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第百三十八話 昇華とリリの涙

リリはMP回復薬を大量に飲み、MPを全回復させていた。

(とりあえず、回復するまでの時間を稼がないと駄目なの)

真っ白な熊は今は銀色に輝き始めていた。

(あれは何なの?)

リリは戸惑っていた。

(あんな事ってあるの?)

それは、昇華の力。

ホワイトベアはシルバーベアへ昇華していた。


「リリ! 下がりなさい」

フィリアが直哉達の撤退と共にリリを下がらせた。

「フィリアお姉ちゃん! 何か変なの」

「わかっています。だから、今は下がりなさい」

リリはフィリアの言葉を聞いて防衛ラインまで後退した。



防衛ラインでは、ラナ達を中心に防御陣を展開していて、いつでもトンネルの方へ離脱できるようにしていた。

トンネルの方では、商人達にご飯が振舞われていて、リリが、

「あ、お肉忘れたの!」

と、嘆いていた。

「冷凍保存してあるのでしょ? 全部終わったら取に行きなさい」

「わかったの!」

と、ご飯を食べに行こうとした時、先程の熊が雄たけびを上げた。


「昇華してしまいましたね」

フィリアの言葉に、

「昇華? 昇華ってなぁに?」

「生物のランクアップの事です。例えば、モーモーからモーモーキングへと昇格することです」

「えっ!? モーモーキングじゃないモーモーがいるの?」

「えぇ。肉質はかなり落ちますが、居ますよ」

リリは少し考えて、

「じゃぁ、あの熊さんはさらに美味しいお肉なの?」

「もちろんです。恐らくシルバーベアになるでしょうから、そのお肉はホワイトベアよりも美味しいですよ」


フィリアの説明にリリは大興奮で、

「わーい! それなら殺るの! そしてお肉なの!」

リリは飛び跳ねながら騒いでいた。

「リリ、MPは回復した?」

「全快ばりばりなの! いつでも来い! なの」

フィリアは頷いて、

「わかったわ。ちなみに、シルバーベアが相手の場合、私はバリアを張りますので動けないし、ラナさん達では攻撃力不足のためリリしか攻撃が通りません」

「ドンと来いなの!」

リリは胸をたたいて言った。


「ラリーナ達が戻ってくれば少しは楽になるとは思いますが、それまでは頑張って足止めをしましょう」

「お兄ちゃん達は?」

「直哉様は先程、身体が黄金色に輝き始めました。そろそろ、目を覚ますハズです。マーリカはまだ傷を回復しています。戦線復帰には時間がかかります」

リリは不安な表情で直哉達を見た後で、

(お兄ちゃん怒らないでね)

そう言って、魔力を練り始めた。



「ガォォォォン!」

シルバーベアは自分の仲間を倒したリリ達を見付けて襲いかかって来た。

「フィリアお姉ちゃん! 来たの!」

「リリ、頑張りなさい。援護はするけど、基本的に一対一だから」

「わかってるの!」

「お兄ちゃん達を護るため! 美味しいお肉のため! やっつけるの!」

リリは練っていた魔力を使い攻撃を開始した。


シルバーベアはリリに向かって突進してきた。

「速度はそこまで上がって無いの!」

リリはそう言って殴りかかった。


ブン!


リリの攻撃は回避された。

「えっ? 避ける速度は上がっているの!」

シルバーベアは回避と同時に爪の攻撃を放っていた。

「ちぃっ! 攻撃も速くなってるの!」

リリは後ろへ飛ぶのと同時に腕に付けた盾を展開させた。さらに、自動的にサクラがリリを護るために、シルバーベアの前に舞った。

「あれ? サクラが勝手に!?」


リリは直感で、さらに後ろに飛ぶ様に風魔法を操作したが、シルバーベアの爪が近付くにつれ、制御出来なくなっていた。

(やばいの!)

リリは腕の盾と、サクラを集めて強固な防御陣を作った。


ドン!


