第百四十九話 クエスト 鳥の卵を護ろう
◆次の日
「この辺が最初のクエスト《鳥の卵を護ろう》のポイントだな」
みんなは木の上の方を見ながら、
「何も居ないですね」
「鳥どころか、獣そのものが居ませんね」
(この周辺は何か特別な空間になっているな)
ラリーナが近づいてきて、
「直哉、気付いているか?」
「うん。何か特別な空間になっているね」
「やはりそうでしたか」
「ですが、空間から出る時には、足止めされるような事はありませんでした」
「さっきまで、何も感じなかったのに、今はあの奧から複数の気配を感じるの!」
リリが指し示す方向へ、みんなで進んだ。
◆鳥の卵を護ろう
光の扉をくぐると、そこには草原が広がっており、入り口の近くには三メートルほどの大きなダチョウのような生物が待っていた。
「良く来た旅の者よ。そなた達が我が卵を護る者だな?」
「はい」
「敵は四方八方からやってくる。全ての迎撃が終わったら、褒美を渡そう。では、頼んだぞ」
そう言うと、大きなダチョウの様な鳥は卵の上に座り、その身を盾にした。
(まさか!? ここで、非戦闘員を抱えたまま防衛戦をするって事か?)
「戦闘になります! ソエルハザーさん達は安全圏まで離脱してください」
第一波が襲いかかってきたのは、直哉がそう叫んだ時だった。
「ゲゲゲゲゲ」
まずは、ゴブリンが50体。周囲を取り囲みながら襲いかかってきた。
「よわよわなの!」
「ふん! 話にならん!」
リリとラリーナの活躍で第一波は軽々と撃退する事が出来た。
鳥の傍にソエルハザーさん達が戻って来おり、
「すみません。外に出られませんでした」
と、頭を下げてきた。
「わかりました。ソエルハザーさんと、ガスパーテンさん、そして、アイリさんは鳥の傍へ、フィリアとマーリカで卵と共に護衛を、自由の風さん達は俺の指揮下へ入ってください」
「お願いします」
ソエルハザーさんはフィリアに頭を下げた。
サースケが直哉に、
「私達は、どう動きましょうか?」
「俺から指示が無い限りは自由に動いて、卵を護衛してください。ただ、うちのメンバーと攻撃範囲を被らないようにしておいた方が良いですよ」
「わかりました。みんな、よいね?」
「了解っす」
「おで、わかる」
「期待していてね」
自由の風達は直哉達とは反対側を護る様であった。
その後、オーク、サーペント、サーベルタイガー、オーガ等が続き、最後にエイプ達がやってきた。
「次が最終ウエーブです。現在の卵のダメージは3%です」
エイプ達は、エイプキング1体、キラーエイプ4体、エイプ25体の計30体が近づいて来ていた。
「今度は、おサルさん達なの! でも、今までお肉が無いの、やる気が出ないの!」
いまいちやる気の無いリリにラリーナが、
「ほら! 文句を言ってないで殺るよ?」
「はーいなの」
「直哉! 小さいのを頼む。私とリリで一番大きいのは殺っておく」
ラリーナはそう叫ぶと、フィリアからの加護を受けてから突撃した。
「リリも行くの!」
二人が飛び出したのを見て、
「リリ達が大物の相手をしている、フィリアとマーリカはここで卵の防衛と俺たちへの援護を、エリザとセイーカさんでエイプの数を減らして! サースケさんとサーイゾーさんとコスーケさんでキラーエイプの足止めをお願いします。俺がエイプの足を止めます」
「了解!」
直哉の指示で戦闘体勢を取った。
「マーリカ、エイプ達の侵攻状況は?」
マーリカは大地に手をつけて、
「土遁! 音地波上!」
周囲の土から振動をキャッチする忍術を使った。
「ラリーナ様が突撃した方向以外の方向から、周囲を取り囲んでいます。距離は近いところで100メートル」
「エリザ、セイーカさん、近い敵から処分していく、同じ位の距離に敵が複数居る場合、今見ている方角の右側から倒していくぞ!」
「わかったのじゃ!」
「わかりましたわ」
エリザは通常の弓を取り出して、近くの敵を攻撃し始めた。
セイーカも負けじと矢を放っていた。
「遠距離攻撃来ます!」
マーリカの警告に、
「フィリア! 俺達とフィリアの間に光の壁を立てて卵を護ってくれ。俺達は攻撃を続行する」
「わかりました。天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に敵よりの攻撃を防げ!」
光の魔力が溢れ出す。
