第百三十四話 真実
◆カソードの造り出した魔力結界の中
(おーい、いい加減、目を覚ませ!)
遠くからカソードの声が聞こえてくる。
(面倒だな。もう一度魔力を叩き込むか?)
今度は物騒な言葉が聞こえてくる。
(ちっ、面倒な事は嫌いなんだよ!)
もの凄いエネルギーが辺りに充満する。
「うわぁわぁ!」
直哉は慌てて目を覚ました。
「こ、ここは?」
(ベタなこと言ってるんじゃねぇよ)
辺りは真っ白で、目の前のカソード以外は正に白であった。
「カ、カソードか」
(とっとと始めるぞ!)
カソードは何かの呪文を唱えた。
すると、周りに男が二人浮かび上がってきた。
(ふぅ)
(感謝する)
アディアとバザールが現れた。
「自分で作ったキャラが揃うと変な感じがするな」
(変とか言うなよな。お前が元だぞ?)
「こほん、それで、全員揃ったところで何をするのですか?」
(とりあえず、知識の齟齬をなくす)
「俺のやってたゲームとこの世界との違いですね。つか、俺は帰れるの?」
(帰れるか帰れないかで言えば、帰れると言える)
「まじか! その方法は?」
(この世界と直哉の世界は別の次元にある存在だ)
「別の次元?」
(あぁ、ゲートマルチを使えば飛べる)
「だけど、消費MPや飛ぶためのポイントを設定しておかないと駄目なんじゃないの?」
(その通りだ)
「それなら、無理じゃない?」
(何が無理なんだ?)
「MPもマーカーも」
(MPは、ストックする方法があるし、マーカーは元々の家だろう? なぜないのだ?)
「そういえば、何で無いのだろう? MPのストックって?」
(これですな)
横に居たバザールが懐からアイテムを取り出した。
「そ、それは、魔蓄棺ですよね。でも連結してる?」
(そうです。魔蓄棺のダブルです)
「ダブル・・・」
その時、直哉の記憶にかかっていた靄が少し晴れた。
「そうだ! そんなのあったな。たしか、バザール時代にルグニアの工房で見つけたんだった」
(思い出しましたか? 私がこれを手に入れた時、これを造った職人さんは資金不足で鍛冶職人を辞めていたのですよ。資金不足にならず、改良を続けていれば、ダブルだけでなくトリプルやそれ以上を造れるのではと考えていたのですよ)
「そうそう、そうだった!」
(これを使えばMPは解決だな)
「造れる人が居るのかな?」
(いや、直哉が造れば良い)
「俺? あ、そうか! だから鍛冶職人なのか!」
(うむ)
「じゃぁ、家のマーカーはどうだろう?」
(それについては、恐らくシステムの方でロックをかけたのだろう。先程のように思い出す事が出来ると思うが、我らには無理だな)
「うーむ。それは後回しか」
(すまんな)
「それで、三人はこの事を俺に伝えるためにこのような事をしてくれたのですか?」
その質問に、今まで黙っていたアディアが近づいてきた。
(これに見覚えは?)
「何ですかそ・・れ・・」
またもや直哉の記憶の靄が少し晴れた。
「それは、絆の腕輪!」
(そうだ、お前なら使いこなせているはずだが、持って無さそうだったのでな)
「そういえば、《ラリーナの思い》を貰った時に付いて来なかったな。だから、この触れないアイテムがボックスにそのままあるのか」
(ちっ、これもシステムのロックだな。実に面倒だ)
(アイテムを渡そうにも、ロックされているみたいだね)
アディアが何か操作していたが、諦めたようだ。
(ここは、俺が造った世界だからな、多少の無理は出来るが、システムのロックを解除できるのは、直哉の意思と言うわけだな)
「俺の意思?」
(直哉はシステムに召還されたのだよ、システムと繋がったのは直哉と言うわけだ。直哉ならシステムと交信できるのでは?)
「何か、駄目みたい」
(ふむ。とりあえず、我が力を授けようと思ったが、これもロックが掛かっているのか)
カソードが何かを考えているようだ。
「そういえば、レベル50になったら、腕輪の第二次解放があったよね?」
(そうだな、ん? まだ、50じゃ無いのか?)
「うん、まだ」
(あのパワーレベリング用の爆発の指輪を使用しているのではないのか?)
「それが、使用が一日に一回という制限になっててイマイチなんだよね」
(ふむ。そうか、ならば仕方ないな。とりあえず50になった時に色々渡せるようにしておく)
「うん、よろしく」
(そういえば、転生時に引き継ぐスキルやアイテムはどうした?)
直哉は受け取ったスキルや、アイテムを説明した。
(ふむ、引き継げる物が少ないな。第一次解放の時も同じか?)
「それは、思い出してなかったので、スキルを受け取ったはずなんだけど、スキル一覧には出てないのだよね」
(どういうことだ?)
「わからないけど、使えているから放置してる」
カソードが色々と考え始めた。
(私のスキルは使ってないのですか?)
バザールが寂しそうに聞いてきた。
「そうそう、何か良いのありましたっけ」
(別に商人の固有スキルに囚われなくても良いのでは?)
