第二話 新しい職業
◆始まりの城 〜バルグフル城〜 の城下町
直哉は30分かけて城下町の中心部に通じる扉を開けると、なかなかの人の多さに目を回していた。
「結構人が集まってるんだなぁ」
そう呟きながら、ゲームで通い慣れた冒険者ギルドの前にやってきた。
「でかいな」
建物の大きさに圧倒されながら誰でも入れるように開け放たれている扉を通り、中に足を踏み入れた。
「うわー」
完全にお上りさん状態になっている直哉。
「今日 はいかがされましたか? どのようなご用件でしょうか?」
と、明らかに初心者っぽい直哉を見つけ、入り口にいたギルドのお姉さんが話しかけてくれた。
直哉はたしかゲームでは、こうだったようなと考えながら、
「冒険者として登録したいです」
というと、お姉さんは、
「かしこまりました、それでは、ご案内いたしますので、付いてきてください」
そういって、奥の個室に案内してくれた。
新規の冒険者は珍しくないのか、ギルド内の冒険者達は我関せずといった感じであった。
奥の部屋に通されて、部屋を見渡すと、椅子と机があり、机の中央には水晶、そのそばにプレスするような機械が置いてあった。
「初めまして。あなたの冒険者登録のお手伝いをさせて頂きますイリーナと申します」
お姉さんは、微笑みながら自己紹介をしてくれた。
「まずは、冒険者についてご説明いたしますが、よろしいですか?」
ゲームと同じように、事務的な話が続いたので、ゲームとの違いを探しつつ聞いていると死者を蘇らせる方法が無くなっている事に気がついた。
「世界樹の雫とかは、無いのですか?」
死者を蘇らせる効果のあるアイテムを聞いてみると、世界樹系のアイテムの事は知らないとのことでした。
「他に何か質問は、ありますか? 無ければ冒険者としての登録を始めますが」
直哉は、すこし考えた後、
「よろしくお願いします」
と、イリーナに伝えた。
「では、この水晶に手をかざしてください。登録が完了すれば、コチラの機械から、専用のプレートが出てきます」
直哉は、言われるがままに、水晶に手をかざすと水晶がジワリと温かくなるのを感じた。
その後、プレートを精製する機械が動き始め、直哉専用のプレートが誕生した。
プレートには、冒険者ランクが書いてあり、タブを操作するとステータスの簡易版や、現在パッシブになっているスキル効果などが表示されていた。
「そのプレートは、持ち主が見れば、個人情報が見えるけど、他人が見ても冒険者ランクしか見えない様になってます」
「基本的に、そのプレートの冒険者ランクによって紹介する仕事のランクが決まりますので、高ランクの仕事が出来るように頑張ってください」
イリーナの説明によると、ゲームとは違い、冒険者ランクを上げないと、割の良い仕事が貰えなさそうな感じであった。
「冒険者ランクはどのようにして上げるのですか?」
直哉はゲームには無い冒険者ランクについて、イリーナから情報を得た。
「基本的に、お仕事の成功具合とランクアップ試験の合格ですね」
一般的な冒険者はランク2〜5が多く、6になればベテランで、7クラスは滅多にお目にかかれないほど、なっている人が少ないほどのランクであり、逆に1は見習い冒険者ということでした。
今までのギルドの歴史で最高ランクは10。数百年前に一人現れたそうで、現在は英雄として祀られているとか。
「戦士とか、魔法使いになるにはどうしたらよいですか?」
ゲーム内では、ボタン一つで決定していた職業について聞いてみると、
「城下町にいるオキュペイション・エバンジェリストから、各職業への転職が可能ですが、基本職は1つしか選べず、上級職は基本職からの派生のみ選択できます」
直哉はゲームには無かった上級職という単語に反応した。
「上級職って何があるのですか?」
イリーナは微笑みながら、
「駆け出しの冒険者には早いのだけど、戦士系なら聖騎士や重戦士、魔術師系なら属性術師や召喚術師みたいな感じで色々ありますよ!」
詳しく聞くと、基本職には見習い期間制度があり、まずは前金を払い見習いになり、課題を受け問題が無いようなら残りの料金を払い見習いが解除される。
見習い期間内なら転職が可能だが、見習い期間内に覚えたスキルは封印されてしまう。
また、見習いを解除したら、転職は不可能だが、見習い期間内に覚えたスキルはそのまま使う事ができる
冒険者のまま活動する人もいるらしく、冒険者用のスキルも存在するが、このスキルは専門職になっても覚えることが出来る。
「うーん、難しいな」
直哉が頭を抱えていると、
