第百三十五話 バラムドへ向けて
海と教会のバラムド編 開始です。
バルグフルでも海の幸が取れ始めましたが、やはり本場は違います。
新たな騒動と真実が直哉を待ち受けます。
それでは、お楽しみください。
◆直哉の領地
バルグの調査が行われていた一週間の間に、直哉は領地内の事を学んでいた。
まずは、ミーファさんに部下が出来ていた。
なんと、チュニの妹のニャス。猫の獣人で姉と同じ顔をしていた。
ミーファさんに言わせると、物覚えが良く、同じ間違いをしないとの事。
領地は住居・生産・製造・販売の四区画に分け、それぞれの代表が各区間を仕切っていた。
販売区画の代表にはバルザダークが就任。バルグフルの商人ギルドと上手く話を付けていた。
住居・生産・製造の代表にはそれぞれ、専門知識の高い者が選ばれていた。
人口も四百人を超え、かなりの規模になった。
スラム街からの転居者には一人暮らしの子供が大勢いたが、現在は孤児院のような施設を建て、そこで集団生活を学んでいた。
将来的に直哉の領地で働くか、他で働くかはわからないが、有望な子供達を育てていた。
領民が増えたため、領地も拡大していき、国王であるリカードにとっても、嬉しい悲鳴だった。
中でも、海の資源が獲れるようになったのは大きな功績であった。
直哉の領地を皮切りに、バルグフルが大きく発展していくのであった。
◆ルグニア大規模工房
そんな領地を持つ直哉はルグニアの工房にいた。
そこには、直哉の弟子達だけでなく、古くからルグニアに工房を構える職人達が集まっていた。
「流石にルグニア鉱石はもう無いですか?」
「そうですね、中々数が採れないので出回りませんね」
直哉は劣化複製した魔蓄棺を取り出し、
「これを繋げる方法を探しているのだが、何か良い案は無いですか?」
ルグニアの職人達は、食い入るように眺め、
「こ、これは凄い、魔力を貯める装置ですね?」
みんな大興奮で、白熱した議論が行われていた。
「魔力の伝導体で付ければ良いのでは?」
「それだけだと、折角の魔力が拡散するだけだ!」
「じゃあ、それを絶縁体で防げば良いのでは?」
「そんなことしたら、魔力が出し入れ出来ないだろうが!」
直哉は出てきた案とその否定案の全てを記録していった。
三時間ほど意見を出しあったが、中々決め手となる案が出なかった。
直哉は色々と試してみたが、否定案通りの結果となり、上手くいかなかった。
「まぁ、始めたばかりだし、こんなものか」
直哉はアイテムを預けて、息抜きを兼ねて、ルグニアの街を散策していた。
直哉は伸びをしながら、
(うーん。空気がひんやりして、美味しいや)
雪は無くなったが、山からの冷たい空気が流れ込み、バルグフルでは味わえない涼しさを感じていた。
そこへ、走り回っていた子供達が集まってきた。
「あー、直哉様だ!」
「伯爵様!」
「違うよ! 勇者様だよ!」
集まってきた子供達の頭をなでながら、挨拶すると、
「みんな、こんにちは!」
「こんにちは!」
元気な挨拶が帰ってきた。
(なんか、街が明るくなった気がするよ)
直哉はそんな事を考えながらぼんやりと歩いていた。
お城から真っ直ぐ延びるメインロードに入ると、商店が立ち並び、大勢の人が行き来していた。
(ここも、人が増えたな)
のんびりと買い物をしながら目的地である城へ行った。
◆ルグニア城
門番は若い兵士であった。
「何の用ですか?」
「俺は鍛冶職人なんですが、ルグニア様にお会いできるでしょうか?」
直哉の質問に、
「あ、はい、お会いになれますよ。身分証をお願いします」
テンプレート通りの対応をしてくれた。
直哉が素直に見せると
「はい。ありがとうございます。こちらに道順が記載してあります。わからなくなったら、近くにいる兵士にこの札を見せてください」
そう説明して紙と木札を渡してくれた。
「ありがとうございます」
直哉は礼を言ってルグニアの元へ向かった。
(ふむ、城内を通るのではなく、外から回り込むのか)
◆ルグニア城内
案内図通りに進むと、見覚えのある通路に出た。
(ここに、繋がるのか!)
