第百八十一話 ファムクリアス
直哉達が休んでいると、カソードの腕輪が輝きだした。
現れたのは、カソードと三人の管理者だった。
「良くやった、直哉よ。これで管理者権限を元に戻すことが出来る。感謝する、ありがとう」
カソード達は頭を下げた。
「何とかなりました」
カソードは、少女から管理者権限を強制的に取り出した。
「ようやく元通りになるな」
カソードは深いため息をついた。
直哉は放置されている少女を見て、
「その娘はどうなるのですか?」
「本人の希望しだいだが、最低でも管理者とは関係の無い生き方を選んでもらう予定だ」
直哉はホッとして、
「では、このような事は二度と起きないのですね」
「そうじゃな、この娘が起こす事は二度と無い」
「この娘?」
「うむ。このバルグフルに新たな管理者を立てるのでな。その者が同じ様な事を起こすやもしれぬ」
「そんな。何とかならないのですか?」
「まぁ、詳しい話は後日だな。今はゆっくりと休みなさい」
「あの、障壁の撤去は?」
「直哉達の前で行うので、心配しなくとも良いぞ」
直哉達はバルグフルへ送られた。
◆バルグフル
バルグフルは、あちこちから火の手が上がった後があり、今は鎮火していた。
(結構酷くやられているな。領地は大丈夫なのだろうか?)
「リリ達は先に領地に戻って、被害の状況を調べておいてくれるかい?」
リリ達は肯いて、
「わかったの。お兄ちゃんは、リカードさんの所?」
「あぁ」
直哉はリリ達と別れ、城へ向かって歩き出した。
(城の方へ行くにつれて、被害が酷くなっていくな。死者が出たのだろうか?)
直哉は周囲の状況を見ながら歩いていると、不意に声を掛けられた。
「直哉?」
振り返ると、街を巡回していたのだろう、疲れた表情のリカードが立っていた。
「リカード!」
「やっぱり直哉か。魔王はどうした?」
「もちろん倒してきました。これで、しばらくは復活出来ません」
リカードは心底安心したようで、
「あぁ、良かった。本当に良かった」
その場に座り込んでしまった。
「そんなに、酷かったのですか?」
「あぁ、直哉が旅立った夜に悪魔達が襲来して、三日三晩襲われ続けたのだ」
「三日? そんなに経っていたのですか?」
「あ、あぁ。何度も死を覚悟したぞ」
「他の都市はどうなのですか?」
「バラムドが一番酷い。次にここ、最後にルグニアだな」
「あれ? ソラティアは?」
「数匹現れただけだった。現在はバラムドで交戦中のはずだ」
「ルグニアは、打ち合わせのためにアシュリーさんとダライアスキーさん、そしてエバーズさんが丁度来たようだ」
リカードの目線を追うと、アシュリー達が現れた。
「こっちからはバラムドの方々ですね。ソラティアの方々も要るみたいだ」
「では、バルグフル城へ行きましょう」
リカードを先頭にしてバルグフル城へ向かった。
◆バルグフル城
各国の代表団と直哉は、謁見の間に集まった。
そこには、立食式の簡単な料理がテーブルに置かれていて、そこにリカードが待っていた。
「おぉ、良く来てくれました、皆さんこちらへ」
直哉達が近寄ると、侍女達が飲み物を持ってやってきた。
「とりあえず、喉を潤しましょう。その後で腹を膨らませながら各国の報告とまいりましょう」
皆が飲み物を取り、食事を始めて少し経った頃、
「では、皆様の報告をお願いします」
まずは、アシュリーが、
「こっちは、十数匹現れたが、問題なく迎撃した。それが終わってからはバルグフルで迎撃任務に当たっていたのだ」
「おかげで助かりました」
リカードが礼を言った。
「次は、私達が報告しても良いでしょうか?」
「お願いします」
「わらわはバラムドのアシカです。バラムドでは、悪魔が二十体程侵攻してきて、そのうち十五体の撃破を確認しましたが、残り五体は倒す前に消滅しました」
リカードは身を乗り出し、
「消滅?」
「はい。いきなり消えました。それからしばらく様子を見ていましたが、また現れたという報告は受けておりません」
リカードが直哉の方を見て、
「どういう事だと思う?」
直哉は、腕を組みながら考えていたが、
「おそらく、私が悪魔の産みの親である魔王を倒したから、この世界で実体を保てなくなったとかですかね?」
