第二十話 バルグフル城 ~中編~
◆バルグフル場での戦い
「よし、六人か。まとめてかかって来い!」
リカードは、アタッチメントで左腕に盾を固定し、右手に宝剣を持った。直哉達と訓練する時の装備で迎え撃った。
六人のうち、後衛が二人居て残り四人が前衛であった。
「参ります!」
前衛四人のうち三人が盾を構えリカードを囲み、後衛は後ろに下がって詠唱を始め、残りの前衛がリカードの死角に回り込もうとしていた。
「どうしたどうした! この程度の攻撃か? 温い温すぎる!」
リカードは三人からの攻撃を、剣と盾を巧みに使い受けていた。
「死角に入り込むなら、この三人の囲みは失敗だな!」
三人の包囲攻撃を回避するために、全方位に意識が行くため死角が存在していなかった。
死角に回り込もうとしたが無理だったためそのまま攻撃を繰り出した。
「あまい!」
上級近衛騎士の前衛達の攻撃は、危なげなく受け止めた。
「ぐぬぅ」
上級近衛騎士たちは攻撃手段が無くなり情けない声を上げていた。そこへ後衛からの魔法が飛んできた。
「仲間を巻き込むのか! くそぅ!」
リカードは、速攻で前衛の四人の剣をたたき落とし、その身体を吹っ飛ばしてから、魔法を迎撃しに向かった。
一つ目は初級の火の魔法で、大きな火球。
二つ目は中級の風の魔法で、リリも使った竜巻。
「直哉の盾を信じるか! そして、宝剣の力を解放する!」
リカードは左腕を前に出し、右腕を下やや後ろに構え魔力を注いだ。
「古より我が王家に伝わる宝剣を、我が魔力に応じ真なる力を示せ!」
盾に火球が当たり激しい炎をまき散らした。
「流石直哉だな、初級の魔法は完全に無効化できるな」
熱によるダメージは無いものの、受け止めた時の衝撃は残るため、吹き飛ばされないように踏ん張った。
「後は、あの竜巻をこの技で! 絶空!」
宝剣が真なる力を解き放った。竜巻と衝突したが、その瞬間竜巻が消滅し、宝剣のエネルギーは上級近衛騎士の方へ向かっていった。
「ぬぅ。いかん!」
上級騎士団長がとっさに割り込み宝剣のエネルギーを受け止めた。
「ぐぬぬ。お前達、速く逃げろ!」
騎士団長に叱責され、上級騎士達は闘技場から逃げ出した。
「王子、また強くなられましたな。私では抑え切れそうにない」
と、言ったところで、後ろに吹っ飛ばされた。そこにいたのは順番待ちの直哉達であった。
「お兄ちゃん!」
「戦闘準備! フィリアは加護を! リリは騎士団長にこの回復薬を! 俺が受け止める」
「はいなの!」
「承知!」
「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力にひれ伏しその加護を仲間に与えたまえ!」
「ディバインプロテクション」
直哉は前に出て、宝剣のエネルギーを受け止めた。その横で、飛んできた騎士団長に回復薬を振りかけ回復していた。
直哉は踏ん張りながら、
(このままでは、押し切られる)
「リリ! 回復が終わったら無限連続拳でこのエネルギーを散らして!」
そう言いながら、ウインドウを開き装備を盾二つに切り替えた。
「四連撃!」
盾の面で攻撃を当て、少しでも早くエネルギーを削っていった。
「あちょちょちょちょちょちょ」
リリも無限連続拳を使い、ようやく宝剣のエネルギーを無効化することが出来た。
「ふぅ。みんな無事?」
直哉は辺りを見まわして、皆の様子を確認した。
「私とリリさんは問題ありません、ですが、団長様が」
近衛騎士団長が倒れたままなのを確認して、フィリアに聞いてみた。
「あれ? 回復薬足りなかった?」
「いいえ、きっとMPの回復が必要なのだと思います」
直哉は振りかけるMP回復薬をフィリアに渡しながら、
「あの技はMPにもダメージを与えるのか、恐ろしいな」
「まさか、これ程の力があるとは思わなかった」
リカードも呆然としていた。
他にもMP回復薬を取り出しながら、
「リリ達も回復しておいて」
直哉も回復した。
