第百八十二話 ドラゴンバルグの解放、そして、帰宅
◆新しいバルグ
それから約一ヶ月の間、直哉達はバルグの地に新しいバルグを建設した。
新しいバルグは旧バルグよりさらに西に位置し、旧バルグには巨大な慰霊碑が建てられ、死者を弔った。
バルグの街は、直哉の指示の元、ルグニアから来た大工達の手で建てられた。
その大工達の仮住まいは、新バルグ城で、この城は直哉が建てた。
直哉の造ったゲート扉は、一般解放せずに、緊急時に使用する事が決まった。
まだ、各国の援助が無いと国の運営もままならないが、体裁は整った。
また、直哉はドラゴンバルグの管理者となり、リカード達の強い要望により新バルグの王に就任し、さらにバルグを中心としてバルグフル、ルグニア、ソラティア、バラムドの五ヶ国をまとめてドラゴンバルグ帝国を造りあげた。
「流石直哉様です。この地の管理者であり王であり、皇帝でもあるのですね」
フィリアはウットリと直哉を見つめていた。
直哉は新バルグの防衛用設備を見ていた。
「早期警戒装置より敵勢魔物を感知。王城への警告と冒険者ギルドへの連絡、さらに第一次及び第二次魔物撃退装置の起動を確認しました」
モニタを見ていた監視員から報告が上がった。
「敵勢魔物を写し出せ!」
モニタに写ったのはオークの集団であった。
住民達の避難が終え、敵勢魔物の排除許可が降り、防衛用設備が起動した。
防衛用設備は、塔になっていて、遠距離、近距離、対空と全ての敵に対応していた。
まずは、遠距離用のバリスタが起動した。
第一次と第二次にある塔から槍が射出された。
連射速度は遅いものの、500メートル程離れた敵にも当てられるため、非常に脅威であった。
バリスタからの攻撃で、オーク達の進軍スピードが落ちてようやく第一次の防衛ラインに近付く頃には半分ほどに減っていた。
そこからは、第一次防衛ライン上にある塔からは近距離用の連弩が放たれ、さらにオークの数を減らしていった。
そして、街に近付く頃には冒険者達の準備も整い、オークの数も士気も十分に減らしてから戦闘になった。
「これならば、防衛は何とかなりそうですね」
「そうですね、街を広げる時は、新たに防衛用の塔を建てれば済みますし、楽ですね」
「一応、早期警戒用の装置もバージョンアップしてくださいね」
「それは、国内の鍛冶師で大丈夫ですか?」
「試してみて、無理ならルグニアに頼みましょう」
「わかりました」
直哉は城へ戻り、管理者用の通路を通り管理者用の部屋に帰ると、
「お帰りなさいなの!」
「戻ったか!」
「お帰りなさいませ!」
嫁達が迎えてくれた。
「ただいま。装置の方はどうだい?」
「順調に魔力を溜め込んでいるの! 予定通り明日には使えるの!」
直哉はフィリア達を見て、
「大丈夫?」
みんなは、直哉の言葉に肯いた。
この部屋には、神器作成で造った、八咫鏡、草薙剣、八坂瓊曲玉を魔方陣の外側へ配置して、魔方陣の威力を底上げする効果があった。
(それにしても、この配置は俺の部屋と同じだな。後ろに剣、横に鏡、モニタに曲玉があったんだよな。そして、偶然にもコールゲートが俺の部屋にリンクして、魔力を増幅して呼び出されたと)
直哉が苦笑いをしていると、
「何か、問題でもありましたか?」
「いや、ついに明日、このドラゴンバルグの障壁が取り除かれる。そうなれば、新たな争いが起きるかもしれない。一応、神様は落ち着くまでは不干渉にさせるとは仰ってくれているけど、まぁ、過保護だよな」
「リリは、お兄ちゃんの両親に早く会いたいの!」
「そうですね、私も紹介して欲しいです」
「私も、紹介して欲しいぞ」
「わらわもじゃ」
「私も、お願いします」
「私も!」
嫁達と何故か、アイリに詰め寄られ、
「勿論さ。説得してみるよ。ダメでも、家族は行き来出来るみたいだから、あっちの世界に紹介しに行くよ」
直哉は、リリ達の事があるし、管理者や王になったため、地球で生活する事を諦めた。
(もともと家族の温もりを求めていた俺に、ここまでの温もりを与えてくれたのはこの世界だったのだよな。元の世界での唯一心残りだったのが、両親だったから、これも解決出来ると。そうなると、俺は元の世界で生きていく意味を見いだせないのだよな。それは、しばらく離れてしまったためにそう感じるだけなのかな?)
