第百六十七話 ハンゾーの正体
「さて、オダイーカンとトークガについてだったな」
パスタスは背筋を伸ばして聞く体制になった。
「貴族会議の結果、お家断絶の上、バラムドより追放となった」
ヨシの説明にパスタスは身を乗り出して、
「と、言う事は、切腹や市中引き回しなどは免除して頂けたのですか?」
ヨシはうなずいて、
「そこにいる直哉の証言により、首は免れたがエッチゴーヤとの繋がりが太かった為に追放となった」
「イーエヤッス様も?」
ヨシは残念そうに、
「本来ならトークガにはそこまで重い沙汰ではなかったのだが、本人の希望により、運命をオダイーカンと共にすると言って聞かぬのでな。仕方なく同じ沙汰となった」
パスタスはホッとして、
「良かった」
ヨシはそんなパスタスを見ながら、
「そこで直哉よ」
突然呼ばれ驚きながらも、
「何でしょうか?」
「オダイーカン達を受け入れてもらえぬか?」
直哉は、その事かと思いながら、
「それは、もちろん良いですよ」
「良かった。追放するのは良いけれど、近くで山賊とかになられても、厄介だからな」
二人の会話を聞いていたパスタスが、
「それは、イーエヤッス様もご一緒ですか?」
「別々にしても、付いて行くであろう。それならば、始めから一緒にしておくよ」
パスタスは鼻息を荒くしながら、
「ならば、私も付いて行きます」
直哉は話を進めるために、
「まぁ、とにかく、オダイーカン達に会って話をしよう」
ヨシは有能な人材が流出する事が、残念な感じであったが気持ちを切り替えユーサイに、
「わかった。オダイーカンとトークガを呼べ。我々も移動する」
直哉達は、初めてヨシ達に出会った、大広間に繋がる隣の部屋へ行った。
全員が待機している中で、
「直哉達は、私が呼んだら、そちらの襖から入ってくるが良い」
そう言って、奧の襖の前にある椅子に座って待機していた。
呼び出しが入り、ヨシは部屋へ入っていった。
二人に対して沙汰が始まり、追放を言い渡した後に、
「直哉よ、入ってまいれ」
と、呼ばれたので中へ入ると、
そこには、ヨシと御三家、そしてオダイーカンとイーエヤッスとタダカッツがいた。
「オダイーカンよ、こちらはバルグフルの伯爵で、直哉伯爵だ。お前達が希望するのであれば、移住を許可してくれるそうだ」
オダイーカンは直哉の顔を見て、
「そなたであったか」
「はい。あのまま放置では後味が悪すぎますので。ちゃんとした沙汰を受けた上で亡命して頂けるのであれば問題ありませんよ」
オダイーカンは眼を閉じて平伏した。
「我はオダイーカン。先日も言ったが、名をノッブナーガと改め、直哉殿の臣下となろう」
「御屋形様! それは!」
「良いのだ。イーエヤッスは我に習う必要は無いぞ。好きな道を歩がよい」
「御屋形様! 水くさいですぞ! このイーエヤッス、死すべきは御屋形様のお側と決めております」
「そうか。苦労を掛ける」
(これが、本当の友情って事だよな。俺とリカードみたいだな)
「さて、直哉殿。御屋形様と共にこのイーエヤッスもお伴いたしますぞ」
そして、タダカッツを見て、
「タダカッツよ、お前はどうする? この地を護るために残って貰っても構わないのだぞ」
タダカッツは、瞑っていた眼を開くと、
「否! このタダカッツは殿の槍でござる。殿のお側こそが我が居場所なり」
「あっはっは。お前達は本当に似たもの同士の主従だな。良き主従を手に入れたようで、本当に羨ましいぞ」
「何を言うか! お前にも居るではないか」
そう言って、御三家を見た。
「そだな。そうであった。私が間違っていた」
「では、行きましょうか、我が領地へ」
「お頼み申す」
「拙者達も、行くでござる」
「私からも、頼む」
そこで、沙汰は終了しヨシが部屋を出て行った。
リリ達はノッブナーガ達の受け入れ準備の為に、先にバルグフルへ帰っていた。残った直哉達は、大聖堂へ向けて歩きながら、
「お二方とも、荷物はありますか?」
「我々はお家断絶で財産を没収されているので、着の身着のままです」
「そうですか、それといらっしゃるのは、ノッブナーガさんとイーエヤッスさんとタダカッツさんの三人でよいですか?」
