第百五十九話 バラムド解放 後処理 その2
◆アシカの屋敷
直哉達はアシカに呼び出されて、その屋敷を訪れた。
通された所は、広い部屋で、一番奥が高くなっていて、直哉達が座っている所は、一番低かった。
高く造られている所に近い場所に、三名の男が座っていて、直哉達を見定めていた。
そこから、直哉達の所まで、両脇に男達が並びアシカが来るまで、直哉達を見ていた。
直哉は座って待っていたが、リリは飽きてしまい、直哉に寄りかかって眠っていた。
フィリアとエリザ、マーリカは直哉に従い大人しくしていたが、ラリーナが身体が凝ったと言って、庭に出て行ってしまった。
アイリはソエルハザー達と共に大人しくバザール商会で待つことになった。
自由の風達は、バルグフルへ荷物を運ぶための準備を始めていた。
ラリーナが飛び出して行ったのを見て、
「コレだから田舎者は」
「貴族としての心構えがなっておらんな」
等、ヒソヒソと話していた。
その時、ラリーナが出ていった庭の方から、模擬戦の音が聞こえて来た。
「せぃ!」
「甘い!」
ガン! カン!
ラリーナともう一人の声、そして木剣同士のぶつかる音と、ココにいる貴族達のため息が交じった。
「またですか?」
「またですな」
「相変わらずですな」
「相変わらずです」
末端貴族達がヒソヒソと話していると、別枠で座っていた三人の貴族のうち、一番細くて背の高い男が、奧の襖を開けた。
「アシカ様のおなーりー」
襖を開けなかった残りの貴族と、末端貴族達は平伏してアシカが出てくるのを待っていた。
(おぉ! ここでも平伏だ。でも、他の地方は外だったけど、ココは屋敷の中だから少しは楽なのかな
?)
そんな事を考えながら、アシカが出てくるのを見ていると、リリよりも少し大きな少女が出てきた。
(随分と幼いな)
襖を閉めた男が元の位置に戻り平伏すると、
「御三家の者達よ、面をあげぃ」
三人が顔を上げてから少し時間をあけてから、
「残りの者達よ、面をあげぃ」
その声を合図に、全員が顔を上げた。
(面倒だな)
直哉がそんな事を考えていると、
「そなたがバルグフルからの訪問者かな?」
直哉は改まって、
「はい。バルグフルより参りました、直哉伯爵です」
「ふむ。よその伯爵が、バラムドの地で何をしておったのだ?」
「一つ目は冒険者としての依頼のため、二つ目は仲間の装備を取り返すため、最後にバルグフルのためです」
ザワザワ
その他の貴族達が騒ぎ出した。
「自分達のためではないか!」
「私利私欲のため、我らの民をそそのかすとは」
「追放だ!追放するだ!」
少しの間その他の貴族達が騒いでいると、御三家の中で、最も美男子な男が口を開いた。
「アシカ様の御前である、神妙になりなさい」
決して大きい声ではないが、部屋中に響き渡り、五月蝿かった貴族達が、水を打ったように静かになった。
アシカと呼ばれた少女は、
「それで、目的は果たせたのか?」
「はい。最後の目的以外は果たすことが出来ました」
「ふむ。そうか」
少女は直哉に詳しく聞きたかったが、御三家の最後の一人で、顔は青白く何かの病に侵されている感じの男が、
「アシカ様。その話は後程ゆっくりと聞かせてもらいましょう。今は、例の事を聞き出さないと、いつまでたっても終わりませぬぞ」
「あぁ、そうでした」
少女は(こほん)と間を取ってから、
「オダイーカンについて、知っている事を話なさい」
「今回の騒動で会ったのは最後の時ですね。会話の途中で戦闘停止命令を出していたので、間違いないと思います」
「その時に、何か話しをしたか?」
「はい。エッチゴーヤ商会が人身売買を行っていた事を知らなかったようです」
「人身売買だと!」
「これは、バラムドに対する侮辱ですぞ、その者の首をはねよ」
「いやいや、これ以上エッチゴーヤ商会の悪事がばれると困るからって、それはやりすぎですよ」
「エッチゴーヤ商会の恥はバラムドの恥」
その他の貴族達が好きな事を叫んでいた。
直哉は、今の所問題ないので次を話そうとしたが、騒然としているため周囲を見渡していた。
(そういえば、ここの貴族達は戦国武将の名前に近いな。織田はよくわかるし、タダカッツは恐らく徳川家の武将だろうし、そうなるとあの忍び装束は服部半蔵かな? ドラゴンバルグ内では、貴族街の名前は全く違ったからな。もっと、適当な名前だった気がする。貴族Aとか貴族1とか。まぁ、ココでもその他の貴族達になっているから、そこまで変わらないかな。でも、こう言った、微妙なズレが実際にゲーム内に入った訳では無く、何者かがドラゴンバルグの形式を真似ているって事に繋がるのかな? そうなると、根本的な事に戻るけど、俺は何でこの世界に呼ばれたのだろう? そういえば精霊達と契約する時に言っていたな、私達を解放しろと。これはどういう事なんだろう? 俺がカソードで遊んでいた時はそんなセリフは無かったぞ。それに・・・)
直哉がこの場とは全く関係ない事を考えていると、庭の方からラリーナが本気の闘気を溜めるのを感じた。
(一体何をやっているのだろう?)
