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第百三十九話 バラムドで起こっている許せないこと

休憩スペースに戻って来たフィリアはマーリカの治療を始め、直哉が付き添おうとしたが、バールハザーの相手をするように言われて追い出された。その代わりにマーリカの手下である忍び達が数名付き添っていた。


直哉達は非戦闘員達に指示を出し、料理を作り治療を終えたバールハザー達に振舞った。

子供達は勿論の事、大人達も目を輝かせながら食べていた。

「旅の途中なのにこの様な豪華な食事にありつけるとは、夢のようですな」

「そうですね。バラムドに居た時ですら、ここまでの料理は出てきませんよ」

直哉はその様子を見ながら、直哉の膝の上で泣き疲れて寝てしまったリリの事を考えていた。

(あのリリが、肉料理が出ているのに食べないどころか、起きる事すらしないとは、早めに修理する必要があるな)

周囲では職人達、非戦闘員も食事をしていた。



食事も終わり、直哉はバールハザーと話し始めた。

「命を救って頂いただけでなく、食事を出して頂き本当にありがとうございます。今はこれが精一杯ですが、お受け取りください」

バールハザーはそう言って、金貨を取り出した。

「それには及びませんよ。困った時はお互い様です。それに、バラムドの商人ですよね? バラムドとの交易が私達の目的ですから」

直哉がそう言うと、バールハザーは目を伏せながら、

「それでしたら、ぬか喜びになってしまうかもしれません」

「どういう事ですか?」



「先程も言ったように、バラムドはエッチゴーヤ商会が牛耳っています。彼らと、彼らを守る街の重役達を何とかしなければなりません」

直哉は少し考え、

「バールハザーさん達はバラムドへ戻らないのですか?」

「戻りたくとも戻れませんよ。この子達が居る限りは」

そう言って、子供達を見た。



「どういった、ご関係なのですか?」

「それを説明するには、私達について話す必要がありますね。先程も話したように私はバールハザーです。こっちが、妻のサラフィーナ」

横にいた女性が頭を下げた。

「バールハザーの妻です」

そして、白髪混じりの男女を呼ぶと、

「この男性がバザール商会の会計で、先代の頃から勤めてくれているベテランです。女性はその婦人です」

「お初にお目にかかります。会計士のランパーテンです。こっちは妻のリオスです」

会計士とその妻は頭を下げた。


「後は、子供達ですね」

子供達は疲れていたのか、ご飯を食べた後で、全員眠っていた。

「あの子達は全員女の子です」

見た目は完全に男の子だったから直哉は少し驚いていた。

「あの様に男の子に変装させ、エッチゴーヤ達の目を向けさせないようにしていました」

悲しい顔をしているバールハザーに、

「どういう事ですか?」


バールハザーに変わりサラフィーナが怒りの声をあげた

「あいつらは獣です。小さな少女を見ればスカウトと称して、すぐに誘拐しようとしてくる。傍に両親がいようがいまいが関係なく。そして、抵抗した両親は何故か暴行罪などで、役人に連れて行かれる。だから、街の少女はみんな男装するか、家から一歩も出ない生活を強いられています」