「私達も行くよ」
その会話にパスタスが割り込んだ。
「スリーやもう一人の少女もですか?」
「もちろん。それと、研究所を移転出来ないか?」
「け、研究所自体ですか? それはまたゲートを使っても厳しい気がしますが・・・」
考え込んだ直哉に、
「いや、ゲート魔法を応用して貰えれば、あの研究所は転移出来ますよ」
パスタスの説明に、
「何ですって!? その方法を教えて下さい」
直哉は教えを請うた。
ゲートを使い研究所ごと転移する事に成功した。
(コレを応用すれば、元の世界に転移も可能な気がする)
直哉は、ゲートを使いこなし始めていた。
◆バルグフル 直哉辺境地伯爵領
始めて直哉伯爵領へ来たノッブナーガ達は、その豊かさに驚いていた。
「大きな四角い箱がたくさんある!」
「あっちのは竈か?」
「家畜もたくさんいるし、畑も大きいな」
ノッブナーガ達が周囲を観察して驚いていると、大きな籠を抱えた女性が話しかけてきた。
「見ない顔ですね。新規の方々ですか?」
ノッブナーガは困惑しながらも、
「本日よりお世話になる、ノッブナーガと申す」
「あぁ! やっぱりそうでしたか。先程、リリお嬢様が新規の住人が来ると、空を飛びながら教えてくれましたので、そうではないかと思いました」
(空を飛びながらって、あの子は一体何をやっているのだ)
「さぁ、我が屋敷へ行きましょう」
そう言って、先導しようとすると、小さな子供達が直哉の元へやってきた。
「あー! 直哉様だ!」
「直哉様!」
「なおやさまー!」
「あそんでー!」
「追いかけっこー!」
一瞬で直哉は取り囲まれてしまった。
「俺はこれからお仕事なんだよ。でも、屋敷に居るから追いかけっこは出来るぞ!」
そう言って、クマのぬいぐるみを複数出して、
「よし! 捕まえて屋敷に持って来たらご褒美を上げよう! 一人でも捕まえられたら全員にあげるよ!」
直哉はヌイグルミを放り投げると、
「マリオネット!」
遠隔操作モードで子供達をあしらいながら、ノッブナーガ達を案内した。
屋敷に戻ると、外でミーファとニャス、そしてキルティングが待っていた。
「ここが、我が屋敷です。あっ、ミーファさんキルティングさんニャスさん、ただいま戻りました」
ミーファ達とノッブナーガ達がお互いに挨拶を終えると、
ミーファが話し始めた。
「ノッブナーガさん達七名は、この直哉伯爵領へ移住という形になります。良いですね?」
「はい。お願いします」
代表してノッブナーガが答えた。
「この領地では、全ての人が働く領地になっています」
イーエヤッスは驚きながら、
「えっ? 働くのですか? 子供達も?」
ミーファは説明モードに入った。
「はい。 この領地には親の居ない子供達も数多く暮らしています。子供達は、数名毎に家族となって生活しています」
「しかし」
「暮らす前に、専用の施設で自分達で生活出来るだけの知識や技術を学びます」
「施設ですか。どの様な事を教えているのか、見てみたいですね」
「後程、案内いたします」
直哉の領地を案内して貰っていた、ノッブナーガとイーエヤッスは驚いていた。
「この地は素晴らしいな」
「はい。まるで、御屋形様の夢のようですね」
「そうだな。わしもそう思ったのだ」
一通り見て回ってから、
「では、ミーファさんあとはお願いします」
直哉は、ミーファに後を任せて屋敷に帰っていった。
ミーファはノッブナーガ達に、
「さて、御二人には私の補佐となってもらいます」
「ミーファさんのですか?」
「はい。御二人はバラムドで領地を治めていたと聞いています。その経験を生かして、この領地を治める補佐をして欲しいのです」
ノッブナーガは少し考えて、
「よろしいのですか?」
「はい。人手は常に足りないので」
イーエヤッスは、
「御屋形様と別の領地を治める事になるのですか?」
「そうですね、ですが、隣り合わせの土地にすれば近くに住むことが出来ますよ」
イーエヤッスはホッとしていた。
「さて、次はタダカッツさんですね。貴方は武勇が凄いと聞きましたが、どうですか?」
「我が槍は殿のため。殿がこの地に住むのであれば、我が槍でこの地を護ろう」
