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第百六十一話 閉鎖空間

◆バラムドの大聖堂


直哉達が、アシカ達の事情聴取という鍛練から帰って来たのは、その日の夕方であった。

「身体は大丈夫?」

直哉は数時間ヨシと戦い続けたラリーナを心配していた。

「結局最後に良いのを貰ってしまったからな。もっと精進せねば」

ラリーナが言うように、数時間の戦いの決着はあっけなかった。

ヨシが放った、何十度目かの連続技を弾いている時に、集中力を切らしてしまい、直撃を受けていた。

普段なら、ヨシも寸止めが出来たはずであったが、数時間に及ぶ戦いで疲弊していたため止める事が出来なかった。


「傷の方はフィリアのお陰で完全に塞がった。後は失った血液を回復させるだけだな」

「そうか。それなら今夜は安静にな」

「しかし、直哉の戦いも見たかったぞ」

直哉は戦わずにすんでいた。ユーサイに迫られたが、ラリーナの傷を理由に辞退していた。

「まぁ、ヨシさんとやるのはタイプが合わなすぎて厳しいよ」

「タダカッツと、一対一で闘って引き分ける実力があるのにか?」


「正面きって闘った訳ではないからね。俺の得意なフィールドに誘い込ませて貰ったから、何とかなったのだよ」

ラリーナはため息をつきながら、

「そう、それだよ。直哉の強みは」

「誘い込み?」

「気が付いたら追い詰められているというのは、悪夢でしかない」

「そうなのかな?」


「あぁ。ちなみに、今回ヨシとやりあうことになっていたら、どの様な手を使う予定だったのだ?」

「うーん。それは、秘密で」

(あれは、戦いと呼んで良いのか悩ましい)

「それは残念だ」

「ぶっちゃけ、鍛練にはならないよ」

「さらに残念だ」



直哉は神殿を出て風呂へ向かっていた。

(しまった。神殿の傍にも造っておくべきだった。ゲートを使うか)

ゲートを使い、風呂へやって来た直哉は、湯船に浸かりながら、今後の事を考えていた。


(まずは、人形師の行方を探さないといけないな。それから、アイリの戦力を上げなければならないな。二手に分かれるか)

湯船から立ち上がり、風呂の縁に座り、

(しかし、ガナックさんが異世界から来ていたと言うのは本当の事だったんだ。てっきり、嘘だと思っていたのだけど)

お湯をすくって顔にかけて、

(ヨシさんが言っていた事が正しいのであればだけどね)

もう一度湯船に浸かった。


(確かにゲームに似すぎているのは、不自然だよな。俺の能力はこの世界を変えた神の仕業か、元から居る神の仕業か判らないよな。まぁ、どの様な結果になっても、後悔しないように手を打つべきか。そうだ、カソードとかの話も聞いて見たいな。確かレベル50になった時に現れるのだったかな? まぁ、カソード達の話を聞いてからでも良いか)

両頬を叩いて気合いを入れてから、

(さぁ、先へ進もう)

風呂を出て、用意して貰ったベッドへゲートで飛んだ。




◆次の日


朝の鍛練をしていると、ユーサイと共に、ヨシがやって来た。

「おはようございます」

直哉達が挨拶しあっていると、周囲の者達が、

「ア、アシカ様!」

と、平伏していた。


「うむ。皆のもの面をあげよ」

民達が顔を上げたのを確認してから、

「このバラムドを覆っていた当面の危機はここに居る直哉が取り除いてくれた。礼を言う」

と、頭を下げた。


「アシカ様が頭をお下げになった」

その場に居た民達は、直哉達を拝み始めた。

直哉は一歩前に出て、

「今回の勝利は、皆さんが諦めなかった結果です。俺は、バラムド開放の手助けをしただけです。ですので、今回の勝利は皆さん一人一人の勝利と言っても過言ではありません。皆さんも今回の事を記憶し、間違った方向に進まない様な体制作りを期待します」

