第百六十二話 ルグニアと魔王
フィリア達が、直哉と封印されていた女性の看病をしていると、マーリカがリカードからSOSを受け取った。
「た、大変です!」
「どうしたのじゃ?」
「ルグニアに、ルグニアに魔王が現れました!」
特にエリザが驚いて
「なんじゃと! どういう事なのじゃ?」
と、詳細を求めた。
「西門より、多数の魔物の他に大型の魔物が五体、そして、魔王と名乗る少年が現れ、冒険者達と交戦になっているそうです。現状では、冒険者達で小型の魔物を、大規模鍛冶場で働く鍛冶士達が造った拠点防衛用の武器で大型の魔物を足止めしているようですが、魔王を防ぐ事が出来ず、後退を余儀なくされそうです」
詳細を聞いたフィリアは、
「とにかく、エリザとマーリカは援軍として行きなさい。リリとラリーナはその援護を、アイリはここで、私と直哉様の警護をお願いします」
マーリカはフィリアを見つめ、
「良いのですか?」
「当たり前です。直哉様が起きていれば、真っ先にゲートを開いて駆けつけるはずです。この事は、直哉様がお目覚めになったら、私が話しておきます。その後は、私達も援軍として行きますので、それまでは、頑張ってください」
「わかりました。空を飛んで行けば、4日程で行けると思います」
「あ、直哉様がバラムドに設置したバルグフル行きのゲートを使ってください。その後、バルグフルからルグニア行きのゲートを使えば、すぐに行けると思います」
「それなのじゃ!」
リリ達は、大急ぎでバラムドへ引き返して行った。
「アイリ、偵察用の仲間を使って、周囲の警戒をお願いします」
「わかった」
腕輪から鳥形の魔物と蜘蛛やネズミ等を呼び出して周囲を警戒させていた。
「ルグニアが落ちる前に、目を覚ましてくれれば良いのですが」
フィリアは祈り続けた。
◆ルグニア攻防戦
「ギューサ様! 西門付近に魔物の群れが出現しました!」
「とっとと、西門を閉じるっすよ! 閉じた門を上手く使い、侵攻を食い止めるっすよ! アシュリー様に報告をするっす!」
「はっ!」
冒険者ギルド員がギューサの名を受け、各所を駆け回っていた。
西門は直哉の案で二重に造られていて、外側の門は内側の門を守る様に出窓のような構造で造られていて、内側の城壁からしか、外側の門の上に行く事は出来ない造りになっている。防衛時は、外側の門を先に閉め、民達の逃走する時間を稼ぎ、防衛ラインを築きながら内側の門を閉められる様になっていて、現在は、外側の門が閉められ門の間で作業していた民達が一斉に内側へ避難してきていた。
「避難する方は、門の中で立ち止まらずに、駆け抜けてください。まだまだ、避難してくる方がいらっしゃいます」
大外の門へ繋がる城壁には、拠点防衛用の武器が多数揃えられており、ルグニアの兵士達が魔物に向けて放っていた。
「近くの敵には投石を続けよ! 遠くの敵には矢を射よ!」
兵士長が大声で指示を出していた。
「あそこに大型の魔物が居ます!」
「左舷バリスタ用意! 照準、左側巨大魔物!」
一斉に、大型の魔物にバリスタが向けられる。
「放てー!」
ズバババババババババ!
