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第百三十六話 トンネルの先に

作業は山の半分以上を過ぎ、順調であった。職人たちと休憩所で休みながら話していた。

「予想以上に順調ですね」

「はい。マーリカさんの土遁は素晴らしいですね」

「ご主人様のゲートで土を移動してもらっているので、そこまで魔力を消費しなくて済んでいます」

直哉は、マーリカが掘り出した山を、ゲートイン、ゲートアウトを連続で並べて指定された場所まで飛ばしていた。

「まさか、ゲートインやゲートアウトの設置時間が大幅に伸びているとは思いませんでした」


直哉達が休憩中も、リリ達は暇していた。

「お兄ちゃん、リリ達暇なの!」

そう、トンネルを掘り進めている途中は、リリ達対魔物班は、特にすることもなく、暇をもてあましていた。

「休めるときに休むのも、リリ達には必要だよ。鍛錬だけはやっておけばいざという時、動けないという事は無いだろうからね」

「むー」

リリは膨れながら、肉を齧っていた。



直哉はここまでの行程を考え、

「そろそろ、リリ達には山の反対側の状況を確認してきて貰おうかな」

リリは、目を輝かせて、

「やるの!」

「ここの守備隊はラナさん達に任せるので、リリとラリーナとエリザで山の反対側を捜索してくれるかな?」

「直哉の言いたい事は判ったのじゃが、何故今なのじゃ? 始めに言ってくれれば良かったのに」

エリザが不満をぶつけてきた。

「そうなんだけどね、始めから向かってしまうと、山の向こう側で、俺達が掘り終わるのをずっと待つ事になるけど良いの?」


直哉の説明にリリが泣きそうな顔で、

「あれ? お兄ちゃんは行かないの?」

「うん。俺とマーリカはこのまま掘り進むよ」

「えー、つまらないの!」

リリは喜んだ後で落ち込んだ。



「リリとエリザは空を飛んで行くでしょ?」

「もちろんなのじゃ」

「ラリーナは?」

「練習中だが、移動だけなら何とかなると思う」

直哉は三人を見て、

「よし、それなら、三人で空を飛んで、山の反対側へ移動。魔物が居ないか、地形がどうなっているか、等を捜索する事」


そこでラリーナが、

「だが、どうやって、トンネルの反対側を調べるのだ? 広範囲を調査する事になるのだが」

「俺には、マップ機能があって、パーティメンバーの位置なら判るのだよ」

リリは目を輝かせて、

「リリは、リリには無いの?」

「うーん、どうだろう、頑張れば出るようになるかもしれないな」


「本当!?」

リリが喜んでいた。

「これで、何所にいてもお兄ちゃんを見つけられる!」

「リリなら、直哉が何所にいても普通に見つけそうだけどな」

「確かに」



みんなで和んだ後で、リリ達は別行動を取った。

「さて、俺達も頑張ろう。とりあえず、進路はこのままで、リリ達の報告によっては変更する」

「おぅ!」

職人達の作業が再開した。


ガンガン掘り進めると、

「ご主人様、前方に空洞があります」

「土が無い部分って事だよね?」

「はい」

直哉は前方の土を触り、

「熱くはない」

耳を当てて、

「音もない。何だろう?」


直哉は考えていたが、

「とりあえず職人さん達は下がっていてください。フィリアとラナさん達は中間点で戦闘準備を」

「おぅ」

「はい」

ラナ達が所定の位置へ着くと、

「マーリカは慎重に掘り進めてくれ」

「承知いたしました」

直哉はゲートをいつでも展開出来るように、魔力を練っていた。



「ご主人様、この先が空間になっています」

「広さはどのくらい?」

マーリカは土遁を使い、

「かなりの広さです。このトンネルよりも大きいです」

「そうか。小さく穴を開けられるか?」

「やってみます」

マーリカは土遁を使い5センチ程の穴を開けた。


(とりあえず明るいな。水は流れてこない。マグマもなし。ガスのようなものもなし。一応空洞の空気を取りだして、広い所で可燃するか試してみるか)

「ここの空気を確認してくるので、フタをしておいてくれる?」

「畏まりました」

直哉は、この場所にマーキングしてから、海岸へ飛んで火を付けてみたが、燃え上がる事はなかった。

(ガスも無しか。あとは、酸素がちゃんとあるかどうかだけだな。それを試してからぶち抜いてみるか)