太い腕に付いた、風魔法で鋭さを増した太い爪による攻撃を受けて、踏ん張ることが出来ず、盛大に吹き飛んだ。

リリは自分の身体を確かめ、

「危なかったの。お兄ちゃんが造ってくれた盾がなかったら腕が無くなっていたの」

リリの身を守った盾は、制御装置ごと破壊されバラバラになっていた。

「サクラもかなり斬られちゃったし。折角お兄ちゃんが増やしてくれたのに!」

リリは怒りながらも魔力を練っていた。


「リリ、怪我は無い?」

フィリアが心配してきたので、

「大丈夫なの! お兄ちゃんの盾が防いでくれたの!」

そう言って、攻撃を再開した。

「あれ? 氷の魔法が効いていない?」

いつも通り、氷結クラッシュを放ったリリだったが、氷結ダメージが無いため、ただのパンチになってしまった。

「ガォォォォン!」

シルバーベアは好機と見て風の力を利用した薙ぎ祓いを放った。

「くっ」

リリは軸をずらし大きく距離を取った。


「氷は効果がないし、風も乱されてしまうの。このままじゃじり貧なの。ダメージが通るような一撃を放つのであればどうすれば良いのか」

リリはフィリア達の方へシルバーベアが行かないように牽制しながら考えていた。

「雷を司る精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵に裁きの雷を!」

リリは両手に魔力を集めて、

「サンダーボルト!」

雷を拳に纏った。

「行くの! 魔神雷撃拳!」

左手でジャブを繰り出し、シルバーベアの動きを止めて、右手による必殺の拳を繰り出した。


「ががががが、がおぉぉぉぉぉーん」

ジャブによる連続痺れと、魔神雷撃拳による攻撃で大ダメージをおったシルバーベアは叫び声を上げていた。

「よし! 雷は効いているの!」

リリは雷を中心にした戦法に切り替えようとした。

「えー、それはないの」

ところが、シルバーベアはリリの放った雷を受け、身体に雷を帯電させていた。

リリが困惑していると、



「リリ、氷と雷を交互に撃ち込みなさい」

フィリアの命令に、

「やってみるの!」

リリは右手に氷、左手に雷を纏い攻撃を開始した。


バシ! バシ! ブン! ブン!

バシ! バシ! ブン! ブン!


攻撃を当てては、シルバーベアの攻撃を避けて、また当てては避けてを繰り返していた。

「ダメージが通るようになったけど、一撃が弱すぎて回復しちゃうの!」

リリは泣きながらも、攻撃を止めれば回復しきってしまうので、攻撃を続けていた。



「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力にひれ伏し邪悪なる者に裁きの鉄槌を! エンジェルフィスト!」

フィリアより援護射撃がやってきた。

「大地に宿る土の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏し立ちはだかる者に礫の洗礼を!」

ヘレンの魔法が炸裂する。

「シャープグラボゥ!」

「これでも喰らえ!」

デイジーの矢が降り注ぐ。

「ガルルルルル」

傷を回復していたシルバーベアは、群がる蚊を払うように皆の攻撃を叩き落としていた。

おかげで、回復が遅くなっていた。


「リリ、今です、一撃必殺を!」

「ありがとうなの!」

リリは拳に魔神拳を溜め、さらに魔神拳を重ねようとしていた。

「はぁ!」


ビシビシビシビシ!


装備していたナックルが悲鳴を上げ始めた。

しっかりと闘気を溜めたリリは、

「やーってやるの!」

魔神拳を重ね掛けしたリリは、シルバーベアへ突撃した。


「はぁ! 魔神拳ダブル!」


ドグシャ!


リリの拳はシルバーベアの頭を完全に粉砕した。

ドサ!

