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第二十二話 直哉の気持ち

◆次の日 直哉視点


朝早くから起きて、直哉は家の近くから続く森を当てもなく彷徨っていた。

(俺はどうしたら良いのだろう? 何をしたら良いのだろう?)

しばらく歩いていると、不意に視界が開け、水辺が現れた。

水は透き通っていて、近場は膝下くらいの深さであった。

(こんな所にこんな綺麗な池があるなんて)


直哉がふと、対岸を見てみると、動物たちに混ざって魔獣も休憩していた。

(あれは、黒い虎型の魔獣? こんな近くに生息していたのか。でも、襲いかかって来ないな。動物たちも無事なようだし。ゲームだと魔族や魔獣は、他種族を見ると襲いかかってくるはずなんだけどな)

直哉が好奇心旺盛に見つめていたため、動物たちは危険と判断し隠れてしまった。

(ありゃ。失敗失敗。これじゃぁ、どっちが魔族だかわからないよ)

直哉は、池のそばに寝転がり、昼寝を始めた。


しばらくすると、動物たちは直哉に危険が無さそうと判断し、池の周りに戻って来た。

(ん? 誰かいる?)

人の気配を感じて、直哉は目を開けた。そこには強面なおっさんが突っ立っていた。

「神よ! 迷える魂をお導きください!」

「ちょ! まだ、死んで無いですよ!」

直哉は慌てて起きた。

「おや? ゾンビの類にしては明確に言葉を発しますね。うーん。とりあえず、殴っておきますか」

「いやいやいや」

直哉は起き上がり臨戦態勢を取ろうとしたが、おっさんの攻撃速度が想像以上に速く、防御が間に合わなかったが、おっさんの攻撃が直哉に届く寸前に、おっさんの額から矢が生えてきた。

「ぬぉ!」

「えー」

おっさんはたまらず吹っ飛び、直哉は恐れおののいた。


「おーい、そっちの若いの! 生きてるー?」

木の上から女性が話しかけてきた。

「はい。何とか無事でした」

安堵している直哉の後ろで、おっさんがむくっと起き上がった。

「矢が刺さっているのに生きている?」

「流石にマヒ毒では死なんからな。ただ、痛かったけどな」

「ガナック! その子は生きているよ。ちゃんと生命を感じ取れる」


木の上にいた女性が、落ちてきた。

「よっと」

弓を持った華奢な女性で、耳が尖っていた。

「助けて頂き、ありがとうございます」

「あっはっは。あたいはメイフィス、このガナックとそこの小屋で暮らしているエルフさ」

「まぁ、立ち話も何だし小屋に入りなさい」


ガナックとメイフィスに勧められ小屋に行くと、先ほど見た虎型の魔獣が何かを食べていた。

直哉がとっさに二人を守ろうと動こうとした時、ガナックの手が直哉の動きを封じた。

「大丈夫だ、アレはここの家族だ」

「グルルルルルルル」

「こら! ちゃんと挨拶しなさい!」

ガナックとメイフィスは小屋の中の魔獣を紹介してくれた。

「この子はエキセントリックタイガーのえっちゃん!」

「がう!」

メイフィスの紹介に魔獣が応えた。

「魔獣なのに襲いかかって来ないのですか?」

「個体差があるからね。人間だって色々な人が居るでしょ? それと一緒」

話していると、部屋の奥から目を(つむ)った小さな子供が出てきた。


(かか)様、(とと)様、お客様がいらっしゃって居るのですか?」

フラフラと歩いていたのを、先ほどの魔獣が寄り添い、歩くのを助けていた。

「ありがとう、えっちゃん」

そういって、頭を撫でていた。

「この子はアーサー、私たちの大事な息子だよ」

「アーサー、こちらは迷子の・・・えっと、お名前は何でしたっけ?」

メイフィスは直哉を見て、ごめんと手を顔の前に持って来た。

「あ、俺はナオヤ。バルグフルで鍛冶職人の冒険者をやっています」

「これは、ご丁寧に、私はアーサーと申します」

「あたいは、メイフィス! 狩人さ!」

「拙者はガナックだ。神官をやっている」

皆の挨拶が終わったところで、ガナックが聞いてきた。


「さて、ナオヤとやら、お主あのような場所で何をしていたのだ? やはり、冒険者として魔物を狩りに来ていたのか?」

「あの、父様その方は・・・・」

話に割り込もうとしたアーサーをメイフィスが止めた。

「私がこの森へ来たのは、一人になりたかったからです。じっくり己と向き合って、自分が何をしたいのかを考えようとしていました。この森に来たのは偶然です」

ガナックは直哉が話している間、その目をずっと見ていた。

「偶然か。池でこいつと対峙した時何もしなかったのは何故だ?」

「普通の魔獣はこちらを見つけたら、何かしらの行動を起こします。ですが、この魔獣は何もしなかった。それだけじゃなく、私の好奇心の視線で近くの動物たちが逃げてしまいました。つまり、この魔獣がいることよりも、私が見ている方が危険だと思いました。それで、魔獣に交戦の意志は無いと判断したので、何もしませんでした」


