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第百四十七話 森の中の沼

◆次の日


アイリに身体を貸していた直哉は、身体中に凝りを感じていたので、フィリアに解して貰っていた。

起きてきたサースケ達は、

「見回りの時に何をしているのですか?」

と、呆れられていた。


朝食を済ませ、眠ってしまっているアイリをエリザに任せて、昼飯用に移動しながらつまめるホットドッグもどきを大量に作り、冷たいお茶を入れた水筒を用意した。

「これならアイリさんが目を覚ましても、そのまま食べられるでしょう。大量に作ってありますので、皆さんも食べたくなったら遠慮無く言って下さい。直ぐさま熱々のホットドッグを出しますから」

そう言って、アイテムボックスの中に仕舞い込んだ。


コスーケは新しく造ってもらった鎧を装着して、歩き出していた。

フルプレートアーマーの改造型で、全身を金属で覆っているのだが、関節部分や折り曲げて使う部分に、強度を落とさずにある程度自由に変形する金属を使用していた。

「こで、すごい、うごく、らく」

「昨日の段階でコスーケさんの癖が何となくわかりましたので、それに対応してみました」

コスーケは走ってみたり、斧を振り回してみたりしながら歩いてみて、鎧が動きを制限していない事に驚いていた。


「羨ましいっす」

サーイゾーがぼやいていた。

「欲しいのなら、サーイゾーも頼めば良い」

「おれっちは、金の貸し借りや、タダで貰う事は嫌いっす」

サースケとサーイゾーの会話にセイーカが混ざった。

「それなら、お金以外で直哉伯爵と取引すればよいのでは?」

「それっす! あー、でも何が欲しいのだろう?」

「そうねぇ、女性は間に合っているみたいですし、料理も勝てる自信はありません。物作りにしても直哉さんの方が数段上手ですわ」

「そうなんっすよね。やっぱ、ちゃんとお金を貯めて買おう」

サーイゾーが新たに心に誓うと、気を引き締めた。




しばらく進むと、地面がぬかるみ始めた。

「この辺りは、川でもあるのですかね? 空から見た時は発見出来なかったけど」

そう言いながら歩いていると、だんだんと水位が上がってきた。

「川と言うよりも、池だな」

「いや、沼っぽい」

「まさか、底なし?」

直哉は沼に木が生えている事を確認しながら、

「いや、森の中で水が溜まって池みたいになっただけだと思う。水の中から木が生えてるし、お陰で周囲は薄暗いままだな」

沼を突っ切るには広すぎるので、

「あまり、沼に浸かりたくはないので、迂回路を探しましょう。それと、職人達にこの事を伝えないと、この沼地を突っ切ることになるな」


ソエルハザーは大きな沼を見ながら、

「父上達はどのルートで来たのだろう?」

「バールハザーさん達は、バルグへ続く街道を進んだ後で、バルグフルの方へ曲がったと言っていたので、もっと来たのほうを通過したと思います」

直哉はバールハザーから聞いていた事を伝えた。

「なるほど。それで、わたし達はどちらへ行きましょうか?」

「とりあえず、南のほうを探索しましょう」


直哉達は、沼を回避するために大きく迂回していると、

「直哉、水の中に何か居るぞ!」

「だよね、しかも多数いるね」

「殺るの?」

逸る気持ちのリリを押さえながら、

「まずは、非戦闘員たちの安全の確保からだよ」

「わかったの」


リリが落ち着いたのを見て、

「ソエルハザーさん、水の中に何か居るので、戦闘になる可能性があります。ソエルハザーさん達は自由の風の皆さんと共に少し離れていてください」

それを聞いたサースケが、

「私達も下がるのですか?」

「はい。敵が水の中だけとは限りませんので、サースケさん達はソエルハザーさん達の護衛をお願いします」

「了解した」


自由の風とソエルハザーさんが下がり始めると、獲物を逃すまいと、水の中から大型の生物が現れた。

「ビッグクロコダイルだ!」

巨大なワニ達が襲い掛かってきた。

「意外と速いぞ!」

リリとラリーナが前に出て、直哉とフィリア、そしてマーリカが少し後ろへ下がった。

エリザは、アイリを背負っていたので、ソエルハザー達と共に後退していた。

「向かってきているのは、五匹!」

「一番大きいのは貰うの!」


そう言って、五匹の中で、一際大きい個体に飛び込んで行った。

口を開けると、リリを丸飲み出来る大きさで、リリが飛び込んで来るのを待ち構えていた。

「よし、リリのお陰で、大きい奴と他の四匹の隊列が崩れた! まずは一つ!」

ラリーナはリリを回避したワニ達を迎撃した。


周囲を警戒していた直哉は、

「やはり、別の場所からも出てきているな。マリオネット!」

剣を放出して別動隊を串刺しにしようと突き立てた。


ガン!


