第百四十八話 ビッグクロコダイル戦
「来るぞ! 全部で三匹!」
「さっきより少ないの!」
「そのかわりにでかいぞ!」
ラリーナの叫び通り、三匹とも先程リリが戦った個体よりも、さらに巨大な身体をしていた。
「おっきいの! お肉が食べ放題なの!」
リリは狂喜乱舞しながら一番大きい個体に飛び込んで行った。
「ちぇっすとー」
そこへ、両脇に控えていたワニ達が口を開き、
「ギー! ギー!」
と、粘着液を飛ばしてきた。
「うぇっ!」
流石のリリも回避することが出来ずに直撃した。
「リリ!」
「あの猪突猛進娘!」
直哉はマリオネットを使い、盾や防衛網を飛ばしてリリとワニ達の間に物理的な壁を作り上げた。
その壁の合間をぬってラリーナがワニ達に攻撃を仕掛けた。
「リズファー流奥義! 天空斬!」
闘気の塊を飛ばして、鋭く切り裂く技。
両脇のワニ達は下がり、巨大なワニが立ち塞がった。
「何? まさか、受け止める気か?」
天空斬が到達する前に、巨大なワニが口を開けて、叫んだ。
「ギー!」
膨大なエネルギーが放出して、天空斬を飲み込んだ。
「ばかな!」
周囲を警戒していた直哉は、
「バラバラに突撃しても駄目だ! ラリーナはそのまま牽制を、フィリアはリリの救出を、マーリカはラリーナの援護を、エリザはアイリを預けて戻ってきしだいワニ達を串刺しにして!」
「了解!」
直哉は、周囲に防衛網を展開させて、ワニの行動範囲を狭めると共に、突破されれば気付けるので索敵を兼ねていた。
「土遁! 土石波壁!」
マーリカの忍術により、小さい方二匹の周囲に土壁が出来て移動を防ぎ、視界を防ぐと共に、遠距離攻撃を防いでいた。
「ギー! ギー!」
二匹のワニは、尻尾での攻撃や体当たりを繰り返して土壁を壊そうとしていた。
マーリカはさらにMPを忍術に使うために練り込んだ。
「はぁ!」
小さい方のワニが無力化されたのを見て、ラリーナは大きいワニに斬りかかった。
「ギー!」
ワニは迎撃体勢を取り、いつものように護衛の二匹に合図を送った。
しかし、周りの二匹は土壁に阻まれ、大きなワニを援護することが出来なかった
「おりゃあ!」
ラリーナは通常攻撃で殴りかかった。
ワニは顔に来た攻撃を、前に出るとこで固い背中の鱗で受け止めた。
ガン!
「ギッ!」
攻撃を弾き尻尾で薙ぎ払いをかけてきた。
「ふっ!」
ラリーナは後ろへ飛んで回避した。
そこへ、ワニが口を開けて先程の衝撃波を撃とうとしているのが見えた。
「させません! エンジェルフィスト!」
リリを回収し終えたフィリアの光魔法が、ワニの開いている口へ殺到した。
「ギーー!」
口の中で光り魔法が炸裂したが、ダメージは軽微のようであった。
殺気がフィリアへ向けられると、
「お前の相手は、私だ!」
ラリーナがワニに近づき、長巻を振り上げて、闘気を練り上げていた。
「リズファー流、奥義! 大地割り!」
長巻に溜まったエネルギーを振り下ろした。
「ギ!?」
ワニは目を大きく見開いて、驚愕の表情を浮かべたが直ぐさま迎撃を開始した。
「ギー!」
身体を回転させ、尻尾での薙ぎ払いを強引に行った。
ザン!
「ギーー!」
直撃を尻尾で押さえようとしたが、ラリーナが勝利し尻尾を吹き飛ばした。
「ふん!」
更に攻撃を続けるラリーナは、切断した尻尾の切断面を攻撃していた。
「ギッギッギー」
流石にダメージが通るようで、苦痛の悲鳴を上げていた。
小さい方の二匹は、ようやく壁の破壊に成功し大きいワニを助けようとした時、マーリカの新しい忍術が炸裂した。
「土遁! 埋土砂葬!」
ワニ達の足下が崩れていき、蟻地獄のようになった。
「ギ?」
「ギ?」
ワニ達は混乱しながら、もがき、地上へ脱出しようとしていたが、やがて完全に土の中に沈み込んでいった。
「恐ろしい術だな」
それを見ていた大きなワニは、
「ギーーー!」
覚悟を決めたようで、ラリーナに向き直って攻撃をするために大きく口を開けた。
「むっ、衝撃波か!?」
ラリーナが避けるために両足に力を入れると、
ズドン!
