第百四十四話 予期せぬ再会
サースケと共に馬車を覗くと、中から何かが飛んできた。
「ん?」
直哉は咄嗟に盾で弾いたが、サースケの腕には針のような物が突き刺さっていた。
「うっひゃっひゃ。死にたくなかったら大人しくぐきゃあ!」
攻撃を仕掛けてきた男は、馬車から身を乗り出して挑発しようとしていたが、最後まで喋ることが出来ずに、サースケによって馬車の外まで吹き飛ばされ、そのまま昏倒させられていた。
さらに、中を確認しようとすると、
「ばかな! 常闇の毒のメンバーがこんなにあっさりと殺られるなんて!」
(常闇の毒ってあからさまな名前だな)
馬車の中には、狼狽した男が暗幕のかかった檻の前にいた。
「くっ」
毒が回ってきたのか、サースケがその場に膝を付いた。
「やっと毒が効いて来たのか。その男を死なせたくなかったら、俺たちを解放しろ!」
「ほぉ、お前が解毒薬を持っているのかな?」
後ろに居たサーイゾーが、昏倒している男のアイテムをあさっているのを確認してから、檻の前の男に聞いていた。
「ふっ、ふん。それをお前たちに教える義理は無いな」
檻の前の男は強気に出ようとしたいた。
「この程度の毒で肩膝を付かされるとは、私も耄碌したな」
サースケが荒い息をしながら、剣を握りなおし、檻の前の男に突き刺した。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
檻の前の男は、涙、鼻水、涎をたらしながら、大声で叫んでいた。
「さぁ、出せ! 出せば止めてやる」
サースケは突き刺した剣をグリグリしながら解毒剤を要求していた。
(この間に、檻の中を見てみるか)
直哉は、サースケ達の横をすり抜け、檻にかかっている暗幕を外した。
(こ、これは)
そこには十名ほどの子供達が所狭しと詰め込まれていた。
みんな不安で泣きそうな顔をしていたが、最低限の食事は与えられていたようで、飢えで死にそうな子供は居なかった。
「おい、この子供達は何だ!?」
檻の前の男に聞いたが、
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
と、叫ぶだけで、会話にならなかったので、直哉は檻を空けるべく檻を観察した。
(この檻は出入り口はここの一つだけで、鍵のような物が二つ必要になるようで、他には何も無いな。天井も床も鋼鉄製で、めったな攻撃では破壊できそうに無いか)
試しに剣で檻を攻撃してみたが、びくともしなかった。
(俺の力量じゃ、檻を破壊する事は出来ないか)
「伯爵様?」
檻の中の子供から声をかけられた。
「ん? 俺を知っているのか?」
「はい。バルグフルでお世話になったアイリです」
直哉は少し考えて、
「あぁ! ワンスケの?」
「はい!」
そのまま檻に近づいて、
「どうして、こんなところに?」
「今、刺されてるおじさんに騙されて連れてこられました」
「ふむ。他の子も?」
「聞いた話では、同じ感じでした」
「わかった。君たちを解放しよう」
「本当ですか!? 私以外小さな子供なので、正直どうしようか悩んでいたのですよ」
(見た目はみんな同じに見えるけどね)
直哉がそんな事を考えると、アイリが睨んでいるような気がした。
馬車の入り口に戻り、
「サースケさんの身体の具合はどんな感じですか?」
剣をグリグリしていない手の平を開いたり閉じたりしながら、
「だいぶ痺れがあるが、まだまだ行けるぜ」
馬車の外に飛んでいった、常闇の毒の所にいるサーイゾーに声を掛けた。
「サーイゾーさんの方は、解毒薬は見つかりましたか?」
「えぇ、色々見つかったっす」
何種類かの解毒薬を持って手を振ってくれた。
「では、こいつらを縛り上げて、サースケさんを治療しましょう」
防衛網を取り出して、男どもを縛り上げた。
サースケの毒を解除して男どもを縛り上げてから、今後を話しあった。
「さて、サースケさん達はこれからどうするのですか?」
「ん? 依頼は雇い主の所までの護送も含まれているのだけど、馬が居ないとそれも厳しいな」
「雇い主はどこにいるのですか?」
サースケが直哉を怪訝な顔で見て、
「何故、そのような事を聞くのですか?」
「バルグフルやルグニア、ソラティアならば、お送りする事が出来るので、雇い主と話がしたいと思いまして」
少しホッとしながらも、警戒を続けながら、
「冒険者ギルドでの話しでは、バルグフルへ向かうと言っていたが、まだ到着していない可能性がありますね」
