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第百四十五話 アイリの望み

屋敷へ戻ると、バールハザー達が待っていた。

「お帰りなさい。直哉伯爵と、あなたは! たしか自由の風さんですか?」

サースケが頭を下げて、

「私が自由の風のリーダーでサースケです。バラムドの冒険者ギルド以来ですね」

「えぇ。まさか、依頼をこなしてくれたのですか?」

サースケはうんざりとした表情で、

「はい。良くわからんが他の冒険者達に止めるように説得されたり、襲いかかられたりしたけど、こちらの直哉さんの手を借りて、馬車を一台と子供達を救出出来ました」


バールハザーは喜びながら、

「馬車はともかく、子供達だけでも助けて貰えれば、成功報酬をお支払いいたしますよ」

そこで直哉が、

「馬車は置いてきたのですが、必要ありませんか?」

「馬はいないのですか?」

「そうですね、きっと魔物に連れ去られたのでしょう」

バールハザーは肩を落としながら、

「そうですか残念です。ですが、馬車はエッチゴーヤ商会を専門に出入りしている者の持ち物ですから、そこまで必要ではありません。それで、子供達は何所ですか?」

「みんなお風呂に入って貰っています。その後で、食事を取って貰う予定です」

バールハザーはホッとしながら、

「そうですか。ありがとうございます。では、自由の風さん達には成功報酬をお支払いいたしましょう」


バールハザーが懐から、報酬の入った袋を取りだし、サースケの依頼書に完了の印を押した。

「あれ? 多くないですか? 予定の二倍以上あるのですが」

「それは、護衛場所が、バラムドからバルグフルへ変わったため、距離が伸びたためですよ」

サースケは、

「移動距離が変わっても、直哉さんに運んで貰ったので、私達は何もしていないのですが?」

バールハザーは首を横に振り、

「それは、サースケさんと直哉さんの問題であって、私の依頼とは何の関係もありません。どうしてもと思うのであれば、直哉さんに輸送代をお支払いしては如何ですか?」

「それもそうですね」



そこへ、子供達とセイーカがお風呂から上がってきた。

「はぁ、良いお湯でした」

サースケはラフな格好のセイーカを見て呆れながら、

「なんだ、セイーカも入っていたのか?」

「えぇ。ここのお湯は格別ですね。もう、ここに住みたいぐらいですわ」

サースケが興味をもち、

「そんなに凄いのか!」

「はい」


そこへ、バールハザーが割り込んだ。

「そうですな、伯爵領は全てが規格外です。この私もこの領地で商売をしてみたいと心から思って居た所です」

「その辺はバルザダークさんと相談してください」

バールハザーは肯いて、

「もちろん存じております。勝手な事をして、縄張りを荒らすような事は致しません」

「お願いします」


そして、子供達がお風呂から出てきて、新しい服に着替えていた。

「おぉ、こちらがその子供達ですか。悪人の手に収まる前に解放出来て良かったですよ」

「これから、この子達をどうするおつもりですか? バラムドへ送り返すのですか?」

直哉の質問に、

「それは、直哉伯爵にお願いがあります」

「何となくわかりますが、何でしょうか?」

「私が連れて来ていた子供達と共に、この伯爵領への移住許可を頂けないでしょうか?」


直哉はミーファを見て、

「やはり、そうですよね。ミーファさん、空きはありますか?」

「結構な人数が増えますけど、まだまだ余裕がありますよ。ただ、通りからかなり離れてしまいますけど」

バールハザーは子供達を見ながら、

「みんな、近くで暮らせませんか?」

「一応同じ建物の同じ階層に住む事が可能ですが、ここから徒歩一五分は離れています」


十五分と聞いて、

「その辺に商店はありますか?」

「いや、無いですね」

「それなら、その方が良いですね。バルザダークさんと話しをしてきましょう」

直哉は左手の平を上にした上から握った右手をポンっと落として、

「そちらにお店を出すという事ですね」


バールハザーはニンマリしながら、

「えぇ、通りから離れ、通りの商店まで買いに行くのが大変な方用に、お店を開ければと考えています」

「後は、商品をどうするかですね」

「その辺をバルザダークさんと話し合おうと思います」

「わかりました。バルザダークさんを呼んで貰えますか?」

直哉はキルティングにお願いすると、

「畏まりました」

恭しく礼をしながらキルティングは一時退出した。


直哉達の前には子供達が集められ、早めの夕食を食べていた。

馬車から救出した子供達は全部で十一名であった。

男の子五人に女の子六人。

アイリを除き、全員バラムドに親がいるとの事だったが、帰還を望んだのは半分ほどであった。


直哉がその様子を見ていると、アイリと目があったので、

「それで、アイリさんはどうするの?」

アイリは力強い目をして、

「私は、ワンスケを探しに行きたい」

「腕輪に入っているのでは?」

アイリは首を横に振って、

「あの檻に入れられる前に、取り上げられました」

「誰に?」

「バラムドの商人です」


それを聞いていたバールハザーが、

「恐らく、エッチゴーヤの手の者でしょうな」

「そうか。ちなみに腕輪がない状態だと、召喚獣の扱いはどうなるの?」

アイリは悲しみに耐えながら、

「行方不明となってます。中には死亡して消えてしまったのもいます」

「えっ? 他の人でも、勝手に出し入れ出来るの?」

「無理ですね。私が近くにいない事による魔力切れでの死亡だと思います」

「そうか、それなら早めに取り戻さないと駄目だね」

「はい」


直哉はアイリに優しく言った。

「俺達は明日バラムドへ向けて出発する。バラムドでの事を考えると、全ての事にカタが付いてから来て貰うのが良いだのけど、話を聞く限り時間が無さそうだよね、一緒に来るかい?」

