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第百四十二話 模擬戦と目覚め

食事が終わった後で、バールハザー達はソエルハザーとガスパーテンが眠っている部屋で看病を続けていた。

傍にはフィリアが待機しており、治療チームとして数人がローテーションを組んで対応していた。

バールハザーが連れていた子供達は眠りについてた。




◆次の日


直哉が下の食堂へ行くとリリが起きており、朝から大量のお肉を食べていた。

「おっ肉、おっ肉。美味しいの!」

「朝から元気だね」

「あっ! おはようなの!」

リリは腕を振りながら挨拶をしてきた。

隣ではフィリアが野菜をつまんでいた。


「フィリアは大丈夫かい?」

「はい。数人と交代で休みましたので、それほどではありません」

食卓にはこの二人しかおらず、

「残りのみんなは?」


「ラリーナは外、エリザとマーリカはまだ眠っています」

「外? 鍛練かな?」

「リカード様が身体を動かしたいと、ラリーナと共に外へ行きました」

「余程ストレスが溜まっているのだな」


直哉は朝食を取り、ラリーナ達が鍛練している所へ行ってみると、

「あれ? アンナさんとゴンゾーさん?」

アンナはリカード達を見ていて、その側でゴンゾーが素振りをしていた。

「おはようございます」

直哉達はお互い挨拶を済ませた後で、

「ゴンゾーさん、激しい動きは危険なのではないですか?」

「なんの! この程度なら問題ありませんぞ!」

「そ、そうでしたか。くれぐれもお気をつけください」


直哉が言い負かされそうになっていると、アンナさんが援護してくれた。

「直哉さんももっと言ってあげてください。私やリカードがいくら言っても聞かないのですから」

「これは、耳が痛いですな」

しかし、ゴンゾーは馬耳東風とばかりに鍛練をしていた。

「ですが、少しくらい身体を動かしていた方が、健康には良さそうですけど」

「はい。ですがその分、闇に侵食される速度が上がるのは見過ごせません」

アンナが力強く訴えてくるので、

「わかりました。後でフィリアに診て貰いますね」

「お願いします」

アンナは半ば諦めたようにため息をついた。



その少し奧では、銀狼になったラリーナと風を纏ったリカードが模擬戦を繰り広げていた。

「はぁ!」

リカードの剣より、風の斬撃が放たれるが、ラリーナは余裕を持ってそれを回避していた。

「ガオ!」

ラリーナは、何度か回避するうちに攻撃のタイミングを掴み、リカードへ躍りかかっていった。

「ふん!」

風の斬撃を放った体勢の時に突撃されたリカードは、そのまま剣を振り上げて迎撃した。


「ガォォン!」

その剣を左前脚で外側へ押しながら、右前脚で殴りかかった。

「何? まずい!」

リカードは剣が押し出されていく方向へ飛んだ。

「瞬迅殺!」

ラリーナは勝機とばかりに飛び込んだ。


リカードはニヤリと笑い、

「絶空!」

体勢を崩しながらも、纏った風を使い絶空を放ってきた。

ラリーナに迫る絶空。

「ぐるぁぁぁぁ!」

その時ラリーナは左前脚を強引に地面に突き立てた。


ドガガガガガガガガガ


左前脚で大地を削りながら進んでいくと、ラリーナの体勢が左側へ傾いた。

「何だと!」

絶空はラリーナの横を通り過ぎていった。

それを見たラリーナは左前脚を離して、

「瞬迅殺!」

その場からもう一度《瞬迅殺》を放った。


リカードは纏っていた風を前面に押し出してガードした。


ガン!


ラリーナとリカードはぶつかった衝撃ではじき飛ばされた。

「くそぅ!」

リカードは、風を纏い直し体勢を立て直してラリーナを見ると、

「瞬迅殺!」

空中でリカードの方を見ていたラリーナが、タイミングを見計らって飛び込んできた。

「それなら!」

リカードが纏っていた風の他に魔力を闘気に変えて迎撃した。


「断空!」


地面から上空へ大量の風エネルギーが巻き起こった。

ラリーナは最後の闘気を振り絞り、

「リズファー流、第一奥義、大地割り!」

風エネルギーに奥義をぶつけた。


バチバチバチバチ!


