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第百四十一話 合流と涙

エリザの元へ直哉達が集合したのは数時間後であった。

直哉達が集合するまでに、エリザは既に周囲の安全を確保していた。

エリザによると、生き残りも居たようで、回復薬での治療は完了していたが、意識は戻っていなかった。


「ありがとうエリザ。襲いかかっていた魔物は?」

「あちらに逃げたのじゃ」

エリザは山の方を指さした。

直哉は死者の状態を確認すると、違和感を覚えた。

「この方々は、蜘蛛に襲われたのかな?」

「恐らく違うのじゃ」

「だよね、こっちは潰れているし、この方は火傷しているし、この方は何かに刺されたような跡もある」

エリザがその跡を見て、

「これは、矢で射抜かれた跡じゃな」

「つまり人間に襲撃された後で、放置されたという事だな」

「恐らくそうなのじゃ」


直哉は周囲を確認して、

(捜索隊を別けるしかないか)

「リリとマーリカは蜘蛛を追ってくれる? そっちに連れて行かれてしまったかもしれないから」

「わかったの!」

「承知いたしました」

直哉はラリーナを見て、

「ラリーナは生存者が居ないか確認して貰える?」

「わかった。行くぞ!」

「エリザは俺と共に負傷者と死者をバルグフルへ搬送する」

「わかったのじゃ」


直哉は台車を数台造り出して、負傷者を先にバルグフルへゲートを使用して搬送した。


負傷者は直哉の屋敷へ運び込み、フィリアが到着するまで、ミーファに薬草での看病を頼んでおいた。

「次に亡くなった方を運び込みますので、遺体の安置場所の準備をお願いします」

「どのくらい居るの?」

「今の所大人が三名です」

「増えるかも知れないのね」

「はい」


「わかりました、屋敷の地下訓練場の一角を使いましょう。氷を大量に準備しておきます」

「お願いします」


直哉達は、ゲートを使い元の位置へ戻ってきた。


「エリザはご遺体を運んでおいてくれ、俺は周囲を調べてみる」

「わかったのじゃ」

直哉はエリザに頼むと、改めて周囲を見渡した。

深い森の中で、普通ならこんな場所へ立ち入らない場所であった。

「木々が変な風に倒れていたお陰で発見できたのか」

戦闘で出来たのか、木が数本左右に広がるように倒れていて、上空からも地面が見える様になっていた。

「この木々は何が倒したのだろう? エリザは蜘蛛が居たと言っていたが、蜘蛛が破壊したとすれば、何故ここだけなのだろうか? 逃げた方は木々は無事だよな。」


さらに詳しく調べると、地面にクレーターの様な穴が出来ていた。

「これは、攻撃で出来た穴? と言う事は周囲の木々はその攻撃で押し倒されたのかな?」

木々のダメージなどを調べていると、

「死者の搬送は終わったのじゃ」

エリザが近づいて来た。

「エリザ、ここに攻撃した?」

直哉はクレーターを指さした。


「いや、わらわの矢は全て蜘蛛に当たったのじゃ。それに、槍は撃っておらんのじゃ」

「そうか。蜘蛛はこの位置にいた?」

「いや、死体に乗り食べていたのじゃ」

(つまり、エリザの攻撃ではないか)

「わかった。ありがとう」

その時ラリーナから連絡が入った。



(数名の子供を拉致したと思われるグループを発見。どうする?)

(うーんと、位置は)

直哉はラリーナの居る方角を確認した。

(ゲートで近づくよ。そのまま追ってくれる?)

(わかった)

直哉はゲートを開きラリーナに近付いていった。


何度目かのゲートを潜った時、近くから戦いの音が聞こえてきた。

「直哉殿、戦闘音がするのじゃ」

「うん。聞こえた。この近くだな」


直哉が戦っている所まで行くと、ラリーナな子供達を庇いながら戦っていた。


「何故戦闘になったのだ?」

「足手まといとかで子供達を殴ろうとしていたから、成り行きで助けてしまった。後悔はしていない」

そう話していると、

「おいおい。また増えたぞ! 勘弁してくれ。護衛は全て倒したのではなかったのかよ」

若い男が呆れたように言ってきた。

「再度言うぞ。護衛は全て殺せ。あの子供達を売った金がボーナスになるのだぞ!」

雇われ冒険者達が襲いかかって来た。


マーリカに連絡して状況確認した。

(マーリカ、聞こえる?)

(はい。ただ、現在戦闘中です。蜘蛛が大量に襲い掛かってきてます)

(大丈夫なの?)

(はい。リリさんが殆ど撃破してくれています)

(そうか。それなら、戦闘が落ち着いたら連絡してくれるかな)

(承知いたしました)


直哉は指示を出した。

(ラリーナ)

(おう。正面の戦士以外にも居るぞ!)

