第百六十四話 悪魔神官長の暗躍
◆直哉の夢の中?
(ん? なんだここは?)
徐々に意識がはっきりとして来た。
「目を覚ましなさい」
強引に意識を覚醒させられた。
「う、うーん・・・」
10畳ほどの真っ白な部屋の中に神官服を着た男が立っていた。
「お、お前は! 悪魔神官長!!」
ガナックは、周囲の結界を確認した後で、
「お前を呼んでも問題なかったみたいだな。これなら最終段階へ移行できるな」
「何を言っている!」
ガナックは直哉を見て、
「ココまでこれたのは、お前のお陰だ。魔王の力を弱体化させ、さらにニセ神のアクセス権をある程度奪うことに成功し、私にかかっていた封印の解除にも成功した。本当に感謝する」
深々と頭を下げた。
「ん? ガナックさん? 魔王の手下になったのでは無いのですか?」
ガナックは頭を下げたまま、
「仕方が無かったと開きなおる事はしない。私は魔王の手下になって、民達を苦しめたのは事実だ」
「そういう言い方をするという事は、何か事情があるのですか?」
ガナックは顔を上げて、
「全ては、あのニセ神にこの世界へ召還された事がそもそもの始まりだった」
ガナックは昔を思いだすように話し出した。
「私を召還したのは、少女の様な神だった。何でも魔王を倒しリソースを解放して欲しいとの事であった。それで、呼び出したと伝えられた」
直哉は黙って聞いていた。
「ニセ神の誤算は、私だけでなくメイフィスが召還された事だった。リソースがどうのこうのと言っていた。そして、私はニセ神の言う通りに魔王を倒したのだ」
「えっ? それなら?」
「それが、条件が変わったとか何とか言って、私をこの世界に留めさせた」
「それで良かったのですか?」
ガナックは首を横に振って、
「良い訳が無い。だが、放置されアクセスを閉ざされた私には、帰りようが無い。そうしているうちに、この世界で子供が産まれそれなりに幸せを築き上げて来た、はずだった」
「はずだった?」
「アーサーが四歳になったある日、再びニセ神が現れたのだ。リソースが足りなくなったから、魔王を復活させて増えた人口を減らさなくてなならない。その器としてアーサーをよこせと言ってきやがった」
ガナック眼には怒りの炎が渦巻いていた。
「そして、抵抗していた最後の日がお前と出会った日なのだ」
ガナックはアイテムボックスから三つほどアイテムを取り出した。
「この二つを持っていけ」
アイテムを受け取りながら、
「これは、何ですか?」
「先程話した《アクセス権》二種類だ」
直哉は指輪をつけて鑑定したが、《Unknown》と表示されていた。
「なるほど、そちらのは絆の腕輪ですね?」
ガナックは頷いて、
「そうだ。コレが無いと魔王を護る闇の衣を消滅させる事が出来ないのだ」
「ですが、俺達はダメージを与えたり出来るのですが?」
「だが、倒せない」
直哉は驚いて、
「えっ? 倒せないのですか?」
「そうだ。あの、闇の衣が本体だからな」
「そうだったのですか。あれ? と、いう事は、ぬいぐるみの魔族とか、キマイラとかは魔王の一部なのですか?」
「ぬいぐるみの魔族は、魔王の一部を切り離して創ったオモチャだそうだ。キマイラは、術者の魔力が元だな」
直哉は気になっていた事を聞いて見た。
「そうだ! ガナックさんは、帰る方法を知っているのですか?」
「お前のは知らないが、私の元居た世界には、一度行った事のある街に扉を開く事が出来るのだ」
ガナックの説明を聞いて、
「まるで、ゲートですね」
「原理は一緒だ」
「封印されたのが、その力なのですね?」
ガナックは頷いて、
「そうだ。だから、私の変える方法では、お前を帰せないのだ」
直哉は腕を組んで考え込みながら、
「ニセ神や神なら知っているのかな?」
ガナックは少し時をはらんだ声で、
「ニセ神は止めておけ。他に神が居るなら、そちらを頼れ」
「そうですか。そうですよね」
ガナックは上を見ながら、
「そろそろ時間だな」
つられて上を見ながら、
「えっ? 何の時間ですか?」
「これから、この世界での最後の戦いをお見せする。身体は先に返しておくので、意識だけでゆっくりと見ていてくれ」
「何を言っているのですか?」