アイリは覚悟を決めた表情で、

「行きます!」

直哉は肯いて、


「そう言えば、テイマー用の腕輪って他のを装備しても前のは消えないの?」

「はい、大丈夫です。複数の腕輪を使っている人も居ますから」

「じゃぁ、これ。ワンスケを取り戻すために持っていて」

そう言って、新しいテイマー用の腕輪を渡した。

「何コレ!? 前に貰った腕輪よりさらに性能が上がっている。貴方は一体何者なのですか?」

「あれ? 言わなかったっけ? 俺は直哉、バルグフルとルグニアで伯爵をやっている、上級鍛冶職人さ!」

とても驚いた表情で、

「直哉さんは伯爵で勇者で鍛冶職人なのですか?」

「そうなるね」


ついでにバールハザー達も驚いて、

「何と! 鍛冶職人だったのですか!?」

「タダの冒険者では無いと思っていたのだが」

「伯爵だから、戦闘しないで後方で指示しているだけなのかと思って居た」

サースケやサーイゾー達も好き勝手な事を言っていた。


「まぁ、直哉は屈強な冒険者に見えないし、伯爵にも見えないからな」

そう言いながらリカードが入ってきた。

「リカード! ・・・王!」

「直哉よ、新たに捕まえた賊を受け取りに来たぞ、飯のついでにな」


直哉の言葉にサースケ達が固まった。

「王様? バルグフル王?」

「ん? 初めての顔がいるな。私はバルグフルの王、リカードだ。そこに居る直哉とは親友だ」

サースケ達は流石に驚いて、

「直哉さんは親友なんですか!?」

サースケ達はその場にひれ伏した。


「あー、よいよい。その様な堅苦しいのは私は好まん。公の場ならともかく、ここは親友の家だ、ゆったりと過ごしたいのだ」

リカードの言葉に、恐る恐る顔を上げながら、

「本当によろしいのですか?」

「あぁ」

サースケ達は安堵しながら立ち上がった。

「とにかく驚きました」



リカードがご飯を要求したので、少し早いが晩ご飯となった。

「おっ肉、おっ肉!」

鼻歌のように肉を連呼しながらリリが入ってきた。

「凄いな、呼ぶ前から肉の匂いをかぎつけてやって来るとは」

「お肉がリリを呼んでいるの!」


ティア達が焦りながら料理をしていたので、

「俺も手伝いますよ」

直哉が厨房へ突入した。

「伯爵様困ります。この様なお姿をミーファ様に見られたら、我々料理人の首が飛びます」

「いやいや、俺がリリ達に食べさせたいから、料理するだけだよ」

そう言って料理人達を見ると、何故か直哉を見ながら固まっていた。いや、注意深く見ると直哉の後ろを見ながら固まっていた。

「まぁ、そう言う事でしたら、料理人達の事は不問としましょう」

料理人達の間から安堵のため息が漏れた。


「それで、直哉さんの料理は私も頂けるのですよね?」

恐ろしいくらいの笑顔を見せるミーファに、

「もちろんですよ」

と、言うしかない直哉。

「では、楽しみにしていますね」

そう言って、厨房から出て行った。


「では、気を取り直して造りますか」

直哉がアイテムボックス内にある食材を眺めていると、

「伯爵様は何をお作りになられるのですか?」

「うん。既にみんな待っているからね、手の込んだ料理は後回しだな。まずは、鍋料理だ。鍋料理用の鍋に出汁を入れた水を沸騰させてください」

直哉の指示で、食卓に出せるサイズの鍋を数個取りだして、一気に出し汁を造り上げた。

「半分の鍋を第一陣として、第一陣の食材は野菜、鶏肉と白身魚で、出汁はそのままで」


直哉の指示の元、第一陣の鍋が次々と完成していった。

「食材は追加しながら食べて貰う予定です」

一気に完成した第一陣の水炊き鍋を振る舞った。