「とりあえずは、冒険者として登録したので、今日は帰って休んだらいかがですか?」
イリーナは初心者にありがちな混乱する直哉を心配していた。
「そういえば、ここの世界ってこのお金使えるのですか?」
直哉は1G、1S、1Cをそれぞれ取り出して、イリーナに聞いてみた。
「そ、それは1GOLD!? そんな大金を!」
イリーナは大変驚きながら説明してくれた。
現在の市場では、G、S、Cの3種類の通貨が流通している。
相場は1G=1000S=1000000Cとなる。
(ということは、135Gだから、1億持ってるって事でよいのか)
直哉はそう考えながら、冒険者ギルドが経営している宿屋へ向かった。
冒険者の宿 1泊130C
(素泊まりで130Cですか、安いですね)
直哉は130Cで1部屋を1泊借りた。
そのまま、部屋の布団に潜り込み、元の世界に帰れることを夢見ながら、眠りについた。
◆次の日 冒険者ギルドの宿屋内
猛烈な空腹と共に目を覚ました直哉は、元の世界に帰れなかった事と、昨日から何も食べていなかったことからの脱力感で動けなくなっていた。
心配した宿屋の親父さんが、朝食を作ってきてくれた。
「ありがとうございます。危うく空腹で死ぬところでした」
直哉は親父さんに感謝しつつ、食事代の13Cを払い、宿屋を出た。
「さて、腹も満たされたし、元の世界に帰る手段を探すために、この世界での拠点を見つけないとまずいよな」
「おそらく、メインクエストをすべてクリアした後転生クエストをクリアすれば元に戻れる可能性があるからな」
直哉はそうつぶやきながら冒険者ギルドにやってきた。
受付のお姉さんにプレートを見せると、ニコリと微笑みながら、
「今日 はいかがされましたか? どのようなご用件でしょうか?」
「このランクで出来る仕事はありますか?」
直哉はゲーム上での、メインクエストと呼ばれる、話の幹に当たる部分が発生しないかどうか試してみた。
「現在のランクですと、町のお使いがメインとなり、コチラがその一覧です」
お姉さんは、クエスト一覧を見せてくれた。
一覧には、クエスト名、依頼の概要、依頼者、期限、報酬と項目ごとに見やすくなっていた。
直哉は一覧を見ていると、あるクエストに目が止まった。
「あの、この指輪を探して来て欲しいというクエストについて、教えてください」
このクエストは、ゲーム内で最初に強制イベントとして発生していたクエストで、成功報酬は2段階あり、通常の終わらせ方だと大したことないが、特殊なイベント(フラグを立てておくと)が発生していると、クエストが更新され、低レベル時にしては良いアイテムが手に入る有名なクエストであった。
「こちらのクエストは、地下の下水道に落としてしまった婚約指輪を見つけて欲しいっていうもので、落としたのはココで、そこに行くには町のこの場所から入って捜索するクエストです」
と、地図を広げながら説明してくれた。
直哉はクエスト内容がゲームと同じだったので、期限が無制限になっているのを確認して、そのクエストを受領した。
他にも、町を散策するついでのクエストも受注し、町中へ繰り出した。
「とりあえず、冒険者ギルドから近いクエストを中心に終わらせていこう」
町中を散策し下水イベント以外を終了するには3日の日数がかかった。
一度行った場所は自動マッピングされるためマップを開けば、町のどこに何があるか大体判るようになった。
直哉は新職業の鍛冶を教えてくれるオキュペイション・エバンジェリストの元へ向かった。
◆鍛冶ギルド
鍛冶ギルドについて表の入り口には鍛冶ギルド販売所となっており、さわやかなお兄さんが立っていた。
販売ではなく、作成する側に用があったので、裏口に回ると、
「おう。ここは鍛冶ギルドの入り口だ。武器防具の仕立てや買いたいのなら、入り口は反対側だぜ!」
ずんぐりむっくりな体系の、酒樽に髭を生やしたようなおっさんが、話しかけてきた。
「私は、鍛冶屋になりたいのですか」
直哉がそういうと、酒樽おっさんは髭を弄りながら、
「ほほぅ、その若さで鍛冶屋になるとは、いやはや」
ひげ親父はの態度から何かおかしな事があったのかと思い、
「おかしいですか?」
と、聞いてみると、ひげ親父は、
「いや、すまなかった。珍しいと思ってな、さぁ、こっちだ」
と謝罪しながら、ギルドマスターの所へ案内してくれた。
動く床にのって、6階建ての最上階へ案内され、大きな扉の前で待っていると、横の普通の扉が開き
「ギルドに入りたいという方はコチラに」
