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第二十一話 バルグフル城 ~後編~

◆バルグフル 晩餐会場


晩餐会場では、リカード王子を中心に輪が出来、オケアノス王は、一歩引いたところで王妃のテテュースと共にその輪を眺めていた。

ゴンゾーはラナとルナと共にリカードの傍で待機し、王の傍にはアレクとシンディアが控えていた。

直哉の傍にはリリとフィリアがいて、近衛兵見習いたちや近衛騎士たちが冒険の話を聞いていた。

リカードが直哉に寄って行き、


「そうだな、私にも教えてくれ、お前の冒険談を!」

「そんな、お聞かせ出来るようなお話などありませんよ」

直哉は謙遜していたが、

「ほとんど初心者時代にバトルオークを倒したとのうわさがあるのだが、あれは本当か?」

周りの騎士たちがざわめき始めた。

「あれは、リリが居たから何とかなったのですよ、一人ではやられてましたよ」

近衛騎士たちは先ほどの魔法使いと一緒だったのならと納得していた。

リカードはニヤニヤしながら、直哉の話を聞いていた。


「お兄ちゃん、このお肉美味しいよ!」

リリが巨大な何かの肉の串を持ってやってきた。

「ちょ! それは数人前用の大きな串じゃないか。一人で食べきれるのかい?」

直哉は驚きながら確認すると、

「大丈夫なの! 運動したからお腹すいたの!」

そういって、串に刺さった肉に齧り付いた。

「まぁ、食べられるのなら、問題ないよ」


直哉は晩餐テーブルに視線を向けると、色とりどりの野菜や、こんがり焼けた魚の横に、ある料理を見つけた。

「これは?」

それを、指差して聞いてみると、

「この料理は、うどんと言う料理で、なんでも冒険者ギルドの酒場でしか作ってないそうですよ」

と、シンディアさんが教えてくれた。

「これ、お兄ちゃんが考えたやつだよね?」

「そうだね、どれ」

一人前を受け取り、トッピングにブーブー肉を煮た物と野草の和え物を追加した。見た目はかなりうどんのようになったので、まずは出汁を飲んでみた。

「おぉ! だいぶうどん出汁に近づいたよ。これはこれで美味いな。ただ、麺がかなり柔らかくて腰が無いのが俺的にはマイナスかな」

「私はこの位の固さで十分ですわ。ただ、具が少なすぎます、もっとお野菜などが入っていたほうが良いですね」

直哉の言葉にフィリアが続いた。

「あれ? トッピングなら横にあったよ?」

「えっ?」

そう言って、直哉のどんぶりを見た後、慌ててトッピングを追加しに行った。

直哉は、うどんの売れ行きが意外とあるので、酒場の新名物になってくれたら良いなと思っていた。


「他には無いの? お兄ちゃんの世界にあった美味しい料理!」

「うーん。俺が好きだったのはピザだね。ゲームしながらのピザは最高だった。付け合わせの唐揚げとかポテトも良かったな。ただ、すぐお腹がいっぱいになっちゃうから、いろいろな種類のピザを組み合わせたやつを頼んで、真ん中の部分だけ食べちゃうんだよな。後で、両親に滅茶苦茶怒られたっけ」