食卓には、リカードを始めとして、ミーファ、リリ達、バールハザー達、サースケ達、そして子供達が待っていた。

「ミーファさんが作ったこのポン酢やゴマだれを付けて食べると美味しいですよ。それと、第二弾として味噌味を作っていますので、お腹にスペースを作って置いてください」

みんなが水炊き鍋に舌鼓を打っている時に、


「第二陣の味噌鍋に取りかかります。まずは、この出汁に濃いめの味噌を投入します」

「そんなに入れるのですか?」

「野菜を入れると水が出ますので多分平気です。出す前に味見をしてみて、しょっぱかったら出し汁を足しましょう」

そう言って、具材を取りだした。

「これは、海鮮系ですか?」

「はい。貝やカニ、ついでにイカやタコ等も投入します。リリ用に鶏肉も入れておきましょう」

「野菜は水炊きと同じでよいのですか?」

「えぇ、大丈夫です」

料理人達が鍋を作っている横で、直哉は麺を茹でていた。



「お待たせしました。海鮮味噌鍋です」

子供達の目が輝き、リリはあからさまにガッカリしていた。

「最初の水炊き鍋の残り汁に、このうどんを入れて温めてください」

みんなで味噌鍋を突っついている間に、水炊きうどんが出来上がった。

「あー! 味噌の方にもお肉が入っていたの!」

リリが味噌鍋の底から鶏肉を見つけ出して、大喜びしていた。


ラリーナはエリザと共に酒を飲みながら、鍋を突っついていると、そこへバールハザーやサースケ達も合流した。

「どれ、私達も提供しますかな」

そう言って、新しいお酒と、おつまみを取りだした。

「おっ、それも美味そうだね」

ラリーナが喰い付いた。

「こちらの酒も美味いですよ」

そう言いながらお酒を味わっていた。



フィリアは、直哉が最後に投入したうどんに釘付けで、

「流石直哉様はわかっていらっしゃる! 最後にうどんを入れる事で、出汁に溶け込んだ肉や野菜のうま味がうどんに染みこむのです」

そう、うんちくを語りながらうどんが出来上がるのを待っていた。


子供達には海鮮味噌が好評で、カニやイカ、タコを一心不乱に食べていた。

「こんなに美味しい食べ物を食べた事無い!」

「温かい料理がこんなに美味しいなんて!」

「パパにも食べさせてあげたい」

「・・・・・・」(一心不乱にカニの身をほじくり出している)


概ね好評であった。

「さて、俺も喰うか」

直哉がそう言って席に着いた時には、水炊き鍋は出汁すら残っておらず、海鮮味噌も食材は残っていなかった。

「おっと、予想以上の売れ行きだな」

「何度か我々も作っていたのですが、何故かここまで美味しくならないのですよ」

料理人が脱帽していた。

「ですが、今回は伯爵様の作り方を観察しましたので、次回からは期待していてください」

料理人達は胸を張っていた。



食事の後で、リカードの合流した城の兵士達が、常闇の毒と雇い主を引っ立てていった。

「もう、今日は動くなよ」

直哉に釘を刺してから城へ戻っていった。

「いや、別に仕事を増やすために動いた訳では」

言い訳をしようとしていたが、言い始める前に帰ってしまっていた。


そんな直哉を見ていたミーファが、

「そういうわけで、皆さんには当面住んで貰う家に向かって貰います」

そう言って、バールハザーや子供達を引き連れて、領地の住宅街へ向かっていった。



「サースケさん達はどうしますか?」

「んー、まずは、冒険者ギルドへ行くかな」

「では、お送りいたしますよ?」

「お願いします」


直哉はサースケ達を送りそこで、サースケ達から提案をされた。

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