十機のバリスタから、一斉に放たれる槍は、大型の魔物(ココにいたのはビャッコと呼ばれていた四天王)
は何本かは避けていたが、全てを避ける事が出来ずに、ダメージを負っていた。
「魔法が来るぞ! 魔法障壁を展開させろ!」
魔法障壁は、直哉の弟子達が、直哉が造ったドームに魔法阻害装置を追加して、魔法を防ぐ巨大な盾を造る事に成功していた。
「両舷バリスタ、各自巨大魔物を攻撃せよ!」
魔物から魔法が、ルグニアからバリスタが飛び交う中、門の間の民達は無事に逃げる事が出来ていた。
「内側の門を閉めよ!」
内側の門を閉め、これで門と城壁に囲まれた空間が出来上がった。
「報告します! 外側の門が破られます。冒険者達の準備をお願いします」
遠距離が得意な冒険者達は、城壁の上に陣取り、外側の門から敵がなだれ込んでくるのを待ち構えていた。
近距離が得意な冒険者達は、内側の門の前に並び、万が一に備えていた。
「外側の門が破られます!」
「冒険者達に通達! 内側は任せると」
「了解しました」
多くの怪我人は出ているが、直哉が造っていた回復薬で死者が出る事は無かった。
どれだけ撃っても進軍が止まらず、大型の魔物を一体も倒せていないので、兵士達に動揺が走り始めていた。
「怯むな! 撃ち続けよ!」
兵士長が叱咤激励するが、兵士達の士気は下がっていく一方であった。
「うわぁぁぁぁ、無理だ! 勝てっこない」
「コレだけの人数では、防ぎきれない。みんな犬死にだ!」
兵士達は恐慌をきたし、攻撃が緩慢になっていった。
その隙を突いて、四天王率いる精鋭部隊が外側の門を破壊し、中へなだれ込んできた。
「魔物が来たっす! 各員はそれぞれの持ち場にて攻撃を開始するっす!」
冒険者を率いるギューサが攻撃命令を出すと、城壁の上にいた冒険者達から弓矢や魔法での攻撃が降り注いだ。
初めのうちは冒険者の方が優勢であったが、魔力切れや物資が底をついてくると、物量作戦で来た魔物達が優勢になって来ていた。
兵士達の士気が最低になったあたりで、アシュリーが戦線に顔を出してきた。
「皆の者! 奮起せよ! 現在、バルグフルとソラティアに援軍要請を出しておる、援軍到着までに近衛兵達も防衛に参加せよ!」
士気がどん底であった兵士達の目に輝きが戻って来た。
「アシュリー様! ばんざーい!」
「アシュリー様!」
「ココを守り抜くぞ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
兵士達が奮起し、ダライアスキーやエバーズも防衛戦に参加していた。
「押し返せ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
一旦盛り返したが、物量の差は大きく、内側の門へ到着する魔物が増えてきた。
「この門が破られたら、後は俺達だけが民達を護る事が出来る存在になるっすよ。心するっす!」
ギューサが剣を抜いて近距離が得意な冒険者達を鼓舞していった。
しばらく、内側の門を死守していたが、魔王が攻勢に出たために一気に内側の門を破られてしまった。
「なんだ、あの子供は!?」
「魔物に近づいたら、魔物が一段と強くなったぞ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
弓矢や魔法を当てても、効果がないように内側の門へたどり着き、一気に門を破壊した。
「来たぞ! 攻撃隊、一斉攻撃! 後に盾役と交代せよ!」
「おぅ!」
一番前で構えていた、攻撃を得意とする者達が、一斉に破壊された門から外へ向かって攻撃を解き放った。
「グベラ、ゴギャ、ギャッピ」
一番乗りで飛び込んできた、雑魚共が斬られ叩かれ潰され飛ばされていった。
そこへ、
ドゴン!
城壁に攻撃を始めた四天王の姿があった。
内側の門は魔王と雑魚共に任せ、自分たちは新しい入り口を造ろうとしていた。
「うわぁぁぁぁ」
その城壁に乗っていた兵士と冒険者達は、激しい揺れに見舞われて、身動きが取れなくなっていた。
「まずいな、総員、敵から離れろ!」
兵士長は、城壁の上の者に指示を出した。
門の正面では、魔王とギューサ&冒険者達が交戦していた。
「ほぅ、私の前に立つか?」
魔王は、腕を下から上に振り上げた。
「なっ!?」
「うっぎゃー!」
ギューサは咄嗟に身を躱して、闇の斬撃を躱したが、後ろで盾を構えていた冒険者は、その斬撃の直撃を受け、防いだ盾と共に真っ二つに切断された。
「あいつの攻撃は危険っす。正面にならないように回避を優先するっす!」
(あれは助からないな。あとで供養するっす)
ギューサは犠牲になった者を記憶しながら、魔王と戦っていた。
「ギュー! 待たせたな!」
助けに来たのはエバーズであった。
「エバさん! 遅いっすよ」
「すまないな。ちょっと、立て込んでいたからな。だが、ここから名誉挽回だ。こいつを倒せば良いのであろう? ギューよ、アレをやるぞ!」
エバーズが剣と盾を握り直して、技の溜めに入った。
