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第百四十六話 アイリとワンスケ

◆バルグフル冒険者ギルド


直哉はサースケ達を冒険者ギルドまで案内すると、そこにイリーナが受付をしているところを見つけた。

「イリーナさん、こんばんは!」

「あら、直哉伯爵。こんばんは、こんな時間に来るのは珍しいですね」

直哉は、後ろのサースケ達を紹介した。


「バラムドの冒険者、自由の風のサースケさんです。バルグフルの冒険者ギルドへ行きたいとの事でしたので、案内しました」

サースケは受付まで来て、

「直哉伯爵からご紹介に預かりました、自由の風のサースケです」

「これは、ご丁寧に。私はイリーナです。それで、本日はどの様なご用件でしょうか?」

「バラムドで受けた依頼の完了報告をお願いします」

「わかりました、それではギルドカードと依頼状をお願いします」

サースケは懐から依頼状を取りだし、冒険者カードを渡した。



イリーナが処理を始めると、サースケは直哉の方を見て、

「そうだ、直哉さんにお願いがあったのでした」

ギルド内を見ていた直哉はサースケを見て、

「何でしょうか?」

「明日、直哉さん達はバラムドへ旅立つのですよね?」

「はい。その予定です」

「よければ、ご一緒しても良いですか?」


「もちろん、構いませんけど?」

「では、私達もご一緒させていただきます」

「はい」

「では、明日、直哉さんの屋敷へお伺いいたしますね」

「それならば、本日はうちに泊まりますか?来客用の部屋が空いていますので」

サースケは喜んで、

「良いのですか?」

「お風呂を気に入っていただいているようですし、如何ですか?」

「こちらとしては文句なしの条件です」

「では、ギルドの処理が終わりましたら一緒に帰りましょう」


自由の風達は冒険者ギルドの処理を待ちながら、バルグフルに出ている依頼の内容を見ていた。

「こちらは、随分と討伐系の依頼が多いのですね」

「そうですね、街の外は四方全てに魔物や脅威となる生物が存在していますから」

「なるほど、それでリリさんはあれだけ強いのですね」

「まぁ、それだけではありませんが」

と、話しているうちにイリーナがやってきた。


「サースケさん、依頼完了の手続きが終了致しました。報酬は依頼主からとなっておりますので、そちらでご確認ください」

「わっかりました! ありがとうございます」

イリーナが事務的手続きを終え直哉に、

「本日はコレで終わりなので、一緒に帰りますか?」

「はい。では、裏口で待っています」

直哉はサースケ達を連れてイリーナと共に屋敷へ帰ってきた。




◆直哉の屋敷


入り口に笑顔なのにもの凄いプレッシャーを掛けているミーファが立っていた。

「直哉さん。何所へ行っていたのですか?」

「ちょっと、冒険者ギルドまで行ってました」

ミーファは少し安堵したようで、

「また、何も言わずに旅立たれたのかと思いましたよ」

直哉は首を捻り、

「無断で旅に出た事は無いですよ? 精々散策ぐらいです」


「はぁ、そう言う事にしておきます。ところで、後ろの方々はどうしたのですか?」

「本日、我が屋敷に泊まって頂こうと思いまして、連れてきました」

「そうですか、わかりました。お客様をご案内してくれるかしら?」

ミーファは、キルティング達に客間を案内させた。

その日は何事もなく過ぎていった。




◆バラムドへの道のり


直哉はリカード達に見送られ、二回目のバラムドへ向けて旅立った。

「今回は、整備しながらではなく、整備した道を通れるので早くつきそうですね」

「あぁ」

「でも、リリ達だけなら飛んで行けたの!」

「まぁ、慌てる必要もないし、ゆっくりと行こう」

そんな直哉達一向は順調に進んでいた。


「しかし、直哉さんの屋敷は画期的ですね?」

「そうですか?」

サースケは感心しながら、

「はい。見た事もない設備が多いし、便利な仕組みがたくさんあって、あの屋敷に住みたいと本気で思ってしまいましたよ」

「屋敷を褒めて頂きありがとうございます」


「そうそう、バールハザーさん達が新しく住む事になった家も、直哉さんの屋敷のような設備が揃っているのですか?」

「あの屋敷の簡易版が揃っています。風呂やトイレは同じ感じで、一階に食堂が無い代わりに、食事処を作ってあったり、外で調理出来るスペースを確保したりしています」

「室内では調理出来ないのですか?」

「調理スペースはありますよ。ただ、利用頻度は低いようです」

「何故ですかね?」

「みなさん、料理をする機会があまりなかったようで、作る人も自分たち用というよりは、近くの人全員用って感じで作っているようです」

「食材なんかは、どうしているのですか?」

「みんなで持ち寄っているみたいです」

「なるほど。普通の人にとっても住みやすくなっているのですね」


「気になりますか?」

「そうですね、バラムドの冒険者を辞めて、直哉伯爵の専属になろうかなって考えてしまうくらい魅力的です」

「俺のですか?」

「昨日、みんなで話したのですよ。バラムドは港町で魚の種類が多くて住みやすい街だったのですが、ここ数年は街の雰囲気が悪くなり、冒険者達も柄の悪い者が増えました。直哉さんの領地を見た時、これを機にバラムドの冒険者を辞めようと、そして、バルグフルを拠点に、もっと言えば直哉さんの領地で生活する冒険者になりたいと思いました」