バザールの言葉に、
「どういう事で・・す・・・ん?」
その時、カソードの造った世界に歪が生じ始めた。
(むっ、システムの監視がこっちに来る、この力を知られるわけにはいかないな。すまんが、続きは第二次解放の時にでも!)
そう言うと、カソードは世界を閉じた。
◆風の塔
「はっ!」
直哉は、こちらに戻ってきた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
直哉は、とりあえずアイテムボックスを確認した。
(何か増えてないかな? 流石に無理か)
少し落胆したものの、カソードから得た情報を纏めていた。
(そういえば、ソラティアの管理者からシステムに連絡を取って貰えるような事をお願いしていたけど、どうなったのだろうか? 聞きに行ってみるか)
その後、直哉一行はソラティアへ戻り、管理者の塔へと向かった。
◆管理者の塔
久しぶりに戻って来た管理者の塔では、管理者が土下座をして待っていた。
「申し訳ありません」
それを見た直哉は、交渉に失敗したのだなと悟った。
「無理でしたか?」
「無理でした。一時は良いと言っていたのに、急に話したくないと言い始めまして。本当に申し訳ありませんでした」
土下座して、何度も頭を床にたたきつけていた。
直哉は悪い顔をしながら、
「いや、無理な事は仕方ありませんよ」
(どういう事だ? カソードの話しからすると、俺はシステムに呼ばれたのだよな? それなのに話したくないって、何が起こっているのだろう? そして、記憶を意図的にロックしているのも気になるよな。俺は本当にシステムによって、この世界に呼び出された存在なのか? 今の段階じゃわからないな)
土下座していた管理者は、直哉が黙ってしまった事に怯え、
「本当に申しわけないです」
と、更に床に頭をこすりつけた。
直哉はそれに気がついて、
「それなら、絆の腕輪というアイテムについて何か知りませんか?」
「絆の腕輪ですか?」
「そうです。何か知っていませんか?」
管理者は考えて、
「直哉さんはお持ちではないのですか?」
「残念ながら、まだ入手出来ていません」
「それは、おかしいですね。ちょっと調べて見ます」
管理者は端末をいじりながら、
「ふむ、受け渡しが保留になっていますね。解除しておきます」
「おっ!?」
直哉は、《絆の腕輪》を手に入れた。
「ありがとうございます」
腕輪を見ると、ラリーナとエリザの思いが光り輝いていた。
(ふむ、思いをセット出来るのは全部で7個か、残りは5個だ)
「これで勘弁してもらえますか?」
「はい。俺としては大満足です」
管理者は、ホッと胸を撫で下ろした。
「さて、ルグニアもソラティアもやる事はやったし、バルグフルへ帰りますか」
「はいなの!」
直哉達は、バルグフルへ帰ってきた。
◆バルグフル城
バルグフルへ戻り、リカードに報告しに行くと、お城は大混乱であった。
直哉は、近くに居た近衛兵に話しかけた。
「あの、何があったのですか?」
「ん? 聞いていないのか? バルグが全滅したらしい」
直哉達は驚いて、
「えっ?」
「全滅とはどういう事ですか!?」
フィリアは詰め寄った。
「私には詳しい話は伝わっておりません、王様なら詳しい情報を持っているはずです」
「わかりました、ありがとうございました」
直哉達は礼を言って、リカードの元へ急いだ。
リカードの執務室へ辿り着き、中に入るための手続きをしようとしたが、部屋の前に誰も立っておらず、部屋も開け放たれていた。
「リカード?」
「誰だ!」
直哉が中に入ると、
「なんだ、直哉か」
書類の奥からリカードが声をかけてきた。
「とりあえず、俺の方はルグニアとソラティアへの使者を終わらせたよ」
「おう。やりたい事は出来たのか?」
「とりあえずは、終わったよ」
リカードは椅子に座りなおし、
「そうか、良かった。これで、直哉を戦力として使うことが出来るな」
「そうそう、バルグが全滅したって聞いたけど、どういうこと?」
「それだ。俺も先程報告を受けたところなんだが、バルグの街、城で人が全て死んでいたらしい」
直哉達は絶句した。
「バルグフルとバルグを定期的に行き来していた商人が、バルグの異変に気づき慌てて帰ってきたらしい」
「商人がバルグへ着いたのは何日ですか?」
「丁度、噴火があった次の日らしい」
「まさか、噴火で全滅したのですか?」
「いや、詳しい話はまだわかっていない。そこで、直哉にバルグへ行ってもらい、ゲート扉を設置して欲しい」
直哉は少し考えたが、
「わかった、行って来るよ」
「頼む。詳しい検証は他の者にやらせるから、直哉は、バルグに近いところに拠点を構築して、ゲート扉を設置してくれれば良い。バルグに入らなくて良いからな」
直哉はフィリアを見て、
「どうする?」
「私はあの国を捨てました。未練はありません」
(本当にそうなのか? それなら、先程の動揺は何だったのだろう?)