「ピザ! 唐揚げ! ポテト! 美味しそうな響なの!」

リリは言葉の響だけで喜んでいた。

「家庭料理だとカレーとか? あ、母が作ってくれたグラタンは美味しかったなぁ」

「カレーですか? こちらの世界にはありませんね」

フィリアはあちこち回った記憶を辿りながら考えていた。

「まぁ、ミーファさんやラウラさん、酒場のマスターと相談してみるよ」

「わーい!」

「楽しみですわ」

直哉の言葉にリリとフィリアは喜んだ。


「なにやら楽しそうですな、こちらの二人も混ぜてはもらえぬかな?」

ゴンゾーさんがラナとルナを連れてやってきた。

「ラナお姉ちゃんとルナお姉ちゃん!」

「こんにちは」

「先ほどはどうも」

「怪我は大丈夫?」

直哉はルナの頭を見ながら聞いてみた。

「頭がおかしいみたいに言わないでください」

ルナが頬を膨らませて抗議した。

「あ、いや、そんなつもりは・・・」

「あったら、許しませんよ?」

「もー、お兄ちゃんはあっちに行ってて、ルナお姉ちゃんが拗ねちゃったじゃん」

「わかったよ」


リリに邪険にされた直哉はゴンゾーと共にその場を離れ、リカードの元へ向かった。

そこには、シンディアとクロスがリカードの義手をマジマジと観察していた。

「あまり触られると、くすぐったいのだが・・・」

リカードが義手を触られ、モジモジしていた。


(あれ、一応神経も接続されているからな、感じ方は普通の腕と変わらないはずだし。痛みとかを感じなくすることは出来るけど、それだと危険を察知することが遅れちゃうのだよね)

「あら、そちらは、この義手の制作者の直哉さんではないですか?」

シンディアが直哉を見つけ話しかけてきた。

直哉はその胸元をちらっと見ながら、

「はい。俺が直哉です」


「直哉さんは、私に出はなく私の胸に挨拶をしているのですか」

と呆れられた。

「わっはっは」

リカードは大声で笑い、

「むー」

クロスからは敵視の眼差しを向けられた。

「あ、いや、そう言うわけでは」

タジタジになった直哉に、


「あら、私の胸は見る価値も無いということですか? よよよ」

追加の攻撃を仕掛けてきた。

「あ、いや」

直哉は何と言っていいかわからず、うつむいた。

「わっはっは。まぁ、若者をからかうのはその辺にしておきなさい」

後ろからオケアノスが笑いながらやってきた。

「はっ仰せのままに。直哉さん、ごめん遊ばせ」

そういって、追撃を終了した。

「はぁ、助かりました」


そこへリカードが、

「どうだ、宮廷の会話というのは、面倒だろう?」

「はい。変な汗が出ています」

「ふはは。まぁ、あのくらいは慣れてもらわんと、後々困るぞ」

直哉は小さくなりながら、

「なかなか難しそうです」

そう言って、目を伏せた。

「そろそろ、例の話でもするか?」

オケアノスの提案に、

「お願いします」


オケアノスはテテュースに、

「この場はお前に任す、直哉殿はお連れの方と共に奥へ来てくれ」

「わかりました。リリ! フィリア!」

「皆の者! 余は彼らと共に一時この場を離れる。シンディア! リカードと共に来てくれ」

オケアノスの言葉に会場はざわめいたが、テテュースやアレクが残るため、混乱は少なかった。

オケアノスを先頭に、シンディアが続き、直哉・リリ・フィリアと続き最後にリカードが会場を離れた。



◆バルグフル 密談の間


扉をくぐると、そこは石造りの部屋で、外へ一切の音が漏れない造りの部屋になっていた。

当然外からの音もないため、直哉達三人は不思議な感じに陥っていた。

「さて、まずはこの様な場所での話し合いになってしまい、心苦しく思っておる。だが、この件は非常に繊細で内密にしておく必要があるのでな」

「義手及び強化パーツの軍事利用についてですよね?」

直哉は直球で勝負した。


「いかにも。それで、今までリカードの義手を造る際に出来た義手を回収したい」

オケアノスは少しずつ要望を話し出した。

「そして、ゴンゾーに造った強化パーツについてだが、他の人に造ったりしたか? もし、造ったのであればその所在を明らかにしておきたい」

直哉はオケアノスの話が終わるのを待った。

「そして、義手及び強化パーツなどの品々を我々王族が独占したい。だから専属契約を結んで欲しい。これがこちらの要望の全てじゃ。もし、全ての要望を聞いてもらえるのであれば、金品の他に爵位を与えようと思っておる」