「まぁ、我が領地に住むのであれば、犯罪などの経歴がなければ問題無いですが、みなさんもそれで良いのですか?」

「んー、おれっちは海の幸があればどこでも良いっす」

「私は、大賛成です」

「おで、美味い飯、すき」

「それなら、大歓迎ですよ。それで我が領地へ来るのであれば、このままバラムドへ行く意味はあるのですか?」

「バラムドで拠点にしていた家があるので、それを引き払いに行こうと思います。そこの荷物は、直哉さんのゲートを借りようと思うですが、良いですか?」

「なかなか抜け目がないですね」

「冒険者ですから」

そう言いながらバラムドへの道を進んでいった。



数日後



トンネルを抜けた直哉達一向は、森を開いているバルグフルの職人達に出会った。

「おぉ、直哉伯爵ではありませんか!? 手伝っていただけるのですか?」

「いや、今回は、こちらのバザール商会の方を連れてバラムドへ行くことになったのです」

そう言いながら、商人たちを紹介した。

「そうでしたか。今度は直接乗り込むのですね! 流石、直哉伯爵は何でもこなす事が出来るのですね」

職人たちの賛辞に照れながら、

「そういう訳では無いのですが」

「まぁ、それだけリカード王が期待していると言うことですね!」

「そういう事でしょうね」


直哉が職人たちと話していると、リリが暇を持て余した様で、サースケたちと実践さながらの鍛練を始めていた。

「では、頑張ってください。我々も直哉伯爵がバラムドとの交渉に成功したときのために、街道を整備してしまおうと思います」

「お互いに頑張りましょう!」

「はい!」

そう言って、リリ達の方を見ると、リリ、ラリーナ、エリザ、マーリカ、サースケ、サーイゾー、コスーケが鍛練をしていた。


「お待たせしました。ここからは、馬車が使えませんので、徒歩となります。荷下ろしをお願いします。また、バラムドまでは七日程の道のりがありますが、まぁ、何とかなるでしょう」

直哉の言葉にフィリアが周囲を見渡して、

「この辺りは、森が深いため、直哉様のコテージを作るのは難しくありませんか?」

「そうだね、コテージ系の家は無理だから、テントとかになるね」

リリとラリーナがワクワクしながら、

「おぉ! 冒険してる感じなの!」

「直哉と旅をする前の感覚だな」

はしゃいでいた。


徒歩で森を進んでいくと、途中でアイリがばててしまい、エリザに背負われていたが、商人の二人は平気な顔で歩いていた。

一日目は何事もなく野営地に着いた。

周囲の警戒にラリーナとマーリカ、そしてサーイゾーがあたり、テントを張るのにエリザとサースケが、調理を直哉とフィリア、そしてコスーケが作り始めた。


コスーケは大きな身体を小さくしながら簡易調理場に立ち、

「おで、料理、すき」

「私も料理は好きですよ。直哉様に食べて頂けるように美味しく作ります」

「おでは、おでが、美味しい」

直哉は少しくすぐったくなりながらも、

「それも、一つの形式ですね」

「そう言いながらも、直哉様の料理はみんなを笑顔にします」

「なべ、美味い、なおや、すごい」


直哉は先程の鍛練を思い出し、

「そういえば、身体は大丈夫でした? うちのリリがかなり本気で殴ってましたけど」

「おで、かたい、つよい、ちがう、もっと、かたい」

何となく、(俺は堅かったから強いと思っていたが、そうではなかった。もっと堅くなるには塔したら良いのか?) と聞かれているようだったので、

「うーん、鎧を装備しては如何ですか?」

「よろい? おで、でかい、よろい、たかい」

(よろいですか? 私は身体が大きいため鎧が高いから厳しいです)