「スカウトとは、何のスカウトなのですか?」

「そういう、少女を欲しがる者に売りさばく商品のスカウトです」

二人の説明に直哉は、

「それは、人身売買ではないですか!」

「おぞましい集団なのです」

「最低ですね」

直哉が憤慨していると、奧からマーリカを伴ったフィリアがやってきた。


「本当に酷い話しですね」

フィリアも怒りを露わにしていた。

「マーリカ、身を挺して守ってくれてありがとう。身体は大丈夫?」

「はい。ですが、最後までお守り出来ず、不徳の極みです」

直哉は首を横に振りながら、

「何を言っているのだい? マーリカのお陰で俺は生きているのではないか。俺の為に大怪我までしたのだから、胸をはってくれ」

「ご主人様。ありがたき幸せ」

二人のやり取りに、

「直哉さんは不思議な考えをお持ちなのですね」

と、感心していた。



「直哉様、そろそろよろしいですか?」

フィリアが止めに入った。

「あぁ、申し訳ない。何処まで話しましたっけ?」

「女性たちの話です」

フィリアが補足してくれた。

「そうでした。それで、逃げてきたのはあなた方だけですか?」


バールハザーは目を瞑って、

「私たちの方はこれで全員です」

「私たちの方?」

「はい。実は息子たち男性陣は別方向へ逃げ、バルグへ向かっている」

直哉は焦った。

「バルグの状況を知らないのですか?」

バールハザーは同じように焦って、

「バルグがどうかしたのですか?」

「バルグは壊滅しています」


バールハザーは言葉をなくした。

同じようにサラフィーナも言葉をなくしていた。

「リカードに確認を取りましょう」

直哉はマーリカを使ってリカードに連絡を取ってもらった。

「とりあえず、今日は遅くなってきましたので、こちらで休んでください。明日リカードと話し合いましょう」

直哉は非戦闘員達に指示を出し、バールハザー達を休憩所へ案内させた。




◆直哉の休憩室


部屋には泣きつかれたリリ、フィリア、マーリカが居て、熊を持って帰ってきたラリーナとエリザが入ってきた。

「まだ、リリは眠っているのか?」

部屋に入ってきたラリーナが聞くと、

「あぁ。このナックル型杖が砕け散ったのが悲しかったのだろうな」

「リリのお気に入りだったからなぁ」

「それで、直せるのですか?」

直哉は首を横に振って、

「流石にこの状態では修復は無理だよ。新しく造らないと」


「何か良い方法は無いのですか?」

直哉は魔道具作成スキルを発動させ確認していた。

「うーん、やっぱり新しく造るしかないね」

「直哉なら、リリの為に何か出来るのでは無いのか?」

「一応新しく造るときの材料に今回の破片を使おうと思う」

直哉の説明にラリーナが、

「どう言う事だ?」

「リリの魔法の発動体があるのだけど、それも壊れたので新しく造る事になるのだけど、前回の武器の破片を組み込むことで、リリの癖? リリの魔法や技の使い方を引き継いで貰おうと思う」

「どういう事ですか?」

さらにフィリアも聞いて来た。

「つまり、今まで使用してきた武器の情報を、新しい武器へ組み込もうと思う」


その説明をした時に、リリが目を覚まし、

「そんな事が出来るの?」

「うん。スキルレベルが上がって、材料の中に戦いの記憶という項目が増えていたから、きっと出来るよ」

リリは段々目を輝かせて、

「それで造ると、どうなるの?」

「リリが培った、いや、リリ専用の武器が出来る」

リリは興奮し始め、

「今、出来るの?」

「造って見るよ。破片を出してくれる?」


直哉はリリから破片を受け取り、

「まずは、魔道具作成を発動させて、魔法の発動体を選択する。次に必要な材料が表示されるから、それを選択していって、最後に戦いの記憶の項目を表示させて、この発動体の破片を選択する。よし出来るぞ」

リリはワクワクしながら直哉の手を見ていた。

「作成! っと」

直哉の手のひらに、魔法の発動体が二つ出来上がった。

「あれ? 今までは無色だったのに、ピンク色なの」

魔法の発動体は無色透明が常識であったが、直哉が造ったのは薄い桜色であった。

「ここに、リリの戦い方の癖とか、魔力の練り方などが記憶されている、リリ専用の発動体だよ」

「これが、リリの・・・」

リリは大切そうに両手で包み込んだ。


「次に、ナックル型杖の方だけど、今までは魔法を蓄える方向で調整していたのだけど、今回壊れたのは闘気を蓄え切れなかった事だから、これを修正しようと思う」

リリがしっかりと聞いていた。

「具体的には、材料に鉱石を追加するだけなんだけどね」

直哉は中々手に入らない素材を取り出した。


直哉の取り出した鉱石を見たエリザが、

「それは! まさか! あの伝説のオリハルコンなのか?」

「そう、オリハルコンだよ」

「オリハルコンって、滅多に手に入らないし、市場に出回らない代物ですよ!」

フィリアが補足説明をしてくれた。

「いつの間に手に入れたのじゃ?」

「いや、鉱石変化で偶然出来ちゃった」

リリ以外のみんなは絶句し、

「凄い! 流石お兄ちゃんなの!」

リリは跳ね回って喜んでいた。


「オリハルコンが簡単に入手出来るのであれば、私達の装備も強く出来るな」

ラリーナは長巻を取りだした。

「うーん残念だけど、同じ鉱石を同じ様に鉱石変化をかけてもならないのだよね」

「そっか。それは残念だ」

「でも、このオリハルコンで、みんなの武器を強化する量は確保できているから、全員の武器をグレードアップする予定だよ」

そう言って、オリハルコンを五等分にした。


「あれ? 一つ足りないのでは?」

フィリアの突っ込みに、

「ん? リリ、フィリア、ラリーナ、エリザ、マーリカの分だよ?」

「直哉様の分は無いのですか?」

「考えたのだけど、俺が強い武器を持つよりも、みんなが強い武器を持った方が戦えると思ったのだよ」

フィリアは首を横に振り、

「直哉様の安全が第一です。私達の、いえ、私の武器は後回しにして貰って構いませんよ」


「フィリア。俺の事を思ってくれるのは嬉しいけど、フィリアが俺の事を思うように、俺もフィリアの事を思っているのだよ。今回の熊の件でも、攻撃力が上がれば、無理をすることなく倒せたと思う。それを考えると、造れる物を造らずに仲間を危険にさらすのは鍛冶職人としては失格なのだよ」