「それで、昼寝とは、中々剛毅だな」

「ほんと! あれには驚いたよ。しかも全然起きないし」

直哉は驚いて、

「見ていたのですか?」

「そりゃ、大事な家族に手を出して欲しくなかったし、見ていましたとも」

「うーん。全然わからなかったです」

直哉は首を捻っていた。

「当然だよ。私は殺気を放たずに殺れるから」

「えっ?」

「それに、あの池にいた動物は、えっちゃんが食べてるし」

「えっ?」

「あたいが仕留めた獲物は食べても良い事にしているから」

直哉は少し考えて、

「じゃぁ、俺が魔獣を襲おうとしていたら?」

「きっと、あたいにやられて、えっちゃんの腹の中だね」

「まじっすか?」

「あぁ」


その時、アーサーが目眩を起こし倒れそうになった。さっと、魔獣がその身体を支えて、ガナックに渡した。

「今回はさらに早くなったか。神よ!」

そう言って印を切った後、

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共にこの者を癒したまえ!」

「フルリカバリー」

光のエネルギーがアーサーを包み込むと、アーサーの表情が穏やかになった。


(すごい! この人の魔法をフィリアが使えたら冒険が楽になるな。でも、MP消費量が大きそうだから、MPを溜めておけるアイテムを造れるようになると、リリもフィリアも戦闘の幅が出来るよな)

直哉が考えている間に、ガナックはアーサーを奥の寝床へ運んでいった。

魔獣が後から着いていき、この場にはメイフィスと直哉が残った。


「さて、なおちんは己探しの旅と言っていたけど、見つけたのかい?」

「なおちんって・・・。あ。いえ、まだ自分が何をしたら良いのかわからないです」

直哉は、自分探しを再開しようとしたが、

「んー、自分が何をしたらじゃなくて、何をしたいかじゃないの?」

「それが複数合って、どれを選んで良いのかわからなくなってます」

「んー、それじゃぁ、全部やったら?」


直哉は、驚いた表情でメイフィスを見た。

「そう。やりたいことがたくさんあるなら、順番に全部やれば良いのでは? ダメなの?」

(そっか、帰る方法がわかっても直ぐに帰るのではなく、フィリアの願いを叶えて、リリのカタキを討って、それからみんなで帰ればよいのか)

「おっ? 少しは男前になってきたようね」

「はい、ありがとうございます。少しですが、俺の行く方向が見えたみたいです」

直哉は頭が少しクリアになり、現状を考える余裕が出来た。


(そういえば、魔獣と共存することが出来るのなら、魔族と共存も出来るのかな?)

「メイ! こっちの準備は出来たぞ。そっちはどうする?」

ガナックはアーサーを背負い、巨大なハンマーを装備し防具は神官着を着ていた。

「どこかに行かれるのですか?」

「うちの子を森の奥のパワースポットに連れて行く予定だ」

「お、俺も付いていっても良いですか?」

「足手まといはいらないよ?」

メイフィスが魔獣を連れて準備を整えた。

「そんなに危険なのですか?」

直哉の質問に、

「少なくとも、ランク2の冒険者には荷が重すぎる。こちらも余裕は無いのでな」

「わかりました。俺もあなた方の邪魔はしたくありませんので自力で帰ります」

そう言って、ステータス画面からマップを開いて現在位置を確認した。


「今のは、漂流者の?」

「なおちゃんも、あたいたちと同じって事?」

「詳しくは、アーサーの件が終わってからだな。メイ! パーティかフレンド登録しておけ」

「あいよ、ガナは先行していて、後で追いつくから」

「よろしく、トラ! 行くぞ!」

「がう!」


(あれ? えっちゃんじゃ?)

直哉が首をかしげていると、

「それでは、直哉! またの!」

ガナックはアーサーを背負い家を飛び出していった。

直哉がガナックを見送り部屋に視線を戻すと、メイフィスがじっと見ていた


「な、なんでしょうか?」

メイフィスは直哉を見ながら話を切り出した。

「ねぇ、これ見て!」

そう言って、自分のステータスプレートを見せてきた。

「これを、こうすると」

すると、メイフィスのステータスプレートから直哉が見慣れた画面が浮き上がってきた。

「こ、これは、ステータス画面!」

直哉は驚いた、

「な、何で? いや、あなたもプレイヤーなのですか?」

さらに詰め寄ると、

「残念ながら、直哉の考えている事とは違うのよ。私たちはこの力を持つものを漂流者と呼んでいる」


「漂流者・・・・。他の世界からの・・・?」

「そういうこと。詳しい話はアーサーを助けてからね。とりあえず連絡用にフレンド登録しよう」

メイフィスが何か操作をすると直哉の前に、『メイフィスからフレンド登録がきています』『Yes』『No』と出てきた。

「とりあえず、OKしておいて。詳細は後で話すから」

直哉は言われるがままに、Yesを押した。

『メイフィスがフレンド登録されました』

と出て、フレンドの中にメイフィスの名が刻まれた。

「これで良しっと、それじゃぁ、まっすぐ帰ってね。あたいはガナたちを追うから」


(今すぐに聞きたいけれど、アーサー君の命がかかっているからな。俺のわがままで、この世界を壊したくは無いから、我慢しよう)

「わかりました、俺は自分の家で待っています、来るときに連絡ください」

直哉は、メイフィスに礼を言って、帰路に着いた。


(物凄く豪快な方々だったな。それにしてもアーサー君の病気が心配だな、ヘーニルさんなら何かわかるかな?)