騎士団長はMPの回復はしたが、意識が戻らないため上級騎士達が運んでいった。
「さて、思わぬ事故が起こったが、他にリカードの力を試したい者はおらんか?」
オケアノスは、まだ余興を続けるようだ。会場は静まり返っていた。
「それでは、俺がやってみましょう」
直哉は手を上げた。
「三人で来なくて良いのか?」
リカードは挑発で直哉の集中力を乱そうとした。
「新装備を試したいので、一人でやってみます。フィリア、加護を外してくれる?」
心配そうに見つめる二人であったが、フィリアは直哉にかかっている加護を打ち消した。
「ふむ。リカードを救った実力を見せてくれ」
「出来るだけやってみます」
「いつでも、かかってきな!」
リカードは自然体で挑発気味に直哉を誘った。直哉は剣と盾を装備してリカードと対峙した。
「まいります」
直哉は、型どおりの攻めでリカードに肉迫した。
「そんな速さじゃあくびが出るぜ!」
リカードが上段から剣を振り下ろして迎撃すると、直哉はその剣を盾でしっかりと受け止めた。
「なっ、いつもは弾かれてるのに、受け止めただと?」
リカードは驚いて一瞬動きが止まった。
「せい、やぁ!」
縦斬りと横斬りでリカードに攻撃した。
「くっ、速い!」
一撃目はなんとか回避したものの、二撃目は回避しきれず剣で受け止めたが、予想外の衝撃が襲い掛かってきた。
「なにっ、重い。片手じゃ弾かれるか」
リカードは両手でしっかりと剣を握った。
その瞬間直哉は剣の力を抜き、盾で殴りかかった。
「おりゃ!」
直哉の盾での攻撃がリカードに襲い掛かる。避けようにも両手で剣を押し込もうとしたが、直哉にうまく捌かれ体勢を崩してしまい、そのまま直撃を受けた。
「しまっ・・・」
バコン!
リカードはいつもどおり受身を取ろうと思ったが、いつも以上のダメージで身体が動かなかった。
そのままの体勢で床に落ちたリカードに剣を突きつけて、
「これで、勝負ありですね?」
「そこまで!」
オケアノスの声が響いた。
会場がどよめきに包まれた。
「大丈夫ですか?」
直哉は武装を解いて、リカードに手を貸した。
「くっそ、昨日会わなかっただけで、随分と強くなったな?」
直哉の手を取って立ち上がった。
直哉は新しい剣と盾をリカードに渡しながら、
「新しい材質で造った剣と盾です。それのお陰でリカ・・・王子と互角に戦えました」
「うーむ。この剣と盾は凄いな。とにかく軽いな、それなのに結構な強度があるな。これなら、あの速度での動きが出来、さらに重たい攻撃になったのか」
リカードは剣と盾を振り回して堪能した後直哉に返した。
「私用に作ってくれるか?」
直哉は即答しようとしたが、オケアノスから声がかかった。
「その話は余興が終わり、宴が終わった後でするので今は待ちなさい」
直哉は方ひざをついて、
「承知いたしました」
と、頭をさげた。
リカードは不服気味だったが、オケアノスの強い眼力に負け引き下がった。
「勝者は直哉か、リカードが相手では他に挑む者がおらんかったな、では誰か直哉に挑む者はおるか?」
と呼びかけると、数名の上級騎士・近衛騎士そしてラナ、ルナと見習い近衛兵八名が名乗りを上げた。
「ほほぅ、人気者じゃな。流石に二十対一では近衛の名が廃るな」
「いや、大丈夫でしょう。直哉ならこの位の危機は簡単に乗り越えてくれますよ!」
リカードがさらりと凄いことを言ってきた。しかも、
「直哉の武器だけど、刃を潰せないか? そのままだと、攻撃が当たったらみんな致命傷を負ってしまうぞ」
と、さらに条件を厳しくしてきた。
「武器のほうは用意できますが、流石に皆さんが一度に相手なのは自身ありませんよ?」
鍛練用に造っておいた円柱状の剣を取り出した。
「これなら、切断は無いですよ。骨が砕けるかもしれませんが」
「ふむ、それも少しまずいか。ならば、武器を手放した時点で負けとしよう。これならば直哉も問題なかろう」
