第百五十六話 バラムド解放 その1
◆バラムド中央の大聖堂
「し、市民が集まってきています」
「物凄い数です」
「冒険者も多くいるようです」
「これが、神からの試練なのですね」
「おぉ、神よ!」
ソエルハザーは叫んでいた。
「大聖堂に居る、神官達に攻撃してはいけません。大聖堂そのものに攻撃してもいけません。無血占領です」
「はい!」
ソエルハザーの指示により、大聖堂は無傷のまま占領された。
「我々は、バザール商会です。神官達には手を出さないので、安心してください。また、このバラムドの膿であるエッチゴーヤ商会を追い出します」
ソエルハザーの説明に、
「是非、お願いします。本来ならば我々がアシカ様の命を受けて行うべきなのでしょうが、我々には戦うすべがありません」
「わかりました。皆さんは大聖堂で、民達の受け入れをお願いします」
市民たちが大聖堂に立て篭もったのを確認してから、
「では、直哉さん。エッチゴーヤ商会をお願いします」
「わかりました。貴族街の正面には、自由の風を筆頭に腕の立つ冒険者を並べておきますので、こちらは気にせず商店街の制圧をお願いします」
「わかりました」
直哉は、ソエルハザーを見た後で、サースケ達を確認し、マーリカに指示を出した。
「打ち上げ花火の用意を! 花火打ち上げ後、一気にエッチゴーヤ商会を落とします。リリとラリーナが先頭で斬り込んで下さい」
「わかったの!」
「撫で斬りだな」
二人は鼻息を荒くした。
「第二陣は俺とフィリアで、皆の援護を。その後ろに冒険者たちとエリザ、そして大聖堂にマーリカをのこすので、情報共有を厳に!」
「了解!」
直哉の指示で、仲間達は動き出した。
ヒュルル~~~~~~~~~、ドーーーーーーーン!!!!!!
大聖堂の前から大きな音と共に、大空に大きな花火が花開いた。
(これで、貴族街のアシカさん達にも作戦の開始がわかるでしょう)
「みんな、行くよ!」
「おぅ!」
◆商店街
「何だ!? あの大空に咲いた大きな花は!?」
「チュージー様! 大変です! 大聖堂が市民達に占領されました。また、冒険者達がこちらへ攻め込んできております」
チュージーが指示を出そうとしたとき、それを聞いていた大きな槍を持った大男が立ち上がった。
「おチュウ! おヤス! おナオ! 出陣する! 敵はこちらへ来ている冒険者達! イーエヤッス様から託された商店街の平和を護るぞ!」
「はい!」
「いやいや、タダカッツ殿、ここの防衛は私が長なんですから、私の作戦を聞いて欲しいのですが・・・」
大きな槍を地面にたたきつけながら、
「回りくどい事は要らん! 敵大将首を取ってまいろうぞ!」
「おぉ!」
赤い鎧を着た、若い武者が賛同した。
「はぁ、やれやれですな。チュージー様、ここは、お二人に先行して貰い、我々が後ろから援護するというのは如何ですか? タダカッツ殿の勢いならば、敵大将首も容易く狩れるでしょう」
チュージーはため息をつきながら、
「仕方がありませんね、では、お二人に先方をお任せします。出来れば、敵大将首を上げてください。無理ならば足止めをお願いします」
「任せておけ! おナオ! 行くぞ!」
「はい!」
タダカッツとナーオマッサは攻め込んできた直哉達の元へ向かった。
◆貴族街 入り口
「押し返せ!」
「押し出せ!」
ワーワーワー
「一進一退だな」
「おれっち達はまだ、待機で良いっすか?」
「待機ではなく、敵後方の警戒ですよ」
「了解っす」
オダの軍勢と冒険者達が互角の勝負をしていると、オダの軍勢の奥に新たな武将が現れていた。
「サーイゾー! 奥から新たな武将が三人!」
「見えてるっす。でも、厄介な三人が来っすよ」
サーイゾーは遠見の術を使い、三人の顔を拝んでいた。
遠見の術:手を握った状態で小さな隙間を作り、そこから覗く事により他の余計な情報を見ないようにして、目標だけを見る忍術。別に視力が上がるわけではない。
「あれは、オダのイヌとオニそして、サルっすね」
サーイゾーの言葉に、
「何だって!? オダ五神のうちの三人か!」
オダ五神:ナッガヒデ、ヒッデヨーシ、カーツイエ、トーシイエ、ナリマーサの五名
「一騎当千と歌われる猛者が三人となると、冒険者達では抑えきれないな」
「サースケ、私たちであの三人を止めますわよ!」
サースケ達はそれぞれの武器を出して、
「よし、いつも通り、私とコスーケで動きを止めるから、サーイゾーは遊撃で攻撃を、セイーカは遠距離で削っていってくれ」
「了解!」
四人は走り出した。
ヒッデヨーシが、カーツイエに話しかけた。
「結構な数が居ますね。これは骨が折れそうですよ?」
トーシイエは、
「まぁ、やるしかなかろう。軍師殿の話では、他の貴族達がオダ様に歯向かう可能性が高く、ここに居る冒険者達と連携を取られるのが厳しいと言っていたからな」
「フン! 俺様が全て吹き飛ばしてくれる!」
カーツイエが、持っていた金棒を振り回した。
「こ、ここで、振り回さないでくださいよ。戦う前に死んでしまいます」
「フン! この程度で死ぬのなら、オダ様の元で働く事は許さん!」
「えー、それは嫌ですね」
三人はお互いを攻撃しながら、冒険者達が押し寄せる門の近くまでやってきた。
「おーおー、雑魚がいっぱい居る・・・」
カーツイエとトーシイエの前にサースケとコスーケが立ちはだかった。
「ここは通しませんよ」
「ここ、とおさん」
カーツイエはニヤリと笑い、
「フン!」
金棒を振り回した。
「おっと!」
トーシイエは仰け反って回避した。
「むうん!」
コスーケが、直哉に造って貰った大盾で、金棒を弾き飛ばすように振るった。
バゴン!