直哉はそう思うと、先程の場所までゲートを開いた。


直哉は火を使い中に酸素がある事を確認してから、

「マーリカ、掘削を再開してくれ、穴に落ちないように気をつけて」

「承知いたしました」

マーリカが一気に掘り進めると、そこは断崖絶壁であった。

「おっと」

直哉が下を覗き込んで焦っていた。

「随分と高いな。下の方は川になっているな」


「恐らく、長年の間、水が山を侵食し続けて渓谷になったのでしょう」

職人の言葉に耳を傾けながら、どうしようかと考えていた。

「この位置って、海よりも高いのかな?」

「どうですかね? まず、バルグフルから海までという概念がありませんでしたから」

職人達も首を捻っていた。

「そうですよね」

直哉は納得しながら、

「崖の向こうまでは五メートル程、崖が崩れるのを仮定して向こうの断崖までが10メートルとすればよいか。では、橋を架けますか」



職人達は驚いて、

「橋を架けるとなると、川底から基礎工事をするため、時間がかかりますよ」

「これを再現できますか?」

直哉はアイテム作成のカタログの中からお土産の一覧を開き、その中から川底からの柱を使わないつり橋型の模型を作り出した。

「何ですかこれは?」

「橋の模型です。こんな感じの橋をここに設置出来ませんか?」

職人達は模型を食い入る様に眺めていた。

「これが橋ですか? 不思議な形をしています」

「始めて見ました」

「これで、重量を支えられるのですか?」

職人達は意見を出し合っていた。


「これだけのものを造るには、バルグフルに残った職人達と資材が必要ですな」

職人達の意見が出揃った。

「わかりました。バルグフルにいる職人達への説明をお願いしてもよろしいですか?」

「おう!」

直哉はゲートをバルグフルへ繋いだ。

「マーリカ繋ぎの忍びを一緒にしておいてくれる?」

「承知しました」

「そちらから帰る時に、マーリカの忍びを使って連絡をください、ゲートを開きます」

「おぅ」


直哉は職人たちをゲートで送った後で、

「マーリカ、岸の向こう側を掘れるかい?」

「やってみます。やぁっ!」

マーリカは崖を飛び越えた。

「えっ?」

直哉は本気で驚いていた。

「こんなに身体能力が高かったんだ」

マーリカは向こう岸へ着いてから先へ続く穴を掘り出した。


しばらく掘り進み、マーリカから報告が来た。

「こちらは大丈夫です」

「ありがとう」

直哉は残っている人達に、

「向こう岸までのゲートを開きます。皆さんはゲートを使って先へ進んでください」

そう言って、安全なところにゲートを設置して、残っていた職人たちやラナ達、そして建築班の人々が次々と移動していった。

移動が終わった頃にバルグフルへ戻っていた職人から連絡が入り、直哉はバルグフルへのゲートを開いた。



「あれ? ここは?」

戻ってきた職人は、行った時と場所が違うため、困惑していた。

「ここは、崖の反対側です」

「というと、あちらがバルグフルですかな?」

「はい、そうです」

職人は周囲を見て、

「この辺から向こうへ橋を架ける感じですかね?」

職人は断崖部分の切れ目がわかる様で、

「そうですね、この辺りから架けると飛び出している崖が崩れても大丈夫だと思います」

「ですよね」


職人と直哉の意見が一致したところで、

「直哉殿、すまないがこちら側の崖を綺麗にしてもらえないかな?」

「橋を架けやすい用にですね、反対側と同じようにしてしまって良いですか?」

「淵の部分は両方とも、もっと広げてもらえると助かります」

職人は直哉に設計図を見せた。

「マーリカ。すまないが土遁で淵を綺麗にしてもらえるか?」

「承知」

マーリカは直哉の指示の元、断崖を綺麗にしていった。

その後は、橋を架ける班と、先に進む班に分かれて作業を再開した。



◆数日後


「予想外の展開もありましたが、何とかなりそうですね」

直哉はマップを見ながら、リリ達がどの辺りにいるのかを確認していた。

「あの、橋は凄いですね」

職人たちの造り上げた吊り橋はかなりの強度で、荷物を搭載した馬車がすれ違っても、揺れる事もなかった。

「むしろ、あの強度の橋を造れることが凄いですよ」

直哉も感心していた。

「さて、トンネル工事もあとわずかですが、気を抜かずに頑張りましょう」

「おう!」



そのころ、トンネルの出口予定地点では、リリ達が暇をもてあましていた。

「お兄ちゃん遅いの!」

「直哉の話しでは、随分と近くに居るらしいぞ?」

「なんにせよ、待つだけじゃ」

その時、森の中から何かの気配を感じた。

「何か居るの!」

「あぁ」

「上空から様子を見てくるのじゃ」

リリとラリーナは戦闘体制をとり、エリザは空へ舞い上がっていった。


「んーっと、あれは何だろう?」

正面から大きな生物がノソノソとやって来ていた。

「あれは! ホワイトブル!」

大きな白い牛であった。