(ラリーナは正面の戦士に集中して、俺が残りに奇襲をかける)

(わかった)


直哉はエリザを見ながら、

「エリザ! 子供達を安全圏へ運びラリーナの援護を! 殺すなよ」

直哉が見ていたので頷いて了解の意を示した。



その時には敵の戦士が動き出していた。

直哉は後方に隠れている冒険者達を探しだし、

(遊撃の剣士、弓兵、魔法士が二人か。位地も大体把握した)


戦士がラリーナと対峙した。

走ってきていた戦士は、

「爆砕!」

と、技を放ってきた。

「リズファー流奥義! 大地割り!」

ラリーナは戦士の技に合わせて奥義を放った。


(相討ち? いや、技の威力を抑え込んだのか)

「マリオネット!」

直哉の周囲に大量の剣が浮かび上がった。

剣といっても、幅広の剣ではなくエストックのような突き刺すのが目的の剣であった。

(魔法使い達が詠唱していて、剣士がラリーナの後ろに回り込もうとしていて、弓兵が俺に向かって撃ったな)

直哉は盾を構えて矢を防いだ。


カン!


矢を防いだ事を確認してから、

「ゲートイン!」

五つのゲートを造り出し、

「ゲートアウト!」

剣士、弓兵、魔法士達、そして、命令を出していた男の背後にゲートを造り出した。

魔法士達は背後に魔力を感じて振り向いてしまい、詠唱がキャンセルしてしまった。

「行け!」


直哉がマリオネットを操作して剣をゲートに送り、剣士、弓兵、雇い主の背後から、魔法士達の視線の先から大量の剣を放出した。


「うわ!」

「ぎゃあ!」

「ぎゃ!」

あちらこちらから悲鳴が上がった。


(やっぱり、初見の不意打ちなら負ける気がしない)

などと大人気ない事を考えていたが、

(いや、相手の能力を完全に把握した戦いなんてそんなにないか)

と誤魔化した。


直哉は後続と雇い主を串刺しにして、戦闘不能へ追い込んだ。

そのまま、マリオネットで運んできた所で、ゲートを解除した。



「へぇ、お前は良い腕をしているな」

相手の男がラリーナに言って来た。

ラリーナは無駄口を叩かず、直哉が周囲の敵を無力化するのを待っていた。

「ちっ、おしゃべり位してくれても罰は当たらないと思うのだがな!」

剣を振り下ろし、勢いでラリーナを押し込もうとした。


エリザはラリーナが男を抑えている間に、ラリーナの後ろにいる子供達を抱えた。

「フム、たかが四人の子供、そのまま運んでやるのじゃ」

エリザは四人の子供を器用に抱え込んだ。

「ラリーナ殿、子供達は任せるのじゃ」

そのまま、離れていった。


さらに直哉が串刺しになった冒険者達をそのまま、マリオネットで運んできた。

「流石に重いな」

ゲートの関係で、途中でマリオネットの張り替えを行っていた。


「ラリーナ、無力化させて良いよ」

「任せろ」

ラリーナは直哉の命令を受けて、

「リズファー流奥義! 大地割りをストックして、リズファー流、舜迅殺!」

戦士は自分の目が信じられなかった。

「何だ? この速さは!」

それでも咄嗟に剣をバットのように真横にスイングして迎撃をしてきた。

「ふっ!」

戦士の剣はラリーナに触れたように見えたが、

「あまい!」

その姿は霧が晴れる様に消えた。



「何が!?」

戦士の動きが止まった一瞬は、舜迅殺中のラリーナにとって、大きな隙となった。

「大地割り!」

戦士の右腕と右足を骨折させるだけに威力を制御した奥義が炸裂した。


「ぐぁぁぁぁぁ」

戦士は少しの間叫んでいたが、痛みのため意識を失った。

「流石だね」

直哉は戦士達を個別に縛り上げ、一ヶ所に纏めておいた。



「さて、子供達は無事かな?」

エリザは子供達を抱えながら姿を現した。

「どうやら、無事のようだね。エリザ、ありがとう」

「どういたしまして、なのじゃ」

直哉が子供達の事を見ていると、リリ達が飛んできた。


「あれ? もう終わっているの」

「遅くなりました」

飛び込んでくるリリを抱き止めながら、

「そっちはどうだった?」

「どの蜘蛛か解らないくらい蜘蛛が居たの」

「襲いかかってきた蜘蛛が十体以上で、全て倒した所襲撃は止みましたが、周囲にはたくさんの蜘蛛がいました」

「統制が取れるほどの大物が居るというわけだね」

しばらく考えてから、


「今日は戻ろう。バールハザーさんに行方不明者が居ないか確認してから再開だね。考えたくは無いけど、この人たちが無関係という事もあるからね」

「それは、最悪だな」

直哉達は子供達と戦士達を台車に乗せて、ゲートを潜って戻ってきた。




◆バルグフル その日の夕方


子供達は目を覚ましていたが、怯えていた。

(話を聞くのは無理だろうな)