(バラムドからバルグフルへって、もしかして)
「それは、バザール商会の者ですか?」
雇い主の名前が出て、少し驚きながら、
「何故、それを?」
「バザール商会の者とは不思議な縁がありまして、現在はバルグフルの俺の領地に居ます」
更に驚き、警戒が薄れた。
「そうなのですか? では、合い言葉をお願いします」
「合い言葉? ワンフォーオールですか?」
「その意味ですね」
「我が商会はみんなを豊にするために、ですね」
合い言葉の意味を聞いて安心したサースケは、
「完璧です。それでは、私達の雇い主の所まで案内お願いします。と、言いたい所なのですが、実際にこの馬車をどうやって動かすのですか?」
「馬車、いりますか?」
とんでもない事を言い出した直哉に、
「はい? 馬車を持って行かないと、子供達を届けられないのですが?」
「子供を届けるだけであれば、馬車は必要ありませんね。とりあえず、子供達を先に救出してから、馬車が必要かどうかも、雇い主に確認しちゃいましょうか?」
「お願いします」
その時、気を失っていた常闇の毒の男が目を覚まして騒ぎだした。
「うっひゃっひゃ、お前の雇い主は、我等が常闇の毒が抹殺しているはずだ! お前に金を払う商人はもう居ないぞ! その男は嘘をついているのだ。うっひゃっひゃ!」
常闇の毒の男の言葉に、
「ん? 仲間って、大剣持った太めの男に、冷たい目をした剣士に、ニヤニヤ笑いの弓兵、魔法士が二名のパーティですか?」
自分たちの事を知っていたので、
「おぉ! 俺達の事を良く知っているな。以前俺達に依頼でもしたか?」
「いや。そのパーティなら俺の仲間に捕縛され、バルグフルで裁かれ、死刑を宣告されているぞ」
その言葉を聞いて半狂乱になりながら、
「な、何だと! 兄じゃ達が掴まっただと!? 信じられん」
「信じなくても大丈夫だ。これからお前もそこへ連れて行くのだからな」
直哉は檻の中とゲートを開き、
「さぁ、みんな出ておいで。アイリさん子供達をゲートまで動かせますか?」
「みんな動けません」
「私達にお任せを!」
サースケ達四人がゲートを行ったり来たりしながら、子供達を檻の中から救出した。
子供達の足には、逃走防止用の鎖が付けられていて、
「おでに任せろ!」
コスーケが力任せに引き千切っていた。
その様子を見ていた子供達は、コスーケの行動に怯えてしまい、コスーケを見ると泣くようになってしまった。
「だいぶ日も傾いてきたので、とにかく我が屋敷へ急ぎましょう」
今度はバルグフルの自分の屋敷へゲートを開き、みんなを引き連れてバルグフルへ帰って来た。
◆バルグフル直哉の屋敷
先に帰って来ていたソエルハザー達が出迎えてくれて、領地を見に行っているバールハザーを呼びに行ってくれた。
「今の人は?」
「ソエルハザーさんですね。バールハザーさんのご子息です」
ソエルハザーの顔を見て、
「ば、馬鹿な! 兄じゃ達が本当にしくじるとは! と、言う事は、こいつが言っていた事は本当なのか?」
と、ショックを受けていた。
そこへ、ミーファとリリがキルティングと共に来て、
「また、沢山の子供達を連れて帰ってきましたね。あら? そちらの子は見覚えがありますね」
「あれ? 強そうな人なの!」
リリを見たサースケが、
「お嬢ちゃんがこの様な所で何をしているのかな?」
と、ややカオスな空間になりつつあった所で、直哉はキルティングに、
「とにかく、この子達にお風呂と食事を用意してあげて。バールハザーさんが来たら色々と話す事があるので。それと、リカードにアポイントを取って貰える? ソエルハザーさんを襲撃した仲間の一人とその雇い主を連行したと伝えてくれる?」
「畏まりました」
恭しく礼をしながら、他の使用人達に指示を出していた。
子供達はミーファ達が風呂へ連れて行ってくれていて、常闇の毒達はこの場で転がっていて、バールハザーさんが来るまで、お茶を飲みながら待っていた時、リリがサースケを見て直哉に言ってきた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。おじさんと模擬戦しちゃ駄目?」
「ん? おじさん?」
「そう、このおじさん。この中で一番強そうなの!」
そう言って、サースケを見た。
「駄目だよ、サースケさんは傷を負ったのだから、今は安静にしておかないと」