と呼び出しがかかったので、横の扉を通るとだだっ広い空間の窓際にぽつんと机と椅子があり、頑固そうなじじいが座っていた。
「おぬしが鍛冶ギルドに名を連ねたいものか?」
そう言って、直哉の装備を見て全く冒険者らしくない出で立ちで少し怪訝に思っていたが、腕輪に目が止まった。
「おぬしは、転生者かの?」
直哉はNPCが転生のことを知っているとは思わなかったから驚いていた。
「どうして、そのことを知っているのですか? まさか、プレイヤーなのですか?」
「わしも、転生者なのじゃよ。もっとも、プレイヤーとは何のことか分からないのじゃが」
といって、転生ボーナスの腕輪を見せてきた。
「この、鍛冶ギルドに入るには、最低でも戦士職からの転生が必要なのじゃが、おぬしはどの職業からの転生なのじゃ?」
直哉は転生前の3つの職業とレベルをマスターに伝え、マスターもそれなら問題無いと言い、
「それでは、見習い手数料として100S、本登録料は見習い手数料とは別に400Sになるが、良いか?」
戦士や魔術師になるときは、通常1万Gでなれた事を考えると、50倍の費用がかかる事になる。
直哉は少し考えて、
「戦士や魔術師になるより、費用が大きいのは何か理由があるのですか?」
「鍛冶は一応上級職扱いなんじゃよ、じゃから他の上級職と同じ値段設定になっておる」
「と、いうことは、戦士系のスキルを覚えられるのですか?」
「そうじゃ、全てのスキルとはいかないが、それなりに覚えることができる。それに、全ての武器防具を装備できるのも大きな強みじゃ」
「それでは、お願いします」
100Sを支払い、職業鍛冶見習いを手に入れた。
「それで、どうすれば見習いからランクアップするのですか?」
直哉はゲーム魂に火がついたようで、新しいシステムに心を躍らせていた。
「まずは、残りの400Sを使ってこの候補地から土地を買い取り、自分で自分の鍛冶屋を作ることじゃ」
「と、言うことは本登録料って土地代ですか?」
「そうじゃ、だから高いのじゃ」
直哉は自分の店が作れることに喜びと不安を同時に抱え込んだ。
「この地に自分の店を構えてしまった場合、ほかの町に行った時、不便ではありませんか?」
「なに、ほかの町に行くころには資金も溜まっているだろうから、人を雇ったりして繋がりを保っておくのが普通かの、まぁ、まずは自分の鍛冶能力を高めないと、店は作れんぞ」
直哉は礼を言って、自分に割り振られた鍛冶スペースへ向かった。
2階の隅っこに『ナオヤ』と書かれたプレートがかかっているスペースへ行きスキルを確認した。
鍛冶スキル「武具作成」・「アクセサリ作成」・「大工」の3種で、戦士系スキル「縦斬り」・「横斬り」・「突き刺し」の3種が選択可能で、スキルポイントは1ポイントであった。
ステータス画面
ナオヤ
鍛冶見習い
冒険者ランク1
Lv:1
最大HP:60+200
最大MP:100+200
力:10+20
体力:8+20
知力:8+40
素早さ:8
器用さ:8
運:8+10
ボーナス 5
スキルポイント 0
スキル
戦士系:0
○横斬りLv1
○リジェネLv1
魔術師系:0
○魔力吸収Lv1
商人系:0
○目利きLv1
スキルについて
各系統の横にある数字は、ボーナススキルポイントで、その系統のスキルを覚えるためにあります。
スキルの左にある○は、パッシブスキルがONの状態で、そのスキルが効果を表していることを意味します。
×にすれば、効果が出ることはありません。
また、○×の表記が無いものは、インスタントスキルで実行したいときにMPを消費して発動することの出来るスキルである
直哉は鍛冶スキルの誘惑を振り切り、下水道を探索するための攻撃スキルを手に入れた。
ゲームと同じであれば、少なくともレベル1の冒険者が、ソロでは勝てないレベルの敵が出てくる予定なのだ。
直哉は冒険者ギルドに戻り、下水道の鍵を受け取ると共にギルド内にある道具屋で、『地下道のマップ』と『ランタン』と『油』と『火種』と『収納袋』『採掘道具』を購入し、すべてアイテムボックスへ放り込んだ。
下水道に入る前に、課金アイテムの四属性の剣を取り出し装備した。ラフなスタイルに剣をぶら下げる、変な恰好の冒険者が誕生した。
この四属性の剣は、通常攻撃のダメージのほかに知力と同程度の四属性すべてのダメージが追加で入るという剣で腕輪でブースとした今の知力なら200近い追加ダメージが期待できる。ただし、敵の抵抗値によって増減があるので、低レベルの敵には有効ではあるが、属性抵抗の高い敵には使うメリットが感じられなくなるものであった。