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第百六十九話 竜王の威厳

その場で少し待つと、結界の向こう側に強大なエネルギーが近付いて来るのを感じた。

(凄い! 俺でも、強大な存在が近付いて来るのを感じる事が出来る。本当に強い存在が来る)


直哉が身構えると、結界の向こう側から思念が飛んで来た。

【そこに、リリが居るのか?】

直哉はその思念に押し潰されそうになりながら、耐えていた。

「パパ? パパなの?」

リリがフラフラと結界に近付いた。


【おぉ! リリ! リリだ! 今助けるぞ!】

結界の向こう側で大きな力を使ったようだ。

だが、内側には何の変化もなかった。

【むぅ。これは、神が創った障壁か! 我が力では破壊できぬな】

「あの。俺は、直哉と言います。リリの夫をやっています」

【な!? 何だと! 貴様! リリの夫だと!? 何をたわけたことを! この障壁が無ければ目にもの見せてやる!】

「俺にはこの結界に穴を開けることが出来ます」

【それなら、今すぐ開けろ! 貴様を引き裂いてくれる!】


直哉と父親のやりとりを黙って聞いていたリリは、

「むー! 何でそんな酷い事を言うの! お兄ちゃんは、リリの大切な人なの! お兄ちゃんにそんな事言うのは、いくらパパでも許さないの!」

今にも突撃しそうなほど怒っていた。

【そ、そんな。えぇい。良くもうちの純粋なリリを騙しおって。直哉とか言ったな、貴様の事忘れぬぞ!】

「むー! もう良いもん! お兄ちゃん行こう! お兄ちゃんの事を悪く言う人なんて、知らないもん。リリはお兄ちゃんと生きていくって決めたの!」

そう言って、直哉を引っ張って離れようとした。


直哉はそれに便乗する形で、

「そうだね、カースドラゴンは俺達で何とかしよう」

流石に慌てたようで、

【リ、リリ! 待ってくれ! 私が悪かった。許してくれって、男、今何と言った? カースドラゴンだと?】

「えっ? えぇ、そう言いましたけど、結界のこちら側に来る事の出来ないあなたに話すメリットはありませんね」

【くっ、貴様覚えておれよ】

直哉は肩をすくめながら、

「これから、カースドラゴンと戦うので、生き残れたらって感じですけど」


「リリが、護るの! みんなも護るの!」

「でも、リリが傷つく所を見たくないよ」

「それは、リリも同じなの。でも、お兄ちゃんは怪我してばっかりなの。リリ、心配なの」

そう言って、くっついてきた。

「そっか、ゴメンよ」

【おぃ! 男! リリを離せ!】

結界の向こうで地団駄を踏んでいた。


「あれ? まだ居たの」

リリの一言に絶大なダメージを受けた。

【ちょっ!? 流石に厳しい一言なんだが】

「仕方がないの。お兄ちゃんの事を悪く言った報いなの」

【ぐぬぬ】

「話しをさせて貰っても良いですか?」

【男の話など聞きたくはないわ!】

「そうですか、話しが出来ないと俺達がここにいる意味がないので、帰りますね」

そう言うと、


【ま、待つんだ! 男よ! わかった! 話をしよう。でも、その前にリリの顔を見させてくれ】

「こちらに来ますか?」

【あぁ、(そして、そのままマルカジリだな)】

心の声が丸聞こえなので呆れていると、

【どうしたのだ? (何故二人とも黙っているのだ?)】

「パパ、全部聞こえているの! マルカジリはさせないの!」


【何だって? (しまった。思念で話しかけているのだった)】

「もう遅いの! やっぱり、リリ達でやるしかないの!」

【すまん、リリ、パパを見捨てないでくれ】

直哉はリリと竜王の会話を聞きながら、

(この人、本当に竜王なのか? ゲームの中の竜王はもっとまじめな人だったと思うのだけど、娘相手だとだらしが無い人になっちゃうのかな?)

