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第百五十五話 ワンフォーオール

◆平民街に造った地下拠点


直哉達がバラムドへ来て一週間が経過した。マーリカの忍び達やバザール商会の者達が、バラムド内の情報やエッチゴーヤ商会の息のかかっていない貴族達への繋がりをつくっていた。

直哉は、地下拠点の作戦本部にて膝の上にリリを乗せたまま、状況を確認していた。

「直哉さんとマーリカさんの力によって、平民街と貧民街は地下拠点で繋がりました。生産街の方も重要拠点を押さえることに成功しています」

「わかった。エッチゴーヤ商会の動きは?」

直哉は地下拠点のマップを更新しながら、メモをとっていた。


「相変わらず、他の商会への嫌がらせは酷く、商店街の方は活気が無くなっています。皆、バザール商会に望みを託しているようです」

「中央市場での価格は?」

「非常に高値になっております。このままでは、平民街の者にも餓死者が出る可能性もあります」

直哉の横で話を聞いていたフィリアは目を伏せた。

「そうですか。バルグフル経由の商品等は?」


リカードの指示で、エッチゴーヤ商会を通さずにバラムドの市場へ直接届けようとしている者達が居たのを思い出した。

「市場へ届く前に、割れ値で巻き上げられているようです。このままでは、交易は完全にストップします」

「海からの貿易は?」

「高い関税を何故かエッチゴーヤ商会がかけている為、市民に出回る前に、物凄い高値になります」

「結局エッチゴーヤ商会が儲かる仕組みになっているのだな」



「そのことを、市民は知っているのですか?」

「はい。お陰で、エッチゴーヤ商会への不信感はつのるばかりです。何かが切っ掛けで感情があふれ出す可能性が高まっています」

「そうか。市民の安全を取るか、市民の自主性を取るか」

直哉の言葉にラリーナが、

「便乗する方が楽なのでは?」

「それはそうだけどね。バザール商会の皆さんで、市民を扇動出来ませんか?」


ソエルハザーは腕を組みながら、

「そう言う事は得意ではありませんが、やってみましょう」

「わかりました。それでは戦える市民の皆さんで、中央の大聖堂を占領してください。そして、貴族街と商店街の入り口を封鎖して立て籠もって貰いましょう」

地図を見ながら、

「貴族街と商店街を孤立させるのですね」

「はい」

「それならば、各街の入り口の封鎖は危険が大きいので、冒険者達に依頼しましょう」

「そうですね。出来るだけ市民の犠牲は減らす方向で行きましょう」

「大聖堂の職員には、先に根回しが必要ですね」



最後に地図の貴族街という文字に注目すると、忍びが報告を始めた。

「あとは、貴族達の方ですが、アシカ様と対オダ・エッチゴーヤ商会連合として同盟を結ぶ事に成功しました」

その報告に直哉は驚いていた。

「それは凄い。アシカ様はバラムドを治める方でしたよね?」

「はい。最近力を付けてきたオダ・イーカンに実権を握られてヤキモキしておられました」

「なるほど、それで、他の貴族達の動きは?」

「アシカ様がバザール商会と同盟を結んでくれたお陰で、オダの手の者以外はこちらへ引き込む事に成功いたしました」

「そうか。そうなると、敵はオダか」

「はい。家臣にも優秀な人材が揃っています。なかなか厄介な相手です」



直哉は目を閉じてオダとの戦いを想像しながら、

「定石なら事を構える前に、経済的に追い詰めてから攻めるのですが、今回はこちらが兵糧を攻められている。なかなか頭の切れる奴がいるのですね」

「有名な軍師が居ると聞いています」

「そうですか。それは骨が折れそうですね」

「はい」


直哉が考え始めてしまったので、話題を変えるために話を進めた。

「次に、アイリさんの腕輪ですが」

直哉は思考を中断して、

「あぁ、どうですか?」

「エッチゴーヤ商会が持っていた事は確定しました。現在はオダの宝物庫に保管してあります」

「宝物庫に?」

「はい。腕輪自体の価値が高いので、オダが気に入ったとかで、エッチゴーヤが献上したそうです」



直哉はマップを確認しながら、

「そうですか。宝物庫ですか、厄介な場所に保管されましたね」

「ですが、この宝物庫を破れば、腕輪を取り戻す事が可能です」

それを聞いたソエルハザーが、

「わかった。アイリさんには、バラムド解放後に貰うと説明しておこう」

「大丈夫でしょうか?」

「さぁ? アシカ様と直接面識がある訳でもないし、もし、駄目なら他の方法を考えよう」