「なっ!?」
良い音がして、金棒が後ろへ吹っ飛んでいった。
同時に、コスーケも反対側へ吹き飛んだが、新しい鎧のおかげで、ダメージは軽微であった。
「そこです!」
サースケは、呆気にとられていたカーツイエに斬りかかった。
「甘い!」
ガン!
トーシイエに防がれていた。
「おい、武器を拾ってきな」
「おぅ。頼んだ」
カーツイエが金棒を取りに後ろを向いた時、
「戦場で敵に背を向けるとは、余裕っすね」
剣で突きながら話しかけた。
「ぐっ!」
カーツイエはわき腹を貫かれたが、
「何の!」
身体を回転しながら殴りかかってきた。
「おっと! 危ないっす」
サーイゾーが飛び退くと、そこにヒッデヨーシが待ち構えていた。
「あっ、やばいっす」
サーイゾーがヒッデヨーシを対応すると、それを見ていたカーツイエが追撃に来ていた。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ドカッ!
しかし、殴られて吹き飛んだのはカーツイエであった。
「おで、なかま、やらせん!」
新しい鎧を着て身軽になっていたコスーケが、カーツイエを横から殴り吹き飛ばしていた。
「これで、とどめ!」
背中に装着していた大斧を装備して、持っていた片手用の斧を腰に戻した。
大盾はそのまま左腕に固定してあって、大斧は両手で振るうことが出来た。
「ちぃ! 金棒があれば!」
ヒッデヨーシもトーシイエもサースケとサーイゾーに阻まれ、援護出来ずに居た。
「おわり!」
コスーケは大斧を振り上げて、カーツイエの脳天に振り下ろした。
ドグシャ!
周囲に真っ赤な液体が飛び散り、カーツイエの頭は吹き飛んだ。
「カーツイエ!」
ヒッデヨーシとトーシイエは、サースケ達を振り切り、距離を取った。
「そんな、カーツイエが殺られるなんて」
「ばかな!」
二人はサースケ達の動きを見ながら、
「軍師様に報告するべきだな。ヒッデヨーシ、行けるか?」
「トーシイエはどうするのです?」
「おれが、あの三人を足止めする」
ヒッデヨーシは何か言いたげであったが、
「わかった、必ず援軍を連れてくるから、それまで頼むぞ!」
「おう! この槍に誓って誰一人通さん!」
ヒッデヨーシが奥に駆け出し、トーシイエが三人の前に立ちはだかった。
「やーやー、我こそは、オダ家家臣、トーシイエだ! いざ、尋常に勝負だ!」
「逃すな! ここで、やらねば後が無いぞ!」
「おぅ!」
サースケも負けじと仲間を鼓舞していた。
ヒッデヨーシは、大通りをひたすらに走っていた。
「くっ、まだ遠い。早くお知らせせねば。っ!」
その時、左のふくらはぎに痛みが走った。
「なにっ?」
ふくらはぎを見ると、矢が刺さっていた。
「ちっ、どこから?」
止まっていたら危険と考え、痛みのある左足をかばいながら逃げていたが、
「ぐぁ!」
右の太ももにも痛みが走り、矢が後ろから突き抜けていた。
「くっそ。まだだ! 諦めんぞ!」
ヒッデヨーシは懐から音の出る笛のようなものを取り出して、咥えた。
ピー! ザシュ!
