第百七十四話 ルグニアの身体とバルグフルの管理者
◆ルグニア ルグニアの間
直哉はルグニアの元へやってきていた。
「お久しぶりです、ルグニア様」
大きな石版が輝き、ルグニアが現れた。
「おぉ、直哉ではないか? その顔は、上手く行ったのかな?」
ルグニアは目を輝かせながらドアップになっていた。
そんなルグニアを心の中で微笑みながら、ルグニアの入る人形を取り出した。
「はい、バラムドの人形師に依頼して、作成しました」
ルグニアは人形を食い入るように見てから、
「大丈夫そうですね」
なにやら、呪文を唱え始めた。
(聞いたことない魔法だな)
ルグニアが映っていた石板から光が溢れ始め、人形へ流れていった。
(転移?)
直哉がボーッと見ていると、光が収束していった。
「ふぅ、終了しました」
石板から今まで通りルグニアの声が聞こえてきた。
「何が終わったのですか?」
と聞いた時、人形の方から、ドサッ、っと音がした。
(あれ? 人形が、人形じゃない?)
直哉が倒れた人形を見ていると、石板から、
「それでは私はこれで」
という声と共に、ルグニアが去っていった。
(えーっと、どうなったのだろう?)
直哉は、目の前に倒れた人形をアイテムボックスに入れようとして、
(あれ? 入らないぞ?)
一向に入る事の無い人形を前に、どうするべきか考えていた。
結局一人で運べるストレッチャーの様な物を造り出し、それに人形を乗せて運び出した。
表に出ると、人形の目が開いている事に気が付いた。
(あれ? 目を開けていたっけ?)
直哉が考えていると、
「フム。これが人の高さから見るルグニアの街か」
と、人形が話し始めた。
直哉が驚愕していると、
「これで、システムからの管理の目を誤魔化す事が出来る。礼を言うぞ」
直哉が固まっているのを見て、
「どうしたのだ? 私だ、ルグニアだ」
ようやく再起動した直哉は、
「ほ、本当に乗り移れるのですね」
「乗り移るというか、この人形の動作を統括する部分に、私をコピーしただけですよ」
(たしか、パスタスさんが、その統括部分に人間性を宿すのが難しいと言っていた)
「ふむ、腕や足は滑らかに動作するが、その他の部分が思うように動かせぬな」
直哉は気を取り直して、
「そうですか。では、人形師に話しに行きましょう。問題点を改善してくれるはずです。それと、ルグニア様に報告があるのですが」
「人形師の手配、頼みます。報告とは何ですか?」
「実は、バラムドのアシカ様から依頼を受けたのですが」
直哉はルグニアにアシカからの依頼を説明した。
「なるほど。私達を集めるとしたら、認証キーでしょう。それなら、私をソラティアとバルグフルの管理者の元へ連れて行きなさい。その時に、人形師から彼らが入る人形を造ってもらいなさい」
「そうか、そのまま連れて行くのがダメならば、ルグニア様のように、コピーを連れて行けばよいのか! ですが、認証キーは無くても良いのですか?」
「私達には、下位認証しか無いので、IDとパスで管理されているのです」
「なるほど。ところで、バルグの管理者は良いのですか?」
「あれ? 聞いておりませんの? バルグの管理者は、現在このドラゴンバルグの管理者となっていて、現在は空欄になっています」
「そうだったのですか」
「バルグの管理者の権限は私達の中で一番上の権利を持っていました。次にバルグフル、バラムド、ルグニア、ソラティアとなります。まぁ、私とソラティアは殆ど同じなのですが」
「では、バルグの管理権限は無いままでも問題無いのですか?」
「元々は、個々が暴走しても、他の管理者が集まれば権限を止められたのですが、ドラゴンバルグ自体を牛耳ってからは権限が上がったのか、私達だけでは無理でした」
(それは、問題だな。ストッパーがその役目をはたしてないとなると、状況は最悪か。だが、元凶をどうにかすれば、一気に解決出来るのはまだ、救いがあるのかな?)