「しかし!」

「それに、俺が意識を飛ばすより、フィリアが意識を飛ばした方が、このパーティの壊滅に近づいてしまう。リリとラリーナとエリザは攻撃を、マーリカは情報を、そしてフィリアは回復担当でしょ? 俺は武具作成担当だからね」

「わかりました。直哉様は私達が命をかけてお守りいたします」

フィリアはそれで引き下がった。


直哉は心の中で、

(命をかけてまで守らなくても良いように動かないと駄目だよな)

と思いながらリリの武器を造っていった。

「これでよし!」

直哉は一組のナックル型杖を造り出して、リリに渡した。

「お兄ちゃんがリリの為に造ってくれた、リリの為の武器!」

リリは直哉から受け取るとさっそく装備した。



「何かもの凄く馴染んでる気がするの!」

「今回の武器は、魔法ストック数が三つになるから試してみてくれるかい?」

「そんなに溜められるの?」

「うん。そして、課題であった闘気も溜める事が出来るよ」

リリは指を折って数えて、

「じゃぁ、魔法と闘気で六つストック出来るの?」

「いや、両方合わせて三つだね。と言うか、魔法も闘気も魔力を元にしてるからね。魔力をストックする数を三つ以上増やそうとすると、今度は魔法無効とか別の属性が出てきちゃうから、難しいのだよ」

「そっか。残念なの」

「でも、魔力の伝わり方は早くなってるはずだよ」



直哉の説明を聞いたリリが魔力を武器に通すと、

「何コレ!? 今までの数倍の速さで溜まるし、しかも消費MPが少ないの!」

直哉はホッとした表情で、

「上手くいったようだね」

「どういう事?」

「新しい材料のオリハルコンは魔力を操作する特性があるのだけど、武具を造る際、配合量によって操作内容が変化するのだよ。

今回の配合で発動スピードと消費MPを抑えられる事がわかったのは良かったよ」

「えー。リリのは試しだったの?」

直哉は笑いながら、

「ここまで出来たら、後は武具修理で比率を変えられるからね」


リリは首を傾げながら、

「それなら、良いのかな?」

と、装備したナックル型杖に魔法と闘気を貯める事を試していた。

その後、ラリーナの長巻、エリザの槍を打ち出す弓、マーリカの小太刀のアップグレードを済ませた。

「さて、フィリアのはどうしようか?」

「そうですね。このポールハンマーは使っていませんし、この礼剣も持っているだけですし」

装備を渡しながら答えていた。


「それなら、フィリアのエンジェルフェザーに追加して見るか」

直哉の思いつきに、

「どうなるのですか?」

「やってみなければわからないよ」

フィリアは納得のいかないまま、エンジェルフェザーのアップグレードをしてもらった。

「こ、これは!?」

直哉が作り出したエンジェルフェザーは、魔力をストックすることが出来るようになったので、白魔法を乗せて打ち出すことが出来るようになった。

「この羽根一枚一枚に、エンジェルフィストを乗せて、敵の周囲に飛ばした後で発動させれば、その場所で発動するので、攻撃力が飛躍的に上がるし、回復魔法や結界魔法を乗せれば、羽根の届く範囲であれば重複して使うことが出来るのか」


直哉は考えて、

「この系統に乗せれば、物凄い火力アップになったのか!? 勿体無いことをした」

がっくりと肩を落としていた。



「新しい武器が出来たら安心しちゃって、お腹すいてきたの! お肉が食べたいの!」

リリはそう言って、直哉に擦り寄ってきた。

「リリ! もう、晩御飯は終わっているし、深夜だから今日は我慢しなさい」

直哉に甘えているリリにフィリアが怒った。

「えー、でも、リリご飯食べてないよ!?」

「それは、リリが悪いな」

ラリーナもフィリアの援護をしていた。

「ぶー」

リリは不貞腐れながら直哉の胸に顔を埋めて眠ることにした。

「それじゃぁ、寝るとしますか」

直哉を中心に五名が寄り添って寝るのであった。

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