直哉の顔を覗き込んだフィリアが、
「何を考えているのですか?」
「ん? あれほど元の世界に帰りたかったのに、いざ帰れるとわかったら、気持ちが萎えてしまったんだ」
「私達のせいですか?」
「それもあるけど、管理者になったり、王になったりしたからこの世界に対しての責任が大きくなったからかな? 正直良くわからないよ」
「そうでしたか」
「とにかく、この一ヶ月は忙しい日が続いていたから、今夜くらいはのんびりしたいね」
「賛成なの!」
「賛成なのって、リリは良く爆発していたでは無いか」
「そうなのじゃ、ずるいのじゃ」
直哉が忙しい時に、リリはあまりにも構って貰えず、大泣きして仕事中の直哉に突撃していた。
「何にしても明日になれば世界が変わる。変えて見せるさ」
「あまり、一人で抱え込まないでください」
直哉は嫁達と、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
◆次の日
ドラゴンバルグは晴天に包まれていた。
直哉は各地の管理者を使い、ドラゴンバルグ全土に届く放送をした。
「この一月の間、色々と準備をして来ましたが、ついにこの日を迎えました。このドラゴンバルグにとって良い日になることを祈ります!」
直哉はスイッチの前に立ち、リリとマーリカとアイリが直哉の前に立ち、フィリアは右側にエリザが左側に、ラリーナは後ろに立ち直哉と共にスイッチの上に手を置いた。
全ドラゴンバルグからカウントダウンが始まった。
「それでは、新しい世界への扉を開きます!」
「5!」
「4!」
「3!」
「2!」
「1!」
直哉達はお互いを見て頷いて、
「0!」
スイッチを押した。
その日、止まっていたドラゴンバルグの時が動き出した。
直哉の周りには精霊達が集まっていた。
「解放してくれて、ありがとう!」
「やれば、出来るじゃないか!」
「お前なら出来ると信じていた!」
「だから、大丈夫だって言ったじゃん!」
口々に礼を言ってファムクリアスの世界へ溶けていった。
そして、直哉達の前に、神が現れた。
「ファムクリアスの世界へようこそ。新たな管理者よ。願わくば子供達を正しき道へ案内して欲しい」
「微力を尽くします」
「うむ」
カソードは頷くと空へ吸い込まれて行った。
「空気が変なの!」
リリが障壁が無くなった事による空気の入れ替えで、ファムクリアスの匂いを感じていた。
そこへ、諸侯が集まってきた。
「ドラゴンバルグ皇帝、話がある」
直哉は皆をパネルの前に呼んでドラゴンバルグの地図を出した。
「地形が変わりましたね」
今までは、バルグの東側に山脈があり、その先にバルグフルがあった。
バルグフルの北側にバルグとの間にある山脈が張り出してきて、火山があり、その先の山の中にルグニアがあった。
ルグニアの西側にある山を越えると、草原が広がり、そこにソラティアがあった。
バルグとソラティアの間には東側の山脈から延びる尾根が続いていた。
バルグの南側にはバラムドがあり、その南には海が広がっていた。
これが、封鎖されていた時のドラゴンバルグであった。
現在は、中央にあった山脈が縮み、各都市の距離が数倍に伸びた。
バルグの西側には、広大な草原や林、森が広がり、その先には大きな川が流れていた。
バルグとソラティアの間の尾根は無くなり、その場所には広大な森林が出来ていた。
また、ソラティアの北側には、草原が広がりその先に今までの山脈の数倍の高さを持つ山脈が広がってた。
西側には、山脈からバルグ方面へ流れていく川が流れていた。
ルグニアは、今までよりも低くなったが、それでも山の中にあり、北側にはソラティアの北に見えた山脈へ繋がっていた。東側も同じように山脈が続き、その先はわからなかった。
バルグの東側は、草原と森林が続き、その先は海になっていた。南側も森林が続き、最終的には海に繋がっていた。
バラムドは変わらず、海に面していた。
「東側に巨大な川が流れ、南と西は海に囲まれ、北側に山脈があるか」
「そうですね、脅威が来るとしたら、北の山脈ですかね?」
「決め付けるのは止めましょう。全方位に注意して行きましょう」
直哉達は、今後の防衛体制などを話し合って、お開きとなった。
部屋には直哉と嫁達。そして、リカードが残っていた。
「今日、やるのか?」
「うん。もう少ししたら、丁度一年になるみたい」
「そうか。確か、お前の世界では一年で元の位置に戻るのだよな?」
「正確には違うのだけど、相対的に近くなる」
直哉は、この世界へ来た時のログを解析し、銀河系地球とこのファムクリアスは、一年周期で近づく事をつきとめ、その日に向けて色々と準備を進めていた。
「一応、神様から、家族は行き来して良いと御墨付きを貰ったので、嫁を連れて行ってくる。そして両親を連れてくるよ」
