第百四十話 大捜索と果て
◆次の日
休憩所の食卓は賑やかであった。
直哉達をはじめ、バラムドからの者達も加わっていた。
「昨日も思ったのですが、バルグフルでは、毎日こんなに美味しい料理が食べられるのですか?」
「そうですね。山の幸や川の幸が中心に発展していましたが、最近は海の幸も順調に増えてきました」
バールハザーは海の幸に興味を持ったようで、
「海の幸ですか? どの様な物が出ているのですか?」
直哉はアイテムボックスから、イカやカニを焼いたものや、白身魚の煮付けや、炙った赤身などを取り出して食卓に並べた。
「肉は? 昨日の肉はないの?」
すかさず、リリが肉を請求してきた。
「勿論用意してありますよ」
フィリアがリリ用に大量の熊肉の焼肉を用意していた。
「わーい! おっ肉! おっ肉なの!」
リリは大喜びで肉に齧りついていた。
「本当に食が豊かなのですね」
そう言って料理を堪能していると、
「あれ? これは何ですか?」
温野菜の横に色々な調味料が置いてあった。
「あぁ、それは温野菜につけて食べる調味料ですね。野菜だけそのまま食べても良いですし、その調味料を付けて食べても美味しいですよ」
バールハザーは野菜その物の味に驚いた。
「いつも煮込むか焼いてしまうのですが、この調理法は野菜の旨味を引き出しますね」
次に勧められた調味料を付けて食べてみた。
「これは、また旨い!」
さらにパクパク食べていた。
子供達も、マヨネーズの虜になり、一心不乱に食べていた。
食事が終わると、直哉とバールハザーはリカードの元へ飛ぶための準備をしていた。
「こ、これは何ですか!?」
バールハザーはゲートの魔法に驚いた。
「これは、ゲートマルチという転移魔法です。コレをくぐればバルグフル城へ飛べます」
「直接お城へですか!?」
転移先がバルグフル城という事で更に驚いていた。
「それじゃぁ、行ってくるよ。みんなは待機していてください」
直哉はバールハザーと二人で行く事にして、残りの者は待機していて貰った。
二人がゲートをくぐると、そこは待機室で、既に直哉が来る事が伝わっていたのか、シンディアとアレクが待っていた。
「おはようございます」
直哉が挨拶すると、
「おはようございます。そちらがバラムドの商人ですか?」
シンディアの質問に、
「は、はい。はじめまして、私はバラムドで商いをしておりましたバールハザーと申します」
深々と頭を下げた。
「はじめまして、私はバルグフルの宮廷魔術師のシンディアと申します」
隣に居たアレクが、
「私は近衛騎士団長のアレクです」
お互いの挨拶が終わり、
「それで、どちらへ向かえば良いのですか?」
「リカード様は談話室でお待ちです。こちらへどうぞ」
直哉とバールハザーはシンディア達に連れられて、談話室へ向かった。
談話室へ到着すると、中にはリカードの他にアンナとゴンゾーも待っていた。
「リカード、ゴンゾーさん、そしてアンナさん。おはようございます」
直哉の声に、
「おぉ! 直哉! 良く来たな」
「お久しぶりです直哉さん」
「お久しぶりです」
三人が声を掛けてきた。
その後、バールハザーとの挨拶を済ませて、本題に入った。
「こちらにいるバールハザーさんの息子さん達が、バラムドからバルグへ向かったようなのですが、バルグを調査している時に立ち寄りませんでした?」
「私の手元には、そう言った報告は入ってきていませんね」
シンディアは書類を確認して、
「いえ、来ていますよ」
「えっ? どれ?」
リカードがその書類を見ると、
「行商人? バラムドからではなくソラティアから?」
「恐らく、この行商人の一行がバールハザーさんのご子息なのでしょう」
シンディアの説明に、
「それで、どこかへ向かうとか言ってませんでしたか?」
「バルグが無理ならバラムドかなと発言していたそうです」
バールハザーは絶望した顔で、
「そ、そんな! あれほどバラムドへは戻るなと言っておいたのに!」
直哉はリカードに、
「そういえば、俺達はこのままバラムドまで道を整備して行って良いの?」
「そうだな、今はトンネルが開通した所だったな?」
「はい。現在、トンネルの出口で仕事が停滞しています」
リカードは深く考え、
「直哉がそれを聞くと言う事は、探しに行きたいのだな?」