「おーっ!」

直哉の願いに答えるべく、雄叫びをあげていた。


大聖堂内に戻り、ヨシ達を加えて朝食となった。

ヨシはラリーナの所へ行き、

「昨日の傷は大丈夫か?」

「身体の傷は癒えましたが、自分のミスで負けたという心の傷は深い」

ヨシはニヤリと笑い、

「そうか。再戦ならいつでも受けてたつぞ」

ラリーナもニヤリと返し、

「そう来なくては!」


それを聞いていた

「リリも! リリも!」

ソゴウに負けたのが相当悔しいのか、リリは精一杯アピールしていた。

「いや、リリはアケチさんに勝っていたでは、ありませんか?」

「でも、次のおじさんに負けちゃったの。悔しいの!」

リリは地団駄を踏んでいた。



食事を終え、お茶を飲んで一息入れた頃、

「それで、本日は朝早くから、どの様なご用件でしょうか?」

「うむ。昨日、あれからオダから話を聞いたのだが、お主は、オダを受け入れる用意があるのか?」

(あぁ、その事か)

「はい。罪を償ってからであれば、受け入れますよ」

「バラムドの貴族としてか?」

「いいえ、バルグフルの一市民として受け入れます」

「そうか。それは、イーエヤッス達も一緒でよいのか?」

「もちろん構いませんよ」

直哉の答えに安心したのか、ヨシは満足した表情で帰って行った。



ヨシ達が帰った後で、リリ達を集めて、

「さぁ、今後の予定を話すよ」

「はいなの!」

「まずは、東の森へ行った人形師の行方を捜す班と、アイリの戦力アップを図る班の二手に分かれます」

真っ先に、

「はい! はい! リリ、お兄ちゃんと一緒が良い!」

リリがアピールした。


フィリアは、直哉の言葉を確認するように、

「その班分けと言う事は、直哉様は人形師の行方を捜す方ですよね?」

「そうなるね」

「それなら、私はアイリさんに着いていきますわ」

「それは、助かるよ」


最終的な班分けは、人形師の捜索班が、直哉、リリ、マーリカ。アイリの戦力アップに、アイリ、フィリア、ラリーナ、エリザとなった。


フィリアはマリーカを捕まえて、

「マーリカ、直哉様を頼みますよ」

「はい。フィリア様。ご主人の事はお任せください」

それを聞いていたリリが小さい身体を目一杯大きく見せて、

「大丈夫なの! リリが居るの!」

と、言って見せたが、

「それが心配なんですよ」

「えー、それはないの」

フィリアに信用されずに、ふて腐れていた。


その様子を穏やかな顔で見ていた直哉が、

「さて、行きますか。フィリア、そっちは任せるよ」

「はい。直哉様、お気をつけて」

「フィリア達もね」

直哉は、フィリア達を順番に見てから、人形師の捜索を開始した。




◆バラムド東の森の中


「それで、どうするの?」

「忍び達に周囲を探させましょうか?」

二人の意見を聞きながら、マップを開いて捜索していた。

「いま、マップで確認している所だkら少し待っててくれる」

「はーいなの」

「了解です」


二人の了承を得て、直哉はマップに没頭した。


(さて、バラムド周辺を確認するか。バラムドの街中はノーマルクエストが乱立しているな。こっちの方は、来る時に片づけているから、少ないな。森の中にクエストのピンが立ってくれれば判りやすかったけど、今のところ人形師に関するピンは何所にも見あたらないか)

直哉が、マップから戻ってくると、二人はどうだった? と言わんばかりに近づいてきた。


「うーん。この場所からでは、人形師に関するイベントは起こってないようだ。やっぱり地道に探さないと駄目っぽいな」

「では、忍び達を使いましょうか?」

「そうだね、頼んで貰って良いかな? それと、リリは上空から探してくれる?」

「えー、お兄ちゃんと一緒が良いのー」

リリはブーたれながらも上空へ捜索しに行った。



しばらく探すと、森の一部に奇妙な空間がある事に気が付いた。

「ここに霧の壁で出来た空間があります」

(これは、バルグ西の壁と同じだよな)