と、竜王の評価ががた落ちであった。


散々リリに悪態をつかれ、心身共に疲弊した竜王が話しかけてきた。

【おほん。さて、直哉といったかな?】

「はい」

【先程、カースドラゴンと戦うような事を口走っていたが、この結界の中にカースドラゴンが居るのか?】

「恐らくは」

【もし、それが本当ならば、結界の内部は他の生物が生きていける場所ではないはずなのだが、なぜお前たちは生きているのだ?】

「それは、現在カースドラゴンが封印されているからです」

【ふはは、それは凄いな。あのカースドラゴンを封印できるなんて中々面白いな。ん? 封印されているなら、何故戦うのだ?】

「封印の依代になっている人を開放する為です」

【何と!? 一人の人間を助けるために、世界を危険にさらそうと言うのか!?】


直哉はリリを見ながら、

「竜王様もリリが依代になっていたら開放するために努力を惜しみませんよね?」

【当たり前だ! ん? と、いうことは、依代は直哉とやらの親族か?】

「いいえ。俺達の仲間の母親が依代になっているので、その仲間のために開放しようと思っています」

【ふむ。そういう事か。直哉とやら、お願いがある】

「何でしょうか?」

【まずは、この障壁の穴を開けて貰えないだろうか?】

「良いですよ」


直哉は魔力を放出した。

「お兄ちゃん手伝うの!」

リリは直哉の背中に手を当てて魔力を注ぎ込んだ。

「リリ、助かるよ」

パスタスを封じ込めていた封印をこじ開ける時よりも、大量の魔力を消費してようやくゲートが結界を突き抜けた。

「ゲートマルチ!」


直哉の造ったゲートを潜ろうとした竜王は、鼻しか入らなかった。

「直哉とやら、もっと大きくはならんのか?」

「無理ですね。もう、魔力が限界に近いです」

直哉は顔をしかめながら魔力を放出していった。

「人化してもらえますか?」

直哉の要望に、竜王は人化した。

「あー! 本当にパパだ!」

リリが直哉から手を離すと、ゲートが一瞬で閉じてしまった。


「危な!」

竜王は、ゲートに切断される前に飛び込んできた。

「リ、リリ、いきなり魔力供給を切るのは止めてくれ。本気で焦ったよ」

「あっ!? ごめんなさいなの。パパの姿を見たら居ても立っても居られなかったの」

「まぁ、潜っていたのが、竜王様なので間に合わなくても、何とかなったと思いますがね」

直哉の無茶振りに、

「いや、さすがに無理だぞ」

竜王は直哉とリリを見て、


「この子がリリか。本当に大きくなったな」

リリの方へ近づいていった。

「パパ! パパぁー!」

リリも竜王へ近づき、一気に飛び込んだ。

「リリ! リリ!」

二人は抱き合い涙を流していた。

(二人とも落ち着くまで、しばらく時間がかかりそうだな)

直哉はそう思いながら、これからの戦いの為のアイテムを考えていた。




◆ドラゴンバルグ管理室


邪悪な笑みを浮かべた少女が、大きなモニタがたくさんある部屋にいた。

「ほほぅ、この様な場所があったのか」

少女がコンソールを弄ろうとすると、

[警告! あなたに管理権限はありません。繰り返します。警告! あなたに管理権限はありません]

「何だと! この身体の持ち主が管理者ではないのか?」

[警告! あなたに管理権限はありません。繰り返します。警告! あなたに管理権限はありません]

「くっ、この部屋に入ることは出来るのに、この機械を動かす事が出来ないのか」

少女は映っているモニタを見ると、そこには男ばかりが生活している島が映っていた。

「ふむ。この島の人間を使うことにするか」

少女はニヤリと笑い管理室を出て行った。


少女が出て行った後で、魔術師風の男が入ってきた。

(ようやくこの場所を見つける事が出来たか)

[警告! あなたに管理権限はありません。繰り返します。警告! あなたに管理権限はありません]

(そんな事は、わかっているよ。さて、直哉がアクセスキーを集めてくれた時、この部屋に来られるように細工しておくか。ついでにあの女が出入り出来ないようにしておこう)

[警告! あなたに管理権限はありません。繰り返します。警告! あなたに管理権限はありません]