「プロテクションフィールド」
鳥と卵、そしてソエルハザーさん達を光の壁が包み込んだ。
「戒めよ! エンジェルフェザー!」
さらに、直哉達の周囲に羽根を飛ばして、防御陣を形成した。
「フェザーにもプロテクションフィールドを小さく展開しています。それを上手く使ってください」
フィリアの説明に、
「助かる」
「そんな事言われても」
直哉達とサースケ達で返事が異なった。
(まぁ、仕方がないか)
「マーリカ、サースケさん達を重点的に護ってやってくれ」
「承知いたしました」
「さて、久しぶりに突っ込みますか」
「直哉様!? マリオネットを使うのでは?」
「もちろん使うけど、サースケさん達に無理して貰ってるからね、一気にカタを付ける」
フィリアは祈りながら、
「ご武運を!」
「ありがとう」
直哉はマリオネットで防衛網や剣と盾を展開して、エイプ達に斬りかかって行った。
「まずは、防衛網と火炎瓶、冷凍瓶だな」
いまだ、エイプ達と距離があったため、防衛網で行動範囲を狭め、集まってきた所に火炎瓶や冷凍瓶で殲滅を始めた。
「ウキキ!」
「キキー!」
「ウッキー!」
エイプ達は阿鼻叫喚で逃げ回っていた。
(このまま、終わってくれれば良いのだけど、無理だよな)
数匹は火炎瓶、冷凍瓶で倒れたが、その後は防衛網を破壊しながら進んできた。
「なんてバカ力何だよ! 四重にしたのにそれでも破壊出来るのかよ」
悪態をつきながら飛ばしていた剣と盾を使い、防衛網の代わりに行動範囲を狭めようとしたが、
「やっぱり、マリオネットじゃあの怪力を防ぐのは無理だよな」
マリオネットの動きでは、止める事が出来なかった。
「そんな訳で、突っ込む!」
直哉は剣と盾を構え、エイプの群れに突撃した。
「直哉殿!」
「直哉さん!」
エリザとセイーカが直哉に矛先を向けたエイプ達に向けて矢を放ち続けた。
「ぐっ、うりゃ!」
エイプの腕での攻撃を盾で受け止め、剣での横斬りで倒す。
「よっ、とぅ!」
背中側から振り下ろされた腕を回避して、急所攻撃で倒す。
「でりゃ!」
数体来た時は横斬りで一気に倒す。
ソエルハザーは呟いた。
「凄い。まるでお手本の様な戦い方ですね」
エリザとセイーカもエイプに矢を当てていき、エイプを全て倒しきった。
「ふぅ、何とかなりましたね」
「直哉様、お身体は大丈夫ですか?」
「うん。今のところ痛いだけだし、その内回復するよ」
と、身体を金と銀の交互に輝かせながら言った。
(あちこち、打撲と擦り傷だな。泣きたいくらい痛いけど、骨が折れたりはしてないから、大丈夫だろう)
「それよりも、他の戦況はどうなっているのだろう?」
「リリ様達の戦いは終わり、現在サースケ様達と共にキラーエイプと交戦しております」
直哉は歯を食いしばりながら、
「助けに行き!!! っぐ!」
フィリアに掴まれ、痛みで最後まで言う事が出来なかった。
「この様な状態で行っては、リリ達に負担を掛けるだけです。エリザさんとセイーカさんは援護をお願いします」
「わかったのじゃ」
「こっちは、任せておきなさい」
そう言って、援護する位置を探しに行った。
「まったく。直哉様はもう少しご自愛ください」
「ごめんなさい」
直哉はその場に座り込んだ。
フィリアはそんな直哉の身体に回復魔法を使い癒していった。
しばらく回復に専念していると、卵の上にいた鳥が話しかけてきた。
「おめでとうございます。クエスト《鳥の卵を護ろう》をクリアーしました。成功報酬は参加した全員に《幻獣の羽根》をプレゼントします。さらにMVPには、《幻獣召喚:鳥》をプレゼンとします」
と、システム的な話しをした後で、周囲が揺らぎ始めた。
「こ、ここは?」
辺りを見まわすと、光の扉があった地点へ戻されていた。
「元の場所ですね」
そう言って、マーリカは足下にあった忍具を拾い上げた。
「それは?」
「一度出た時に、位置の確認用に置いて置いた物です」
「なるほど」
「あれ? お兄ちゃんが座って治療を受けてるの?」
「どうした、直哉? やられたのか?」
その後ろから、サースケとサーイゾーがコスーケに肩を貸しながらやってきた。
「あら、直哉さんもやられたのですか?」
「はい。エイプにタコ殴りにされました」
リリとラリーナが心配して直哉の身体を触ってきた。
「もう大丈夫だよ。フィリアが癒してくれたし、リジェネもかかってるし」