「そうですか」



「最後に、直哉様がお探しの人形師についてですが」

直哉は身を乗り出して、

「発見出来ました?」

「数年前までは、このバラムドに居たそうですが、数年前にエッチゴーヤ商会に目を付けられ、バラムドを去ったという事がわかりました」

「ここでも、エッチゴーヤ商会か本当にろくでも無いな」

直哉はため息をついた。




◆中央の大聖堂


神官服を着た男たちが、天使の像に祈りを捧げていた。

「近いうちに勇者様がいらっしゃると、神より御告げをいただいた。バラムドの現状を打開してくださるそうだ」

「しかし、この神殿にも苦難が待ち受けているそうだ。それを、乗り越えれば勇者様がいらっしゃるとの事だ」

「おぉ! アシカ様の祈りが天に通じたのか!」

「これで、バラムドが救われる」

「神よ! 感謝いたします」

神官たちが喜んでいるのを、エッチゴーヤの手の者がしっかりと見ていて、それをエッチゴーヤの元へ報告しに行っていた。


「それにしても、この神殿への苦難とは一体何のことでしょうか? 現状でも苦難といえば苦難なのですが、これ以上悪くなるのでしょうか?」

「そう、心得ておくのが良いでしょう」

「わかりました。そして、神に祈りましょう」

神官服の男達は天使の像へ祈りを捧げ直し始めた。




◆エッチゴーヤ商会


紫色のスーツ姿でスキンヘッドの男が報告を聞いてた。

「なるほど。最近の胸騒ぎは、その神のお告げに出てきた勇者のせいなのですね」

そう言って、情報提供者に金を渡していた。


「しかし、厄介な者が紛れ込んできましたな。オダ様に報告しておくべきですな」

エッチゴーヤは倉庫の中をうろつき、オダへの献上品を探していた。

(勇者ですか。昔、神官服の男が勇者として認定されていたな。そして、今回も神のお告げで勇者が来るか。大体、神とはどういう存在なんだ? 神官達は声が聞こえてくると言っているらしいが、聞いたことない物に金を使いたくは無いな。いや、待てよ。そのお告げを我々、エッチゴーヤ紹介が独占できれば、新たなビジネスが生まれるのでは無いか?)


エッチゴーヤは頭の中で草案をまとめ、献上品を抱えながらオダの屋敷へ向かっていた。

(何か、街の雰囲気がおかしいですね? 何かが潜んでいるような感覚です。まさか、これが神の存在ですか? そんなまさか・・・考えすぎですね、とりあえずオダ様の屋敷へ急ぎましょう。うまくいけば、軍師殿の知恵を借りられるかもしれないからな)

エッチゴーヤは何者かの気配を感じながら、オダの屋敷へ急いだ。


商店街から大神殿に到着すると、

(何か、いつもより平民が多く居る気がするな。それに、普段は見かけない冒険者も居るぞ? 何かの前触れか?)

エッチゴーヤは手下の者を使い、自分の商会の防衛を強化するように指示を出しておいた。

(後は、貴族街への入り口だが)

唯一の入り口を見ると、

(貴族街への入り口は普段どおりですね)

エッチゴーヤは、オダの通行証を見せて、貴族街へ消えていった。




◆その頃、南の島では


「まったく! あの勇者は使い物にならないわね。あいつの召還した勇者の方が実力が上だなんて、信じらんない」

辺りにはグラスや食器が散乱していて、イケメンたちが忙しそうに掃除をしていた。

「んー、今、あいつの勇者達がバラムドに終結しているのなら、正反対のルグニアでリソースを解放してもらえば良いか」

システムは、ガナックを呼び出した。


「シ、システム様。申し訳ありません。未だバラムドから不浄なる者どもを排除できておりません。もう少し、お時間をいただけますよう、お願い申し上げます」

画面の前で、ガナックが平伏していた。

気分を良くしたシステムは、

「今回はイレギュラーが原因で、失敗したようじゃな?」

「はっ。思いも寄らぬところで、邪魔が入りました」


「それならば、バラムドの不浄なる者どもは放置し、ルグニアを殲滅せよ」

ガナックは驚いた表情で、

「ルグニアですか?」

「えぇ。今ならイレギュラー達はバラムドに滞在している。この気に、彼らの足場を崩しておきなさい」

「ははっ! 必ずや!」

ガナックは再び平伏した。




◆とあるアジトでは


ガナックが通信を終えたモニターの下で平伏していた。

(さて、どうしますか。昔のルグニアなら現在の戦力で十分殲滅出来るのですが、現在のルグニアは、直哉がテコ入れした結果、都市レベルが飛躍的に上昇しているのですよ。不用意に攻め込めば、こちらが全滅してしまいます。さて、どうしましょうか)