「お待ちください! それでは報酬が大きすぎます」

オケアノスの言葉にシンディアが横やりを入れた。

「良いのじゃ、リカードが友と宣言したのじゃ、貴族としておいた方が、対外的にも軋轢が少なかろう」

まだ、苦情を言い足りないシンディアをオケアノスは制して、

「どうだ? 直哉」

最後まで話を聞いた直哉が、

「まずは、リカード王子の義手についてですが、ほぃっと、この二十個で全てです。ただ、リカード王子の要望に応えられなかった失敗作です」

直哉は、アイテムボックスから義手を取り出して、机の上に並べた。


「これで、全部という証拠はありますか?」

というシンディアの質問に、

「リカード王子、義手を外してもらえますか? この部分に私の専用印と自動的に振られる番号があります。この番号の件は鍛冶ギルドのマスターに聞いてもらえれば、操作できないことがわかります」

そういって、義手の内側を指さした。

「はいよ、私のは21となっているな。印も直哉の持っているものと同じ物だね」

「では、リカード王子、義手に要望を付け足してください。今ここで造りますので。ただ、素材はかなり劣化しますが」

リカードが何か言おうとした時、


「私の要望でも良いですか?」

と、シンディアが質問してきた。

「もちろん、たいていのことは出来ますよ。ただ、義手の情報はリカード王子の物なので、シンディア様には付けられませんがよろしいのですか?」

「はい。それでは、拳が開かない義手をお願いします」

と、普通ではあり得ない注文をしてきた。

直哉はスキルを発動させ、拳の部分の稼働を不可に変え、握ったままの形状を選択した。

そして、机の上に出現させた。


「おぉ! やはり、本物か」

オケアノスは驚きの声を上げた。

シンディアは義手を拾い、印や番号を確認し、最後に拳部分を弄ってみた。

「確かに、番号はリカード様の続きで、拳も動かない。それに、直哉さんが嘘をついているような人には思えませんね」

そういって、直哉に謝罪した。


「次に強化パーツですが、現在のところ、リカード王子用、ゴンゾー様用、俺用、リリ用、フィリア用の五個ですね」

「ここにありますか?」

「三人の分はここに、リカード王子とゴンゾー様の分は回収できませんでした」

そういって、三人分の強化パーツを取り出した。

シンディアが強化パーツ触って、

「私の分を造ることは可能ですか?」

「もちろん出来ますよ、ただ、無償というわけにはいきませんが」

「材質などの指定も出来ますか?」

「もちろん出来ますよ、ただ、無いものを指定されると造れませんが」

「細かい打ち合わせは後ほど」

シンディアは自分の好奇心を優先させてしまったことを後悔した。


「えっと、では、最後の件ですが、この件に関しては自分たちで使用する物以外であればという条件付でしたら賛成です。どのみちリカード王子用の腕達は廃棄するしか道はないし、強化パーツに関しても、現在はリカード王子とゴンゾー様の物だけですので、問題はありません。ということで、これから作る物に関しては、自分たちで使用する物に関しては目を瞑ってください。これが条件です」

シンディアは難しい顔をし、リカードはよく言ったという顔をしていた。

「そうか。無論その条件で問題はない。リカードが遊びに行った時にでも、自分たち用に造った物を教えてくれれば良い」

「やったな! 直哉! これでお前も貴族の仲間入りだ! 気兼ねなく遊びに行けるぜ!」

リカードは喜んだ。

「今でも結構な頻度で来ているけどね」

直哉は悪態をついたが、リカードは気にしていないようだった。


「そういえば、直哉は自前の店を持っていたな?」

「はい。販売はほとんどしていないので、滅多に開いておりませんが」

直哉の応えにオケアノスは、

「お主も貴族の仲間入りになるのじゃ、どうせならその店を城の直轄店にするか? そうすれば、直哉に武具を作ってもらう時も直接やりとりが出来るな。まさに、専属のような形が取れる」