「みんな、お腹空いているでしょ? みんなで食事にしよう」

直哉が優しく声をかけるが、みんな怯えたままであった。

そこへ、ミーファがやってきた。

「ほら、何をやっているの! みんな! ご飯だよ。さぁ! 行った行った」

ミーファは力技で子供たちを食堂へ連れて行った。


「おぉー!」

「あぁー!」

子供達は食堂に並んだご飯に釘付けであった。

「これは、リリのだから食べたら駄目なの!」

リリが子供たち相手に威圧していた。

「こら! リリ! お姉ちゃんですからもっとしっかりとしなさい!」

ミーファに怒られシュンとしながらも肉を確保していた。


子供達も肉料理を大量に食べていた。

「こら! 野菜も食べなさい!」

「俺、野菜嫌い!」

「お肉があればいい!」

「にーくにーく!」

子供達が騒ぎ出すと、鬼の形相のフィリアが入ってきた。


「野菜も、食べますよね」

「あぁ」

カクカクカク

フィリアの眼力に子供達は自動的に頷く人形になりながら、野菜も食べていった。


ご飯を食べ終わり、みんなをお風呂に入れようとすると、

「やっぱり、俺たち売られたのですか?」

と、怯え始めた。

「ん? いや。買うつもりもないし売るつもりも無いよ」

直哉がそういうと、

「あれ? エッチゴーヤ商会の人ではないのですか?」

「俺? 俺は直哉、バルグフルの伯爵をやっている者だよ」


子供達はざわめき始め、

「伯爵様!? た、大変失礼いたしました。平にご容赦を!」

みんな平伏した。

「まぁ、顔を上げて」

「で、ですが」

「さぁ、お風呂に行って、温まってきなさい」

直哉は子供達をお風呂に連れて行った。

子供達は全員男の子であった。



子供達が入浴しているとバールハザー達が直哉の屋敷へやってきた。

「直哉さん! 子供達を救出したと聞いたのですが?」

「はい。一緒に居た大人達は2名しか救出出来ませんでした」

「案内してもらえますか?」

直哉はバールハザー夫妻を連れて、負傷者を寝かせている場所へ案内した。


バールハザーが寝ている男を見て、

「おぉ! ソエル!」

サラフィーナも駆け寄り、

「ソエル! あぁ、良かった。生きていてくれて」

そう言って抱きしめていた。



「それで、こちらの男性は、ご存知ですか?」

「はい。ランパーテンの弟のガスパーテンです。会計を担当してもらうはずでした」

「それで、他の人達は?」

直哉は首を横に振って、

「後、救出できたのは子供達が四名です。大人達の残り三名は亡くなりました」

「そんな!」

「遺体は地下の冷暗所に保存しております」

「案内してもらえますか?」


直哉は地下の簡易遺体安置所へ案内すると、バールハザー達は泣き崩れた。

「そんな、お前たち若い者が先に逝くなんて」

二人はひとしきり悲しんだ後で、

「直哉さんありがとうございました」

バールハザーは頭を下げた。

「それで、子供達は何処にいるのでしょうか?」

「先程目を覚ましたので、食事をした後でお風呂に入っています。そろそろ出てくると思いますよ。先程の食堂へ行きましょう」



直哉達が食堂へ戻ってくると、子供達が風呂から出てきて寛いでいる所であった。

「ご、ご主人様!」

男の子達はバールハザーを見つけると、駆け寄って平伏した。

「おぉ! お前達! 元気そうで何よりだ」

「申し訳ありません。若様が危険な目にあってしまいました」

「そうだ。何があったのか教えてくれないか?」

子供達は一生懸命に話していたが、中々要領を得なかった。


そこへ、

「カズにぃ!」

バールハザーと一緒に逃げていた子供達が合流した。

「ガーネ! 良くぞ無事で!」

カズにぃと呼ばれた男の子が駆け寄ると、妹を抱きしめた。


直哉はその様子を見て、

「今は落ち着きましょう。ソエルハザーさん達の意識が戻れば、もう少し詳しく状況がわかると思いますので」

バールハザー達は張り詰めていた空気を和らげて、その場に座り込んだ。

そこへ、フィリアがやってきて、

「バールハザーさん達は長旅でお疲れでしょうから、お食事とお風呂をご堪能ください」

食堂には先程と同じ様なメニューが並べられ、

「ここの料理は旨いんだぜ!」

カズにぃと呼ばれた男の子がガーネに説明していた。


リリがお肉と呟いていたのは聞かなかったことにして、バールハザー達を食堂へ案内した。

(バールハザーさん達は、大人が六名、そのうち男性が四名で女性が二名。子供が九名で、そのうち男の子が四名で女の子が五名か。バールハザーさんにはバラムドでの実権を握って欲しいところだよな。リカードもそう思うだろうし。それに、人形師にも会いたいし。今のエッチゴーヤが実権を握ったままでは難しいと思う)

直哉はそんな事を考えながら、バールハザー達を接待していた。

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