「かた!」

直哉の攻撃は固い鱗に防がれていた。

「マリオネットだと背中の鱗は無理か! それならば!」

マリオネットを操作して顔の部分に剣を集めて突き立てた。


「ギャウン」

犬のような叫び声を上げて、沼地の方へ逃げ出した。

「何だ?」

周囲を見渡すと、他のワニ達も同じように逃げ出していた。


「こら待てー! 肉待てー! 待てったら待つのー!」

沼の方からリリの叫び声がこだました。

「あっちのも逃げ出したのか。どういう事だ?」

リリ達と合流して沼を見ると、沼の中でこちらを伺っているワニ達を、見つける事が出来た。

「こっちを警戒して見ているな」

ラリーナは長巻を構え直して、

「また襲ってくるのであれば、追い払うまでよ」

フィリアとマーリカが、

「だけど、これだけの生物がいるのであれば、職人達に連絡して進路を変えてもらうしかないですね」

「そうですね。この沼を干上がらせれば対応は変わりますが、無理に生態系を変える必要は無いですよね」


マーリカに職人達と連絡を取ってもらうと、

「沼の最北端と最南端を調べて欲しいとの依頼を受けたのですが、如何いたしましょうか?」

「俺とリリで、さくっと行ってくるよ。みんなは安全な地点まで待避していてくれる?」

「それでは、南の方へ移動しておきます」

「よろしく」


リリは嬉しそうに、

「やったなの! お兄ちゃんと二人でお出かけなの!」

何故そう思うのか不思議に思いながらも、

「じゃあ、リリはどっちに行く?」

リリは驚愕の表情を浮かべ、

「えっ? 一緒に行かないの?」

「一緒に行ったら、二人にした意味無いし」

「ぶーぶーなの」

無茶苦茶ふて腐れていた。


「昨日からお兄ちゃん不足なの! ぶーぶーなの!」

リリがふて腐れていた原因がわかったので、頭を撫でながら、

「そっか、でも、森を抜けるまでは辛抱して貰わないと厳しいよ。森を抜ければ、いつもの建物を建てるからさ」

「絶対なの!」

(フィリア達は何も言ってこないけど、きっと、リリと同じように考えているのだろうな)

直哉はそう考えながら北側へ飛んでいた。


リリの方は十数分で最南端を発見して、直哉が渡していたマーカーをセットした。

(予想以上に早かったな。こっちはもう少しかかりそうだ)

森の中を飛ぶのにはかなり神経を使うので、中中は焼く進めないのも時間がかかる原因でもあった。

(ん? 森が明るくなってきたな)

周囲の木々の間隔が広くなってきて、所々で木漏れ日があり、周囲を照らしていた。

(ようやく最北端だ。ほとんど森の終わりだな)

直哉はマーカーをセットして、合流地点へ急いだ。



合流地点は最南端であった。

「早かったのだね」

「こっちが近かったの」

直哉達の情報を職人達に伝えて貰うと、

「南側のルートは森が終わるのにどのくらいかかるのかを聞いて来ています」

「まだ、わからないよ」

「わかったら、連絡して欲しいとの事です」


「森の大きさを知るだけなら、上から見てみますか」

直哉は垂直に浮かび上がった。丁度日の光を遮っている枝を通過しようとした時、枝に擬態していた鳥であった。

「えっ?」

「・・・・・」

直哉の声に目を開いたが、何事もなかったかのように目を閉じた。

(そのまま、行って平気なのかな?)