「約50m四方の大きさがあります」

「結構な大きさだよな。それ以前に、前回バルグフルから来た時にこの様な場所は気が付かなかったな」


マーリカが、森の木々を見上げながら、

「そうですね。場所がずれているだけでなく、上側も木より低いので、ココまで近づかなければ気が付かないと思います」

「そうだよね。しかし、入り口の様なものはあった?」

「いいえ、四方に散らばった忍び達も何も見つける事が出来ないようです」


直哉はぶつかる所まで近づいて、中を覗き込んだ。

(ん? うっすらと中が見えるな。畑? いや、中が見えるのであれば、そこへゲートを繋げられるかも)

「ゲートマルチ! くぅ・・・」

ソラティアからバルグフルへ繋げた時の様なMPを消費して開く事が出来た。


「大丈夫ですか!?」

脂汗をかいて、倒れそうな直哉をリリとマーリカが両脇から支えていた。

「目の前に繋げるだけなのに、もの凄いMPを持って行かれた。でも、繋がったよ」

「お兄ちゃんは、ここで待ってて、マーリカもお兄ちゃんと一緒に居て! リリが中を見てくるから!」

そう言って、リリはゲートに飛び込んだ。


「ま、待つんだ・・・」

直哉は精一杯手を伸ばすが、届くわけもなく、マーリカが忍びを数名送り込んだ。

「さぁ、ご主人様はMPを回復させてください」

マーリカは直哉の造ったMP回復薬の回復量が多いやつを取りだして、直哉の口に押し込んだ。

「んぐっ、んぐっ」

直哉は怠い身体に鞭打って、MPを回復させていった。



回復していると、ゲートからリリが帰って来た。

その後ろには、リリと同じ位の少女で、真っ黒で日本人形の様な髪の人がついてきていた。

「本当に出口だ。。。」

少女は無表情のまま、そう言い放っていた。

「なんか、中に小屋があってこの人が居たの。外に出られるゲートがある事を伝えたら、ついてきたの」

リリの説明に、直哉はリリの頭を撫でながら、

「良くやった! さすがリリだよ」

「えへへ」


直哉がリリを甘やかしていると、黒髪の少女が聞いてきた。

「あなた様は、どちら様でしょうか?」

「俺は、直哉。バルグフルで鍛冶職人の伯爵です」

少女は目を見開いて、

「えっ? 鍛冶職人の伯爵様ですか?」

「はい」


少女は何かを考えていたようであったが、

「申し遅れました。私はスリーと申します」

「これは、ご丁寧に。それで、この閉鎖空間は一体なんですか?」

やはり少女は何かを考えてから、

「これは、私達の動きを止めようとした新しい神の仕業です。世界を隔離する力です」

「そんな力があるのですね」

「はい。ですが、直哉さんの魔法力はそれを上回っているのですね」

(と、言う事は魔法障壁みたいなものなのかな? 魔力が上回れば上書き出来るみたいな感じかな?)



「もしよろしければ、私達のご主人様にお会いしませんか?」

「ん? ご主人様?」

「はい。マスターとも言います」

(やっぱり、この子は人形なんだ。という事は、この子についていけば目的の人物に会えそうだな)