ヒッデヨーシが、笛のようなものを吹いたのと同時に、矢が首の後ろから笛のような物を破壊するように貫通した。
「か、はっ」
ヒッデヨーシはその場に息絶えた。
それをオダの屋敷から見ていたものが居た。
「ヒッデヨーシも逝ったか」
「はっ。トーシイエも時間の問題かと」
豪華な着物を着た男が、部屋の奥で状況を聞いていた。
「やはり、南は鬼門であったか」
「残念です。先程の空に上がった大きな花が連絡だったのでしょう。アシカ達の同盟軍が、我々オダ領へ攻め込んできました。現状は、軍師ハンベーと軍師カンベーの二人による防衛線で、多大な戦果を上げていますが多勢に無勢、突破されるのは時間の問題かと思われます」
「そうか。お主は商店街へ戻らぬのか?」
「私は、御屋形様の御傍にいます。商店街は私の優秀なる部下達に任せておきました」
「すまないな。真なる平和か」
「はい。御屋形様なら実現できます」
オダは首を横に振って、
「どこで、道を間違えたのだろうか」
イーエヤッスはオダの部屋から出た後で、エッチゴーヤを探した。
(あいつさえ居なければ、こんな事にはならなった)
暗い決意を胸に秘めて。
◆商店街攻防戦
タダカッツとナーオマッサは、リリ達を見ると、
「押し通る!」
二人は槍をクロスさせるように振るいながら走り抜けていった。
「やばいの!」
「リリ、振り返るな、敵はまだ前に居る!」
「はいなの!」
リリ達がそのまま進むと、腰に刀を下げた男達が待っていた。
「やれやれ、勇ましいお嬢さん方だ事」
「ここは、通しません。痛い目を見る前に素直にお帰りいただこう」
二人の挑発に、
「むー、なの! 最近鍛練相手が弱々で暴れたり無いの! おじさん達は少しは構ってくれるの?」
「ははっ、無理無理。本気のリリの相手が出来るのは、本気になった直哉くらいだろう?」
「むー、まぁ、少しは憂さが晴らせれば良いの!」
リリは、腕をぐるぐると回して、魔法を唱え始めた。
「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」
右のナックルに魔法をストックして、
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「そうそう、やらせんよ!」
それを見ていた二人がリリに襲い掛かってきた。
「ここは通さんよ!」
その二人の前にラリーナが立ちふさがり、先程のセリフをお返しした。
「おんなぁ!」
チュージーが斬りかかると、
「その程度の太刀筋では、むっ?」
上段からの斬り下ろしを避けたのだが、その刀は下段で方向を換え、ラリーナに襲い掛かるように付いてきた。
「ふむ、面白いな」
チュージーがラリーナを釘付けにしていると、回り込んでいたヤッスマーサがリリに斬りかかっていた。
「悪く思わないでくれ」
「よっと! 当たらないの!」
ヤッスマーサの攻撃を詠唱しながら避けていた。
「ほほぅ、避けながらの詠唱とは、中々の高等テクニックだな。少々本気にならないと、危ういかも知れんな」
ヤッスマーサは、刀身に気を纏うと、
「行け! 秘剣散沙雨!」
物凄い数の突きを繰り出して、リリの回避を止めようとしていた。
「残念なの! スライスエア!」
リリは、大量の突きを掻い潜り、風魔法を発動して飛んで行った。
「おぉぅ! 飛ぶんかい!」
いきなり飛んでいって所を見たヤッスマーサは、呆気にとられてしまった。
「残念だけど、その隙は見逃してあげないの!」
リリは、上空で方向転換して、ヤッスマーサに向けて急降下で突撃をかけた。
「ふむ、流石に速いですが、その程度なら捕らえられます」
ヤッスマーサは刀を鞘にしまって、リリが攻撃範囲に入るのを待っていた。
それを見たリリは、さらに魔法をストックして、
「魔神氷結拳!」
氷を纏った魔神拳で殴りかかった。
リリの攻撃が当たる瞬間、ヤッスマーサは目を見開いて、
「今です! 秘剣一の太刀!」
ヤッスマーサの刀はリリのナックルを弾き飛ばした。
「終わりです!」
ヤッスマーサは返す刀で、リリを斬り付けようとしたが、
「まだまだなの!」
弾き飛ばされていないナックルで迎撃して、刀の軌道を変えて体勢を崩させた。
「なに!? だが、あなたも攻撃できないはず!」
ヤッスマーサは体勢を直そうとした時に見たのは、空中で体勢を崩しながら蹴りを入れようとしているリリの姿であった。
「まさか!?」
「喰らいやがれなの! 魔神氷結蹴り!」
ドカッ!
「ぐはぁ!」
ヤッスマーサはリリの蹴りをまともに喰らい、身体を凍りつけながら粉々に吹き飛ばされていた。
「うん! 少しは楽しめたの!」
リリの機嫌が少し良くなっていた。
「くっ、お前たちは化け物か!」
ラリーナと対峙していたチュージーは、左足と右腕を引き飛ばされ、戦意を消失していた。
「私の負けです。殺しなさい」
「わかった。詫びは入れない。良い戦いだった」
「ありがとう」
チュージーの最後の言葉を聞いたラリーナは、その首をはねた。
「こっちは、片付いた。リリの方は・・・、大丈夫そうだな。後は直哉の方か。最初の二人が行ったとなると、少々厳しいか?」
ラリーナはリリを伴って、直哉の救援に向かうのであった。