「おうっす。やるっすよ!」
ギューサはエバーズと並び魔王に攻撃を再開した。
「喰らうっす!」
「行くぜ!」
二人は、周囲に分身体を造り出し、一斉に攻撃をしていた。
「ほほぅ、なかなか面白い攻撃だな」
魔王は、闇の衣を展開させて、全方位防御をしていた。
「ぐぁ! 壁が破られたぞ!」
「側面から、敵が溢れ出してくる!」
「非戦闘員を護れ!」
しばらく一進一退の攻防というか、魔王が遊んでいたため動きがなかったが、壁を破壊していた四天王が新たな道を造ったために、戦線が瓦解した。
「ちっ、中々攻めてこないと思ったら、こういう事かよ!」
「思ったよりも、やるっすね」
「ふっふっふ。さて、そろそろ、魂を貰うとしますか」
魔王は纏っていた闇の衣にさらにエネルギーを貯めて、一気に放出した。
「くうぅ」
浴びているだけで、魂が削られていく。
「まずいぞ!」
エバーズとギューサは闘気を体に纏い、闇の攻撃を凌いでいたが、そんなことが出来ない冒険者達は、その命を散らしていった。
「くっそ、このままでは・・・」
エバーズ達が苦戦を強いられていると、
「絶空!」
「プロテクションフィールド!」
風の刃が魔王を襲い、光の障壁が魔王の攻撃を遮断した。
「な、あなたは!?」
エバーズが後ろを見ると、バルグフルの紋章を掲げたマントを装備したリカードが、シンディアとアレクとヘーニル、そしてラナ達と近衛騎士達を連れて増援に来ていた。
「私はリカード、バルグフル王です。アシュリー様の要望により、ルグニア防衛の為にやってきました」
ルグニアの冒険者や兵士達が、喜びの声を上げた。
「助かった!」
「良かった!」
リカードは連れて来た者達に、
「これより、ルグニアの防衛戦に参加する! 総員、かかれ!」
「はい!」
「おぅ!」
ラナ達が四天王達を抑えに行き、近衛騎士達が雑魚達を抑え、リカード達で魔王を迎撃した。
「行きますよ!」
「はい、お姉さま!」
ラナが四天王達に突撃し、ルナとデイジーが回り込み、ミシェルがラナに続いた。ヘレンが後方に下がり、魔法の詠唱を開始した。
対する魔族は、ゲンブとビャッコが前に出て、スザクとセイリュウが魔族長のシンリュウを護るように両脇に付いた。
ゲンブとビャッコの攻撃をラナが一手に引き受けて、その動きを止めた。
「ミシェル!」
「おうよ!」
ラナの横からミシェルが飛び出して大剣を振りぬいた。
ゲンブは上手くかわしたが、ビャッコはダメージを負っていたせいか、回避することが出来ず直撃を喰らっていた。
「ん? あっちの白い方は動きが鈍いぞ、それに比べ緑の方は動きが良いな」
ラナがそう言うと、仲間達はビャッコに狙いを定めて攻撃を開始した。
「押せ押せ押せ!」
近衛騎士達が、雑魚を一歩も通す事無く防衛していた。
「オーク達だ! 力負けするな、押せ押せ!」
盾を構えて、オーク達の侵攻を食い止めていた。
「一匹も通すな! 護りぬけ!」
「おぉー!」
近衛騎士達は防御を固めていた。
「シンディア、アレク、ヘーニル行くぞ!」
四人は魔王を取り囲んだ。
「今度は、お前達が遊んでくれるのか?」
魔王が闇の衣を展開し直した。
「セイントプリズン!」
ヘーニルが光の檻を放った。
「この程度の魔法など! ダークブロー!」
バリン!
光の檻を一撃で粉砕した。
その隙をついて、リカードとアレクが斬りかかった。
「うりゃ!」
「とりゃ!」
魔王がそれを見て、
「ほほぅ、そう来たか」
闇の衣を強化して、迎え撃った。
「ぐぅ」
魔王の攻撃と防御の一体化した闇の衣を、リカードは回避し、アレクは盾で受け止めた。
「これはどうだ?」
闇の衣に蓄えた魔力を放出する、
「光無き世界に居る闇の精霊たちよ! 我が魔力と共に、永遠の闇へ誘う死の霧を!」
どす黒い闇の力が集中する。
「デスクラウド!」
周囲に死の霧が立ち込める。
「ま、まずい、総員退避! 霧に触れるな!」
そこへヘーニルが、
「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に敵よりの攻撃を防げ! プロテクションフィールド!」
死の霧が広がらないように光の障壁で閉じ込めた。
そこに、シンディアの魔法で霧を吹き飛ばした。
「ふむ、この霧は対応出来るか。それなら次だな」
魔王はさらに魔力を込め始めた。
「させん! 絶空!」
リカードとアレクが突撃し、シンディアが魔法で攻撃、ヘーニルが光の魔法で援護した。
「ぐぬ、やはりこの身体だと、一度に対応するのは厳しいな」
そう言って闇の衣を展開した。
「これなら、対応できそうか?」
闇の力を強化して、四人からの攻撃を受け止めていた。
「こっちにもいるっす!」
「私達も忘れてもらっては困りますよ!」
そこへ、エバーズとギューサが参戦した。
「ほほぅ、そう来るか」
魔王はニヤリと笑い、全方位からの攻撃に対応していた。
「ぬるい! ぬるいぞ!」
ルグニアの者達の死は止まったものの、一進一退の攻防を続けていた。