直哉は、新しく出会った三人と魔獣の事を考えていたが、


(そういえば、武具作成がレベルアップして新しいカテゴリーが増えたんだ)

そう言って、スキルを発動し新しいカテゴリーを開いた。

(ゲームには無かった武器だけど銃が来たか。説明文を読むと、元の世界の銃とは思えないんだよな)

そう言いながら、プロトタイプの銃を造り出した。


(これが、魔弾銃か。使い方は、魔弾に魔法を詰めそれを放つ。銃と弾を造る素材によっては高威力の魔法や複数の魔法を撃つことが出来るのは凄いな。しかも、魔弾を大量に作れば魔法が打ち放題になるとか、これはパワーバランスが崩れるな。救いなのは、素材がシビアな事かな。今の素材じゃ初級魔法しか込められないし、数発撃ったら銃が壊れるのか。しかも修理不可能とか。この件も要相談だな。サイボーグといい、この銃といい、ゲームだったら確実に修正が入る代物だよな。新たな仕組みって大変なんだな)


直哉は町への道というか、森を歩いていた。

(空気もうまいし、たまにはのんびりするのも良いな!)


木陰道をのんびり歩いていると、森の奥から戦闘音が聞こえてきた。

(ん? 何の音だ? 剣戟と言うか女性の声と、何かのうめき声?)

直哉は音のするほうに近づいて行った。

「おらおらおら! 死にたいやつはかかって来い! って言っても分からんか! まぁ、死ね!」

直哉よりも大きな身体の女性がその身体よりも大きな槍を振り回して、群がる魔獣どもをなぎ払っていた。

しかも、その足元には一匹の大きな犬が居た。この犬も魔獣と戦っているらしく、辺りには魔獣の素材が散乱していた。

直哉が息を潜めて見ていると、沢山居た魔獣の群れが全て素材に変わっていた。


(すごい! あのお姉さん滅茶苦茶強い!)

直哉が興奮して見ていると、その女性から殺気が放たれた。

「うぐ・・・・。まずい!」

とっさに武具を装備しその場所を離れた。

「待ちやがれ! その首置いて行け!」

「どこの首狩族だよ?」

襲い掛かってきた女と犬を牽制した。


女性は正面から槍を突き出して突撃して来た。犬は回り込みながら、直哉の後ろを取った。

直哉は鍛錬と同じように両手に盾を装備し身体を右に傾けた。こうする事により前後ではなく左右からの攻撃にするためで、一対多数の鍛錬で叩き込まれた攻撃方法であった。


「両手に盾だなんて、勝つ気が無いのかい?」

直哉は槍の突きを盾でがっちり受け止めて、犬の攻撃を迎え撃った。

「何? わんこ! ()せ!」

しかし、攻撃は止まらなかったので直哉は迎撃した。

右手の盾で四連撃を繰り出した。


「えい! やぁ! とぉ! うりゃ!」

一撃目は突撃して来た所をカウンターで鼻っ面を叩いた。

「ぎゃうん」

二撃目は右から、三撃目は左から鼻っ面を叩き、最後は下から上へ顎を狙った。

「きゃいん」

「わんこー」

気を失って飛んで行った犬を女は走って受け止めた。


(凄い速さだ、あの速さで来られたら苦戦しただろうな)

「命に別状は無さそうだな。おい! 小僧!」

「何ですか?」

女は警戒したまま話しかけてきた。

「おい。何で手加減しやがった? 小僧の実力なら、わんこ程度なら殺れただろう」

「いやいや、それはあなた方が手加減してくれていたから、何とかなったのですよ。犬に効果あるのかな?」

直哉はそう言いながら、かけるタイプの薬を取り出して、犬にかけた。

「なんだそれは?」

女が怪訝に思っているうちに、犬が意識を取り戻した。

「お。わんこ?」

「くぅん」

「どうやら、回復したようだね」


直哉はそう言って立ち上がった。

「今日はここまでですね、私は家に帰ります。俺は直哉! もし何かあれば、町の冒険者ギルドで、イリーナという受付にこれを渡してください」

そう言って、割符を渡した。

「俺の家は特別なので、その割符で案内してもらってください」

「なんか、よくわからんが、一応礼を言っておく」

「いえ、それでは」

直哉はその場を立ち去った。

「直哉ねぇ。いい男じゃないか」

「くぅん」

女は、直哉の行った方向を見つめていた。

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