大きなワニを中心に大きな衝撃が走った。
「何だ?」
それは、ワニの口を貫き地面に縫い付けているエリザの槍であった。
「エリザか!?」
ラリーナはトドメをさすべくワニに近づき、
「リズファー流! 大地割り!」
ワニの首を斬り飛ばした。
「ギー! ギー!」
沼から悲痛な叫びが聞こえて来てはいたが、
「納得がいかぬなら、かかってこい!」
ラリーナは長巻を構え直し威嚇した。
その頃、後方に下がった商人達の方には、最初に偵察に来ていたワニ達が数を揃えて包囲しようとしていた。
(むっ? 遠方の防衛網が突破された、この順番で行くと後方の商人達の方へ行きそうだな)
直哉は後方にいるマーリカを見て、
「マーリカ、商人達の方には忍びはいるの?」
「はい。男女二名ずつ待機しております」
「そっちに、ワニ達が向かっているって注意してくれる?」
「か、畏まりました」
その連絡を受けた忍びは、
「サースケ様、ソエルハザー様、直哉様より連絡です。こちらにワニの集団が直哉様達を迂回しながら包囲しようとしているそうです」
「ふむ、正確な数と位置はわかりますか?」
「大まかには感じ取れるのですが、正確な数や位置は私達の力では足りないようです」
サースケは、
「サーイゾーは周囲の警戒を! 正確な位置情報を頼む」
「わかったっす!」
後ろでリリの汚れを落としていたセイーカに、
「セイーカはどのくらいで終われる?」
「もう少し、忍びのカタに手伝って頂いているので、意外と早く終わりそうです」
「終わったら、教えてくれ」
「はーい」
最後にコスーケを見て、
「コスーケはここでワニを食い止める」
「おれ、わかる、まもる、ここ」
コスーケはサーイゾーと連携して近づこうとするワニ達を迎撃していた。
「おら!」
ブン!
「そりゃ!」
ブォン!
もの凄い音が周囲にこだまする。
「ギー!」
不用意に近づいたワニ達は、一撃のもとに撃破され、その屍をさらしていった。
「ギー! ギー!」
ワニ達は、聞いてないよ、と、言わんばかりに叫んでいたが、偵察していたサーイゾーや、遊撃していたサースケによりその数を減らしていた。
しばらく撃退していると、ワニ達は一斉に反転して、沼へ逃げていった。
「ふぅ、やっと終わったか」
「おで、つよい」
撃退に成功し、ホッと一息つこうとしていた所に、
「まだ、気を抜いてはいけません!」
と、セイーカが矢を放っていた。
「ギー!」
矢は、上手く目に突き刺さり大ダメージを与える事に成功した。
「ふん!」
目を射貫かれ、ジタバタしているワニにコスーケは力任せに斧を振り回して攻撃して、その首を吹き飛ばしていた。
「助かった」
「おで、やった」
二人がセイーカの方を見ようとすると、
「だから、終わってないっす」
サーイゾーからも叱咤が入った。
サーイゾーの方からは、最初に偵察に来ていたワニが子分を連れて戻って来ていた。
「ギー! ギー!」
「別働隊の隊長さんのお出ましだ」
そう言って、サースケ達の方へ走ってきた。
「コスーケ! 前に出てワニの突進を止めろ!」
「おで、わかる、止める」
そう言って、一歩前に出て、斧を構えた。
「ギー!」
ワニは始めから口を開け、粘液を飛ばしてきた。
「ネバネバなの!」
ようやくネバネバから脱出したリリが、叫んでいた。
コスーケは斧を振るって粘液を弾いていたが、周りのワニ達からも粘液を飛ばされて、コスーケは動きが鈍くなっていった。
「このっ!」
「うりゃっす!」
「せぃ!」
サースケ達も懸命に攻撃をしてワニ達の攻撃を散らそうとしていたが、ワニ達は必要にコスーケを攻撃していった。
「このままでは、コスーケがやばい」
サースケが何とかしようとしていたが、コスーケは段々呼吸が出来なくなっていった。
「う、うぐ、ぐ」
そこへ、
「ちょっと痛いけど、我慢するの! 大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏しこの大地を震撼させよ!」
リリの魔力が一気に溢れ出す。
「バーストトルネード!」
コスーケを中心に風魔法が炸裂した。
「う、ぐ、ぐ、・・・ぷはっ!」
コスーケを覆っていた粘液の膜は完全に吹き飛んで、新鮮な空気を吸って呼吸が安定していた。
「お、おぅ」
「だ、大胆っすね」
サースケ達は引いていたが、
「あ、あぢがどう」
コスーケはリリに礼を言っていた。
「さぁ、ここから反撃なの!」
リリは両腕をグルグルと回して魔力を練り上げていった。