そして、眠っていたリリが目を覚まして、
「敵!?」
と、寝ぼけ眼で闘気を高め始めた。
「止めなさい!」
直哉が頭を撫でながら止めると、
「あれ? 敵は何所なの?」
と、周囲をキョロキョロし始めた。
「あれ?」
直哉はため息をつきながら、
「あれ? じゃないよ。アシカ様と話している時は、居眠りというか爆睡しているし、静かに寝ていたと思ったら突然闘気をむき出しにして攻撃しようとするのだから」
そう言って、リリを怒り、
「皆様、俺の嫁が申し訳無い」
と、頭を下げた。
その他の貴族達はリリの闘気に晒され、腰を抜かし静かになっていた。
そ、そこへ、
「あーっはっはっは! お前さん本当に強いな! しかも女だし、私の専属護衛にならないか?」
豪快な笑い声と共に、ラリーナを口説く女性の声が聞こえてきた。
その声を聞いた御三家の面々は頭を抱え、その他の貴族達は(またか)という表情を浮かべていた。
「いや、申し訳無い。私には心に決めた者がいるので、ココに留まる事は出来ない」
ラリーナが辞退すると、
「そうか、それは残念だ。ちなみに、心に決めた者は、お前さんより強いのかい?」
「はい。近接戦闘というか、殴り合いだけなら私にも勝てる可能性がありますが、それ以外では勝てる気がしません」
「ほぅ、それは是非手合わせして貰いたいな」
そんな物騒な事を言いながら、みんなが集まっている所へやってきた。
そして、みんなの顔を見た時に、(しまった!)という表情を浮かべ、
「まだやっていたのか?」
と、問いかけた。回答はアシカ様からだったが、
「お姉様、お遊びが終わったのであれば、交代してください」
と言う、回答であった。
「ふむ、まぁ、気も晴れたし仕事をするか!」
豪快な女性が部屋に入ってくると、その場の貴族達が一斉に頭を下げて平伏した。
その様子を冷めた目で見ながら、上段の間へズンズンと進んでいった。
「そなたは別室へ」
最初にいたアシカに耳打ちした。
「はい。お姉様」
少女は出てきた襖を旅館の女将のように優雅に出て行った。
それを見届けた豪快な女性は直哉達を見て、
「ほぅ、頭を下げぬか。面白い」
そうつぶやきながら、ニヤリと笑った。
「順番に面を上げよ」
まずは、御三家と呼ばれる者達が頭を上げ、続いてその他の貴族達が頭を上げた。
「さて、状況を教えよ」
豪快な女性の命令で、御三家の一番細くて背の高い男が、現在の状況を話した。
「ふむ、お主らが直哉殿とその一行か?」
豪快な女性の問に、
「はい。俺がバルグフルの直哉伯爵です」
と、礼をした。
直哉は順番に嫁を紹介していった。
ラリーナを紹介した時に、
「ふむ、お前さんが話していた御仁はこちらの方か?」
と、話しかけられた。
「はい。こちらが我が夫の直哉だ」
「ほほぅ。後で、その腕前を見てやろう」
「はい」
直哉は二人のやりとりを唖然としながら聞いていて、
(いや、はいじゃないよ! 俺の意志は無関係ですか!)