巨大な角が頭を覆い隠し防御していた。身体は表面は硬いが、肉は柔らかく最上級の級肉であった。

ただ、回復力が桁外れで、一撃で倒さないと復活してしまう厄介な生物であった。

「美味しい奴なの!」

リリは自分の十倍はあろうかという牛を見上げながら、腕をグルグル回して興奮していた。

「モー!」

ホワイトブルもリリ達を見つけて、雄たけびを上げていた。


「ちぇっすとーなの!」

「いくぜ! リズファー流、瞬迅殺!」

リリとラリーナは雄たけびを上げているホワイトブルに突撃していた。

「氷結クラッシュ!」

リリとラリーナの攻撃は頭を覆っている角を砕いた。


「やぁ!」

角が回復する前にエリザの放った矢は、寸分たがわず牛の脳を砕き絶命させた。

「やったの! お肉なの!」

リリは大喜びで、ホワイトブルを解体していった。

「さすが、手馴れているな」

ラリーナも解体を手伝い、

「わらわには無理なのじゃ」

エリザはそう言いながら、竈の準備を始めていた。




リリ達が大物を仕留めた数日後、ようやくトンネルの出口が反対側へ到達した。

「お兄ちゃんだ!」

リリはトンネル工事が終わる前に、マーリカの開けた穴から飛び込んできた。

「おっと」

直哉は突然の事に驚きながらも受け止めた。

「もー、遅いよ!」

「ごめんごめん」

直哉は謝りながらリリの頭を撫でていた。


「ふぅ、ようやくトンネルが終わりましたね」

「結構かかりましたね。ですがこのトンネルを使えば、馬車で輸送出来ますから、物資は入って気安くなりますよ!」

職人たちも手応えを感じていた。

「さぁ、トンネル工事の最後を頑張りましょう!」

「おぅ!」

直哉達はトンネル工事と平行して、トンネルを出た辺りに休憩所を作り始めた。


「こっち側は、魔物の襲撃はどんな感じだった?」

「そこまで大きな魔物は居なかったな」

「牛さんが、大きかったの!」

リリの報告に、

「牛さん?」

「そう、ホワイトブルが出た」

「あぁ! あれ、肉が旨い奴だよね?」

「そうなの! でも、お兄ちゃんが来るの遅いから、全部食べちゃったの!」


直哉は唖然としながら、

「ホワイトブルって、500キロは超えるよね?」

「そうだな、リリの10倍はあった」

「そうか。全部食べたか」

改めてリリを見たが、

(大きくなった感じはないよな?)

そんな事を考えていると、マーリカが直哉を呼んだ。


「ご主人様、リカード様より連絡です」

さらに、ラリーナから警告が来た。

「こちらに集団で誰か来るぞ!」

直哉は瞬間で判断して、

「非戦闘員はトンネル内部へ非難してください」

「おぅ!」

非戦闘員は慌ててトンネル内部へ非難を開始した。


「ラナさん達はリリ達と戦闘準備を、くれぐれも先走らないでください」

「わかりました」

「相手を確認してからだな?」

ラナ達は、前方で迎撃体制を取っていた。

「マーリカはリカードと繋いでくれ」

「承知しました」


リカードの話によると、

「別ルートでバラムドへ行っていた、バルグフルの使者達が交渉に失敗したとの事です」

「何だって?」

「何でも、エッチゴーヤという商人連盟が、物凄い関税をかけていて、とてもではないが話しにならないとの事です」

マーリカの報告に、

「エッチゴーヤという商人連盟は聞いたことが無いな」


リカードと連絡しあっているマーリカが、

「どうしましょうか?」

「とりあえず、リカードに馬車道の整備を何処までやるのか聞いてくれる?」

「こちらの状況を伝えたところ、トンネルの出口付近で一旦中止してくれとの事です」

「ここで、終わりと言うわけだね」

「そうなります」

直哉は状況を整理した後で、

「リカードに了解したと伝えておいてくれ」

「承知しました」




「さて、こっちはどんな感じかな?」

ラナ達のほうへ戻ってくると、

「周囲に多数の人が来ていますね」

「こんなところに、盗賊かな? 山が近いから山賊かな?」

直哉達は警戒を強めていると、


「た、助けてくれ!」

商人風の男女数名と、大荷物を持った子供たちが次々と現れた。

「お兄ちゃん! この人達の後ろに何か来てる!」

「とりあえず、あなた方はトンネルの内部へ逃げてください。俺たちが食い止めます」

直哉の言葉に商人達は涙を流しながら、

「あ、ありがとうございます」

と、言いながら満身創痍の身体を引きずりながらトンネルへ走っていった。


「危ないの!」

リリは、遅れていた子供たちの下へ飛んで行き、後ろから襲いかかる魔物から、子供たちを守っていた。

「さぁ、早く行くの! お兄ちゃん、後は任せたの! リリはあいつらを殺るの!」

リリは腕を振り回しながら魔物の元へ走っていった。

「ラリーナ! エリザ! リリの援護を! ラナさん達はその場で防衛を!」

直哉はそう指示を出して、子供たちを救出するために前に出て行った。

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