「それでも、心配なの」
「毎回、直哉はやられているな」
リリとラリーナの言葉に、心の傷をえぐられながら、
「そうだね、流石に魔物相手だと、トリッキーな俺の戦い方では効果が薄い」
「でも、元の戦闘力は高いよな?」
そこへ、ソエルハザーが声を掛けた。
「それは、仕方がありませんよ。あれだけの数をこちらに来ないように一人で壁役をしていたのですから。それよりも、クエスト報酬? とやらで、アイテムを貰ったのですが、我々も貰ってしまっても良いのですか?」
「そういえば、手に入りましたね」
直哉はアイテムに加わった、《幻獣の羽根》を見ると、
幻獣の羽根:幻の獣からとれた羽根。武具作成の際、素材として使うと速度が上がる。
(へぇ。防具ならその部分の速度が上がり、武器なら攻撃速度が上昇か、なかなかの素材だな。あとは、その上昇値が問題だけどね)
「問題無いですよ。武具作成用の合成素材として使っても良いし、アクセサリーとして使っても良さそうですね」
ソエルハザーはかいてもいない汗を拭きながら、
「そ、そうですね。この羽根のアクセサリーがどのようになるのかは、想像もつきませんがね」
「そう言えば、《幻獣召喚:鳥》って何ですかね?」
ラリーナは懐から笛を取りだして、
「それは、恐らくコレだろう」
「し、召喚獣になるのかな?」
「とりあえず、吹いてみるか」
ラリーナは取りだした笛を吹いた。
ピー!
音域の高い音が鳴り響いた。
クエストの時の様な光が溢れだし、その中に先程のダチョウの様な鳥が現れた。
ただし、体長が五メートルと大きくなり、さらに眉毛が三倍ほどの太さがあり、色も真っ黒で物凄い濃い顔の鳥だった。
「おっ? お前さんが、母ちゃんと子供を護ってくれた奴だな」
みんな固まっている。アイリは白目をむいて倒れていた。
「おーい!」
ダチョウがラリーナを触ろうとすると、
「はっ!何をする!」
バキッ!
「アウチッ!」
ラリーナの拳がラリーナを触ろうとしていた嘴を捉えて吹き飛ばした。
「あっ!」
それを見てみんなは再起動した。
「だ、大丈夫ですか?」
「なかなか激しいアプローチだね。刺激的すぎてクラクラするよ」
(それは、物理的なダメージだよ)
「それで? どこへ行きたいのかな? どこへでも運んでいってあげるよ!」
「どこへでも?」
直哉が反応した。
「そうそう。どこへでもさ。でも、男はお断りさ」
「何だって?」
「そりゃそうさ。どうせ乗せるなら、尻の固い男より、尻の柔らかい女に限るよ」
キラリんと、男前の笑顔を見せた。
「・・・・・」
ラリーナはプルプルと震えて、
「こんなもの要るかー!」
と、笛を投げ飛ばした。
笛は遠くへ飛んだ後、何故かラリーナの手の中に戻って来ていた。
(呪いのアイテムか?)
「こ、こんなもの・・・・」
そこへ、リリが飛びついて、
「リリ、乗ってみたいの!」
「えっ?」
みんなの視線を集めた。
「リリ、アレに乗ることになるのよ? 本当に良いの?」
「うん。リリ乗ってみたい。ラリーナお姉ちゃん。駄目?」
ラリーナは困った顔で直哉を見た。
「どうする?」
「良いのでは? リリ本人が乗りたいって言っているのだし」
「わかった。じゃぁ、リリ乗ってみなさい。そして、鳥! もし変な事をして見ろ、今日の晩飯にしてやるからな」
「・・・・・」
召還獣は怯えながら、
「俺を食べても美味しくない、というか食えないだろう」
「じゃぁ、乗るの!」
リリがそう言うと、
「よし、ドンと来い!」
召還獣は尻の感触を待った。
「とぅ!」
「えっ!?」
リリは召還獣の背中に飛び乗り、そこに立った。
召還獣の首を掴み、
「さぁ、走るの!」
と、ぎゅっと力を入れた。
「ぎょえぇぇぇぇぇぇ」
召還獣は言葉にならない叫び声を上げながら、森の中を走っていった。
「あんな扱いで良いのかな?」
直哉がつぶやくと、そこへ卵を護っていた鳥がやってきた。
「よいのだ。あれはあれで」
「あれ? さっきの」
その鳥の傍には小さな鳥がくっ付いていた。
「もしかして、その小さな鳥が、さっきの卵ですか?」
「えぇ。おかげさまでちゃんと産まれましたよ。感謝します」
「そうでしたか。本当に良かった」
「ぎょえぇぇぇぇぇぇ」
直哉達は森に木霊する叫び声を聞きながら、助けた鳥の親子と親交を深めていた。