◆バルグフル 地下研究施設
「これは! 昨日完成させた人形!! もう、魂が宿ったのですか!?」
ルグニア人形にパスタスが躙り寄った。
「何ですか? この変態さんは?」
「この方が、ルグニア様の身体を造ってくれた人形師の方です」
「ほぅ、これが、私の身体を造ったのか」
ルグニアとパスタスはお互いの力量を計るかのように睨み合った。
十数秒の沈黙の後、二人は笑い出した。
「そうか、お主がこの身体を!」
「君が入るための器だったとは!」
直哉は訳がわからず聞いてみると、パスタスが子供の頃、先代に連れられてルグニアへ行き、ルグニアと合った事があるそうだ。その時、あの部屋の石像は造られたという事だった。
(えー、それならルグニア様の事を、アシュリー様が知っていても良かったと思うのだけどな)
そして、パスタス主導の元、ルグニアの身体改造計画が始まった。
並行してソラティアの管理者の元へ行き、ルグニアが説得し身体を決めて貰い、その製作も始めていた。
そして、バルグフルの管理者の元へ行った。
「こ、この人だったのか!」
直哉はこの店の周りだけ人が居ない店の前にルグニアと共に立っていた。
中に入ると、いつも以上の化粧を纏ったおっさんがクネクネしながらやってきた。
「あっらーん。お・ひ・さ・し・ぶ・り・ね!」
ゾワゾワゾワ。直哉は直感的にお尻をキュッとさせた。
「お久しぶりです」
直哉が丁寧に挨拶すると、
「んっもー、私と貴方の仲じゃなーい! もっと、砕けて貰っても良いのよーん!」
「おい、タゴサク! その奇妙な喋り方を止めろ! 耳障りだ!」
ルグニアが叫ぶと、周囲の気温が一気に十度以上下がった。
「なっ! てめぇは貧乳のルグ! 何で俺の管轄にいるんだ!?」
「・・・・・!」
直哉はそのタゴサクが発する力に飲み込まれていた。
「はん! 相変わらず興奮すると周囲が見えないようね、タゴサク!」
「んだと!」
そう言われて、周囲を見ると、魂が抜けかかった直哉が呆然としていた。
「あっらー、おほほほほほほほ」
と、口元を隠さずにお茶濁そうとしていたが、
「無様ね」
ルグニアの暴言が吹き荒れた。
直哉が気を持ち直した時には、話が終わっていたようで、直哉の屋敷に運び込まれて自分のベッドで寝かされていた。
「あれ? 俺はどうなったんだ?」
「あー、気が付いたの!」
ベッドの側へ、リリが飛んで来た。
「あれ? リリ? 俺はどうしたんだ?」
「良くわからないけど、人形さんが屋敷の前まで運んで来たので、みんなでココまで運んだの!」
「人形? あぁ、ルグニア様の事か」
結局何も覚えていなかった直哉は、パスタスの元へ行き、ルグニアに話しを聞きに行った。
「全く情けない。あの程度で意識を削がれるとは」
(いやいやいやいや、男なら誰でもああなりますよ)
「はい、すみません」
「とにかく、これで彼らの協力を得る事が出来そうです」
「ありがとうございます」
パスタスがメンテナンスをやりながら、
「本当にあの身体で良いのですか?」
「えぇ、物凄く不服ですが仕方ありません。要望どおりにお願いします。そのかわり、ソラティアの方は可愛くしてください」
(聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ)
「そんな訳で、私達はもう少しこの身体を調整しますので、それまでは待機していてください」
「わかりました」
直哉は自分の屋敷へ戻っていった。
◆直哉の屋敷 食堂
食堂にはフィリアが働いていた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「どうでした?」
「あぁ、とりあえず、一息つけそうだよ」
フィリアはお茶とお茶請けを出して、直哉のそばへ座った。
「ようやくここまで来ましたね」
直哉は遠い目をしながらお茶を飲み、
「本当にね、ここまで大事になるとは思わなかったよ」
「私は薄々感じてました。直哉様と冒険に出ると壮大な何かに巻き込まれるだろうと」
真面目な顔をしているフィリアを見ながら、
「何だそりゃ? あの頃から、俺は変だった?」
「それは、もう」
「ふむ、そうだったかな?」
肩に頭を付けて寄りかかりながら、
「私はあの頃から随分と変わりました。身分も、装備も、見た目すら」
そんなフィリアの頭を撫でながら、
「あの頃から綺麗だったけど、今は輝いているくらい美しいよ」
フィリアは頭を付けたまま、直哉の目を見上げるようにして、
「本当に?」
「あぁ、本当だよ」
そのまま口付けをしようとした時、
「おほん!」
真後ろからミーファの咳払いが聞こえてきた。
「ミ、ミーファさん!?」
「お、おかあさん!?」
顔を真っ赤にしながら二人は距離を取った。