直哉は感心しながら進むと、程なくしてルグニアの元に到着した。
「お久しぶりです、ルグニア様」
「おや、直哉殿か。久しいな」
「最近はどうですか?」
「ようやく、若いのが育ちつつある。ちらほらと、上級試験を受けるものもおる」
「そうですか。それは良かった」
「それで、今日は何の用ですか?」
魔蓄棺を取り出し、
「これを繋げる方法を探しているのですが、何かご存じではありませんか?」
ルグニアは何かを考えているようであったが、
「今の私では話せません」
「そうですか」
(また、システムのロックかな?)
「ところで、直哉殿は自分そっくりの身代わり人形を造っているとか」
「はい。ですが、首から上が上手く造れませんでした」
「それなら、バラムドにいる人形師に相談してみなさい」
「人形師?」
「えぇ、そして、出来たなら私のコピーが入る器を造って欲しい」
「コピー、器?」
「そう。私自身記憶のみの存在なので、コピー出来るはずです。そして、貴方の望む情報を手に入れられると思います」
(どのみち、バラムドには行く予定だし、身代わり人形を造れれば今後が楽になるよな)
直哉はそう考えて、
「わかりました、やってみます」
と答えた。
その後は雑談をしてから帰った。
◆ルグニアの工房
直哉はルグニアの職人達に声をかけた。
「どうですか?」
「おぉ! 直哉伯爵、ちょうど良かった」
「何かわかったのですか?」
「あ、いや、これが手に入りました」
そう言ってルグニア鉱石を取り出した。
「おっ、手に入りましたか!」
「はい。ですが、かなり質が悪くこれから先は質を高めるために、しばらくの間、鉱石は採掘出来なくなります」
「そうでしたか、それでこれは売ってもらえるのですか?」
「はい。採掘主が是非直哉伯爵に買っていただきたいと申しております」
直哉は相場の数倍の値段を請求されたが、快く支払った。
直哉は後を職人達に任せて、バルグフルへ帰ってきた。
◆バルグフル、直哉の屋敷
「あっ! お兄ちゃんなの! お兄ちゃんが帰ってきたの!」
直哉の帰りを察知したリリが飛びついてきた。
「ただいま」
「おかえりなの!」
直哉はルグニアで買った肉串を取りだして、
「はい、お土産」
「わーい! ありがとうなの!」
口いっぱいに肉を頬張りながら直哉の横を歩いていた。
一階の食堂に着くと、リカードが待っていた。
「おぉ、直哉よ帰って来たか」
「あれ、リカード? ただいま。どうかしたの?」
「バルグの調査が最終段階に入った」
リカードの言葉に、直哉は周りを見渡した。
「あれ? フィリアは?」
「フィリアさんとミーファさんには、バルグに行って貰っている」
直哉は焦って、
「えっ? 大丈夫なのですか?」
「二人いれば大丈夫と言って、行ってくれた」
「そうですか」
「それで、現段階で判った事だが、魔王が出た」
リカードの報告に、
「ま、魔王? ですか?」
「そうだ、それも、新しい手下を連れて来た」
「新しい?」
「何でも、四つの属性をそれぞれ極めた存在のようだ」
「と、言う事は、最低でも四体居るという事ですか?」
直哉の問に、
「そうだ。更に悪い事に、バルグに居た剣聖の死体が無くなっていた」
「それは、その剣聖がキメラにされたという事ですか?」
「恐らくな。一緒に戦っていた勇者の卵達は全滅して、その場に放置されていた」
「そして、ガナックか」
「あぁ、属性魔法使いに剣聖、そして回復役をもつ魔王か理想のパーティだな」
「率いているのが魔王ですけど」
どんよりとした空気が二人を覆った。
「それで、魔王達はバルグに居たのですか?」
「バルグには現在居ないそうだ」
直哉はホッとしたが、行こうと思っていた街を思い出していた。
「それでは、バラムドはどうなったのですか?」
「ん? バラムド?」
「はい、バルグの近くにありますよね?」
リカードは報告書を見直して、
「あぁ、バラムドは被害が無いそうだ」
「何でだろう?」
「さぁ?」
そこへ、フィリアとミーファを連れたシンディアが帰って来た。
「ただいま戻りました」
直哉はフィリアの所に行き、
「フィリア! 大丈夫か?」
「直哉様! ただいま戻りました。私は大丈夫です」
フィリアは微笑んだ。
「ミーファさんも大丈夫ですか?」
「この程度、大丈夫です」
ミーファは気丈に振る舞っていたが、顔は真っ青だった。
そこへ、リカードが声を掛けてきた。
「フィリアさんとミーファさんは休んでいてください。シンディアは報告を!」
二人を下がらせ、シンディアの報告を聞いた。