「あぁ。申し出はありがたいのですが、あの店は倉庫として使っておりますので、販売店にするつもりはありません」

オケアノスと直哉の会話にシンディアが混ざってきた。


「倉庫としてとは、どういう事ですか?」

「俺のスキルは、造る物の素材を店の倉庫から使う事ができるのですよ。先ほども義手を造るのに倉庫から素材を使って造りました」

「そういえば、鍛冶職人が物を造る時は鎚や炉が必要になるはず。あなたは一体・・・・」

「おそらく、この本に書かれている不思議な術という事になるのだろう」

「不思議な術? それにこの本の紋章はバルグフル王国の印!」

慌てているシンディアにオケアノスは一冊の本を手渡した。

「そうだ。これは我がバルグフルの王族のみに伝わる文献じゃ。その本の(しおり)を挟んであるページだ」

シンディアが恐る恐るそのページを開くと、


(この地に大いなる災厄が起こる時、流浪の勇者現れる。その者、不思議な術を使いこの地を救うべく奔走する。そして異種族の垣根を超越し災厄と対峙する・・・・・)


ここから先の文字が擦れていて読めない。でも、次のページは少しだけ読める。


(災厄を払いのけた勇者は・・・・光の扉・・・・・元の世界・・・・・つなぐ)


ここから先は白紙ですね。

「この本に書かれている勇者というのが直哉さんという事ですか?」

シンディアがオケアノスに詰め寄った。

「この本は生きているらしく、栞のページが映し出されたのは少し前なのじゃよ」

「と、言うことは、直哉さんがこちらに来てから、浮かび上がった?」

シンディアの言葉にうなずいたオケアノスが直哉へ聞いた、


「この本に書かれていることで、わかることはあるか?」

「最初のページ関しては不確定要素が多すぎるため、発言を控えます。次のページに関しては、光の扉を使って元の世界とこの世界をつなぐと読める気がします。私がこの世界に来る時にまばゆい光に包まれたので、帰る時も同じだと思いまして」

「光の扉と言えば、転移石を付けた扉も光の扉っぽいぜ?」

リカードが言った言葉に、直哉はハッとした。


「まさか、元の世界とこの世界を転移石で行き来できる?」


「理論的には可能じゃが、実際に出来るかどうかは微妙じゃな。転移する距離が長ければそれだけ転移石の純度を上げなくてはならないし、往復する両地点に石を配置しなくてはならない。それを解決出来れば行き来できるぞ」

「他にはありませんか? 例えば、遠くの人を呼び寄せたり、遠くの場所に帰ったりする事の出来るアイテムはありませんか?」

「バルグフルには無いが、古都バルグには存在する可能性がある。転移石の作り方もバルグから伝わったのでなな」

直哉は葛藤していた、今すぐにでも帰る方法が見つかるかもしれないバルグに行きたい自分と、現在のリリやフィリアとの約束を果たしたい自分とが闘っていた。

直哉が考え事を始めたのをみて、


「今日はこの辺にしよう。後日リカード及びシンディアをそちらに向かわせる、その時に話をしよう」

直哉は思い詰めた表情で、

「わかりました」

ようやく一言だけ言えた直哉を、リリとフィリアが支えながら部屋を後にした。

晩餐会場はすでにお開きになっていたようで、静まりかえっていた。

「お兄ちゃん・・・・」

「帰りましょう」

リリとフィリアの心配そうな目を見て、

「帰ったら二人に話がある」

と言って、三人は静かに帰路についた。



◆直哉の家 リビング


家に着いた三人は、リビングに他の住人を呼び出した。

直哉を中心にリリとフィリアが横に座り、対面にはミーファとイリーナが座っていた。

その他の人は、帰って来ていなかった。

直哉は、

「先ほど城で、恐らく私について書かれていた本を読んだのですが、そこに、元の世界に帰れる可能性のある文章が載っていました」

直哉は、出されていたお茶を口に含み潤してから、

「他にも爵位を貰ったり、この世界の災厄を払うとか異種族の垣根とか書いてあって、正直混乱しています。勿論早く帰りたいし、でも、この地での約束を果たしたい自分もいます。なので、少し考える時間をください。明日は鍛練等も自主練のみとして休みにしましょう」

そう言って、直哉は部屋に籠もった。

残された四人は直哉のことを心配しながら今後について話していた。

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