ガナックが直哉に手をかざすと、意識はそのままで、身体だけが何処かへ引っ張られる感覚を味わった。
「うぇぇぇぇ。気持ち悪いですね」
「みんなの元へ帰りたいと願えば、身体へ戻るようになっている。アレが来る前にアクセス権を遠ざけたかったのでな」
直哉が仕舞ったアクセス権を見ようとして気が付いた。
「俺、半透明になってる。えっ? これって、大丈夫なんですか?」
「あぁ、問題ないぞ。お前の本体は元の場所に戻っている。ここに居るのは、意識だけだからな」
「生き霊?」
「強制的に、空間を越えた遠視をしていると、思えば良い」
「んな、無茶な」
直哉は呆気にとられていた。
「さて、それではやるとしますかな。このガナック一世一代の大勝負! いざ! まいる!」
ガナックが真っ白な光に包まれた。
「くっ」
直哉は余りの眩しさに、目を閉じた。
「ふぅ、この姿になるのは久しぶりですね」
再び目を開けると、そこには白い羽が生えたガナックの姿があった。
「て、天使? 男? うわー」
直哉は思わず口走っていた。
「ん? 男で天使だが、何か悪いか?」
ガナックの質問に、
「いや、天使と言ったら女の子が相場でしょう! それなのに、始めて見た天使がムサイおっさんだったなんて・・・。せめて美男子であったら・・・」
「おい。こら、直哉。言わせておけば神聖なる私の姿に、何というケチを付けるのだ!」
ガナックの叫びに、
「はっ、俺は一体何を・・・」
直哉は我に返った。
「すみません。何か口走ったようで」
「こほん。まぁ良い」
ガナックは気を取り直して、
「では、行くぞ! コール!」
ガナックが直哉の知らない魔法を唱えると、ガナックの足下に死んだままのメイフィスと、身体を斬られて修復中のアーサーが現れた。
直哉はもちろん、ガナックも驚いて、
「何ですか? その魔法は!?」
「アーサーが酷い事に。まぁ、とにかくメイの回復からですね」
そう言うと、元の姿に戻り、
「リザレクション!」
またもや、知らない魔法を行使し、メイフィスに掛けると、
「ん? あー、おはよう。ガナ」
そう言って、メイフィスが目を覚ました。
「えぇ! この世界では蘇らせられないのでは?」
「あー、なおちんだ!」
「ガナックよ、これはどういう事だ?」
大騒ぎであった。
「さぁ、魔王よ、我が息子の身体から出て貰うぞ!」
ガナックが絆の腕輪をかざすと、光のエネルギーが溢れ出した。
「うぐぐぐぐぐぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
アーサーを纏っていた、闇の衣が引きはがされ、小さな球体となってフワフワと浮いていた。
「これで、トドメ!」
ガナックがさらに腕輪の力を解放すると、小さな闇のエネルギーが消滅した。
「ふぅ、コレでしばらくは復活出来なくなった。後は、フルリカバリー!」
この世界の回復魔法をアーサーに掛けて、応急処置をした後で、
「さぁ、コレで本当に最後です。お別れを」
「なおちん、辛い思いをさせて、ごめんね。でも、なおちんなら私の思いを受け止めてくれると思っていたの。そして、その思いをちゃんと叶えてくれた。本当にありがとう。この世界に来て、始めて・・・いや三番目くらいに、なおちんに出会えた事は良かった事だったよ」
直哉は、ガナック達が本当に元の世界に帰るんだと思った。
「本当に帰れるのですね」
「うん。ガナはね、こういう事が得意なんだよね」
その時、周囲に展開していた障壁に亀裂が入り始めた。
「ニセ神がやってきているな」
「また!? 早く帰りましょう」
「ここまで引っかき回してくれてありがとう。でも、おかげで強くなれました。それだけは感謝します」
直哉が礼をすると、
「それでは!」
再びガナックが天使になり、ゲートの様なものを開いて、三人でそれをくぐっていった。
◆システムの少女
(ん? リソースがどんどん消費されてる。何所だ? 私が造った世界ではないのに、私のリソースを奪うなんて、許しません。調べて貰わないと)
いつもの様に、ガナックを呼び出そうとして気が付いた。
(ん? ガナックの居場所がわからなくなってる。・・・はっ! まさか! 魔王の居場所も、女の居場所もわからないなんて、まさか! ガナックが裏切ったの!?)