直哉は警戒を続けながらも、遮る菜っ葉をかき分けながら上がっていった。



そのまま森の上空へ抜けると、周囲を見渡した。

(うーん、北側と東側は終わりがわかるけど、西側と南側は森だな。北側は森が終わって草原が広がるのがわかるけど、東側にはかろうじて山脈が見えるくらいだよ。これは、結構な距離があるぞ。北側の草原もバラムド方面へ向かうのであればまた森に入る感じだな。このまま森のない場所を進むとバルグ方面に抜ける感じになるのか)

直哉はマップを開いた。

(この縮尺で考えると、これが一時間くらいだから、後二日くらいかな。というか、変な森の形だよな。北側の草原の辺りが、隕石でも落下したように綺麗に丸く削られているような感じだよな。何かあったのだろうか、もしかしてカソード時代に何かしたのかもしれないけど、全く思い出せないや)

その時、マップ上に青いエクスクラメーションマークが数カ所表示された。

(ん? いきなりなんだ? 緊急クエストは赤いエクスクラメーションマークだよな。今回は青か。つまり、ノーマルクエストだな。寄るべきか寄らぬべきか、悩むな)


マップを拡大していくと、

(ここは、ソエルハザーさん達を助けた場所だな。こっちは、ソラティアの最初の村? ここはバルグフルの町中? こっちはバルグフル海岸で、ここはバルグの街の中、うーん、至る所に表示されているな。ここからバラムドへ向かう途中には三カ所のマークがあるな)



青いエクスクラメーションマーク

 ノーマルクエストを示す。

 メインクエストや緊急クエストとは違い、やらなくても話を進めるのには問題のないクエスト。ただ、クエストによってはメインクエストや緊急クエストと繋がっている場合もあり、クエストの難易度が変更する場合もある。


黄色いエクスクラメーションマーク

 準備中のクエスト。

 他のクエストを始めると、場合によっては実行出来るクエストになるクエスト。

 今は特になし。バラムドへ到着したら、バラムド地方のクエストが解禁されるので、その時に表示されます。


赤いエクスクラメーションマーク

 緊急クエストやメインクエスト

 これは、やっておいて損はないクエスト。

 やらなくても話しは進むが、介入すればその方向へ話が進む。

 ドラゴンバルグ最大の目玉である、プレイヤーそれぞれの状況が反映されるシステムを堪能せよ。



(確かこんな感じだったよな。みんなのところへ戻って相談しよう)

直哉は元の場所へと下降した。

マーリカに森の事を伝えて貰うと、

「最南端の場所を教えて欲しいとの事です」

「教えられる?」

マーリカは何かを唱え始め、

「ここに私の身代わり人形を置いておきます。これで、忍びの方々には方角がわかります」

「つまり、この方角へやってくるのだね?」

「はい」

「それなら、問題は無いか」



直哉はその後で、リリ達に先程のノーマルクエストについて説明した。

「確かに、クエスト報酬は魅力的だが、現在の優先度から言うと、後回しが妥当だろうな」

「そうだよね。商人達や自由の風達が同行してなければ、寄り道もやぶさかでは無いのだけど」

「ここからバラムドへ行く途中の間にクエストはあるのですか?」

「数ヶ所あるよ」

「ちなみに、どの様なクエストがあるのじゃ?」


直哉はノーマルクエストを確認しながら、

「一番近いのは森の中にある、《鳥の卵を護ろう》で、次が森を出た所にある岩山の中で、《珍味! コモドオオドラゴンを撃破せよ!》。もう一つは、森とバラムドの中間地点にある村の中で、《犯人を見つけ出そう》だね」

「とりあえず、道なりに進んで、やれそうならやるって事で良いかな?」

「おう!」



そんなやりとりを聞いていたサースケは、

「中々不思議な会話をしているね」

「あっ、サースケさん聞いていましたか」

「私達にも話しておいてくれないと、いざという時の連携が取れませんよ?」

直哉は頭をかきながら、

「申し訳無い。ですが、これから話す事は荒唐無稽ですので、心しておいて聞いてください」

そう、前置きしてから、クエストについて説明した。



ソエルハザーは直哉の話を聞いて、

「何と! 直哉伯爵は神託を受けられるのですか?」

「神託っていうほど、大げさなものではありませんが」

「いえいえ、何を仰いますか!」

詰め寄るソエルハザーを躱しながら、

「そう言う訳で、進行方向にあるクエストをやれそうならやるという方向で進もうと思います」



そう言って、進もうとすると、

「直哉、そろそろお出ましのようだ」

ラリーナが警告してきた。

「ようやく、交戦する気になったという訳ですね。先程と同じように、ソエルハザーさん達はサースケさんの達の指示に従って下がっていてください」

「了解した」


商人達が下がるのと同時にワニ達が襲いかかってきた。

「お肉、きたー!」

リリのテンションが一気にMAXになった。

(リリが楽しそうなのは良いのだが、あのワニは肉を落とすのか? 魔物だったらドロップアイテムに期待するしかなくなるけど、どうなのだろう?)

そんな、どうでも良い事を考えながら、戦闘準備を始めた。

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