サースケは流石に子供相手なら問題無いと言うように、
「大丈夫ですよ私の身体は頑丈に出来ていますから。まぁ、物理的な頑丈さでいえばコスーケには適いませんが」
「おで呼んだ?」
「いや、呼んではいない、コスーケが硬いって話していただけだ」
「おで、かたい」
「それで、お嬢さんはどのような模擬戦をお望みですか?」
リリはグーにした拳をパーにした手の平にバシバシ打ち付けながら、
「お庭でタイマンバトルなの!」
(どこで、そんな言葉を覚えてきたのだろう)
「よし! やろうか。サーイゾー、審判を頼む」
「わかったっす」
リリとサースケはサーイゾーを連れて庭へ行った。
「リリ、本気出しちゃ駄目だよ」
直哉の注意は聞き取ってくれたかどうかはわからなかった。
「不安だ」
結局、見に行く事にした。
「いっくよ!」
リリが腕をグルグルと回してやる気を見せると、
「ほほぅ、その小さい身体で武闘家なのか、凄いな」
「違うの! リリは魔法使いなの!」
「・・・・・・・」
サースケとサーイゾーが絶句した。
「本当なの!」
サースケが説明するようにリリに話しかけた。
「いや、お嬢ちゃん、魔法使いってのは魔法発動体が無いと魔法を発動出来ないのだよ?」
(ん? そう言えば、装備品に属性石を仕込むと、発動体がその属性石になるよな。つまり、魔法士の発動体も属性石で代用出来るのかな?)
直哉がそんな事を考えていると、
「ご託は良いの! さっさとやるの!」
サースケはため息をつくようにサーイゾーに合図を送った。
「それでは、始めるっす。よーい、始めっす!」
サーイゾーはやる気のない開始の合図を送った。
「ちぇっすとー!」
その合図と共に、リリが飛び込んでいった。
「なっ!」
サースケは紙一重で回避すると、すぐにリリの現在地を確認して、迎撃態勢を取った。
「凄い速さですね」
「やるっすね。あの速さなら、コスーケじゃ、相手にならないな」
リリは更に飛び込んでいった。
「くっ、ぐっ」
サースケは徐々に追い込まれていったが、リリの攻撃パターンを解析しおえて、反撃を開始した。
「あれ?」
リリは、先程とは違う雰囲気を纏うサースケに驚いたが、
「これで、本気になれそうなの!」
と、ニヤリと笑いながら魔法を詠唱して、
「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」
左の拳に溜め込み、サースケに飛び込んでいった。
先程と同じタイミングでの同じ攻撃を繰り出した時に、リリの腕は軽く斬られた。
「ちっ!」
リリは、痛みに顔を歪めたのは一瞬だった。
またまた同じタイミングで突っ込んでいき、サースケが反応した時に、
「ここなの!」
拳に溜めていた、氷魔法を解放した。
「クールブリザード!」
「なに!? 魔法の詠唱はフェイクでは無かったのか!」
慌てて距離を取ろうとしたが、予想以上の氷魔法の威力により動きが抑制され、リリの拳を直接喰らう事になった。
「ぐふぅ」
サースケは身体をくの字に折り曲げて吹き飛んでいった。
「まずい! ゲート! マリオネット!」
それを見ていた直哉は、慌ててゲートとマリオネットで、サースケの吹っ飛んだ先にクッションを大量に設置して、壁もしくは地面に激突した時に発生する予定のダメージをカットした。
「それまでっす!」
サーイゾーによって終了の宣言をされたリリは、
「えー、これからだったのに!」
と、消化不良であった。
「いやいやいや、死にますから!」
クッションによってダメージを軽減して貰ったサースケが、殴られた腹を押さえながら戻って来た。
「たった一撃で、骨がいくとはな。もっと鍛練をしなくては駄目だな」
そう言って、セイーカの元へ行き、治療して貰っていた。
「あ、これ回復薬です。飲んでください」
直哉が回復薬を渡すと、サースケは一気に飲み干した。
「あれ? 不味くない回復薬ですね。美味しくは無いですが。しかも、効き目が凄い。ヒビの入っていたと思われる骨がもう痛くないとは」
そう言って、押さえていた腹をさすっていた。
「しばらくは安静にしていてください。それと、リリはラリーナにでも相手をして貰いなさい」
「はーいなの」
ちょっとふて腐れながら、屋敷へ戻っていった。
(やれやれ、これからはリリの鍛練相手も探さないと駄目なのかな?)
そう、思いながらサースケの方を見て、
「さて、俺達も屋敷へ戻りましょう」
そう言って、屋敷へ戻っていった。