「えっ?」
「魔王を」
「倒したのですか?」
リカードは手の平で顔を覆って、
「あちゃー、先に言ってしまったか」
とても残念そうであった。
「あ、ごめん」
直哉の軽い謝罪を受け取ったリカードは、
「皆の報告が終わったら、直哉から話して貰う予定であったが、先に出てしまったので改めて報告して貰おう」
リカードは直哉を前に押し出した。
「はい。チラッと言いましたが、今回の魔王は討伐いたしました。しばらくは復活出来ないはずです」
「今回の?」
「魔王は、不定期ですが復活するようです」
各国の代表が騒ぎ出した。
「どのくらいで復活するのですか?」
「前回の魔王が倒されたのが数年前だそうです」
さらに騒がしくなり、
「数年前だって!? それなら、数年後には復活するという事ですか!?」
「何のために、頑張ってきたのですか!?」
「完全に倒す方法は無いのですか!?」
収拾がつかなくなったため、カソードを呼び出した。
「何だ? この様な所に呼び出して」
「各国代表の方が、魔王の復活時期や完全に倒す方法などを聞いて居るので、答えてくれると助かるのですが」
各国の代表やリカードは驚きながら、
「誰ですか?」
「こちらは、このドラゴンバルグを治める神様です」
みなはカソードの姿を見て、
「神様というより魔術師だよな」
「でも、リリちゃんの事もあるし、見た目で職業はわからないのでは?」
「神様って・・・」
色々な反応が返ってきた。
「正確に言うとドラゴンバルグではなく、ドラゴンバルグを含む世界でファムクリアスを治める神じゃ」
「ファム、クリアス?」
カソードは世界の成り立ちについて話し始めた。
「このドラゴンバルグの管理者が暴走し、我が管理を奪い、自分専用のリゾート地を造ろうとしていた。我が管理から離れてしまったので、直接関与出来なかった。そこで、この直哉を送り込み、管理者の隙を造ってもらおうと思ったのだ。そして、予想以上の速度で成し遂げてくれ、管理権限が戻ったのだ」
各国代表は直哉を見て、
「流石勇者様ですな」
「ですね」
各国代表が直哉を褒め称えた。
「成り立ちより、魔王について話して貰えますか?」
「承知した。では、魔王の復活時期だが、今回の倒し方であれば、五十年は安心だ。また、完全に倒す方法は無い。魔王もまた、このファムクリアスの一部なのだ」
「で、では、五十年後に今回の様な襲撃が起こるというのですか?」
各国代表のざわめきに、
「可能性としてはある。だが次の魔王が復活するのは、今から五十年後以降になるので、それまでに対応策を練れば良いであろう」
各国代表は直哉を見た。
「もちろん、俺も最善を尽くしますので、皆様も手を貸してください」
「おぅ!」
「はい!」
直哉の頼みに各国代表は快く返事をしてくれた。
そこへ、カソードが話しかけた。
「さて、直哉よ。各国の代表がいるのであれば先程の話の続きを話したのだが、良いか?」
「ファムクリアスとかいう国の話ですか?」
「そうだ。まぁ、ファムクリアスは国ではなく直哉の世界でいう、地球のようなものだ」
「なるほど」
リカードが、各国の代表団を代表して、
「一体何の話だ?」
直哉はリカードを見て、
「この、ドラゴンバルグは隔離された空間なんだ」
「隔離された?」
直哉は頷いて、
「あぁ、以前バラムドより西に向けて進んだ時、障壁が現れ、先に勧めない場所があった。それがドラゴンバルグを隔離しているものらしい」
「一体、誰が、何のために!?」
「それは、先程言った暴走した管理者が、自分専用のリゾート地を造ろうとしていたのだ。それで、我が管理権限の届かない様に障壁を張ったのだ」
「なんという事を」
「そういう事なので、このドラゴンバルグを覆っている障壁を排除したいのですが、皆様の了承を得てからにしようと思いました」
リカードが前に出て、
「その、障壁を排除した時のメリットとデメリットは何だ?」
直哉がカソードを見ると、各国の代表団もカソードを見た。
「フム。まずはデメリットだが、特に無い。というか元に戻るだけだ」
「元に、ですか?」
リカードが疑問をぶつけると、
「そうだ。元々このドラゴンバルグはファムクリアスの一部だったのだ。それをあの管理者が勝ってに区切ったのだ」
