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第百四十三話 自由の風

ソエルハザーが勢いよくやってきて、

「お願いがあります」

直哉はその勢いに若干引きながらも、

「何でしょうか?」

「荷物を取りに行きたいのですが、手伝ってもらえないでしょうか?」

ソエルハザーのお願いに、

「荷物ですか?」

「はい。捨てられた荷物の中に、我が商会に必要な物があるのですよ」

直哉は少し考えていたが、

「わかりました、今日中でしたら問題ありませんよ」

「是非、お願いします」


直哉が誰を連れていくか考える為に、周りを見ると、

(リリとエリザとマーリカは子供達の相手をしていて、フィリアは眠っているか)

「ラリーナ、ソエルハザーさんの護衛を頼めるか?」

「了解した」


横で聞いていたバールハザーは、

「我々は、直哉さんの領地を見て回っても良いですか?」

「構いませんよ。制限はないと思いますので、ゆっくり見聞してください」

「ありがとうございます」


直哉はソエルハザーに、

「では行きましょうか。ラリーナ、ゲートを開くから、先行して安全を確保してくれる?」

「任せろ!」

ラリーナに安全を確保してもらい、直哉とソエルハザー、そして、ガスパーテンと共に襲われた地点に飛んだ。



◆森で襲撃された地点


「ここが、襲撃地点ですか?」

「この木の倒れかたは、戦士の攻撃によって出来たやつですね」

ソエルハザーとガスパーテンは周囲の森の状況を改めてみていた。

「さぁ、必要な物を探しましょう」

直哉が二人を促すと、

「そうですね」

「わかりました」


(見た感じ問題無さそうだが、何か違和感があるな)

(直哉も感じたか?)

(あぁ、見られているか?)

(仕方がない、予定変更だな)


ラリーナとの通話を終わらせると、


「私は周囲を警戒している、何かあったら連絡してくれ」

「わかった。気をつけて、ラリーナも何かあったら連絡を入れてくれ」

「あいよ」

ラリーナは長巻を担ぎながら森へ入っていった。

直哉は二人の傍へ行き、アイテムの捜索に加わった。


「あった! あそこにあるのは、捨てられた荷物だ!」

ソエルハザー達は、捨てられた荷物を回収した。

木の箱に入っていたポーション等を見付けたが、投げ捨てられたため散々な状況であった。

「折角のポーション類は殆ど割れるか、蓋が壊れて中身がこぼれてしまっている」

「残念ですが、諦めましょう」

二人が落胆してしまい、手が止まったのを見て、

「探していた物は見つかりましたか?」

「はい。これです」

ソエルハザーは荷物の中から一枚の紙を取り出した。


「バザール商会の権利書です。まぁ、バラムドでしか使えませんがね」

「見つかって良かったです。それがあれば、バラムドで行動しやすいですよね。では、帰りましょうか」

二人は周囲を見て、

「ラリーナさんは、良いのですか?」

「ソエルハザーさん達を送った後で、回収しに行きますのでご安心を」

「そうですか、わかりました、それではお願いします」

直哉はゲートを造り二人をバルグフルへ返した。



戻ってくるとゲートを閉じてから、

(さて、ラリーナ、状況は?)

(違和感の元はわかったが、それ以上がわからん。こいつらは何がしたいのだ?)

(とりあえず、合流するよ)

ラリーナの位置を確認しながら進んでいった。



森はどんどん深くなり、辺りは薄暗くなった。

(嫌な感じだ)

嫌悪感を抱きながら進んでいくと、大量の蜘蛛が待ち構えていた。

(しまった。罠か? そして、ラリーナは何処だ?)

直哉は戦闘体勢を取ろうとした時に、蜘蛛達が何かを指し示していることに気が付いた。

(こいつらは魔物ではないのか?)

蜘蛛達が指し示している方向へ向かうと、

深い森は一転して岩山の麓へ出た。辺りに太陽の光が降り注ぎ、直哉は目を細めた。


(ん? ここはバルグからソラティアへ抜けるルートのうち、馬車でも通れる道がある所か。つまり出て行けということか?)

そこへ、横の森からラリーナが出てきた。

「直哉?」

「ラリーナか! どうした?」

「蜘蛛達に案内されてここまで来たのだが、罠か?」

直哉達が周囲を警戒していると、

「岩場の奥で戦いの音が聞こえる!」

ラリーナが走り出した。直哉がその後に続き、その場所へ急いだ。




開かれた岩場の中心に馬車が停車していて、周囲を羽根の生えた人間が襲い掛かっていた。

(何だあれは?)