警告音が鳴り響く中、魔術師風の男は複数の魔法を行使していた。




◆バラムドより西の果て


直哉は静かになった二人を見て、

「落ち着きましたか?」

「うむ。恥ずかしい所をお見せした」

「いえいえ、離ればなれになっていた家族と対面したのです、当然の事ですよ」

竜王はリリの頭を撫でながら、

「しかし、この子がこんなに大きくなって、しかも自分の意見をハッキリと言えるようになるとは思いも寄らなかった」


直哉は竜王の目を見て、

「リリの夫をしています、直哉です。リリは俺が幸せにします」

竜王は眼を細め、

「ふん」

と、つまらなさそうに鼻を鳴らした。

「リャナンシーにリリを任せた後の事をリリから聞いた」

「リャナンシー?」

竜王は遠い目をしながら、

「リリの母親だ」


「そうでしたか」

「カースドラゴンとは、結界の外で一度だけ戦った。不意を打たれ傷を負った私では、リリ達を護りながら戦うのは無理であった。リリの事をリャナンシーに託し、我が全身全霊を持ってカースドラゴンに致命傷を与えたはずであった。我も重症を負い傷を癒していた。動けるようになり、リャナンシー達を探すと、リャナンシーの墓を見付け大いに泣いた。また、周囲の者にリリの話を聞いたが、皆微妙な反応であった。リリの話から推測すると、邪魔者扱いして居たのであろう。その後はリリを探す為にありとあらゆる大陸を探し続けていた所、リリに渡していたペンダントからのシグナルが確認出来たので飛んで来たわけだ」

(つまり、リリの記憶で辛い思い出があるのは結界の外で、イリーナに出会ったというのは結界の中って事で良いのかな?)

「この、結界の中でリリがお前に出会い、身も心も救われた様だ。礼を言う。本当にありがとう」

竜王は頭を下げた。




「ようやくお兄ちゃんの凄さがわかったの!」

リリが嬉しそうに呟いた。

「もう、大丈夫なのかい?」

「はいなの! お兄ちゃんが居て、パパが居る。パワー全開なの!」

リリは興奮し始めた。

「しかし、後でお主の力を試させて貰う。それで、問題が無ければ許そう《リリのこの笑顔を見ていたら反対する気も失せるな》」

「えへへ」

嬉しそうに身体をクネクネさせているリリを落ち着かせながら、

「わかりました。後ほど手合わせをお願いします。とりあえず今は、カースドラゴンに関する事を聞いても良いですか?」


「何が聞きたいのだ?」

「倒し方です」

竜王は少し考えながら、

「我が万全の状態なら直ぐにでも倒せるのだが、この結界は我を結界から排除しようと作用しておる。それに抵抗するのにエネルギーを割かねばならないので難しい所だ」

「俺達だけで倒せますか?」

「完全に倒す事は出来ない。竜族の力が必要になる」

(それで、人柱に封印という形になったのか)


「現在の竜王様のお力で、倒す事は出来ませんか?」

「かなり弱らせてくれれば、何とかなるかもしれないが、保障は出来ぬ」

そんな二人の会話に、

「リリも、リリもやる!」

と、飛び跳ねながら言って来た。

「そうだ。リリもドラゴンになって攻撃すれば良いのでは?」

竜王は驚いて、

「リリの封印は解けたのか?」

リリは嬉しそうに、

「はいなの!」


「今、ここでドラゴンになれるか?」

リリは直哉を見て、許可が出たのを確認すると、

「えぃ!」

真っ白なドラゴンの姿に変わった。

「おぉ、おぉ、おぉ、おぉ」

竜王は感極まって、言葉にならない声になった。


「おー! また大きく綺麗になったね」

竜王の横で直哉はリリに近付き、その首筋を撫でていった。

「わーい。嬉しいの!」

リリの方も、大きな頭を直哉の身体にすり寄せていた。


「ごほん」

「むー。パパ! どう? リリの姿!」

「ふむ、とても綺麗だよ。ドラゴン化が出来るようになっているとは、予想外だったよ。でも、常に魔力全開では疲れるのでは?」

「うん。すっごく疲れるし、ブレス放ったら変身解けちゃうの」

「だろうな。それなら我がドラゴン化の訓練をしてやろう」

「パパが!?」

「そうだ、我ならリリのブレスの回数を飛躍的に増やす事が出来る。それは、カースドラゴン戦で大いに役に立つはずだ」

「わーい! 今まで以上にお兄ちゃんの役に立てるの! 嬉しいの!」

リリはクルクル回っていた。


「では、お願いします」

直哉は頭を下げた。

「わかった」

竜王は直哉を見ながら、

「お主は、ドラゴンと戦った事はあるのか?」

「前世の記憶にはあります」

「そうか、ならば、対ドラゴン戦の鍛練をしてやろう」

直哉は目を見開いて、

「よろしいのですか?」

「もちろんだ」


「それもお願いします。俺の仲間達も一緒に鍛えてください。カースドラゴンとの戦いで少しでも生き残れるために」

「あい、わかった」

直哉はリリと共に竜王をバルグフルの直哉の屋敷へ招待した。


そこで、リリはドラゴン化をモノにするため、直哉達は仮想カースドラゴン戦をイメージして鍛練をするのであった。

そして、その日を迎えるのであった。

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