「もう、同じ失敗はしないの!」
ワニ達は先程の魔法の威力を見ているので、リリが魔法を唱えようとしているのを確認して、それを妨害しようと粘液を飛ばしてきた。
「ギー! ギー!」
「よっと、ほっと」
リリは器用に回避しながら詠唱を続けていた。
「ギー!」
「ギー!」
ワニ達が意思疎通をして一気にリリに放出すると、
「舞い散れ! サクラ!」
各種属性付与した花びらが、粘液を、吹き飛ばしたり、洗い流したり、蒸発させたり、土で防いだりしていた。
「な、何だ?」
「なんすか、あれ?」
「綺麗」
「あで、ほしい」
サースケ達がリリのサクラを見て驚きの声を上げていた。
全ての攻撃をサクラによって防ぎながら、魔力を練り上げていった。
「氷を司る精霊よ、我が名の下に集いその力を示せ! 我が名はリリ。ここに集いし精霊に命ずる! 目の前に広がる色彩豊かな世界を白銀に変えよ! 全ての動きを止める輝きを!」
膨大な魔力が周囲を白く染め上げる。
「アブソリュートゼロ!」
リリのナックルから放たれた氷の魔法は、目の前のワニ達全てを飲み込んだ。
ピキピキピキピキ
周囲の温度がぐんぐんと下がり、ワニ達の動きはその生命活動と共に停止した。
「終わったの! 冷凍保存なの!」
リリはかなりの量の肉を手に入れたので、上機嫌であった。
そこへ、直哉達も合流して、
「おぉ、こっちも終わっていたか」
リリは無い胸を誇らしげに反らしながら、
「うんなの! 全部冷凍保存したの!」
と、どや顔であった。
直哉はアイテムボックスに全てのワニを仕舞い込み、
「これで、当面の肉の心配はありませんね」
「バルグフルで売りに出しても良いですかね?」
「バラムドへ持って行って、売るのも一つの手ですな」
思い思いの事を言っていると、
「駄目なの! リリが食べるの!」
またもやカオスな空間になりつつあった。
「とにかく休憩しますか。沼からワニ達がこちらを伺っていましたが、死体を全て回収したら、その姿が見えなくなりました」
「諦めたのか?」
「それならば、良いのだけど」
「まぁ、考えても始まらないので、警戒は怠らずに休憩しましょう」
直哉の一声によりその場で休憩となった。
サースケが傍にやってきて、
「これからどうしましょうか?」
「ワニをこのままにしておくと、職人達に被害が出そうですね」
「お兄ちゃんの魔物が入れなくなるやつは、使えないの?」
サースケは驚いて、
「何ですか? それは?」
「安全地帯というアイテムで、囲った部分に魔物が発生しなくなるという物です」
「そんなアイテムがあるのですか!?」
「えぇ、ですが・・・」
直哉は少し考えて、
「あれは、自分の領地にしか使えなかった気がする」
と、『安全地帯』を取り出した。
試してみると、
「やっぱり無理だった」
「残念なの」
リリは肉を齧りながらガッカリしていた。
(何か良いアイテムは無いかな)
鍛冶スキルを発動させ、使えそうなアイテムを探していた。
「ご主人様。壁を造るのでは駄目なのでしょうか?」
「それより、高いところを通すのは駄目なのか?」
「そうだね、それが良いかな」
直哉は沼の水位を下げ簡単に上がってこられないようにした後で、さらに壁を設置して乗り越えるのを妨害するようなものを想像していた。
「うん。そうしよう」
直哉は、沼の周囲を調べ始めた。
(問題は範囲だよな、沼を全て囲うのは資源の無駄だよな。それに、沼の水位を下げる工夫をしないと簡単に上がってこられてしまうな)
それを見ていたサースケは、
「休むのではなかったのですか?」
と、ぼやきながらも直哉の手伝いをしてくれていた。
(あの沢に沼の水が流れているから、その川を深くすれば沼の水位は下がるかな?)
直哉はマーリカを呼んで、水路を拡張してもらった。
「よし! 水位が下がっていってる。この調子で下げていこう」
マーリカに水路を任せ、壁作りにせいを出した。
(石造りの壁で、近づけないようにすれば大丈夫かな)
「ご主人様。橋をお願いします」
マーリカが川を拡張したので、危険度が増したため、渡るための橋をかけることにした。
もちろん、石の壁で登って来られない様にするのを忘れずに処理した。
「これだけやっておけば、大丈夫かな?」
「職人達には連絡を入れておきます。問題があれば、呼び出してもらう様にしておけば大丈夫だと思います」
マーリカの提案に、
「わかったそれで行こう。頼めるかい?」
「はい!」
その後、しばらく休憩して英気を養った。