「ハーピーだな」

「ハーピー?」

改めてその姿を見ると、上半身は人間の女性の姿で足は鳥、背中には大きな鳥の羽が生えていてその羽根で飛んでいるようであった。

「空飛ぶ魔物か?」

「魔物かどうかはわからないが、そろそろ馬車のほうを助けに行かないと危険だぞ」

ラリーナの忠告に、馬車を見ると、護衛の戦士達はハーピー達の猛攻により戦意を喪失していた。


「助けに行こう!」

「おう!」

ラリーナに続き、直哉も飛び出した。

「ギェェェェェェ!」

端で警戒していたハーピーが警戒の声を上げた。

「ギャー」

「ギィィィィー」

馬車を襲い掛かっていたハーピー達も大声を上げながら、ラリーナを迎撃すべく空へ舞い上がった。


(空を飛ばれると面倒だな)

「マリオネット!」

防衛網を大量に造り出して、上空に設置した。

「こっちも殺るぞ!」

「ガウ!」

闘気を溜めながらハーピーの動きを見極めていた。


「ここだ! リズファー流奥義! 天空斬!」

ラリーナの持つ長巻から、闘気が放たれた。

「ギャァァァァ!」

ハーピーは雄叫びを上げながらラリーナの攻撃を回避した。

「ちっ! やはり、まだ早かったか。だが、使いこなしてみせる!」

ハーピーに攻撃を当てるべく集中していった。



「ギュィギュィ!」

「ギャウギャゥ!」

ハーピー達は相談するように鳴いた後で、ラリーナに集中攻撃を開始した。

「ギー!」

「ギー!」

「させるか!」

それを見た直哉はさらに防衛網を造り出して、ラリーナを守るように展開した。

集中していたラリーナが目を開けて、

「リズファー流奥義! 天空斬!」

今度の攻撃はハーピーに直撃した。

「ギャァァァァ!」

一撃で羽根を吹き飛ばされ、キリモミ状に落下した。


そこへ、

「がルルル!」

シロが襲いかかった。

「ギャァ! ギャァ!」

ハーピーも必死で抵抗したが、反対側の羽根をもぎ取られた所で絶命しキラメキながら消滅した。



「おぉ! 出来たのか?」

ラリーナは首を横に振りながら、

「いや、今のは闘気を飛ばしただけだ。本来の天空斬には程遠い。だが、何となく感覚を掴めた気がする。もう少し付き合ってくれ」

馬車を護衛していた冒険者達に回復薬を振り掛けながら、

「わかった! 頑張れ!」

と、応援しながら、防衛網を張り直した。




しばらく闘っていると、

「すまない助かった」

冒険者達がそう言いながら参戦してきた。

「身体は大丈夫ですか?」

「あぁ! あなたの回復薬のお陰で楽になりました。手伝います」

「では、ハーピーを撃ち落とすのを手伝ってください」

「わかった。おぃ! 対空戦闘用意だ!」

「了解!」

冒険者の仲間達は、馬車から飛び道具を取り出して、ハーピー達に攻撃を開始した。

「またか! 攻撃が当たらねぇ」

冒険者達の攻撃は簡単に回避されていた。


(あれじゃあ、殺られるわけだ)

「マリオネット!」

ハーピーの動きを阻害する様に配置した。


ハーピーが同じ動きで防衛網を回避していたので、冒険者達も流石に気が付き、攻撃を当てられる様になっていた。

「よし、コレならやれるぞ!」

冒険者達は士気を上げながら攻撃を続行していた。

(これで、冒険者達の攻撃が当たるようになったから、ラリーナへの援護になったかな?)

ラリーナの方を見ると、相変わらず天空斬を撃ちまくっていた。

(あれで、本来の攻撃ではないか。では、本来の攻撃ってどんな攻撃なのだろう?)

考え事をしていた時に、ひときわ大きなハーピーが飛んで来ている事に気がついた。

(なんだ、あの大きなハーピーは!?)


頭の中でラリーナに警鐘を鳴らすと、

(あぁ、こちらでも捕らえている。直哉達の方で周りのハーピーを何とか出来るか?)

(ん? そりゃ、殲滅は簡単だが、練習はもう良いのか?)

(あぁ、後はあのデカ物で試す)

(そっか、わかった)

靴に仕込んだ風の魔法を解放した。


「ギョギョェ!?」

ハーピー達は驚いた声を上げて動きが止まってしまった。

「これなら! セィ! ヤァ!」

動きが止まったハーピー達を次々に斬り落としていった。

「おー! やるな! 俺達は落ちてきたハーピーにトドメをさすぞ!」

「おぅ!」

冒険者達は直哉が叩き落としたハーピー達に群がり、一体ずつ確実に殲滅していった。



「ギュェェェェェェェ!」

巨大なハーピーがひときわ大きな叫び声を上げ、次々とハーピー達を地面に叩き落としている直哉に襲いかかってきた。

「お前の相手は、この私だ!」

そこへ、瞬迅殺を使ったラリーナが、恐ろしい速さで飛び込んできた。

「そういえば、ラリーナも空を飛べるのだっけ?」

「無論!」

直哉と同じように空を駆け巡りながら、巨大ハーピーと交戦を開始した。



逃げながら叫びまくる巨大ハーピー。

「ギョェェェェェェ! ギョェェェェェェ!」

追いまくり、徐々に追い詰めるラリーナ。

「ソラ! ソラ! ソラ! ソラ!」

一見互角に見える勝負であったが、ラリーナには分が悪かった。

(あれだけ連続で魔力を使い続けたら、厳しいよな。それに、ハーピーの方は魔力を消費していないみたいだし。これは、こっちを早く片づけて手助けしないと危険だな)