嫁達の紹介が終わると、
「気付いていると思うが、私がアシカ=ガ=ヨシだ。先程のは妹のアシカ=ガ=シュリだ。面倒な報告はシュリに任せていてな。すまなかった」
軽く頭を下げてから、
「それで、彼らから聞き取りをして、何かわかったか?」
「報告の途中でそちらが騒ぎ出したので、途中で止まってます」
ヨシがその他の貴族を一瞥すると、その他の貴族達は目を伏せ頭を垂れた。
「だから、くだらんと言うのだ。もう良い、客人から直接話を聞くことにする。ユーサイ、客人を別室へ案内せよ」
その命令にその他の貴族達がざわめきだした。
「な、なりません」
「何処の馬の骨とも知らぬ者と直接話すなど正気の沙汰とは思えません」
「貴族としての振る舞いをしていただかないと」
だが、それを最後まで聞かずにヨシは出て行った。
唖然としていた直哉の元へ細くて背の高い男がやってきた。
「では、直哉様ご一行はこちらへどうぞ」
と、促されたが、
「ま、待て!」
「いかん!」
「ここは通さんぞ!」
数名のその他の貴族達が立ち塞がった。
「あなた方は、何を恐れているのですか?」
ユーサイの追求に立ち塞がった者達がキョドリながら、
「べ、別に、お、恐れては、おらぬ」
「それでは、そこを通しなさい」
「い、いや、それは」
それでも要領を得ない貴族達をすり抜けて、ヨシの待つ部屋へ案内された。
◆アシカの屋敷 客間
部屋にはヨシとシュリが待っていた。
「遅かったな」
「申し訳ありません。エッチゴーヤと仲の良かった貴族達に足止めされていました」
「ほほう。後でそいつらの事を教えなさい」
「はい」
「さぁ、直哉とやら、中へ入ってきなさい」
直哉達はヨシに促され、客間に足を踏み入れた。
「何か良い香りがしますね」
室内には、畳の匂いと花の香りが程よく調和していて、リラックス効果は抜群であった。
「眠くなってくるの」
直哉は畳を触りながら、
「畳と、花の香りですね」
ユーサイは目を丸くして、
「畳をご存知なのですね」
「えっ? あ、はい」
ヨシは目を細めて、
「ふむ。お主はこのドラゴンバルグの人間では無いな」
「えっ?」
「いや、神殿の神父たちが騒いでおった。神が使わせてくれた勇者様だと。報告によれば不思議な術を使い、タダカッツを翻弄し、街の復興にもこの世界には無い方法で尽力したと聞く。それらを総合すると、他の世界から使わされた勇者、と言う事になるのだが、どうだ?」
直哉は身を乗り出して、
「他の世界からの召還をご存知なのですか?」
「数年ほど前に、この地に異変が起こるまでは、魔王が現れる時に召還されていた。だが、この地に異変が起こり、あちこちに不思議な結界が出来、人々の記憶が操作されてからは、真の勇者が召還されたと言う話を聞かなくなった。そして、魔王が暗躍する時代となった」
「ち、ちょっと待ってください。貴方は一体何者なのですか? どうして、皆が覚えていない情報を覚えているのですか?」
ヨシは直哉の目を見て、
「私は巫女として、神からの言葉を伝えるもの。今、このドラゴンバルグを覆う偽物の神ではなく、本物の神の言葉を聞くものなり」
直哉は本気で驚いて、
「本当の神? 偽物の神? どういう事ですか? 俺に何の関係があるのですか?」
「私の知る情報を御話いたします」
部屋の奥で、シュリが御茶の準備を始めていた。
「御手伝いいたします」
フィリアが慌てて駆け寄ると、
「ありがとうございます。では、こちらを持っていってください」
そう言って、半分の湯飲みを渡してきた。
直哉達の前に御茶と、御茶請けが用意され、ヨシがユーサイに目で指示を送ると、
「周囲に我々以外の生物は存在していません。何かあれば、お知らせして排除いたします」
「頼みます」
「かなりの用心ですね」
そう言って、直哉の方に向き直った。
「ごめんなさいね。何処に間者が潜んでいるかわからないので」
「それで、どういう事なのでしょうか?」
ヨシは数年前の出来事を思い出していた。
「あれは、数年前の事。精霊達の悲鳴によって始まりました。神の声が遠くに感じるようになり、ドラゴンバルグの街が現在の場所へ転移し、人々の記憶が改ざんされました」
「そんな事が出来るのですか?」
「神の声を何とか拾っていき、それを繋ぎ合わせたところで神からの声が完全に途絶えました」
「神は、何と?」
「この世界のコントロールキーを奪われた。真の勇者を召還して奪還するまで耐えてくれと」
ヨシの話では、その真の勇者が直哉と言うことであった。
「それで、俺は帰れるのでしょうか? というか、嫁たちと帰れるのでしょうか?」
「私の一存では回答しかねますが、本当の神は偉大な方です。きっと願いをかなえてくれると思います」
ヨシの説明はまだまだ続く。