リカードは折衷案を出してきた。
「つまり、武器破壊はお咎めなしですか?」
「無論だ!」
リカードはニヤリと笑い、サムズアップした。
「そういうことなら、やってみます」
直哉が納得したので模擬戦が開始された。上級近衛騎士四人と近衛騎士六人はまずまずの連携で、近衛騎士の二人が後方で詠唱を始め、それを四人の上級近衛騎士達が守り、残りの近衛騎士たちが直哉の足止めをしていた。それを見ていた近衛兵たちは観戦を決め込んだ。
「まずは、十名か」
「えぃ!」
近衛兵AとBが前方左右から、CとDが後方左右から斬りかかってきた。直哉は身体を九十度回転し、盾でAとBの剣を受け棒でCとDの剣を弾いた。体勢を崩したCとDに直哉の攻撃が襲い掛かる。
「せぃ!」
その攻撃を剣で受けようとしたCとDの剣を粉砕し、戦意を喪失させた。
そのまま、盾を押し返しAとBの体勢を崩し、さらに盾で殴りかかった。
「とぅ!」
AとBの剣は耐え切れず砕け散った。
直哉はその勢いのまま、上級近衛騎士の方へ突っ込んで行った。
「おぃ! 魔法はまだか? 魔力を込めるのが遅すぎるぞ!」
上級近衛騎士が偉そうに急かせた。その結果、魔法の発動は遅れに遅れた。
直哉はその間に上級近衛騎士たちの傍に来ていて、近衛騎士に指図してこっちを見ていない上級近衛騎士たちに声を掛けた。
「よそ見していて、大丈夫なのですか!」
それと同時に攻撃した。横斬り二回と縦斬り一回で三人の鎧を粉砕し、大きなダメージが入った。
「ありゃ。フィリア! 出来たら回復急いで!」
もう一人の騎士を四連撃で圧倒しながら、指示を出した。
剣を粉砕後、魔術師たちの方へ向かい、牽制した。
「あわわ」
魔術師たちは詠唱を中断して避けた。
「さて、まだやりますか?」
と、剣を突きつけた。
「まいりました」
魔術師たちは降参した。直哉は一息つくと、
「さて、ラナ・ルナ待たせたね!」
リカードの真似をして、挑発した。
「ぷっ」
ラナとルナはいつもの直哉を知っていたため、思わず笑ってしまった。
近衛兵見習いたちは、直哉の強さが予想を遥かに超えていたため、身体がすくんでいた。
「ほら、みんな! 直哉さんが冗談を言って緊張をほぐしてくれているのだから、しゃきっとしなさい!」
ラナが激を飛ばすが、見習いたちは恐慌から脱出できなかった。
そんな、見習いたちに、
「行きます!」
直哉が棒先を向けると、見習いたちはワタワタと後ろに下がり始めた。
「はわわわわ」
ラナとルナが前に出て、直哉の動きを止めに入ったが、
「せい! やぁ! とぅ!」
直哉のスピードに身体が付いていかず、簡単に突破され、見習いたちの剣が圧し折られていった。
その棒攻撃での風圧と威圧により、見習いたちは意識を手放すものも多かった。
見習いたちの剣を破壊した後、ラナとルナの方へ突撃した。
「せぃやー!」
直哉の横斬りを何度も見ていた二人は、何とか回避した。
「あぶな! 速すぎ!」
そこへ、直哉の脳天チョップが炸裂した。
「うきゅう」
ルナが一撃で沈んだ。
ラナはその声に気を取られてしまい、そのチャンスに直哉は剣を突きつけた。
「ここまでかな?」
「あっ。参りました」
「そこまで!」
オケアノスの声が響いた。会場が歓喜に包まれた。
「さすがお兄ちゃんなの!」
「直哉様、お怪我はありませんか?」
リリとフィリアが直哉の元へ駆けつけた。
「ふぅ。そういえば、上級近衛騎士さんは大丈夫だった?」
「はい。ブツブツと文句を言っておりましたが、騎士団長様が戦いを観戦していたらしく、お説教を受けてました」
「そっか、騎士団長も目を覚ましたんだね。ほっとしたよ」
三人は和やかな雰囲気をかもしだしてした。
「さて、この辺で余興は終わりにして、宴に入りますかな」
オケアノスは直哉の力を見て満足したようだった。
「えー、リリも殴りたい!」
その声に、リリちゃんになら殴られたい! という声が近衛騎士の方から聞こえてきた。