タダカッツは直哉に調整してもらった槍を振り回していた。
「ふむ。調整してもらった槍は使い勝手が良いな。これなら殿を護るのも楽であろう」
「では、領地の警備をお願いします。それと、リリ達の鍛練相手をお願いします」
「あの、小娘達か! 中々のツワモノであったから、楽しみだ!」
タダカッツは全身で喜びを表していた。
「さて、次は生産者たちですね」
「どうも、私達は基本的に研究所で生活をしています」
「とりあえず、その研究所を見せてもらえますか?」
ミーファはパスタス達と、研究所の方へ行った。
◆直哉の部屋
直哉が部屋に一人で居るとき、部屋をノックする者が居た。
あまり、ノックされることが少ない直哉は、少々警戒しながら、
「はい。誰ですか?」
「拙者はハンゾーと申す。面会を希望する」
(面会って)
「どうぞ、お入りください」
「かたじけない」
忍び装束の男が入ってきた。
「それで、どうしましたか?」
ハンゾーは意を決したように、
「直哉殿のところに居る、忍について御話があります」
「ん? マーリカの事?」
ハンゾーはハッとしたようであったが、
「やはり、マーリカですか」
直哉は気になって、
「マーリカの事、ご存知なのですか?」
ハンゾーは忍び装束を解きながら、
「あの子の両親の事は聞きましたか?」
「はい。母が黒豹族で、父が人間だと言っていました」
ハンゾーは何かを考えながら、
「まだ、封印は解けていないようですね」
「封印?」
「はい。あの子は私同じ黒豹族のハーフです」
そう言って、忍び装束を脱ぐと毛並みが荒れた、黒豹が姿を現した。
「そ、その毛並みは、まさか、毟られた跡ですか?」
「えぇ。生きたまま毟られましたよ」
「酷い事をする」
直哉は憤慨してから、
「それは、マーリカの封印と関係があるのですか?」
「マーリカの封印には訳があります。あの子の母親の事を外部に漏らさないようにするために仕方が無かったのです」
「どういう事ですか? 封印と口止めに何の関係があるのですか?」
「それは・・・、むっ、誰かが入ってきたな」
ハンゾーが扉の方を見ると、扉からマーリカが臨戦態勢で入ってきた。
「ご主人様! ご無事ですか!?」
直哉はマーリカをなだめながら、
「大丈夫、大丈夫だから武器をしまってくれる」
マーリカは渋々ながら武器をしまうと、ハンゾーの顔を見て固まった。
「えっ? お兄様?」
マーリカは恐る恐る近づいて行った。
「うん、久しぶりだね、マリ」
「あぁ! お兄様! 良くご無事で! お兄様!」
マーリカはしばらくの間、ハンゾーに抱きついていた。
直哉は気を利かせて、スキルを発動させ、武器やアイテムの一覧を眺めていた。
ひとしきり情報を交換し合った後で、
「お兄様。お母様の事ですよね?」
ハンゾーは驚いて、
「あれ? 封印されているのでは無かったのか?」
「はい。ですが、殆ど思い出しております。あとは、場所さえ思い出せればというところまでは行ったのですが、それが限界でした」
直哉がマーリカに静かに聞いた。
「もし、場所を思い出したら、どうするつもりだったの?」
「勿論私事ですから、ご主人様には暇を頂いてから行くつもりでした」
「俺に相談しないで?」
「はい」
直哉は明らかに落ち込んで、
「そうか。マーリカにとって、俺はその程度の存在だったのだね」
そんな直哉を見てマーリカは焦りながら、
「ど、どういう事ですか?」
「マーリカの悩みだよ? 力になれるかもしれないじゃない? 俺だけじゃない。リリ達だってマーリカの力になりたいと思っているよ」
「そんな、これは、完全に私の問題なのに。何故?」
「わからないか?」
「わかれば聞いていません」
「それは、仲間だからだよ」
マーリカは目を見開いて、
「仲間、ですか?」
「あぁ、そうだよ」
マーリカは直哉の言葉に感謝しながら、
「私が間違っておりました。お兄様よろしいですよね?」
「あぁ、マーリカに任せるよ」
「わかりました。それでは、ご主人様。全てを御話いたしますので、皆様をお呼びいたします」
マーリカは、皆を呼ぶために、直哉の部屋を出て行った。