「マリオネット!」

両手の剣と盾だけでなく、マリオネットで大量の武器を取り出して、叩き落とす速度を上げた。


数分後空を飛んでいた無数のハーピーは全て叩き落とされ、地上で待ち構えていた冒険者達の手によって殲滅し終わった。


「後は! マリオネット!」

大きなハーピーに向けて大量の防衛網を飛ばし、その動きを抑えようとした。

「ギィェェェェェェ!」

飛ばした防衛網へ向けて大きなハーピーは口を開き、

「ギャア!」

火の玉を吐き出した。

「何だと!」

防衛網は燃え上がり、その効果を失った。


(ラリーナ、MPは保ちそうか?)

(今のところ回復薬があるから切れはしないが、連続服用の影響で、かなり制限を受けている)

(そうか、それなら、俺がラリーナの足になろう。飛び乗れ!)

直哉はラリーナのそばへ飛んで行った。

「助かる」

ラリーナは足の風魔法を切ってから直哉の肩に乗っかった。

「行くぞ!」

「移動は任せる!」

「おう!」


「ギャァァァァ! ギャァァァァ!」

大きなハーピーは金切り声を上げながら攻撃を仕掛けてきた。

「ちぃ!」

ラリーナを乗せながらの回避は思うように行かず、なかなか進むことが出来なかった。

「仕方が無い。突撃するか」

剣と盾を取り出し、マリオネットで周囲に盾を飛ばした。

「ラリーナ、溜めは良いかい?」

「おう。一つ武器に溜めてある。いつでも良いぞ!」

「よし!」


「ギャァァァァッス!」

大きなハーピーから、火の玉や氷の礫などの攻撃が飛んできた。

「火に氷って何でもありかよ!」


ドカカカカカカカン


盾を使い飛んでくる火の玉や氷の礫を弾きながら、大きなハーピーを追い詰めていった。

「こんのー!」

直哉は被弾覚悟で飛び込み体当たりをかまして、その体勢を崩した。

「今だ!」

直哉が叫ぶのと同時に、


「行くぞ! リズファー流奥義! 大地割りダブル!」

長巻に溜めた大地割りに、さらに大地割りを上乗せして大きなハーピーに斬りかかって行った。

「どっせーい!」


「ギャァァァァァァッス!」

ラリーナの攻撃を見て、大きなハーピーは大きく叫びながら、強引に羽ばたいて攻撃をかわそうとした。

「やらせん! マリオネット! いっけぇ、防衛網!」

回避しようとした方向へ、防衛網を大量に飛ばして、その行動を潰した。

「流石直哉!」

ラリーナは回避に失敗した大きなハーピーを一刀両断し、キラメキながら消滅させた。


「ふぅ。何とかなったな」

「よし!」

直哉とラリーナは地上へと降り立った。

「うぉぉぉぉ!」

「凄いぞ!」

冒険者達が大きな声援を上げて出迎えた。



「俺は直哉、バルグフルで伯爵をやってます。こっちはラリーナ、俺の嫁です」

直哉達の前に、四人の冒険者が並んで挨拶をした。

「これは、ご丁寧に。私達はバラムドの冒険者、自由の風です。わたしはリーダーのサースケです」

「おれっちはサーイゾー、この剣で斬れぬ物は無いと自負してるっす」

「わたくしはセイーカ、弓の扱いに関しては誰にも負けませぬ」

「おで、コスーケ。この斧、おでの力」

挨拶を済ませると、

「自由の風の皆さんは、この様な場所で何をしていたのですか?」


「わたし達はバラムドの冒険者ギルドからの依頼で、人身売買用の商人が逃げ出したので捕らえて欲しいと言う依頼を受けて、ここまで追って来ました」

「それが、あの馬車というわけですか?」

直哉達の視線の先に大きな馬車があったが、すでに馬は無く、巨大な馬車だけが鎮座していた。

「馬や御者、それに護衛の者は何処へ行ったのですか?」

「さぁ? わたし達が追いついた時には、既に馬は居ないし、御者もその姿が無かった」

「つまり、護衛は居たと」

「はい。ですが、わたし達が見たときには、ハーピー達に連れ去られていく人達が居たので慌てて飛び込んだのですが、逆にやられそうでした」


直哉は自由の風の言う事を疑いながら、

「馬車の中を確認しても良いですか?」

「わたし達も確認したいのですが」

「では、一緒に確認しに行きましょう。ラリーナ、周囲の警戒を頼む」

ラリーナに回復薬とMP回復薬を渡しながら頼んだ。

「セイーカとコスーケを警戒をしてください」

「了解!」

三人が周囲の警戒を始めたので、直哉達は馬車へ近づいて行った。

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