「ふむ料金が高いか。そう言えば金属鎧は、近衛兵達にお揃いの鎧を造ったりしているから、ベースはそれを使うから簡単だな」

直哉がコスーケの鎧を考えているとサーイゾーが乱入してきた。

「おっ? 武具の話しっすか?」

「えぇ、先程のリリとの鍛練でしこたま殴られていたので、防御を高める話しをしていました」

「直哉さんは、鍛冶職人なんすよね?」

「はい。一応本職です」

「じゃあ、じゃあ、俺っちの武具も頼めるっすか?」

「えぇ」


サーイゾーはガッツポーズを取りながら、

「やったっす! お金が貯まったら依頼するっす」

「とりあえず、コスーケさんの鎧から造りますか」

直哉の言葉にコスーケは両手を開いて横に振りながら、

「むり、おで、かね、ない」

「コスーケさんの鎧は鉄鉱石がメインなので、5Sで良いですよ」


コスーケは目を見開いて、

「えっ!? そで、やすい、ダメ」

直哉が不思議な顔をしていると、

「やすい、ひどい、悲しい」

「あぁ、品質なら大丈夫ですよ。と、言うか造ってから気に入らなかったら、購入しなくても良いですよ」

「何故?」

「俺の場合、自分で造った物であれば損失なしで、解体できるので問題ないですよ」

「そで、すごい!」


サーイゾーも驚きながら、

「それは、本当にすごいっすね」

「それに、こちらの専用武器を見せていただいたのですが、凄いですよね」

エリザと共にセイーカがいた。

「あぁ、それは、本来の使用法方は城壁などに設置して使う武器なのです」

「設置型武器を携帯用武器にするとは、普通は思い付かない使い方ですね」

「これは、作成段階で色々とあったのです」


直哉達が料理を終え、お湯を沸かしながら話していると、

「周囲に敵影は無いの!」

「こっちも粗方片付けた」

「こちらも排除完了です」

三人とも帰ってきた。

「お疲れ様でした。お風呂はありませんが、お湯の準備は出来ています。汚れを落としたらご飯にしましょう」

お湯で汚れを落とし、腹を膨らませたら、商人達とアイリを除いたメンバーで、順番に見張りながら眠りについた。



直哉が見張りに立ったのは最後の時間だった。

一緒に見張りに着いたのはフィリアとラリーナであった。

しばらく警戒していると、夜営地からアイリが出てきた。


「眠れませんか?」

「はい。私だけ何もしていないのが、心苦しくて」

「直哉様、あちらで話を聞いてあげてはどうですか?」

そう言って、夜営地から少し離れた場所を指差した。


「どうしますか?」

「話を聞いて貰いたいです」

「わかった。二人とも、この場は頼んだ」

「お任せを」

「任された」

二人の返事を聞いてから、アイリと共に少し離れた場所へ行った。



アイリと二人で月明かりの元で座っていたが、アイリが話し出さないため、直哉から話し出した。

「そう言えば、今日は新しい魔物をテイム出来なかったね」

「すみません。体力的に厳しくて、テイムどころではありませんでした」

「確かにね」

アイリは月を眺めながら、

「それに、ワンスケの事を考えたら、新しい魔物をテイムする気が起きないのです」

「ふむ」

直哉はワンスケを思い出しながら、

「そういえば、ワンスケは、どこでどうやってテイムしたの?」



「それは、私の産まれを語る必要があります。長くなりますが良いですか?」

直哉は、後悔しながらも、

「お願いします」

「では。私は産まれてすぐに、バルグフルの教会に捨てられていたそうです。そこで、司祭様やシスター様に育てていただきました」

アイリは一息ついて、

「そこで、私は不思議な体験をしたのです。何者かの声が頭に響くのです」


アイリは直哉が出した飲み物を飲んでから、

「私は司祭様やシスター様に相談しました。はじめは神の御告げが聞こえたのかと思ったのですが、聞こえてくるのは御告げと言うより日々の欲求のような感じでした。そして、ある時気が付きました。私には生物達の声が聞こえると」

直哉は生物たちの声に反応した。

「もしかして、俺達の考えている事もわかるの?」

「えっ? それは無理です」

「ごめん、話の腰を折ったね、続きをどうぞ」


「はい。そして、生物だけでなく魔物の声も聞こえてくるようになりました。そこで、生物を相手にしていると、使役する魔法を覚えることが出来ました」

「そんな、簡単に?」

「司祭様の話によると、私には始めからテイマーとしての才能があったそうです」

「生まれながらにしてのテイマーか」

直哉が情報を整理していると、アイリが話を進めた。


「そこで、魔物相手にもテイムを試して見たところ、成功してしまいました。腕輪の許容量を越えないように魔物たちを使役していたのですが、数ヶ月前に南の森で異変が起きたときに街の中でワンスケを見つけました」

直哉は驚きながら、

「あの頃から居たのか!」

「はい。始めは真っ黒なイヌのヌイグルミのような魔物だったのですが、恐ろしいほどの魔力を持っていました。私は手持ちの魔物を代わる代わる出しては回復してを繰り返して、ワンスケの力を削っていきました。最終的にはワンスケを使役することに成功したのですが、ワンスケの容量が大きくて手持ちの腕輪には入りませんでした」


「魔物を出したままでは、街にいるのは大変なのでは?」

「司祭様が匿って下さっていたので、大事にはならなかったのですが、数日前の魔族が侵攻してきたときにワンスケの力が私の使役の力を破りそうになったので、街外れまで逃げてきました」

「それが、あの時と言うわけか」

「はい」

直哉は情報をまとめ、

「壮絶な人生を送ってきたのだね」

「・・・はい」

直哉と話していて疲れてきたのか、アイリはウトウトとし始めた。


「戻ってから眠りなさい」

「・・・・」

アイリは直哉に寄りかかりながら眠ってしまっていた。

(しょうがないな)

直哉は心の中でそう呟きながら、日が昇るまでアイリに寄りかかられていた。

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