カソードは忌々しげに言い放った。
「それでは、メリットは?」
「まずは、大地が広がる。これにより、各資源の総量が飛躍的に増える」
「なるほど、新しい大地には人はいないのですか?」
「いるな」
「それでは、戦いが起こるのではないのですか?」
カソードは人差し指を立てて、
「それは、お主達次第だろう。この、閉鎖された空間ですら戦いを止めなかったのだ。それが広がっても問題は無かろう」
「それに、交易する事が出来れば、更に豊かになる。ですよね?」
直哉が追加すると、
「なるほど。それは良いな」
リカードが乗ってきた。
各国の代表団が直哉に聞いて来た。
「直哉さんは、どうしたいのですか?」
「俺は、障壁を取り除き、リソースを増やしたい」
「何のためですか?」
「俺自身のためです。俺が元の世界に帰るのに必要なことだからです」
代表団は驚いて、
「勇者様は帰還されるのですか?」
直哉は頷き、
「元々そのつもりで活動していました」
代表団が黙ると、カソードが思い出したかのように、
「そうだ、障壁を解放したら、この地に囚われている精霊たちを解放する事が出来るぞ」
「精霊を解放? 解放するとどうなるのですか?」
「各属性魔法が、詠唱なしで使えるようになる。ただ、これまで以上に精霊と結びつかなければ、ならないがな」
代表団が唸りを上げた。
「ただ、ファムクリアスの世界では、精霊を介さずに使える魔法を編み出している。己のMPを消費するだけで使える魔法だ」
「それは、誰でも使えるのですか?」
「そのはずだ。ちゃんと訓練すれば、じゃがな」
「他にありませんか?」
「パッと、思いついたのはそんな所だ」
「そうですか」
代表団は考え、
「答えはいつまでに出せば良いですか?」
「そうじゃの、最大で一ヶ月くらいかの?」
「わかりました。考えさせてください」
代表団は問題を議論するために自国へ帰った。
バルグフル城に残ったのは、リカードと直哉、そしてカソードであった。
「さて、バルグフルの王よ、話がある」
「何でしょうか?」
カソードが直哉を見て、リカードも続いた。
「あれ? 俺は居ない方が良い?」
「いや、お前の事を話そうと思ったのだ」
「どうぞ」
「バルグフルの王よ、このドラゴンバルグを解放する前に、バルグの街を再建させようと思うのだが、如何かな?」
リカードは首を傾げながら、
「反対する理由は特にありませんが、誰が治めるのですか?」
そこで、直哉を見て、
「この、直哉に任せようと思う」
「えっ?」
「元の世界に帰るのでは無いのか?」
直哉は深いため息をつきながら、
「もちろん、一度帰りますよ。でも、俺はこのドラゴンバルグで過ごすと思う」
「何故だ?」
「もちろんリリ達の事だよ。俺の元の世界では、多重婚が禁忌とされているのだよ。だから、リリ達を悲しくさせるだけなんだ」
「なるほど。説得力があるな。でも、それだけでは無さそうだ」
直哉は驚きながら、
「流石だね。実は、このカソードからドラゴンバルグの管理者にならないかと誘われている」
「直哉が、管理者? 管理者にあまり良いイメージが無いのだが、直哉なら問題ないな」
「ありがとう」
カソードが会話に割り込み、
「管理者については、権限の譲渡をする事が出来るから、あまり深く考えなくても良いぞ。ルグニア達も直哉がこの地を治めるのであれば、補佐すると言っているし」
リカードは腕を組んで考え、
「それなら、バルグフルの領地はどうするか」
「そのままというわけには、いかないですよね」
「それも、考えるか」
リカードがコメカミを押しながら呟いた。
「何かすまないな」
「まぁ、俺と直哉の仲だ。何とか良い案を探して見るよ」
「ありがとう」
「では、伝えるべき事は伝えたので、管理室に戻るぞ。何かあれば腕輪で呼び出してくれ」
カソードがそう言うと、
「ありがとうございました。何かあれば直ぐに呼び出します」
カソードは苦笑いしながら腕輪に消えて行った。
残された二人は。
「さぁ、これから忙しくなるぞ!」
「はい」
「まずは、バルグフルの体勢を整え、各国と連携して直哉の造る新しい街を支援して行こう」
直哉とリカードは固い握手をした。