ガナックが悩んでいると、


「どうしたのだ?」

「ま、魔王様。それが・・・」

ガナックは魔王に話すべきかどうか悩みながら、

「今、システムから新たな指示が来ました」

「ん? バラムドを殲滅させるのではないのか?」

「システムは今回の失敗を知り、バラムド攻略を止めて、その代わりにルグニアの攻略を指示してきました」


魔王は、腕を組み考えながら、

「ルグニアは、以前攻めて、攻め落とせなかった都市だよな?」

「はい。お試しのキメラや、魔物の群れ等を注ぎ込みましたが、全て討伐されました」

「その様な都市を、もう一度攻めよとは、なかなか酷い注文を出してくるのだな」

魔王はガナックをちらりと見た。

「はい。ですので、どの様に侵攻するのかを考えておりました」



魔王は静かに目を開けて、

「それならば私が自ら出よう」

「えっ!? 危険です」

「なに、大丈夫だ。私は死なん。それに、お前の軍団も連れて行く」

魔王が指差す先に、魔族長と四天王がいた。

「でしたら、私もお供いたします」

そんなガナックを落ち着かせて、


「いや、お前にはここに残りやってもらいたいことがある」

「やってもらいたい事ですか?」

魔王は懐から珠の様な物を取り出した。

「それは、魔物製造珠!」

「そうだ、お前の献上品だ。だが、私が使用するよりもお前に使用させたほうが、より良い魔物が製造されるようだ。よって、これをお前に貸し出すので、私の力を強化するために、この魔族長や四天王を越える軍団を作っておいてくれ」


「御意。それならば、これをお持ちください」

ガナックも懐から、腕輪を取り出した。

「これは何か?」

「この腕輪は、装備している者が危険にさらされそうであれば、登録してある場所へ瞬間移動できる腕輪です」


魔王はガナックの言葉に激怒しながら、

「何だと!? この私が危険にさらされると、お前は考えているのか!?」

「念には念を入れてです。万が一、いや、億が一、何かが起きてしまった時の保険です」

「しかし、このような物・・・いや、受け取っておこう。それならば満足であろう?」

「はい。ありがとうございます」

ガナックは魔王に頭を下げた。

「では、行って来る。新たな軍団を楽しみにしておく」

「ははっ。必ずやご期待に沿える軍団を作り出しておきます」

魔王は、その言葉を聞きながらルグニアへ出発した。




◆数日後のバラムド


大聖堂への注意勧告と、アシカ達貴族への同盟を強化した直哉達は、最終の打ち合わせをしていた。

「今の所は予定通りに中央を占領出来そうです。市民も冒険者も、そして大聖堂の方々も準備は万全です」

「アシカ様の方は?」

「貴族街の方も、準備を整え、合図を待つそうです。手出しは無用、との事です」

「つまり、バラムドの解放準備が出来たということですね?」

「はい」


直哉はソエルハザーに、

「大変長らくお待たせしました。後は実行するだけです」

ソエルハザーは震えていた。

「直哉さん、このままお願いします」

「何を言っているのですか? 俺の仕事はやりますが、この開始の合図はソエルハザーさんがやらなくてはいけませんよ」

「むむむむ、無理ですよ。私にその様な大役は務まりませんよ」


直哉はソエルハザーの頬を叩いた。

「バザール17世が何を言っているのですか! 民達はバザール商会の元に集まったのですよ! あなたの商会の元に! それを無視するのですか? 自覚してください。これだけの民達が、あなたを頼ってきているのですよ! あなたの両肩にはここに集まった全ての民達の未来を背負っているのです! だから・・・」

そこまで言うと、ソエルハザーの顔つきが変わった。


「直哉さん。ありがとうございます。おかげで目が覚めました。親父の次に良いビンタでした」

そう言うと、集まっている人々の前に出た。



「みなさん。よく集まってくれました。私がバザール17世、ソエルハザーです。今まで苦しむことしか出来なかったこのバラムドを今日で終わらせようと思います。新しいバラムドのために!」


「新しいバラムドのために!」

「ワンフォーオール! ワンフォーオール!」


このバラムド解放に集まった人々も、ワンフォーオールを連呼して士気を高めていった。


「全軍! 解放せよ!」

ソエルハザーの号令によって、バラムド解放作戦は幕を開けた。

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