技と技がぶつかりお互いを消滅させた。


「くぅ、ここまでだ!」

リカードはその場で崩れ落ち、大の字になって寝転んだ。

「私もここまでだ」

ラリーナは銀狼化が解け、人の姿となってその場に座り込んだ。

「はぁはぁはぁ、ラリーナの剣はまた強くなったな」

「リカード様こそ、私の奥義を消滅させるほどの技を使える様になったのですね」

二人がお互いの技を褒めている所へ、直哉が近寄ると、



「おっ、直哉! ようやく起きてきたか!」

「おはよう、リカード、ラリーナ。二人とも凄いな。もう、俺の力じゃ勝つのは困難だな」

直哉がおどけて言うと、

「良く言う。いざ戦いとなったら真っ先に戦うのに」

「そうだぞ! 気が付くと訳のわからん武具やアイテムで勝利をかすめ取るのに」

二人から反撃が来た。


「まぁ、それも、知っていれば対応出来ちゃうからね」

寝っ転がっていたリカードは首だけを持ち上げ、

「だが、物量の前では些細な問題になりかねないぞ」

「マリオネットの事?」

「そうだ、あれの操作が直哉と同じなれば、恐るべき攻撃になると思う」

ラリーナも、

「さらに、この前のようにゲートとセットで考えれば神出鬼没な上に、数に圧倒されるなんて事もありえるわけです」

リカードは目を細めながら直哉を見て、

「何だそのえげつない攻撃は」

と、呆れていた。



そして、五人で食堂へ戻って来て、休息がてら話し始めた。

「そういえば、直哉が捕まえてきた冒険者達は、バルグフルとバルグで指名手配されている悪者だった」

直哉は少しガッカリしながら、

「そうだったんだ。それじゃぁ、バラムドのエッチゴーヤとは関係がないのかな?」

リカードは首を横に振りながら、

「いや、そうでもない。雇い主の男が居ただろう?」

「あぁ、居たね」

「そいつがエッチゴーヤ商会へ出入りしている奴隷商人だ」


直哉は驚いて、

「奴隷?」

「あぁ、エッチゴーヤが推進する業務形態の一つと言っていた」

さらに喰い付いて

「この世界では、奴隷制度は当たり前なのか?」

「いや、もし当たり前ならば、貧民街など出来ぬよ」

少し熱を冷ましながら、

「そうか。疑って済まない」


そこへ、バールハザーが慌ててやってきた。

「直哉さん! 息子が、息子達が目を覚ましました!」

「そうですか! それは良かった。話は出来そうですか?」

「はい。傷も完全に塞がり、すぐ動き出しても問題無いそうです」

二人の会話にリカードが加わった。

「朗報だな」

「はい」



ソエルハザーとガスパーテンはサラフィーナ達に連れられて、食堂へやってきた。

「父さん、そちらの方が僕たちを助けてくれた方々ですか?」

ソエルハザーは十八歳で直哉と同じ位の年齢であったが、大人びており、二十五歳を超えていると思って居た。ガスパーテンも同じく十八歳で、こちらも大人びていた。

「我々をお救いくださり、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

二人は深々と頭を下げた。


「二人とも頭を上げてください。俺としても、一緒に居た仲間の事や、あなた方を襲撃した者達について詳しく聞かせてください」

「わかりました。ですが、その前に穆と一緒だった者達は何処にいるのですか?」

直哉達はお茶を飲みながらお互いの情報を交換していた。

「それでは、僕達以外は死んでしまったのですか?」

「子供達は四名救出しましたが、大人は三名亡くなってました」

「まさか! アルもバートも殺られたのか!」

そう言って悲しみに囚われた。


ソエルハザーは泣きながら、

「彼らの遺体を見るとこは出来ますか?」

「はい」

直哉は簡易霊安室まで案内した。ソエルハザー達は泣き崩れた。

「済まない。僕達がもっとしっかりとしていたら、こんな事にはならなかったのに。本当に済まない」

暫く泣いた後で、

「もはや、エッチゴーヤ達の事を許せません」


「やはり、エッチゴーヤの仕業なのですね?」

「はい。エッチゴーヤの専用商人が、子供達を手当たり次第に集めています」

「そんな事をしたら、暴動が起こるのでは?」

「彼らの狙いは、私達のように他の町へ行く商隊にいる子供達なので、発覚しにくいのです」

直哉はバールハザー見て、

「ソエルハザーさんはこう言っていますが、バールハザーさんはどうしますか?」


バールハザーは少し考えて、

「私は、まだ数日しか居ませんが、我がバザール商会をバラムドで展開させ続けるのと共に、このバルグフルでも展開させたいと思いました」

「父さん?」

「お前たちはもう一人前として、バルグへ送り出した。バルグがなくなっているのであれば、他の新天地を求めるのが正解だと思う」

バールハザーの持論に、