「いや、イチャツクのは構わないのだが、時と場所を考えてやってくれ。ほらほら、見世物じゃないよ! 仕事に戻りな!」
「わぁぁぁぁぁ」
ミーファの怒鳴り声と共に、子供達が散っていった。
(しまった。昼間の食堂じゃ、子供達や職人達が多く出入りしているのだった)
「そうだね、やるなら部屋に戻ってからやりな」
そう言って、ミーファも出ていった。
「もぅ、お母様ったら」
直哉達がイチャイチャしている時、リリとラリーナ、そしてタダカッツはドラゴンと戦っていた。
「あーちょちょちょちょちょなの!」
「そらそらそらそら!」
「一撃必殺!」
その様子を、アイリが不安そうな顔で見ていた。
「小娘よ、心配するでない。必ず成功する。それまでは、あやつらの鍛練になるからな」
「は、はい。ラインハルト様」
そう言って、魔力を練り上げていった。
「そし、そろそろだ! リリ、押さえ込め!」
「はいなの!」
リリはドラゴンへ変身して、痛めつけていたドラゴンを押さえ込んだ。
「悠久の時にて受け継がれし秘術、我が魔力と共にその力を示せ!」
アイリの魔力が溢れだす。
「モンスターテイム!」
痛めつけていたドラゴンを、マーリカの魔力が包み込む。
「リリ、もういいぞ」
リリが離れ、アイリとドラゴンの精神力勝負となった。
事の始まりは、リリとタダカッツの鍛練に始まった。
「あのドラゴン戦の様な鍛練がしたいの!」
「そうですな、修羅モードでようやくダメージが与えられるような鍛練なら、確実に力になるだろう。だが、厳しいな」
「そうなの」
そこへラリーナが合流し、
「もう、通常の鍛練では物足りなくなったな」
その時、アイリも考えていた。
「ねぇワンスケ、空を飛ぶ魔物や、地上を速く移動する魔物の他に、どんな魔物が必要かな?」
「そうだな、出来ればアイリを護ってくれるような魔物が欲しいな」
「私を? ワンスケじゃ駄目なの?」
ワンスケは首を横に振り、
「もう、俺程度の力では、アイリを護ってやることも出来ない。昔の力が欲しいと思ったのは今回が始めてだ」
「えっ? 昔の力って、闇の力?」
「あぁ、アイリを護れるのであれば、俺は闇落ちしても構わない!」
「駄目! それだけは駄目! どうしてそんな事言うの? やっと、普通の身体になれたのだよ! ワンスケと普通に生活出来るようになったのだよ。それなのに、どうしてそんな事言うの?」
「だから、アイリを護るためだって言っているだろう!」
言い争っている二人の後ろから、
「そこまでにしておきなさい」
そう言った、ラインハルトが立っていた。
「誰だ!」
「ラ、ラインハルトさん?」
ラインハルトは頷きながら、
「確か、小娘はテイマーだったよな?」
「えっ? はい。今はまだ少ないですが」
「ふむ。どうだろう、ドラゴンをテイムして見ないか?」
「えっ? ドラゴンですか?」
「そうだ」
「どこに居るんだ? まさか、お前か?」
ワンスケのボケに、ラインハルトは首を横に振りながら、
「いや、ワシの力で下級のドラゴンを召喚して解き放とう。それならば、テイムできよう」
アイリは怯えながら、
「ですが、私ではドラゴンに勝てません」
「確か、屈服させるのだったよな?」
「はい」
「それなら、パーティを組んであやつらにやらせよう」
ラインハルトの視線の先には、リリ達がダレてしゃべっていた。
(くぅぅぅぅぅぅぅ。私の元に来い!)
(ガルルルルルル、断る!)
精神の削り合が行われていた。
既に五体以上のドラゴンが倒されていて、リリ達はだいぶ満足していた。
(あぁ、今回も無理かもしれない)
アイリが弱気になったところで、
(むっ? 拘束が弱まった。今だ!)
一気にアイリのテイム魔法を弾き飛ばした。
「あぁ」
ドラゴンは拘束が解け、今まで精神上の戦いをしていたアイリに殴りかかろうとしたが、
「残念なの!」
リリが割り込み、一気に倒しきった。
「ふむ、今日はこの位にするか」
ラインハルトの提案に、
「そうだな」
「そうですな」
ラリーナとタダカッツも賛成した。
「ごめんなさい! もう一度! もう一度だけお願いします」
そんな皆にアイリは頭を下げた。
「ふむ、アイリがやると言うのであれば、手伝うとしますか。ラインハルトはまだいけるのか?」
ラリーナの質問に、
「無論だ。だが、小娘の精神力が心配だ。このままでは結果が変わらんぞ」
「それなら、何とかしてくれる人を呼ぶの!」
「何とかしてくれる人?」
ラインハルトが首を傾げていると、リリは息を大きく吸って、
「おにぃちゃーん!」
と、叫んだ。
その時直哉は、領地を視察している最中であったが、
(ん? これはリリの声? あっちか?)
直哉はリリに導かれ、皆が鍛練する場所へ向かって行った。