少女は、リソースが消費されている場所を特定する作業をして、ようやくガナックが造り上げた結界を発見した。
(ここね。コレだけ大きい結界を維持するのに、どれだけのリソースが必要だと思って居るの!?)
そう、南の島のリゾート計画は頓挫していた。
(バラムドから人間は居なくならないし、他の街の住人も居座り続けているし。んーもぅ! 面倒くさい!)
そう思いながら目の前の結界を破壊するために、攻撃を開始した。
そして、ガナックがゲートのような魔法を使うと、
(あぁ! 一気にもの凄い量のリソースが持って行かれた。何と言う事をしてくれたのでしょう! おのれ、ガナックめ!)
憎悪の表情を浮かべたまま、結界の破壊作業を続行し、破壊に成功した。
結界の中はすでに誰も居ない空間が広がっているだけであった。
(ちっ、既に誰も居ないか。結界の分のリソースは確保出来たけど、まだまだ足りないな)
その時、結界の中で消滅した闇の力が復活した。その力は、少女に纏わり付いた。
(な、何をするの!? 止めなさい! 私は、私は、神なのよ・・・・)
しばらく抵抗を続けたものの、魔王の精神力に少女は屈服した。
少女は闇の衣を纏い、邪悪な笑みを浮かべると、
「ふふふふふ、ふはははははは、はーっはっはっは!」
少女には似合わない大笑いをした後で、
「我は、エルダニス! この身体は素晴らしいぞ! はーっはっはっはっはっは!」
そう言って、虚空の彼方へ消えた。
◆?????
「これは大変な事になった。直哉にはさらに頑張って貰わなくてはいけなくなった。直哉が持つ二種類のアクセス権と、各地方の管理者が持つアクセス権があれば、あいつから権限を取り戻す事が出来るのに、直哉よ、頼むぞ」
◆直哉元の場所
(ん? ここは?)
直哉目を開けると、目の前にフィリアの顔があり、心配そうに見つめていた。
「あぁ! 直哉様!」
歓喜の余りフィリアが抱きついてきた。
「帰ってきてくれた。良かった。本当に良かった」
フィリアは泣きながら直哉の胸に顔を埋めていた。
「ん? どうしたの?」
「直哉様を看病していたら突然姿が消えてしまうし、戻ってきたと思ったら魂が抜けてしまったかのようで、本当に心配しました。何も告げずに元の世界に帰ってしまったのかと思って、物凄く不安でした」
直哉は頭を撫でながら、
「ごめんよ。心配をかけたようだね。大丈夫、フィリア達を置いては帰らないよ。もしそうなっても、必ず迎えに行くよ」
そう言いながら、対応策を考えていた。
(やはり、遠距離ゲートの開発だな。それには、ゲート用の素材とゲートを発動させるための魔力をどうにかする必要があるか)
直哉の思考は、フィリアの質問によって中断された。
「何をしていたのですか?」
直哉は先程の出来事をフィリア説明しながら、アイテムボックスから《アクセス権》を取り出した。
「それが、アクセス権という物ですか?」
「あぁ。これが最後の鍵になってくれると思う」
フィリアは直哉に抱きつきながら、そのアイテムを見ていた。
「後は、各地の管理者をアシカ様の元へ集めれば、さらにアクセス権が増えるのかな? でも、これはどうするのだろう? 俺には使えないぞ」
「それは、集めてから考えましょう。とにかく、今は身体を休めてください」
「いままで、眠っていたのに、不思議な感じだよ」
そう言って、フィリアの温もりを感じながら目を閉じた。