「期待している」
直哉はリカードと堅く握手した。
◆管理室
直哉は遠距離ゲートを起動した。
「みんな、集まって」
リリ達は、直哉の周囲に集まった。
「三種の神器良し! 魔法陣良し! ゲートの展開良し! 連装魔蓄棺からの魔力提供良し!」
直哉がシステムのパネルから、目標座標を割り出した。
「準備が整いました」
「みんな、行くよ?」
直哉はみんなが頷いたのを見て、
「ゲートマルチ!」
直哉達は膨大な光に包まれ、やがて扉を残してその姿を消した。
◆風見家 直哉の部屋
直哉の部屋には熟年の男女が居た。
「あぁ、直哉何処へ行ってしまったの」
「もうすぐ、一年か。もう、無理なのか?」
「私が仕事を優先したばかりに」
「いいや、私だって、医者という肩書きにおぼれ、直哉をお前に任せっきりだった」
二人は昔を思い出していた。
「私が、オンラインで繋がるシステムなんか開発したから、あの子はずっとこの部屋で一人だったのね」
「直哉の成績が良いのは、俺の仕事を継ぐ為ではなくて、ただ、他にやることが無かったから勉強していただけだったなんて」
二人は、直哉が失踪してから、学校での直哉がどの様な生徒だったかを聞いて、愕然とした。
「まさか、あの子が、誰も友達を作らず、家と学校を往復していただけだったなんて」
「私も、それを聞いてビックリしたよ。思えば、そんな会話もしたこと無かったな」
二人が落ち込んでいると、直哉の部屋が光に包まれ始めていった。
「あなた!」
「晶子!」
二人が飛ばされないように抱き合っていると、部屋に置いてあった刀と鏡の中間にゲートが出来た。
「よっと!」
「おっとなの!」
「危ない!」
「何だと!」
「痛いのじゃ」
「ふぅ」
「えーん」
ナオヤを筆頭に六名の女性が現れた。
「えっ? 直哉?」
「えっ? 父さん? 母さん?」
「直哉!」
父親と母親は動きが素早かった。
突然現れた直哉を、二度と手放さないかのように抱きしめた。
「父さん、母さん。良かった! 本当に帰ってこられた」
「この、馬鹿息子が! 一年も何処をほっつき歩いていたんだ!」
「良く無事で戻ってきてくれたね。良かった。良かった」
父親は怒り、母親は安心して泣きじゃくっていた。
リリ達も、貰い泣きしていた。
全員が落ち着いた時、
「さて、洗いざらい話して貰うぞ、まずは、こちらのお嬢さん方の事からだ」
母親に連れられ、居間へ行くと、カオスな状態の部屋が目に入った。
「えっと、随分と荒れてるみたいだけど、どうしたの?」
直哉の質問に、
「普段はお前が綺麗にしていた様だな。私達では綺麗に保てなかった」
直哉は全身で否定しながら、
「いやいやいや、この汚さはそんなレベルの問題では無いでしょ!」
結局、フィリアとマーリカが晶子を手伝い、綺麗にして行った。
「ねぇ、お兄ちゃん。この部屋変なの」
「どうしたの?」
「なんかね、上手く魔力が練れないの」
直哉は、いつもの癖で、左下にある四角をみて画面を開くと、
「あれ? 俺は開けるぞ? 何でだ?」
「直哉は管理者になったから、そのせいでは?」
「なるほどな」
直哉はラリーナの言葉に納得していた。
部屋が綺麗になり、全員分の御茶が入ったところで、直哉がこの一年過ごしてきた世界の事を話していった。
そして、その世界で嫁達と出会えた事を報告した。
そして、直哉の心の内を話すと。
「そうか。向こうの世界で暮らしたいのだな」
「うん。この世界の心残りは、父さんと母さんだけだから」
正哉(直哉の父)は、ため息をつきながら、
「そうみたいだな。お前が失踪してから、学校や近所の人に話を聞いて愕然としたよ」
「俺が、家と学校を往復するだけのボッチだったって事?」
「そうだ」
「だって、早く帰って置かないと、父さんや母さんが帰って来るかもしれなかったし」
晶子は直哉の頭を撫でながら、
「ごめんね。寂しかったわよね」
「うん。子供の頃から、ずっと寂しかった。家族の温もりが、ずっと欲しかった」
正哉は項垂れて、
「そうだったのか」
と、呟いた。
晶子は直哉を撫でながら、
「それで、私達も、そちらの世界へ行って、直哉の傍に居る事が出来るの?」
「そう、それだ、私も行くぞ!」
「ありがとう。でも、こっちの仕事は良いの?」
正哉は頷いて、
「大丈夫だ、お前を探すと決めてから、仕事は止めたし自分の病院も売った。お陰で、このまま死ぬまで働かなくてもお釣りが来るくらいの貯蓄が出来た」
「私も、普通に辞めたわ。会社から結構な額の退職金が出たので、暮らしは楽よ」
直哉は、二人を抱きしめて、
「父さん、母さん、ありがとう。俺が護ったドラゴンバルグの世界へ行こう」
二人の準備を済ませ、何時でも戻る事が出来るが、一応近所には長期の旅行へ行くと告げ、ドラゴンバルグの世界へ行くゲートをくぐった。