「待ってください。僕はバラムドで父さんが代々受け継いできていたバザール商会をやり続けたい。我が商会はみんなを豊にするためにをバラムドで実現したいのです!」

バールハザーは驚いていたが、

「意思は固いのだね?」

「もちろんです」


「私もソエルと共に、バラムドへ戻ります」

ガスパーテンが言ってきた。

「そうか。お前ならソエル様のお役に立てるであろう。頑張りなさい」

ランパーテンは息子を応援した。



直哉は、

「それでは、バラムドへの足がかりを得るために、リカード王よりお話があります」

リカードは笑いながら、

「ここで、私に振るのかよ!」

「えっ? バルグフルの王様なのですか?」

「なぜ、ここに」

ソエルハザー達は驚いていた。


「まず、我々バルグフルの偵察部隊を先行させます」

(正確に言えば、マーリカの忍部隊ですが)

リカードは直哉の視線を無視して、

「バラムドでの拠点を構築してから、バザール商会の方々に戻ってもらいます」

「バラムドでの拠点ですが、目星は付いているのですか?」

リカードは書類を広げながら、


「伊達にバラムドへ行って交渉したわけでは無いよ。別働隊として、拠点構築をする者達を置いてきてある。指示を出せば直ぐにでも拠点を構築してくれる手筈になっている」

直哉は素直に驚いて、

「そんな事をしていたのですか?」

「あぁ、バラムドでの交渉が失敗したとき、直哉の頑張りを無駄にしないように、あらゆる手を打っていたのだよ」

リカードは胸を張って答えていた。

「流石ですね」


「では、潜入部隊を決めましょう」

「バザール商会からは、僕とランが行きます。バラムドで拠点を構築できれば、バラムドに居るバザール商会の者を呼び寄せられますので」

「わかりました。バルグフルからは、直哉達を出します。我がバルグフルの精鋭中の精鋭です」

「荒事なら任せてください。ツワモノが揃っています。・・・・ってこれじゃぁ、俺達は悪者ではないですか!」

その場が少し和んだ。


リカードはまとめに入った。

「では、今日は準備がありますので、明日の朝、直哉達と共にバラムドへ出発してください」

「トンネルを使ってよいですか?」

直哉の確認に、

「勿論だ。馬車も、出口までは使えるぞ」

「了解です」

「それと、直哉達がバラムドでバザール商会を押し出している時に、トンネルから街道までの道を整備しておこう」

「バザール商会との取引がしやすい様にですね」

「そういう事だ」



話がまとまり、リカード達は帰っていった。



残されたソエルハザーは、

「父さんは凄い方と知り合ったのですね」

「あぁ、これも御開業者様のお導きだよ」

バールハザーは祈っていた。

(まぁ、それは俺なんだけどね)

直哉がそう考えていると、サラフィーナが、

「直哉さん申し訳ありませんが、食事をさせて貰えないかしら?」

「もちろんですよ」

直哉は、自ら調理場に立ち、料理を披露した。



「美味い! 美味い!」

ソエルハザー達は《美味い》を連発しながら、直哉の出した料理を頬張っていた。

「この、唐揚げは美味しいですね」

「唐揚げの横にある、白いソースが絶妙ですね」

「こっちの串揚げも美味しいです」

「串揚げにかかっている黒いソースも美味い」

ソエルハザー達二人と、看病をしていたバールハザー達四人と共に、食事を堪能していた。


「子供達の食事も作っていただいているのですか?」

「昨日から美味しく頂いています」

ソエルハザーは荷物を取り出そうとして、

「そういえば、僕の荷物は何処ですか?」

「ソエルハザーさんの荷物は無かったですね、もしかしたら、その場に居た蜘蛛達が持って行ったのかもしれません」

ソエルハザーは考えながら、

「私たちを襲った者達が持っていたという事は無いですか?」


「リカードに聞いて見ましょう」

ソエルハザーは直哉に詰め寄って、

「襲った犯人が居るのですか?」

「はい。全部で六名を捕らえております」

ソエルハザーは、襲われたときの状況を思い出しながら、

「その中に商人風の男が居ませんでしたか?」

「雇い主と呼ばれている人物が居ました。何でもバラムドで、エッチゴーヤ商会へ奴隷を売っていた人物だそうです」

「そいつだ! 間違いない。そいつが、俺たちを襲わせたのだ!」


直哉は、起きて来ていたマーリカにリカードの許可を貰い、ソエルハザー達を奴隷商の元へ連れて行くことになった。

結果は、荷物は金目の物は冒険者達の物になり、持ちきれない荷物は、近場に捨てた事がわかった。

そして、ソエルハザー達の証言により、奴隷商や冒険者達はリカードの権限により、死刑が確定した。

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