その場に居た女性陣がドン引きしたのは言うまでもなかった。
オケアノスは近衛騎士たちを一瞥した後、
「あんなのでも、相手をしてくれるのかい?」
と、リリに聞いていた。リリは、
「本気を出しても良いの?」
直哉に聞いてみたが、直哉が許可を出すわけも無く、
「つまらないの」
と不貞腐れていた。
「ならば、私が参加しよう!」
近衛騎士団長が名乗りを上げた。
直哉は、それならと、全力の許可を出した。
「わーい!」
リリははしゃぎながら用意を始めた。
騎士団長はその装備を見て、
「リリちゃんは、魔術師ではないのかな?」
と聞いていた。
「これが、リリの正装なの! お兄ちゃんの力作なの!」
と、ピンク色の装備に身を包んだ。
「準備OKなの!」
両者はオケアノスの合図を待った。
「それでは、始め!」
合図と共に、リリは詠唱を始めた。
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
両手で作った二つの風魔法に飛び乗った。
「ちぇっすとー」
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
さらに、飛び掛りながらも風の魔法を乱打し、いたるところに振りまいた。
「なんという速さ! 末恐ろしいな」
騎士団長はそう言いながらも、魔法と共にリリを迎撃した。
リリは、その迎撃体勢に気づき、
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
さらに風の魔法を作り出し、それに乗り別方向へ飛んで行った。
騎士団長にはリリの放った風魔法が襲い掛かり、剣と盾で打ち払っていた。
リリはその光景を上空から見下ろし、MP回復薬を飲んでいた。回復を確認した後で風魔法から飛び降り、
「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏しこの大地を震撼させよ!」
「バーストトルネード!」
魔法を放ちながら、タブレット型のMP回復薬を食べて、落ちてきた。
「なんと!」
騎士団長は中級魔法の発動までの速さと強さに驚き、防御に徹していた。
リリはMPの回復を確認すると、回転しながら落ちるスピードを調整し騎士団長の背後を取った。
「とどめ! 魔神拳!」
意気揚々と殴りかかった。
「それは、悪手だよ」
直哉はそう叫んだが間に合わず、
「あまい!」
騎士団長の回転斬りが炸裂した。
直撃を受けたリリは壁際まで飛ばされて、受身も取れずに床に叩きつけられた。
「そこまで!」
オケアノスの声が響いた。会場が歓喜に包まれた。
直哉とフィリアがリリの元へ行くと、リリはムクっと起き上がった。
「何が起こったの?」
リリは目をパチクリしながら聞いてきた。
「あれは、騎士団長さんがリリを近づかせるためにうった芝居だよ」
「こういう時、お兄ちゃんならどういう指示を出すの?」
直哉は少し考え、
「氷の魔法で、リリの代わりとなる塊を何個か作って、全方位から攻撃を掛けさせて、太刀筋を見てから突撃かな?」
「それなら勝てる?」
「いや、勝率が多少上がるくらいかな?」
リリと話している直哉の元へ、騎士団長がやってきた。
「その通りだな。その策なら今のよりは苦戦するだろうが、対応は出来るな」
「やはり、そうですか」
「それにしても、驚いた。魔法使いがこのような戦い方をするとは、夢にも思わなかった。よき訓練となった。ありがとう」
騎士団長はリリに握手を求めた。
「こちらこそありがとうなの。おじさんも強かったの。今度はリリが勝つの!」
「お、おじさん・・・・」
「だって、お名前知らないから・・・」
「そういえば自己紹介がまだだったな。私はアレク。このバルグフルの近衛騎士団長を仰せつかっている」
アレクは丁寧に挨拶してきた。
「リリは、リリなの!」
リリも挨拶を返し、雑談をするために、闘技場を後にした。