「マスター? ギルドのお偉いさんとか?」

「いいえ。まぁ、ギルドがあればお偉いさんでしょうけど」

「んー、良いですよ。案内してください」




直哉達はスリーの後に続いて、人形師の元へたどり着いた。

「ここにも、閉鎖空間があるのですね」

「はい。ご主人様はこの中に閉じ込められています」

直哉が周囲を確認すると、大きさは2m四方の小さな閉鎖空間であった。

「随分と小さいけど、これでは生活出来ないのでは?」

「はい。新しい神に見つかり、その身体を氷の中に封印され、さらにこの場所へ閉じ込められてしまいました」


「氷の封印だって? 俺にその封印は解けないぞ」

「大丈夫です。ただ、その閉鎖空間を護っている魔物が居ます」

「ここで、魔物ですか?」

直哉は、ラリーナ達を呼び出して、万全の体制を取った。




「リリ、詠唱完了なの!」

「防御はお任せを」

「私も行けるぜ!」

「わらわも、最大限引き絞っておる」

「私は周囲を警戒しておきます」

「私は、この力で援護します」

直哉が剣と盾を構えて、

「それじゃぁ、触るよ」


直哉が閉鎖空間へ近づくと、周囲の状態が一気に変わり、地面から金属で出来た大きな人形が現れた。


「メタルゴーレム?」

「通常の金属では無いかもしれません」

人形が腕を振り上げ、攻撃態勢を取った。

「みんな、行くぞ!」

直哉とリリ、ラリーナが前に出て人形の攻撃を牽制していく。


ガン!


そこへ、エリザの放った槍が当たったが、はじき飛ばされた。

「なっ!?」

「硬いな」

直哉はそうつぶやきながら人形の攻撃を防いでいた。


「魔法が効いていないの」

「武器が持たないぞ」

リリとラリーナも攻撃をしているのに、こちらがダメージを負っていた。

フィリアの光の加護で致命的なダメージは防いでいたが、徐々に圧されていった。


(火炎瓶や冷凍瓶も効かないし、こんな奴ゲームには居なかったぞ?)

「くっそ、武具作成! 城壁シールド! みんな後ろへ下がれ!」


ドドン!


巨大な盾を目の前に設置して、時間を稼いでいた。

「武器が壊れちゃうの」

「このままでは、じり貧だぞ」

「まさか、この槍が貫けぬとは」

直哉が人形を確認すると、

「やっぱり、打撃が有効みたいだ。ただ、俺達の攻撃力が足りないだけだと思う」


「でも、これ以上攻撃力は上がらないの」

「最終奥義を修得出来ていれば!」

「わらわに、もっと強力な武器を!」

リリ達が叫ぶ中、

「マーリカ、この位の大きさの穴を人形の足下に作れるかい?」

「はい。ですが、その間は周囲の警戒が出来ないのですが」

そこへ、アイリが割り込んだ。

「警戒は、私がやります」


「大丈夫?」

「はい、この子達を上空へ、この子達を地上へ放って偵察させます」

そう言いながら、ハーピーとフクロウを飛ばし、ジャイアントスパイダーとキラーマンティスを地上へ放った。

「感覚をリンク出来るのですか?」

「はい。大体判ります」

「それなら、大丈夫ですね。落とし穴の作成に入ります」



直哉は、マーリカとアイリが作業を開始したのを見てから、

「ゲートイン、ゲートアウト! そして、タダカッツ戦で使ったのと同じ様な岩!」

直哉は即席メテオを放つつもりであった。

「リリ達は、城壁シールドを使って人形の動きを止めておいてくれる?」

「わかったの!」

リリ達は回り込もうとする人形を上手く阻み続けて人形を足止めしていた。


「ご主人様! 落とし穴がそろそろ開通します」

「わかった。こっちも準備が終わった。。。。ゲートイン、ゲートアウト!」

人形の上にゲートアウトを造り出す。

人形が回避行動を取ろうとした瞬間、足下が崩れ数メートル下へ落ちていった。

「そのまま、喰らえ!」

最後のゲートをくぐり、隕石と化した大岩が落とし穴めがけて落ちていった。


ズドーーーン


「よいしょ!」

リリ達が落とし穴の上に城壁シールドを置いてフタをした。

「これで、しばらくは動けないでしょ」


それを見ていたスリーは、

「滅茶苦茶な人達ですね」

と、驚いていた。



直哉はMPを回復させ、氷で封印された女性をゲートを使って救出した。

「流石に、もう無理だ」

直哉は、その場に倒れ込んだ。

「後は、お任せください」

スリーが何かを唱えると、女性を封印していた氷が一気に砕け散った。

「おっと」

ラリーナが崩れ落ちる女性を支えて、木や草で造った簡易ベッドへ静かに置いた。

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