シルバーベアはその場に崩れ落ちた。


「やったの! 倒したの!」

リリが喜びのガッツポーズを取った時、リリが装備していたナックル型杖が砕け散った。

「あー! お兄ちゃんに造って貰った杖が壊れちゃったの」

リリは砕け散った破片を回収しようとその場にしゃがみこんだ。



リリが泣きながら破片を回収していると、ラリーナ達が帰ってきた。

「ただいま。って、リリは泣きながら何を集めているんだ? はっ! まさか、直哉か?」

ラリーナは今でも繋がらない直哉の事を考えていたため、リリが泣きながら集めている姿を見て、かなり焦っていた。

「いいえ。直哉様はあちらです。マーリカも一緒です」

フィリアはそう言ってトンネルの方を指差した。

「そうか、良かった」



その時ラリーナと一緒に来ていたヒミカが走り出した。

「モエカ!」

こっちを伺っていた子供が、

「お姉ちゃん!」

そう叫びながらヒミカの元へ走ってきた。

「良かった無事で」

「お姉ちゃんこそ」


二人が抱き合っている横で、

「ご主人様!」

商人風の男女もやってきて、救出した男性を受け取っていた。

「酷い怪我だ。・・・いや、傷はもう塞がっているのか」

「はい。こちらの方々に助けていただきました」


「そうか、我々を助けていただき感謝いたします」

そう言って、商人風の男女は全員で頭を下げた。

「それで、情報交換をしたいのですが、そちらは大丈夫ですか?」

商人は直哉達の方を見た。



「大丈夫ですよ」

直哉は、かなり流血したのでだるい身体に鞭打ちながら立ち上がった。

「マーリカはまだ眠っているか」

そう言って、周囲を見渡した。

「あれ? リリ? どうしたの?」


直哉の目に映ったのは、何かの破片を持って泣きながらやってくる姿であった。

「ヒック。お兄ちゃんごめんなさい。折角造ってくれたのに、色々壊れちゃったの。うわーん」

直哉の元に、装備品の欠片を持って来た。

「こんなになるほど攻撃を受けたのかい? 身体は大丈夫なの? 痛いところは無い?」

直哉は装備が砕け散るようなダメージを受けたリリを心配した。


「リリの身体は、お兄ちゃんが造ってくれた防具のおかげで、大丈夫だったの」

両腕を軽くまわしながら報告していた。

「そうか、それなら良かったよ。俺の造った武具でリリを守ることが出来たのだから、こんなに嬉しい事は無いよ」

直哉はリリの頭を撫でながら慰めた。

「でもでも、お兄ちゃんに造って貰った大事な武具だったのに」

リリは初めて自分を受け入れてくれた直哉が、最初に造ってくれたあのナックル型杖を大事にしていて、直哉が新しい素材で造るときも、我が侭を言って最初のナックルを使って修理という形式を取って貰っていた。

「そうか、これは杖だったのか。こいつも長い付き合いだったね」

「そうなの。初めてお兄ちゃんに造って貰った大切な杖だったの」


直哉はリリが持ってきた破片を受け取り、

「ありがとう。今までリリを守ってくれて。次はもっと強くして生まれ変わらせるので、またリリの事をお願いします」

直哉は破片にお礼を言った。

「こんな状態でも直せるの?」

「流石に無理だよ。でも、この破片を使って、新しく生まれ変わってもらう」

「ごめんなさい」

リリは泣きながら直哉の胸に顔を埋めていた。



「凄い。武具の破片にも敬意を表するなんて。始めて見た」

ヒミカが呟いた。

「あの姿が本物の鍛冶職人なのだよ」

「ご主人様、傷は大丈夫ですか?」

目を覚ました商人の男の周りに、商人の男女や子供たちが集まっていた。

「それは、こちらのセリフです。ヒミカは怪我とかありませんか?」

「はい。私は大丈夫です。あちらの二人が助けてくれましたので」


商人の男は周りを見て、

「サラ、すまないが状況を教えてくれ」

サラは別れてからの行動を話した。

「そうか。彼らには大きな借りが出来たな」


商人の男は直哉の前へ来て頭を下げた。

「この度は、我がバザール商会の一員を助けていただき、真にありがとうございます」

直哉はバザールの名を聞いて驚いていた。

「バザールって、バラムドに居た商人の事ですか?」

「はい。って、まさかあなた方はエッチゴーヤ商会の者ですか?」

商人の男は後ずさった。

「エッチゴーヤ? 何処かで聞いたような気が・・・」

「リカード様が怒っていた商会の名前がそんな名前でした」

フィリアのフォローで、

「そうだ、そんな事を言っていた気がする」


商人の男は安心したようで、

「私の名はバールハザー、バザール16世です」

直哉は驚きながら、

「16世!? 彼には子供は居なかったはずですか?」

「良くご存知ですね。私はバザール様の子孫ではありません。そもそもバザール商会は、バザール様のお言葉により、優秀な者が受け継ぐ事になっています」

バールハザーの解説に、

(そう言えば、そんな言葉を残したような気がする。つか、選択肢のうちの一つだった気がするけど)

直哉はそう思いながら、

「おれは、直哉。バルグフルからバラムドへ新しい輸送経路を造るためにここまで来ました。あのトンネル潜れば、バルグフルへ到着します」


バールハザー達は驚いていた。

「なんですと! バルグフルへ行くのに馬車で行ける様になるのですか!」

「そのつもりで、ここまで造ったのですが、バラムドとの交易が行われないのであれば、このトンネルも無駄になりますね」

直哉はガッカリしていた。


バールハザー達は相談して、

「直哉様、もしよろしければ、私達に協力していただけませんか?」

そう切り出した。

「どう言った事でしょうか?」


「現在バラムドを牛耳っているのは、エッチゴーヤ商会とその息のかかった商人達です。奴らは安く買い叩いた商品を高値で売りつける最悪の商人です」

「バラムドのお偉いさん方は注意しないのですか?」

「それが、エッチゴーヤ商会からかなりの額が賄賂として渡されているために、滅多な事では動きませんし、動いてもエッチゴーヤ商会が有利になるように話が進んでしまうのです」

直哉は眉をひそめた。

(昔、バザールが失敗したやり方ですね)

「なるほど、バラムドの状況は何となくわかりました。それで、協力とは何をして欲しいのですか?」

バールハザーが話し出そうとすると、


「直哉様、その話が長くなりそうであれば、休憩スペースで話しませんか?」

フィリアが冷静に突っ込みを入れてきた。

「そうですね」

バールハザーも同意して、ラリーナとエリザは熊を回収しに行き、直哉達はマーリカを抱き上げて、休憩スペースへ向かった。

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