「ばれましたか? 俺達なら空から探せるので有利かと思ったのですよ」
「確かにな」
二人の会話を聞いて、
「息子を捜して頂けるのですか?」
「俺は、探したいと思っています。ですが、国王からの仕事を放りだしていく訳にもいかないので、現在交渉中です」
直哉の説明に、リカードは苦笑いを浮かべながら、
「おいおい、その言い方だと答えが決まってしまうではないか」
それを聞いた、バールハザーの顔色が戻って来た。
「だが、我々にも明確な利益が無いと、動かす訳にはいかないのだよ」
リカードは、渋々と説明した。
そこでバールハザーは、
「我々はバラムドの商会を営んでおります。現在は逃亡の身ですが、息子と共にバラムドで商会を再開出来た暁には、我が商会とバルグフルとの交易を優先的に行いたいと思います」
「うーむ。しかし、現在はバラムドをエッチゴーヤ商会が牛耳っているのではないのかな?」
「はい。バラムドをエッチゴーヤから解放して頂ければ、という条件になります」
今まで黙っていたシンディアが口を開いた。
「それは、虫が良すぎるのでは?」
「確かにな」
「ですが、長期的な事を考えれば、お得なのではありませんか?」
リカードは決断した。
「とにかく、一刻を争うご子息の捜索を始める。バラムドへの道づくりは、直哉のパーティ以外で進める事とする。今までより進行速度が落ちるだろうから、トンネルの警備を残し一次帰還し、再度計画を練り直して準備せよ!」
「はっ!」
「ありがとうございます」
シンディアはリカードの命令を文書化して、リカードの印を押して直哉に渡した。
「これを持って行きなさい。ラナに見せて、警備の計画を練り直すように指示してください。そして、職人達の非戦闘員を帰還させてください。お願いします」
「わかりました。バールハザーさん達はどうしますか?」
バールハザーはリカードに向かって、
「バルグフルへ一時避難しておきたいのですが、よろしいでしょうか?」
頭を下げた。
「えぇ、ご子息が見つかるまで、皆さんでゆっくりしていてください。非戦闘員達と共に帰って来てください。そのまま直哉の領地へ案内します」
「そういえば、うちの領地にバラムドの商人が居ましたね」
直哉の発言にバールハザーは、
「えっ? 名前は何と言うのですか?」
「確か、バルザダークと名乗っていました」
バールハザーは考えて、
「その人はエッチゴーヤ商会に潰された、バズール商会の者でした。数年前に残った財産と共にバルグへ逃亡したと聞いていましたが、バルグフルへ来ていたのですね」
「彼の腕は本物ですよ。俺の領地の商店を切り盛りして貰ってます」
「では、到着したら挨拶させてください」
直哉達は予定が決まったので、みんなの待つトンネルの出口まで戻っていった。
「帰って来たの! お土産は?」
ゲートをくぐると、リリが直哉に飛びつきながら肉を請求してきた。
「えっ? 無いよ。直接お城に行ってそのまま帰って来たから、お店に寄ってないのだよ」
直哉の説明に、
「えー、残念なの」
そう言って、ガッカリしていた。
直哉はリカードからの命令書を、ラナと職人達のリーダーへ見せて、行動を開始させた。
その傍では、バールハザーがお城での話しを伝え、全員でバルグフルへ向かう事となった。
「では、バールハザーさん、俺達は行きますね。ラリーナとフィリアはどうする?」
「私はここからバラムド方面へ走ってから、バルグへ向かってみるよ」
「私はここでは出来る事が無さそうなので、バールハザーさん達に直哉様の領地を案内しておきます」
「わかった。よろしく頼むよ」
そう言って、フィリアとラリーナを抱きしめた。
「マーリカは忍にバラムドへ潜入して、バールハザーさんの商会の者が、ご子息さんが戻ってないかの確認をしてください。バールハザーさん、ご子息の名前を教えてください」
「息子の名はソエルハザーです」
直哉は頷いて、マーリカに指示を出した。
「そうだ、バールハザーさん。ご子息に会った時にこちらを証明する手段はありますか?」
バールハザーは一枚の布をトリ出しながら、
「そうですね、では、この紋章を見せて、我が商会に伝わる経営理念を言って貰いましょう」
「我が商会はみんなを豊にするために、ワンフォーオールですか?」
バールハザーは驚いた顔で、
「よくご存じですね」
「やはりこれでしたか」