「住宅街の方は四属性の魔法で、あちらこちらが破壊されていました。そして、住人のほとんどと、勇者の卵達が亡くなっていました。住人達は四属性魔法で、勇者の卵達は、恐らく死の魔法で倒されていました」
シンディアの報告に、
「死の魔法・・・」
「はい、外傷などは全くなく、眠るように死んでいました。お城の中も同じように、何の前触れも無く死んだようでした」
「ふむ、その様な魔法があるとは、恐ろしいな」
シンディアの報告を聞いてリカードは、
「これは、バラムドとも連携を取る必要があるな」
「すでに、冒険者数名に行かせております」
リカードは直哉を見て、
「直哉も行って貰えるか?」
「元々、私の用事で行く予定でしたので、問題ありませんが」
「出来れば、新規ルートを確立したのだが」
「材料のルグニア鉱石が不足していて、扉を造る材料としては足りないのですよ」
リカードはシンディアを見て、
「では、バルグフルとバラムドを結ぶ新規ルートを造るべきか」
「バルグに設置してある扉を、バラムドに持って行けば良いのでは?」
シンディアの提案に、
「それは、魔法的に無理があると思います。ゲートマルチは、あくまでも目標座標へ飛ぶ魔法なので、扉を移動してしまうと、魔法が発動しません」
「とりあえずは、新規ルートの開発と、バラムドとの繋ぎを造る事だな」
リカードの言葉に、
「俺は新規ルートの開発をしながらバラムドへ向かうことにする、山越えより早く到着するルートを造ってみせる」
直哉は自信を持って言うと、
「そんな事が可能なのか!?」
「はい。山越えのルートは荷馬車を使うのが困難なため、多くの物資を輸送するのが困難です」
「そうだな、だから、商人達は多くの冒険者を雇い物資を運んでいる」
リカードは残念そうに言った。
「そうなると、輸送費が異常に跳ね上がってしまう」
「はい。ですので、山越えをせず、荷馬車が通れるトンネルを掘ろうと思います」
リカードは目を見開いて、
「出来るのか!?」
「はい。マーリカの土遁で基本的な掘削作業を行い、職人たちの力でトンネルの補強工事を行います。俺の魔法でその補助をしながら進んでいきます」
「トンネル工事と同時に、道路の整備や休憩所など、魔物に対する対策を立てて行けば良いのか」
「はい。ただ、問題点は、山を掘っていくのですが、その途中に何があるか、わからない事です」
「そうか、それでもやってくれるのか?」
「勿論です。この輸送路でバルグフルがさらに豊かになると思いますので」
「では、その方向で行きましょう。毎回済まないな」
「問題ありませんよ、俺のためでもありますから」
「頼んだ」
「了解」
直哉はリカードからの要請を受け、バルグフルからバラムドへ向けて輸送路の確保の旅に出ることになった。
◆数日後
バルグフルの西門に集まった直哉達は、バラムドへ向けて出発した。
リリ達は勿論、輸送路作成の為の職人や補給部隊、その護衛と百名程の規模になった。
「直哉伯爵! よろしくお願いします」
直哉の元には護衛の隊長としてラナが、ルナ達と共に参加していた。
「こちらこそ、よろしく。戦闘にはリリやラリーナも参加する予定なので、良く話し合っておいて」
「わかりました」
西門から出ると、直ぐに森になり、その森を一日程進むと上り坂になり、山に差し掛かる。
その山を越えるには五日ほどかかる。
「この山を越えるルートを使うと五日はかかるし、運べる荷物も少なくなってしまう。だから、この山をぶち抜きます」
「そ、そんな事が・・・」
ラナが呆気に取られていた。
「伯爵様、準備できました!」
職人には伝えてあるので、その準備が終了した。
道路を整備する者や、山に造るトンネルの補強をする者に分かれた。
「マーリカ! まずは土遁で大まかなトンネルを!」
「承知しました!」
マーリカの土遁により山に穴が開いていく。
「道路整備班は森を切り開き、対魔物用の柵を造って下さい!」
「おう!」
直哉の指示により街道が整備されていく。
「ご主人様! だいぶ掘れました」
直哉はトンネル補強班に指示を出した。
「補強をお願いします」
「おう!」
こうやって、新しい輸送路は着実に造られていった。
「伯爵様! 後続の建築班が到着しました」
「では、予定通りにトンネルの入り口から休憩所の建設を!」
「おう!」
トンネルは徐々に広がり、最終的に幅10メートル、高さ5メートルの巨大な物が出来ていった。
(こんなに大きくて、崩落しないかな)
直哉は少し心配になりながらも、職人たちの力を信じて先に進んでいった。