぎていき焦りを感じ始めた頃、地下の転移部屋からリカードとゴンゾー、ラナとルナ、クロス、ヘーパイストスとヘーニルとラウラにイリーナがやってきた。

何事かと驚いているミーファとフィリアに対して代表してリカードが、

「直哉はいるか?」

「それが、朝から姿が見えないのですよ」

フィリアは半分なきながら答えた。


「と、言うことは、やはり直哉は南の森へ入ったのは間違いないな。しかも何かのトラブルに巻き込まれたと言うことか」

「直哉殿はトラブルを引き寄せやすそうですからのぅ」

リカードとゴンゾーが話すのを聞いて、

「どういう事ですか? 直哉様の御身に何が?」


「今朝、直哉に似た人物がふらふらと南の森の方へ行くのを目撃した者が居たんだ」

「また、それとは別にその森の奥で、恐ろしい量の魔力の放出を感じたのだ」

「その調査を直哉に頼もうと思ったのだが、直哉の探索もすることになるか」

次々と出てくる話に軽く混乱したフィリアは、

「では、直哉様に危険が迫っているのですね?」

「迫っているかはわからないが、南の森に一人で居ること自体が危険であることに変わりは無い」

「だが、森の異変の調査を後回しにすることは出来ないのだ」

リカードの話に、


「では、私は先に直哉様の救出に向かい、合流後そちらに向かいます。異変があった場所を教えていただけますか?」

そして、探索の準備をしていると、上からリリがおりてきた。

「何があったの? それに、お兄ちゃんは?」

リリに事情を話し、南の森へ向かうのであった。

次は、本編に戻ります。直哉視点です。

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