「とにかく、経営理念のワンフォーオールの意味を言って貰いましょう。《我が商会は》と《みんなを豊にするために》の前半後半に分けて合い言葉にしましょう」
「解りますかね?」
「私の息子ですから、その位は解ってくれますよ」
直哉はフィリアに、
「後は、任せます」
と言い残し、捜索のため空へ舞い上がっていった。
「どうするの?」
「リリはバルグを抜けて、ソラティアの国境付近待て、エリザはバルグからバルグフルの方へ、マーリカはバルグの上空まで、連絡はマーリカを通して俺に教えてくれ」
「了解です」
三人は直哉の指示を受けて、それぞれの方向へ向かって行った。
直哉も下を見ながらバラムドの方へ向かい、そこからバルグを見て、バルグフルとは反対の方へ向かっていった。
直哉、リリ、ラリーナ、エリザ、マーリカの五人は成果の無いまま一日目を終えた。
バルグに設置したゲートを使用してバルグフルへ戻った。
休養を取り直哉は地図を広げた。
「ここからここは上から見て、ここは地上から見たと。リリ達はどのルートだった?」
直哉達はその日のルートを時間の経過と共に確認していった。
「これで、全部の情報が出揃ったか。明日のルートは今日のルートから割り出して見よう」
直哉は捜索ルートを割り出していた。
次の日、直哉は捜索の準備を始めた。
「マーリカ、忍びからの連絡は?」
「今のところ、帰還したという情報は入ってないそうです」
「そうか、それなら今日は、ソラティア側を重点的に捜索します。バルグフル方面にエリザ、バルグフルとは反対方面に俺、残りの三人はソラティア方面を捜索してください」
「了解です」
直哉はバルグを越えて、さらにその先へ進んでいた。
眼下には大きな草原が広がり、数多くの生物が生活をしていた。
(雄大な景色だな)
直哉が景色を見ながら飛んでいると、正面全体が霧に覆われていることに気がついた。
(ん? 何だ? 霧?)
さらに近づくとある一定の場所から霧の壁になっていることに気がついた。
「何だこれ?」
直哉が手を伸ばすと、そこには壁があり進めなくなっていた。
(マップはどうなっているのかな?)
直哉がマップを確認すると、やはり目の前から真っ白になっていた。
(うーん。どういうことだ?)
直哉は霧の壁を触りながら、
(この世界の果てと言うことなのかな? 確かにバルグからかなり離れているから、馬車を使ったとしてもかなりの時間がかかるよな)
直哉はマップを見ながら、
(どこまで続いているのだろうか。とりあえずソラティアの方へ行ってみるか)
直哉はソラティア方面へ向かって行った。
リリとマーリカは空から、ラリーナは地上から捜索してた。
「商人たちは居ないし、人が居ないの」
「本当にこちら側に来ているのでしょうか?」
リリとマーリカは一向に代わり映えのしない景色に苛立っていた。
「前方に山脈があります」
「ソラティアとの国境なの?」
二人は山脈の麓を旋回していた。
「シロ! 周囲の警戒を!」
ラリーナもシロを伴い、地上を走っていた。
「周囲は草原だし、人が隠れるような草木や窪地も無いな」
「わん!」
「匂いも土と草だし、こちら側は外れなのかな?」
そう呟きながら、捜索して行った。
エリザは上空からバルグフル方面へ地上を捜索しながら焦っていた。
(しかし森が深いのじゃ。これでは、捜索漏れが出てしまうのじゃ)
そうボヤキながら飛んでいると、森の異変に気がついた。
(あれは何なのじゃ?)
詳しく見るために近づくと、数名の死体を蜘蛛型の魔物が食べていた。
「何じゃと!」
エリザは、弓矢を出すと、死体に群がっている蜘蛛に向けて矢を放った。
「キシャー!」
蜘蛛は声を上げながら威嚇し、糸を上空へ放ってきた。
「危ないのじゃ!」
エリザは蜘蛛の糸の射程距離外まで上昇してから攻撃を再開した。
「キシャー!」
まずで、ずるいぞと言っているかのように奇声を上げていた蜘蛛は、エリザの矢に対して糸を使った防御陣を展開した。
「それは、直哉殿の防衛網か、蜘蛛ごときが真似をするんじゃないのじゃ!」
実際には、直哉が真似をしたのだが、エリザには解らなかった。
しばらく攻撃を続けていると、蜘蛛は諦めたようで、死体から去って行った。
「マーリカ殿、直哉殿に連絡をして欲しいのじゃ」
エリザはマーリカを通じてみんなを呼び寄せるのであった。