「わかった、それでは俺達はバルグへ向かいます」
「すまない。それが終わったら、少し休んでくれ」
「了解。リカードも無理しないでよ」
「ははっ、今はまだ無理しておかないと、それが俺の責任だ」
(不味いな。このままではリカードが潰れるな)
直哉はフィリアとラリーナ、そしてマーリカにリカードの事を託しバルグへ向かった。
メンバーは、空を飛べるリリとエリザを連れて行くことにした。
「さて、サッサと終わらせて領地で休むぞ!」
「おーなの!」
「ふふっ、相変わらず忙しい方なのじゃ」
三人は休む間もなく飛び立った。
城に残った三人は、リカードの負担を減らすべく出来ることをやり始めた。
「さて、とりあえずリカード様は横になってください」
フィリアの発言に、
「さっきも言ったように、そんな暇はないんだよ」
そう言って、書類に目を通そうとした時、ラリーナが動いた。
「ふっ」
「がっ」
リカードの鳩尾にラリーナの肘が綺麗に決まった。
リカードの意識は刈り取られた。
フィリアは近くのソファーにリカードを寝かせ、マーリカを使いあちこちに連絡した。
慌てたやってきたシンディアとアレクは、眠っているリカードを見て、
「王が倒れたとは、本当なのか!?」
「かなり無理をなさっていましたから」
そう言って、アレクがリカードを寝室へ運んでいった。
シンディアはラリーナを見て、全てを察知したようで、
「ありがとうございます。出来れば穏便に済ませたかったのですが、やると言い出したリカード王は、頑固だったので、お手を煩わせてしまいましたね」
フィリアはシンディアを見て、
「今のリカード様には、休養が必要です。身体だけでなく、心も追い詰められていました。このままでは、ソラティアの二の舞です。直哉様も心を痛めておりました」
シンディアは俯きながら、
「わかっては居たのですが、私ではリカード王をお諌め出来なかった」
「それは、私たちも同じです。強硬手段に出ただけですから」
「そうでしたね。では、リカード王を攻撃した罪を償うために、王が起きるまでに、書類の山を整理してもらいましょうか」
シンディアは提案した。
「国の重要機密なのではないのですか?」
「それは、今更ですよ。直哉様一行に機密になっている事のほうが少ないくらいですし、現状の問題点はみんなが知っていることですから」
「良くわかりませんが、手伝います」
シンディアの指示の元、フィリア達は書類の整理をはじめ、数時間後にリカードが目を覚ます頃には、書類の山は分類され、一度寝たことによるリフレッシュ効果で、作業効率が飛躍的に上昇した。
「こんなに、変わるものなんだな」
リカードは驚きながら、書類の山を処理して行った。
「緊急だったとはいえ、手を上げて申し訳ありませんでした」
フィリアが謝ると、
「いや、私の方こそ、忠告を聞かず突っ走って、失敗するところだった」
リカードは許してくれた。
そこへ、直哉達がゲート扉を使い、城のゲートゾーンへ帰ってきた。
「ただいま、リカード」
「早かったな!」
「ん? 数時間は経過していると思うけど?」
直哉の回答に、リカードは呆れながら、
「いや、普通に行けば、数日はかかるからな」
直哉は驚きながら、
「あら? そんなにかかるのか」
「山を魔物の襲撃に備えながら上るのは結構時間がかかるものだぞ?」
「そうか、俺達は上空まで一気に飛び上がって、あとは斜めに飛んでいくだけだからな」
「楽しかったの!」
「あれだけの上空だと、このマントがなければ寒すぎるのじゃ」
エリザ達は快適のマントを装着していた。
「それでも、最初は酸素が薄くて失神しかけたけどね」
「お兄ちゃんとリリの風魔法で、空気の膜を作ったらうまくいったの!」
「そうか、恐らくその方法を試す事は無いと思うけど、覚えておくよ」
リカードはお茶を濁していた。
「では、後は任せてくれ、直哉達はゆっくりと休んで欲しい」
「了解」
「こちらの調査が終わったら連絡する」
リカードの言葉に頷いて、
(だいぶ、顔色が良くなっているし、大丈夫だな)
直哉達はリカードに別れを告げ、自分の屋敷へ引き上げて行った。
◆直哉の屋敷
直哉達が帰ってきて、数日が過ぎ、領地内の混乱も収まってきていた頃。
(さて、カソードの話によると、俺はシステムによって、この世界へ召還されたらしい。しかも、別の次元か。でも、帰る方法があるのならそれにしがみつきたいな。まずは魔蓄棺の連結からか。そして、元の世界の自分の部屋へのマーカーか。レベル50になるまでに、連結は出来る様になっておきたいな)
直哉は自分のスキルを眺めながら、今後の事を考えていた。
最後の方の描写が、駆け足となってしまいましたが、
これで、ソラティア編が終了いたします。
次回からは、バラムド編を開始いたします。
新しい街での騒動に巻き込まれていく直哉達。
魔王の力、ガナックの陰謀、カソードの力、そして癇癪持ちのシステム?
一体、直哉達はどうなるのか。
それでは、
バラムド編もお楽しみください。